小林登志子 『シュメル―人類最古の文明』 中央公論新社 2005

まろまろ@「お願いしマウス、チューチュー」をまろまろ用語集にあげました☆

さて、『シュメル―人類最古の文明』小林登志子著(中央公論新社)2005。

現在確認されている人類最古の文明、シュメル文明(シュメール文明)の社会、風習を解説する歴史本。
アッシリアやバビロニアを含めたメソポタミア文明についての解説書はいくつかあるけれど、
シュメル文明にスポットを当てたものは少ないので貴重な本。

読んでみて特に興味深かったのは、シュメル文明とエジプト文明の対比をしているところだ。
比較的閉鎖性が強かったエジプト文化は来世志向の強い「死の文化」を生み出した。
その一方で、周囲が開けていて、その成立当初から異民族と接点を持ってきたシュメル社会は、
現実生活に即した文化を生み出し、その後の文明社会でも残ったものが多いことを強調している。
(確かに、60進法、1週間7日制、法典、印章などのシュメル文明の遺産として長く残っている)

また、シュメル文明を解読する出土品の解説がおもしろい。
パピルスや紙は燃えてしまえば終わりだけど、シュメル文明が残した粘土板は比較的強度が強いので解読しやすい。
その粘土板や印章、像を解読して歴史を再現する様子は読んでいて楽しいかった。

たとえば、ニップル市から出土のお互いに手を取り合って前を向いている男女一対像については、
「長く連れ添った夫婦の情愛と結婚生活の満足感を表現している像」と一般的に解釈されている。
しかし、著者はこれを「手をとりつつも、そっぽを向いた夫婦とはこんなものといったあきらめが垣間見える」と解釈し、
「このあたりの微妙な心理を見逃さなかったシュメル人の彫刻師の人間観察はなかなかのもの」としている。
さすがにこれは著者の主観が強すぎるような気もするけれど、もし実際そうならばある意味で微笑ましいところだと思った。
(第5章:「母に子を戻す」―「徳政」と法の起源)

人類最古の文明社会も現在の人類社会が持つ問題点と葛藤があったことを教えてくれる一冊でもある。

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2009 12/24
歴史
まろまろヒット率3

エドアルド・ペチシカ&ズデネック・ミレル、うちだりさこ訳 『もぐらとずぼん』 福音館書店 1967

まろまろ@Twitterをはじめてみました☆

さて、『もぐらとずぼん』エドアルド・ペチシカ著、ズデネック・ミレル絵、うちだりさこ訳(福音館書店)1967。

モグラ(クルテク)は大きなポケットの付いたズボンを見つける。
ズボンが欲しくなったモグラは、森の生き物たちに助けられながらズボンを自作しようとする・・・

チェコの絵本作家、エドアルド・ペチシカの世界的なベストセラー絵本。
原題は”Jak Krtek ke kalhotkam prisel” (1962)。

まろみあんの人とおとずれたチェコ料理のお店でこの絵本を見つけたものの、
その場では読むことができなかったので、帰って来てからひもといた一冊。

読んでみると、それぞれの特技を使ってモグラに協力する森の生き物たちが活き活きとえがかれている。
教育的には「欲しいモノを自分で作る」ことや「みんなで協力すること」の大切さに力点を置いた読み方がなされるだろうけど、
アリが格差を感じるほど頑張っていて、「アリに働かせすぎだろ」と思わず突っ込んでしまった(w

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2009 11/26
絵本
まろまろヒット率3

塩野七生 『ローマ人の物語35,36,37 最後の努力』 新潮社 上中下巻 2009

これからはmixiまろみあんコミュニティにも情報をあげていこうと思う、
まろまろ@mixiユーザーの人はよかったら入ってくださいな☆

さて、『ローマ人の物語35,36,37 最後の努力』塩野七生著(新潮社)上中下巻2009。

前作の『ローマ人の物語32,33,34 迷走する帝国』から続いた「三世紀の危機」を終わらせたディオクレティアヌスと、
その後の内戦を勝ち抜いたコンスタンティヌスを中心に、ローマ帝国後期の混乱と再構築をえがくシリーズ第13段。

内容は「コンスタンティヌスによってローマは終わった」とする歴史学者がいるほどローマ世界が大きく変化した、
元首政(Principatus)から専制君主制(Dominatus)への移行と、キリスト教公認の過程を丁寧に追っている。

読んでいて、ニケーアの公会議でアタナシウス派の三位一体説を採用したことについて、
同じく思想家であり刑死したソクラテスとイエスを対比させているところに特に興味を持った。
「ソクラテスの考えを伝えるプラトンの『対話篇』も新約聖書もベストセラーであることでは同じだが、
この二千年の間に売れた部数ならば比較にならないであろう。
その差が、真実への道を説く考えと、救済への希望を与える考えの、一般の善男善女にとっての需要度の差を示しているのである。
それゆえに、アリウスの説よりも「三位一体」説のほうを選択した四世紀当時のキリスト教会の判断は、
事実か事実でないかよりも信じるか信じないかに基盤を置く宗教組織としては、まことに適切であったと考えるしかない」(下巻)。
・・・と述べているところは、思想と宗教との違い、科学と信仰との違いを表現した文章として印象深かった。

その三位一体説を採用したアタナシウス派を、リーダーは人では無く神が決めるという
支配の道具(Instrumentum Regni)として保護したコンスタンティヌスを「最初の中世人」とする著者の考え方も興味深かった。

ローマ世界を守るために、ローマらしさをなくしていくディオクレティアヌスに対して、
「大変ですね、あなたの立場も、などと独り言をつぶやきながら」書いたという著者の心情が伝わる一冊。

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2009 10/22
歴史、政治
まろまろヒット率3

追記:全巻へのリンク(☆は特に印象深い巻)・・・

『ローマ人の物語1,2 ローマは一日にして成らず』

『ローマ人の物語3,4,5 ハンニバル戦記』

『ローマ人の物語6,7 勝者の混迷』

『ローマ人の物語8,9,10 ユリウス・カエサル~ルビコン以前~』

『ローマ人の物語11,12,13 ユリウス・カエサル~ルビコン以後~』

『ローマ人の物語14,15,16 パクス・ロマーナ』

『ローマ人の物語17,18,19,20 悪名高き皇帝たち』

『ローマ人の物語21,22,23 危機と克服』

『ローマ人の物語24,25,26 賢帝の世紀』

『ローマ人の物語27,28 すべての道はローマに通ず』

『ローマ人の物語29,30,31 終わりの始まり』

『ローマ人の物語32,33,34 迷走する帝国』

『ローマ人の物語35,36,37 最後の努力』

『ローマ人の物語38,39,40 キリストの勝利』

『ローマ人の物語41,42,43 ローマ世界の終焉』

『塩野七生「ローマ人の物語」スペシャル・ガイドブック』

永井荷風 『墨東綺譚』 岩波書店 1991

mixiまろみあんコミュニティまろまろ談話室で盛りあがったので、永井荷風プレイをしてきたまろまろです。

さて、『墨東綺譚』永井荷風著(岩波書店)1991にて。

初老の作家は隅田川沿いの花街、玉の井で娼婦と出会う。
娼婦との思わぬ出会いは、作家が起草していた作品の構想と重なってゆく・・・

1937年初版の永井荷風の代表作。
この岩波書店版は初版と同じ木村荘八の挿絵が入っている。

読んでみると、昭和初期の私娼街、玉の井(現在に東向島近辺)の情景が鮮明にえがかれている。
著者自身も、作中で主人公に・・・
「小説をつくる時、わたしの最も興を催すのは、作中人物の生活及び事件が開展する場所の選択と、その描写とである」(p29)
・・・と言わせているように、鮮やかな描写が印象深い。

娼婦(売春婦、現在の風俗嬢)との遊びには造詣が無いので、登場人物への感情移入はできなかったけれど、
町の風景や季節の移り変わりの描写は読んでいて感じいるものがあった。
情景を感じる作品。

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2009 9/21
小説
まろまろヒット率3

上野正彦 『死なないための智恵』 イーストプレス 2009

126歳まで生きようと思っている、まろまろです☆

さて、『死なないための智恵』上野正彦著(イーストプレス)2009。

30年にわたって監察医を続け、2万体以上の検死・解剖をおこなった著者によるサバイバル本。
実際に起こった事件・事故を事例にして、法医学(解剖学)からの見地から生き残る方法を述べている。

・・・というコンセプトはとても魅力的なのだけど、実際に読んでみると「昔は良かった」という愚痴が多く、
若者や外国人に対する偏見、逆に自分に近い老人には激甘などのサバイバルに直接関係の無い部分への記述も多かった。
さらに、対策も現実的ではないものも多く、読物としても実用書としても有意義には感じられなかった。

ただ、実際に発生した事件・事故を事例に扱っているので、法医学の見地からその悲惨さはよく伝わってくるものになっている。
事故・事件は風化させてはいけない、そしていつ巻き込まれてもおかしくないものだということを感じるには良い本。

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2009 9/5
危機管理、実用書
まろまろヒット率2

なかがわりえこ・おおむらゆりこ 『ぐりとぐら』 福音館書店 1967

絵本に出てくる食べ物はぜんぶ美味しそうに思えてしまう、まろまろです。

さて、『ぐりとぐら』なかがわりえこ著、おおむらゆりこ絵(福音館書店)1967。

「この世で一番好きなのは お料理すること食べること」。
料理が好きな野ねずみのぐりとぐらは森の中で大きな卵を発見する。
試行錯誤しながらカステラをつくろうとしていたら、森中の動物たちが集まって来て・・・

・・・世界中に翻訳されている絵本の傑作。
(英語名もそのまんま、“Guri and Gura”)

もちろん読んだことはあったけれど、まろじぇくとXの本の交換会でまろみあんの人にお渡しして以来、
手元になかったので話の内容の細かいところを忘れてしまっていた。

そんな折、絵本カフェのペンネンネネムで、ぐりとぐらのホットケーキ(カステラ)を再現したメニューがあったのと、
実際にこの本が置いてあったので、ぐりとぐらのホットケーキをいただきながら読み返してみた。

読み返してみると、カステラをつくる様子が活き活きとえがかれていて、やはりテンションがあがる。
そして、暖かい気持ちに読後感が、絵本としてベストセラーになった理由なのがよく伝わってくる一冊。

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2009 8/25
絵本
まろまろヒット率4

志賀直哉 『城崎にて』 角川書店『城の崎にて・小僧の神様』より 1954

まろまろ@城崎温泉にいってきました☆

さて、『城崎にて』志賀直哉著(角川書店『城の崎にて・小僧の神様』より)1954。

大けがをした自分は、温泉地の城崎で療養する。
三つの小さな命の死をかいま見た自分は、偶然に助かった自分を振り返る。
そして生と死の間にある隔たりの薄さを感じる・・・

・・・志賀直哉によって1917年に発表された心境小説(心情小説)。
前々から読んでみたいと思っていた10ページに満たないこの短編を、
今回は志賀直哉が実際に宿泊した旅館(三木屋)に同じように泊って、
志賀直哉が見ていた中庭を眺めながら読んでみた。

読んでみると、簡潔な文章の中に城崎の情景と心の動きが伝わってくるものだった。
特に印象に残ったのは、自分(志賀直哉)が生と死の間にある隔たりを感じる場面・・・
「生きている事と死んで了っている事と、それは両極ではなかった。それ程に差はないような気がした。
もうかなり暗かった。視覚は遠い灯を感ずるだけだった。」
・・・という箇所は、余韻を感じさせるものとして心に残った。

谷崎潤一郎が『文章読本』の中で例文として挙げているのも納得できる短編。

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2009 8/22
小説
まろまろヒット率3

ダン・ブラウン、越前敏弥訳 『ダ・ヴィンチ・コード』 角川書店 上中下巻 2004

まろまろ@ギックリ腰になっちゃいました(T_T)

さて、『ダ・ヴィンチ・コード』ダン・ブラウン著、越前敏弥訳(角川書店)上中下巻2004。

パリのルーヴル美術館で、館長の死体ががレオナルド・ダ・ヴィンチの「ウィトルウィウス的人体図」の姿で発見される。
調査の結果、この姿は館長が死の直前に自分自身でかたどったものだと判明した。
宗教象徴学の大学教授ロバート・ラングドンと、暗号解読官のベズ・ファーシュは、
事件に巻き込まれながら、館長が残した暗号(コード)を解読してく。
そこにはキリスト教発祥以来の謎が深く関わっていた・・・

世界中でベストセラーとなったミステリー小説。
原題は“The Da Vinci Code” (2003)。
冒頭でわざわざ「この小説における芸術作品、建築物、文書、秘密儀式に関する記述は、すべて事実に基づいている」
と書いていることもあって、内容について物議をかもしだした問題作でもある。
すでに問題となった歴史解釈のあやしさや事実誤認についての反論も一通り終わり、
ブームも落ち着いているので、「いまさらかよ」と自分でも突っ込みながら読むことになった一冊(^^;
(以前は「俺ん家コード」なども流行ったことがあったw)

今回あくまでフィクションとして読んでみると、数々の名画や建築に隠された象徴をヒントに、館長の残した暗号を解いてくのは確かに刺激的。
また、特命係長プレイで講義を担当することもあるので、回想で登場するロバート・ラングドンの様々な講義シーンも面白く感じられた。
そして物語が佳境となる、第3巻の171ページ目の驚きは純粋に物語として面白いと感じた。

振り返れば、修道院が舞台の『薔薇の名前』や、禅寺が舞台の『鉄鼠の檻』などの宗教教義を題材にしたミステリーをこれまでよく読んできた。
いずれ自分でも宗教教義を使ったミステリー小説を書きたいと思っているくらい好き。
そんな僕にとっては十分に楽しめたミステリー作品でもある。

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2009 8/13
小説
まろまろヒット率4

宮内貴久 『風水と家相の歴史』 吉川弘文館 2009

まろまろ@このまろまろ記8周年をむかえました
これもいつも愛読していただいているまろみあんの人がいてこそ!
これからもどうぞよろしくお願いします(^_-)

さて、『風水と家相の歴史』宮内貴久著(吉川弘文館)2009。

中国発祥の風水が、家相として日本の近世に受容されていった歴史過程を紹介する一冊。
風水や家相にはうさんくささが漂うものだけど、科学的に正しいかどうかという話とは別に、
古い建築物の多くが、風水・家相の理論を参考にして建てられている点に注目している。
たとえば、旧家の名主が先代から家相・風水の理論を学ぶ必要性について・・・
「たとえ迷信だとしても、村人から様々な相談を受ける時に家相・暦判断の基本を知っていないといけない」
・・・と諭されたエピソードがこの本でも紹介されているように、民俗学としても興味深い分野。

この本では、日本の家相の特徴として・・・

○日本の家相とは風水の陽宅風水における住宅風水のこと
<家相判断の対象とその実態>

○東アジア全体で捉えると、陰宅風水を欠いた18世紀以降の日本の風水受容はきわめて特殊
<近世の家相>

○積極的に福を取りこむよりも、日本の家相が災厄を未然に避けることを強調している点は注目すべき
<近世の家相>

・・・という点を明らかにしている。
また、なぜ日本の近世に家相が受け入れれたかの理由については・・・

○可視的な災因論=原因が目に見える
→家相は目で見て触れることのできるモノが対象
<なぜ家相が受けいられたのか?>

○宗教とは異なり、さらに可視的であることが、人々が家相を受け入れた最大の要因
<なぜ家相が受けいられたのか?>

・・・と結論づけているのが興味深かった。

ちなみに・・・

○風水でもっとと良いとされる理想的な地形は女性器を模している
<風水とは?>

・・・というのは原始宗教とも通じるもので注目したりもした。

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2009 7/23
歴史、風水、家相
まろまろヒット率3

2ちゃんねる・激安節約レシピ人民委員会 『格差の食卓』 集英社 2009

まろまろ茶話会2009が無事開催された、まろまろ@参加されたまろみあんのみなさん、ありがとうございました☆

さて、『格差の食卓』2ちゃんねる著、激安節約レシピ人民委員会編(集英社)2009。

インターネット掲示板、2ちゃんねる内のスレッドに投稿された数々の格安レシピを抜き出したレシピ集。
「これぞ蟹工船エイジのグルメ術だ!」、「万国のプロレタリアートよ、喰いやがれ!」というキャッチコピーと、
階級闘争的な表紙がインパクトがあるけれど、内容は比較的保守的で安心できるレシピが多い。

たとえば・・・

○北京ダックもどき=春巻きの皮に鶏皮カリカリに焼いたものと白髪ネギのせて甜面醤つけて巻いて食べる
→高級な味

○インチキ肉豆腐=豆腐の上に牛肉大和煮の缶詰を汁ごと入れてラップをかけて3分チン
→手間のかかる肉豆腐も簡単にできて良い

○鯖ビアータ=アラビアータソースに鯖缶を入れてパスタにする
→味もネーミングもセンスがある

・・・などは、実際に試してみても美味しかった。

ただ、レシピ集なのだから、やはり完成品の写真かイメージ図は欲しかった。
挿絵が多いのにレシピとの関連が低いものも多かったのが残念。

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2009 7/22
料理本
まろまろヒット率3