塩野七生 『ローマ人の物語1,2 ローマは一日にして成らず』 新潮社 上下巻 2002

堪え性がなく買ってしまった、らぶナベです。

さて、『ローマ人の物語1,2 ローマは一日にして成らず』上下巻
塩野七生著(新潮文庫)2002年初版。

ハードカヴァーの初版から10年たって出版された、
塩野七生のライフワーク『ローマ人の物語』シリーズの文庫版第一弾。
10年前に出たときにも読みたかったが妙に値段が高かったのと、
シリーズが全部出揃ってから一気に読みたくて手をつけずにいた。
なのに書店に並ぶ文庫本にひかれて思わず購入してしまった。
(本シリーズもまだ未完なのに堪え性がない(^^;)
手にしてみるとせっかく文庫本になったのにハードカヴァー1冊分の分量を
わざわざ分冊にしているのにはちょっと残念だなぁっと感じたが、
これは文庫は「背広のポケットに入れてもポケットが型崩れしない」
ものにするという著者の意図らしい。

内容は前書きに当たる”読者へ”で「史実が述べられるにつれて、私も考えるが、
あなたも考えてほしい。”なぜローマ人だけが”と」という呼びかけをおこなっているように、
知力でも体力でも技術力でも経済力でもまわりの諸民族に見劣りしていたローマ人が
なぜあれだけの巨大な国家を築き、長年維持できたのか、
そしてなぜ衰退したのかというという疑問がこの長い長い物語を貫くテーマになっている。

第一弾の『ローマは一日にして成らず』はローマ建国から共和制への移行、
そしてイタリア半島統一までの約五百年を書いている。
ヴェネツィアの千年史を書いた『海の都の物語』もそうだったが、
著者は社会システムについての洞察が非常にするどい。
ギリシアのポリスに使節団を送り込んでおきながら直接民主制を採用しなかった
共和制ローマについての彼女の考察は特に興味深かった。
理念に眼を曇らせない彼女の冷静な視点は読んでいて爽快感を感じるほどだ。
この本ではギリシアのポリスついてもかなり詳細な記述があるが、
もし政治学を学ぶならこの本で取り上げられていることは
前提として押さえておかないとわからない話が続出するだろうと思う。
そういう意味で政治学を学ぶ上での必須前提書でもあるのだろう。
(この時代を取り上げた他の本でもいいけどね、この本は面白いから)

「一日にして成らず」というように三歩進んで二歩下がるような
ゆっくりしたローマの成長はまだまだ始まったばかりだが、
この第一弾を読んだだけですっかり著者の問いかけに魅了されてしまった。
僕もこのシリーズを読みながら考えていこう、「なぜローマ人が?」と。

以下、チェックした箇所・・・

○神話や伝承の価値は、それが事実か否かよりも、
どれだけ多くの人がどれだけ長い間信じてきたかにある
<建国の王ロムルス>

☆多神教では、人間の行いや倫理道徳を正す役割を神に求めない。
一方、一神教では、それこそが神の専売特許なのである
<二代目の王ヌマ>

○人間の行動原則の正し手を、宗教に求めたユダヤ人。哲学に求めたギリシア人。
法律に求めたローマ人。
<二代目の王ヌマ>

○戦争は、それがどう遂行され戦後の処理がどのようになされたかを追うことによって、
当事者である民族の性格が実によくわかるようにできている。
歴史叙述に戦争の描写が多いのは(中略)戦争が、歴史叙述の、
言ってみれば人間叙述の、格好な素材であるからだ
<ペルシア戦役>

☆歴史は必然によって進展するという考えが真理であると同じくらいに、
歴史は偶然のつみ重ねであるとする考え方も真理になるのだ。
こうなると、歴史の主人公である人間に問われるのは、
悪しき偶然はなるべく早期に処理することで脱却し、
良き偶然は必然にもっていく能力ではないだろうか
<南伊ギリシアとの対決>

☆ローマ人の真のアイデンティティを求めるとすれば、
それはこの開放性ではなかったか
<ひとまずの結び>

この本をamazonで見ちゃう

2002 10/2
歴史、政治学
まろまろヒット率4

追記1:この約9年後の2012年1月21日に最終巻『ローマ人の物語41,42,43 ローマ世界の終焉』を読み終えて、全巻読破。

追記2:全巻へのリンク(☆は特に印象深い巻)・・・

『ローマ人の物語1,2 ローマは一日にして成らず』

『ローマ人の物語3,4,5 ハンニバル戦記』

『ローマ人の物語6,7 勝者の混迷』

『ローマ人の物語8,9,10 ユリウス・カエサル~ルビコン以前~』

『ローマ人の物語11,12,13 ユリウス・カエサル~ルビコン以後~』

『ローマ人の物語14,15,16 パクス・ロマーナ』

『ローマ人の物語17,18,19,20 悪名高き皇帝たち』

『ローマ人の物語21,22,23 危機と克服』

『ローマ人の物語24,25,26 賢帝の世紀』

『ローマ人の物語27,28 すべての道はローマに通ず』

『ローマ人の物語29,30,31 終わりの始まり』

『ローマ人の物語32,33,34 迷走する帝国』

『ローマ人の物語35,36,37 最後の努力』

『ローマ人の物語38,39,40 キリストの勝利』

『ローマ人の物語41,42,43 ローマ世界の終焉』

『塩野七生「ローマ人の物語」スペシャル・ガイドブック』

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