ブルーノ・チェントローネ、斎藤憲訳 『ピュタゴラス派―その生と哲学』 岩波書店 2000

まろまろ@今週土曜日は、久々に東京大学駒場キャンパスでコメンテイターをします

さて、『ピュタゴラス派―その生と哲学』ブルーノ・チェントローネ著、斎藤憲訳(岩波書店)2000。

「ピタゴラスの定理」で有名な、ピュタゴラス(ピタゴラス、Pythagoras)とピュタゴラス派の哲学史本。

哲学、数学、科学、政治にまで大きな影響を与えたとされる、ピュタゴラスとピュタゴラス派(主義)は、
さまざまな伝説に彩られている上に、偽書も多く、実態が神秘のベールに包まれている。
ピュタゴラスには最近何かとご縁があるので、この伝説的な知の系統に実証的なアプローチするこの本を手に取った。

読んでみると、現存する文献、資料の断片を紹介して、批判を加えながら、ピュタゴラスとピュタゴラス派の実像にせまっている。
その結果、ピュタゴラスとピュタゴラス主義は「何よりもまず一つの生(bios)のあり方を意味する」ものであり、
「ピュタゴラスの知が本質的に宗教的なもの」であることを明らかにしている。
それが歴史を経るに従って、プラトンとプラトン主義によって権威づけられていく過程がえがかれている。

中でもプラトンとプラトン主義が、ピュタゴラスの伝説とカリスマ性を権威づけに利用していった過程が印象深い。
後世の人々が権威付けのために伝説的な人物の名前を借りるという点では、
日本の厩戸皇子(聖徳太子)や空海(弘法大師)にも見られる傾向で、ある種の人間の本能かもしれない。
(ピュタゴラスの方がはるかに巨大な影響を与えているけれど)

訳者があとがきで「出来上がった哲学史の記述ではなく、哲学史研究の工事現場を訪れる趣が本書の最大の特徴」と書いているように、
原典である資料、文献の丁寧な紹介と批判をしているので、入門書のように気軽には読みこなせない本でもある。
ただ、それは「機械的必然と恣意の間のどこかに合理性の基準を打ち立てることこそが古典学を始めとする人文学の役割」であり、
「その目的は権威に仕えることではなく、正しい批判によって人を権威から自由にすること」を目指した本として好感が持てた。

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2009 7/15
哲学、歴史
まろまろヒット率4

『平安神宮庭園・神苑』(名所旧跡)

平安神宮内にある庭園(神苑)。

京都の神社仏閣にしては歴史が若く、。明治28年(1895年)創祀。
それだけに他の神社仏閣と比べて趣は軽いけれど、名造園家として知られる小川治兵衛(7代目)の仕事がかいま見れる。
拝観料600円という強気の価格設定もも含めて、京都を代表する名所旧跡。

2009 7/11
もろもろ鑑賞、名所旧跡
まろまろヒット率3

石井裕之 『なぜ、占い師は信用されるのか? 「コールドリーディング」のすべて』 フォレスト出版 2005

接客業に向いていると言われるけれど実は顔の広い人見知りな、まろまろです。

さて、『なぜ、占い師は信用されるのか? 「コールドリーディング」のすべて』石井裕之著(フォレスト出版)2005。

『一瞬で信じこませる話術 コールドリーディング』に続く、コールドリーディングの種明かし第2段。

「言語的・心理的なトリックを使って、初対面の人の心を読み、未来の出来事を予言すること」(この本の定義)、
であるコールドリーディング(Cold Reading)は、ニセ占い師、ニセ霊能者が使うことが多いテクニック。
この本では前作と同じく「テクニックに善悪はなく、それをどう使うかが問題」として紹介している。
これまた前作と同じく、コールドリーディングに乗った人を見かけたのと、
自分が無自覚に使っていないか振り返るために手に取った一冊。

読んでみると、前作が売れたちうこともあって、著者の文体がだいぶ軽くなっている。
また、1,2章は前作の復習、3章は様々な場面での応用になっていて、実際にオリジナルな部分は4章だけになってる。

ただ、4章で紹介された・・・
ウソを見分ける方法として、複数の含みを持たせる「マルチプルインプリケーション」(Multiple Implications)、
記憶を曖昧にさせる方法として、話を巻き戻す「ストラクチャードアムニジア」(Structured Amnesia)などは、
昔からよくある方法だけど、実際にうまく乗った人を横で見たことがあるので納得した。
(昔からあるということはそれだけ有効性があるということでもある)

また、「なぜ占い師は信用されるのか?」という問いには、「いつだって相談者に”興味をもってくれるから”」と応えているのが印象に残った。
確かに朝の情報番組で、占いのコーナーが視聴率が高いのは、ニュースは他人事だけど、占いは自分の事だととらえるひとが多いからだ。
前作よりも内容が薄いように感じたけれど、メディアのパーソナル化についても考えさせられた。

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2009 7/10
実用書、コールドリーディング、心理、コミュニケーションスキル、
まろまろヒット率3

石井裕之 『一瞬で信じこませる話術 コールドリーディング』 フォレスト出版 2005

シャーロック・ホームズが好きな、まろまろです。

さて、『一瞬で信じこませる話術 コールドリーディング』石井裕之著(フォレスト出版)2005。

観察や会話から相手のことを言い当てていると相手にと信じ込ませるコミュニケーション・テクニック、
コールドリーディング(cold reading)の種明かし本。

相手から情報を出させているのに、あくまで自分が当てたように心理誘導することは、
霊感・ニセ占い、カルト宗教、マルチ商法などのネガティヴなものから、
推理、カウンセリング、セラピーなどのポジティヴなものまで、
相手と信頼関係を築こうとするコミュニケーション一般に見られる。
(よく言えばシャーロック・ホームズ・プレイですな)

特に「最大の関心事は自分自身」、「そう信じたい選択肢に寄り添う」、「事実よりも印象を記憶する」などの、
人間の心理の特徴を利用して相手を誘導&信頼させる方法は、昔からあるものなので、今さらな感じはする。

でも、最近、このコールドリーディングに見事に乗っている人を見かけたこと、
また、接客業の人が無自覚におこなっているのこかいま見たことで、
自分も無意識のうちにやっていないかチェックしてみようと手に取った一冊。
(僕はうさんくさいけど健全なのですw)

読んでみるとコールドリーディングの例文が面白い。
中でもリーディングのミスをフォローする例文が、第三者の視点で読むと滑稽で微笑ましい。
だから「コールドリーディングを行う人は録音や記録されることを嫌っている」、
「聞きなおした時にミスを思い出されるから」と書かれてあるのは納得。
確かに占いや霊能、詐欺のセミナーなどで客観的な記録を嫌うのは心理操作が入っているものが多い。

また、コールドリーディングのテクニックの中で興味深かったのは、
言葉の定義を広げたり狭めたりする「ズームアウト&ズームイン」だ。
日本語は曖昧な表現が多いので、この方法は特に有効なんだろうと感じた。

ズームアウト例:
Q「ここ最近辛い別れがありましたね?」
A「いいえ・・・」
Q「別れと言っても精神的な別れのことです」
A「はい!」

ズームイン例:
Q「人間関係が苦手ですね?」
A「いいえ・・・」
Q「今はそうでも昔はどうですか」
A「はい!」
・・・などなど。

読んでみてあらためて思ったのは、コールドリーディングに乗せられる人は決して無知蒙昧な人だけではないということだ。
(自分の経験だけに頼り、無知で不安をあおられて飛びつく人もいるけれど)
「自分の欠点の中にいい面を見てくれたり、自分でも気づいていな長所を見出してくたら誰だって嬉しい」。
そして、自分のことを分かって味方になってくれる人だと思えば信頼したくなるものだ。
(僕も思わず乗っちゃいそうになるw)
また、こうしたコミュニケーション・テクニックは善悪や大小を問わずよく見受けられるものである。

ただ、悪意あるコールドリーディングには乗らないようにすること、そして自分も無自覚に乱用しない心構えが大切。
そのことを考えさせられる一冊でもある。

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2009 7/9
実用書、心理、コミュニケーションスキル
まろまろヒット率4

ドアラ 『ドアラのへや かくていしんこくむずかしい』 PHP研究所 2009

まろまろ@最近、何かと東海地方にご縁があるので東海ごはんが充実してきています☆

さて、『ドアラのへや かくていしんこくむずかしい』ドアラ著(PHP研究所)2009。

プロ野球球団、中日ドラゴンズのマスコット・キャラクター、ドアラの本。
『ドアラのへや かくしゃしゃかいにまけないよ』に続く第2弾。

前回と同じく、ドアラの気持ちをドアラ自身が語るフォトブックになっている。
今回は、東京ヤクルトスワローズのマスコット・キャラクター、つば九郎との会談や、
コメダ珈琲店あつた蓬莱軒などの名古屋名物のお店訪問などを盛り込んでいる。

ドアラ人気がすでに定着してしまったからなのか、読んでみると前回よりもドアラの魅力である負のオーラがパワーダウンしたように感じられた。
(副題も「格差社会に負けない」→「確定申告難しい」と、やや勝ち組風に変わっている)

ただ、巻末に掲載されている中日ドラゴンズの英智選手のインタビューが、
男の友情(?)を感じるもので、ほっこりとしてしまった。
ドアラ人気が、ファンだけでなく近しい選手達にも支えられているのが感じられる一冊。

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2009 7/7
絵本
まろまろヒット率3

ねこまんま地位向上委員会 『おとなのねこまんま あったかごはんを極うまに食べる136』 泰文堂 2009

まろまろ@丼、お茶漬け、雑炊などのご飯ものが好きだったりします☆

さて、『おとなのねこまんま あったかごはんを極うまに食べる136』ねこまんま地位向上委員会編さん(泰文堂)2009。

「火を使わず、2工程で、1食30円くらいのもの」をコンセプトに、ねこまんまのレシピを136種類紹介するレシピ集。

実際に試してみると、バターと醤油を使った「しょうゆバターまんま」(p30)や、
マヨネーズとのりたまをふりかける「のりたまマヨまんま」(p91)などは美味しかった。
また、ご飯に揚玉を乗せてうどんの汁をかける「たぬきごはんまんま」(p64)は汁ごはん好きな僕にはぴったりだった。
さらに、残りもののカレー鍋にご飯を入れて、こそげ取りながら混ぜ合わせる「ドライカレー風ねこまんま」(p118)は洗い物にもなってもいい。

ただし、わかめスープをかけて、さらに焼き餃子をのせる「餃子とわかめスープのねこまんま」(p82)、
前の日に残った大根と卵を乗せて、おでん汁をかける「おでんまんま」(p122)や、
カップヌードルの残りのスープをかける「カップヌードルまんま」(P136)はやりすぎな気もした。
(底に残った具を美しく盛り付けるのが食欲をそそるコツってw)

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2009 7/4
料理本
まろまろヒット率3

酒見賢一 『ピュタゴラスの旅』 集英社 2001

実は最近ピュタゴラスにご縁がある、まろまろです。

さて、『ピュタゴラスの旅』酒見賢一著(集英社)2001。

「ピュタゴラスは旅人であった」

・・・ピュタゴラス教団の教主、ピュタゴラスは突発的な旅に出る。
教団はピュタゴラスの旅に後継者と期待される英才の少年、テゥウモスを同行させる。
輪廻転生を信じ、無知な人々の期待に応えようとするピュタゴラスの態度に、少年テゥウモスは疑問を感じてゆく・・・

表題の『ピュタゴラスの旅』を含む五編の短編集。
何と言っても表題の『ピュタゴラスの旅』が印象深い。

伝説に包まれた哲学者、ピュタゴラス(ピタゴラス,Pythagoras)を主役にした歴史小説というだけでも珍しいけれど、
宗教的な救いに応えるピュタゴラスと、科学の探究を求める弟子テゥウモスとの対立の中に、
宗教と科学と哲学が、まだ渾然一体だった時代の思想性がえがかれている。
「旅」の意味が、実際の旅と、精神の探求の意味の両方が重ねあわせられている短編。

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2009 7/2
歴史小説、哲学
まろまろヒット率3

ドアラ 『ドアラのひみつ かくさしゃかいにまけないよ』 PHP研究所 2008

「まろまろ茶話会2009」の詳細が決定した、まろまろ@まろみあんのみなさんどうぞよろしくお願いします☆

さて、『ドアラのひみつ かくさしゃかいにまけないよ』ドアラ著(PHP研究所)2008。

プロ野球球団、中日ドラゴンズのマスコット・キャラクター、ドアラの本。
内容は、ドアラの日常や気持ちをドアラ自身が語るスタイルのフォトブックになっている。

読んでみると、ドアラの持つどこか虚脱感とカラまわりする存在感が本としてもちゃんと表現されている。
愛読書のフォトブック『どこへいくカッパくん』にもスタイルは雰囲気は通じるけれど、

アランジ・アランゾ 『どこへいくカッパくん』 ベネッセコーポレーション 1997


副題が「格差社会に負けない」となっているように、こちらの方がより世知辛い。

新しいマスコット(シャオロンとパオロン)の登場によってリストラの危機を経験したり、
毎回バク転をする重労働なのに報われることが少ないなど、ドアラの立ち位置が格差社会を思い起こさせる。
また、「人生(コアラ生)はお金じゃないですよ」と言いながらも、自動販売機のおつり受けをあさる姿などは、
ドアラが世相を反映した(時代の流れに乗った)キャラクターだということがよく理解できる一冊になっている。
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2009 7/1
絵本
まろまろヒット率3

カミュ、宮崎嶺雄訳 『ペスト』 新潮社 1969

最近、特命係長プレイの一つでJKと話す機会が増えたので、ナウなヤングの情報に詳しくなりつつある、まろまろです。

さて、『ペスト』カミュ著、宮崎嶺雄訳(新潮社)1969。

オラン市に住む医師のリウーは、血を吐いて死ぬ鼠を発見する。
それはペスト大流行の始まりだった。
閉鎖された街の中で、天災に襲われた人々の混乱と闘いが「語り手」によって語られていく・・・

20世紀フランス文学を代表する作家、アルベール・カミュの代表作。
原題は”La Peste” (1947)。

危機的状況を描く、と言ってもハリウッドのパニック映画のようなスピード感は無いけれど、
ペストに襲われた街の人々の心理描写が丁寧にえがかれている。

著者のカミュは、第二次世界大戦中にパルチザンに参加していたことがあるので、
この本のペストとはナチスを寓話化したものだという解釈がされることが多い作品でもある。

でも、僕は単純に、感染症という天災にみまわれた人々の心理をえがいた作品だと読み取った。
天災とは、突発的で、不条理で、非人間的なのものだけど、それと出会った人々は戸惑い、簡単には受け入れられない。
阪神大震災を経験したこともある僕には、天災と出会った人々が、現実を受け入れ、天災と向き合っていく過程を描いたものとして読めた。

グローバル化が進んだ21世紀の現代は感染症が拡大しやすい時代でもある。
最近よくいる大阪でも新型インフルエンザ騒動があった。
21世紀の今も示唆を与えてくれる作品。

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2009 6/22
小説
まろまろヒット率4

宮崎駿 『風の谷のナウシカ』 徳間書店 上下巻 1996

まろまろ茶話会2009を準備中のまろまろです。

さて、『風の谷のナウシカ』宮崎駿著(徳間書店)上下巻1996。

最終戦争によって文明社会が崩壊してから1000年後の世界。
地表には腐海と呼ばれる有毒ガスと蟲が充満する森が広がり、人口が激減した人類はいくつかの国に分かれて争っていた。
風の谷の姫、ナウシカは、大国との戦争に巻き込まれながら、世界の謎の解明と腐海との共生の道を目指していく・・・

現代を代表するアニメ映画監督の宮崎駿の、さらに代表作『風の谷のナウシカ』(1984年公開)の原作。
もともとは、雑誌『アニメージュ』にて1982年~1994年まで連載された全7巻を、愛蔵版として上下巻にまとめたもの。
(内容は同じだけど、伝説を描いた重厚な装丁になっている)

映画『風の谷のナウシカ』は小さな頃に母親に連れられて観に行ったことがあり、さらにテレビ放映や学校の文化鑑賞などで何度も観たことがあった。
ただ、ナウシカを熱く語る人に苦手な感じな人が多かったということもあり、原作の方は読まずにいた。

それが最近になって、ナウシカの登場人物、クロトワに共感する機会があり、
またナウシカを熱く語る人たちにも優しい目で見れるようになったので(w、今回初めて手に取ってみた。

読んでみると、戦争、宗教、差別、自然との共生など、人類普遍のテーマを盛り込んだ壮大な大河物語になっている。
環境問題についてのテーマ性に注目されることが多いけれど、僕は・・・
「世界を清浄と汚濁に分けてしまっては何も見えない」(下巻, p440)
「清浄と汚濁こそ生命だ」(下巻, p510)
・・・というナウシカのセリフに代表される、
清濁合わせ持つ生命とその一つである人間の尊厳を謳った物語だという印象を受けた。

意味深さはもちろん、読み物としても、展開の早さ、迫力、感動を合わせ持った名作。
宮崎駿監督作品として完全版アニメ映画をつくってほしいと願う作品でもある。

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2009 6/21
マンガ本
まろまろヒット率5