芦部信喜 『憲法』 岩波書店 1999(新版補訂)

テレビ朝日でやっていたインダス川の源流を探る番組(筒井道隆出演)を見て
またまたやばい旅がしたくなった、らぶナベ@やっぱ次はチベットかな?(^^)

さてさて、『憲法』[新版補訂版]芦部信喜著(岩波書店)1999年初版。
去年死んじゃった日本最高の憲法学者、芦部さんの代表的著作。
その道では定番の一冊らしいが確かにその記述は簡潔で明確さを感じる。
ただし本の構成に文句を付ければこの記述量ならこれだけ分厚くしなくても
もっとコンパクトにできたはずだ(文字も大きいし岩波書店儲けすぎ!)
また、読む前に「基本的人権が中心で統治部分の記述の薄さは致命的」という
話をそこら中で耳にしていたがそれほど手薄さを感じることはなかった。
これは行政法の本(『プロゼミ行政法』)を読んだ時と同じように
『行政書士マスターDX1~実務法令編~』の憲法部分の問題を
一通りこなしてから読み始めたためもあるのだろうが。

以下、こういう本にしては数少ないチェック項目・・・
○特別な法律関係における人権の限界では法治主義の排除、人権の制限、
司法審査の排除からなる「特別権力関係論」が通説だったがそれぞれの
法律関係における人権の制約を具体的に明らかにしなくてはならない

☆在監者の人権は「相当の具体的蓋然性」が予見される場合には
制限できるとしたのが「よど号ハイジャック事件新聞記事抹消事件」
(最大判昭和58年6月22日)

☆人権規定は私人間では「間接適用説」されるため制限されるとしたのが
「三菱樹脂事件」(最大判昭和48年12月12日)

○間接適用説の立場に立つと法律行為以外での純然たる事実行為による
人権侵害に対しては真正面から憲法問題として争うことはできない
→アメリカの判例で採用されている「国家行為(state action)」理論が
その救済手段として注目される(民法709条の不法行為の違法性の裏付けを
強化したり国家賠償請求などの行政訴訟を提起する救済手段につながる)

☆憲法13条の法的性格は裁判上の救済を受けることができるとする
具体的権利性が認められている→
「京都府学連事件」(最大判昭和44年12月24日)、
「前科照合事件」(最判昭和56年4月14日)
→ただし一般法にも特別法にも個別の人権が妥当しない場合に限って
適用される「補充的保障説」が通説

☆憲法13条から導き出されるプライヴァシー権の要件に
「一般の人々にいまだ知られていないこと」が必要としたのが
「宴のあと事件」(東京地判昭和39年9月28日)

☆行政訴訟法31条が定める違法だが無効とせず違法宣言に留めた「事
情判決」をしたのが「衆議院議員定数不均衡事件」(最大判51年4月14日)

☆検閲は行政権による事前抑制で絶対的に禁止されるが
裁判所による事前抑制(差止)は憲法21条1項の表現の自由の保障によって
原則的に禁止されるとして両者を概念的に区別したのが
「北方ジャーナル事件」(最大判昭和61年6月12日)
=例外的に事前差止がみとめられる

☆公務員の労働権が制約されることを認めたのが
「全逓東京中郵便事件」(最大判昭和41年10月26日)
また、公務員の政治活動も制限されると判決したのが
「猿払事件」(最大判昭和49年11月6日)

☆司法の概念を構成する重要な要素・・・
具体的な争訟が存在すること、適正手続の要請等に則った手続に従うこと、
独立して裁判がなされること、正しい法の適用を保障する作用であること

☆「法律上の争訟」=当事者間の具体的な権利義務ないし
法律関係の存否に関する紛争であってそれが法律を適用することにより
終局的に解決することができるものに限られる(判例)
→裁判所に救済を求めるには原則として自己の権利もしくは
法律によって保護されている利益の侵害という要件が必要とされる

☆法律の違憲判断を回避する解釈と法律の合憲性に対する疑いを
回避する解釈の二つを含む「憲法判断回避の準則」が適用されたのが
「恵庭事件」(札幌地判昭和42年3月29日)

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2000 6/26
法学、憲法
まろまろヒット率4

中島博行 『検察捜査』 講談社 1997

納豆はめちゃくちゃ苦手だけど納豆菌がお腹に良いし
血もさらさらにしてくれるということで「乾燥納豆」なるものを
手に入れて薬のようにして飲んでいる、
らぶナベ@でも口にねばねば感が残っていやん(涙)

さてさて、『検察捜査』中島博行著(講談社文庫)1997年初版。
日本ではめずらしいリーガルサスペンスものの小説。
タイトルからはいまいち触手が動かされなかったがネットを中心にして
そこら中で「面白い」という評判を耳にしていたのでためしに読んでみた。
著者は弁護士でもある小説家として有名らしく
この作品で江戸川乱歩賞を受賞している。

話の大筋は跳ねっ返りの女性検察官を中心にして大物弁護士が
殺害された事件から検察内部での派閥抗争、日弁連会長席をめぐる争い、
検察と弁護士会との対立、日本の司法改革などを舞台にして展開していく。
リーガルサスペンスものといっても法廷シーンはほとんど無く、
話が二転、三転していく中で日本の法曹界それぞれの裏事情を
暴いていくというかたちになっている。
そう書くと重々しそうだが話が反骨な女性検察官を中心にまわっているので
かなり軽快だ、タイトルから想像しにくいけどギャグも軽かったりする。
陪審員制度を採用していない日本では刑事事件ものを取り扱うなら
99.98%の有罪率を誇る検察庁を舞台にしないと迫力を持たせられない
という著者の弁があとがきで紹介されていたがこれはとてもよくわかる話だ。
あまりネタになることは少ないが捜査指揮権と訴追権を独占している検察は
とても重要なポジションを占めているし実際に強力でもある。
僕だって免許取得後に一度は日本最高の司法集団、
東京地検特捜部とたたかってみたいと思うくらいなんだから(^^)

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2000 6/22
小説、法学一般
まろまろヒット率3

石川敏行 『はじめて学ぶプロゼミ行政法』 実務教育出版 2000(改訂)

お酒はあまり飲まないんだけど(家では全く飲まない)、
最近「すだち酒」なるお酒にはまっている、らぶナベ@梅田にある
『やえがき』っていうくわ焼き居酒屋で飲めます、お薦め!

さて『はじめて学ぶプロゼミ行政法[改訂版]』石川敏行著
(実務教育出版)2000年改訂初版。
最近、行政書士資格でも取ろうかと思い立って
始めにざっと『行政法』(有斐閣アルマ)を読み、
その次に問題集『行政書士マスターDX1~実務法令編~』
(東京法経学院出版)の行政法の部分を一通りやってみてから
確認と問題集で分散した知識の再統合のために読んだ行政法の入門書。
かなり良いという評判は聞いていたが確かにコンパクトにまとまっている(^^)
(特に行政書士試験で問題として取り上げられるのは8章~13章までだろう)

また、この本の中で印象深いのは三権分立の役割分担を電車で例えて
立法がレールを敷き、行政が走る列車、司法がコントロールを担う司令塔
・・・と例えたところには妙に納得してしまった(^^)
司法(司る方法)とは文字通りの司令塔なんだから。
手綱を握り独自の戦略論のもとで指揮、采配する役割こそが司る仕事だ。

知識の再統合のために読んだのであえて新しい知識はなかったが
それでもチェックした点は以下・・・
○国家保障法→結果の補填、行政争訟法→原因そのものの除去
(国家賠償請求をする際に予め取消or無効確認判決が不要なのはこのため)

○行政不服申立ては「審査請求中心主義」、
行政事件訴訟法は「抗告訴訟原則主義」

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2000 6/19
法学、行政法
まろまろヒット率3

司馬遼太郎 『義経』 文藝春秋 上下巻 1977

そろそろ株主総会の季節が始まって届いた封書を見てみると
去年は100株株主だった僕が今年は二度の分割を経て
自動的に225株株主に出世していた、らぶナベ@せこい立身出世物語だな(^^;

さてさて、『義経』司馬遼太郎著(文芸春秋)上下巻、1977年初版。
「判官びいき」で有名な源義経を主役にした司馬遼太郎の小説。
ふと手にとって読んでみたがもともとこの著者は徳川家康といい
(『覇王の家』)、豊臣秀吉といい(『新史太閤記』)、西郷隆盛といい
(『翔ぶがごとく』)どうも有名すぎたりエピソードがよく知られている
人間を書くのが苦手なような気がしていて、
既に色々な物語の主題になっている人間を主役にしたこの本も
あまり期待していなかったが案の定いまいちだった(あかんやん!)
義経を軍事的天才性と人格的幼児性の分裂症的な捉え方に
ついては納得できるがどうも書き方に気合いが入っていないように
思えるのは僕だけだろうか?
やっぱり彼は土方歳三とか(『燃えよ剣』)、河合継之助とか(『峠』)、
大村益次郎とか(『花神』)、明治中期の面々とか(『坂の上の雲』)を
取り上げた方が生き生きとした文体になるような気がする。

やっぱ何をするにも人間得意分野でやらないとダメなんだろうな。

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2000 6/17
小説、歴史
まろまろヒット率3

山下淳・小幡純子・橋本博之 『行政法』 有斐閣 1997

街の法律家(行政書士)を扱った漫画『カバチタレ!』(モーニングKC)の
2巻、3巻を手に入れた、らぶナベ@やっぱり面白いっす(^^)

さて、『行政法』山下淳・小幡純子・橋本博之著(有斐閣アルマ)1997年初版。
行政法で始めて読んだ本。
とりあえず概要を知るには良いだろうと思って
手頃で無難でうなこの本を手に取ってみた。
読んでみると噂には聞いていたが行政法ってやたらと煩雑だ!
(この本の書き方が悪いのかもしれないけど)
行政法とか言いながら行政法そのものの法律は無いことにも
原因しているんだろうが民法のように総則というか
一貫した指針が無くまとまりがないように感じる。
大陸法ではなく判例法メインの英米法に影響されているのかな?
とも思ったがどうもそうではないみたいで解釈論での議論よりも
カテゴリー分けの議論の方が盛んのようだ。
性質が判例法チックなのに解釈を大陸法的にしているから
こんなややこしいことになるのか?とも思ったが
さすがにこれは僕の思いこみかな?
とにもかくにもさらっと読むには問題の無い本でもあるんだろう、
以下はあえてチェックした箇所・・・
・日本の大臣制度は一人の人間が国務大臣と行政大臣を兼任する

・国家行政組織法=組織体としての行政機関、
地方自治法=行為主体としての行政機関

・侵害作用にのみ法律の根拠を必要とするという侵害留保説は
最近疑問視されている

・取消=処分を行った際に瑕疵がありそれを理由に取り消すこと
撤回=瑕疵のない処分だが処分後に生じた理由によって
処分の効果を失わせること

・不服申立てのメリット=簡易迅速性と違法性だけでなく不当性(裁量問題)
を争点にすることが可能なこと

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2000 6/16
法学、行政法
まろまろヒット率3

内田貴 『民法3―債権総則・担保物権』 東京大学出版会 1996

内田貴の『民法』シリーズの最後の一冊、これですべて読破!
まだ『民法4』があるらしいがこれはまだ未刊だし家族法なので
民法のメインである財産法を取り上げたこの1~3巻で
民法を読み終えたと言っても良いだろう。
内容は民法の中でもっとも実務的な(だからこそややこしい)
担保物権を中心に記述している。
前に読んだ2冊と同じようにとりあえず長い、長い!
集中力が切れそうになる後半部分にややこしい抵当権や非典型担保
などの記述があるのは嫌がらせのか?(^^;
とりあえず学術書の中では最長の本として記録しておこう。

以下、チャック&まとめた箇所・・・
<第1章 序説>
○契約から発生する債権の注意事項・・・
・民法の債権は成立または効力発生の要件の視点から規定されているので
債権によっては契約の解釈でその内容を明確にする必要がある
・契約からは中心的債権・債務=「給付義務」とは別に様々な義務
=「付随義務」が発生するがその法的性質や理論的位置づけが
大きな論争点になっている

☆「担保」とは金銭債権の弁済を確保する手段

<第2章 債権入門>
○下級審裁判例を中心に付随義務として様々な新しい契約義務が
認められている(信義則を根拠にすることが多い)・・・
情報提供・助言義務、契約交渉継続義務、契約関係継続義務、
安全配慮義務、損害軽減義務、再交渉義務など
これらの義務をいかに契約法理論に取り込んでいくかが
契約法に課せられた大きな課題とされている

○これまでの契約上の義務発生は当事者の意思か法律の規定を
根拠としていたが新しい付随義務の根拠は必ずしも当事者の意思に
還元できないものになっていて債権法と契約法に対して
根本的な変革を迫る考えとされている
←現実の取引の多くは様々な規範意識を共有する取引共同体の中で
行われていて当事者の意思もこうした共同体に内在する規範に
拘束されているのに近代法的な契約観は取引現実を社会関係から
孤立して捉えているため弊害が生まれたのではないか
新たな契約法上の義務はこれらの内在的な規範の法の次元への反映と
見るべきではないか=「関係契約理論」

○債権の分類・・・
引渡債務(与える債務)・行為債務(為す債務)、
結果債務・手段債務、種類債権(不特定物債権)・特定物債権

○種類債権が特定される時点は持参債務、取立債務、送付債務によって違う

○引渡債務の目的物が特定すると債務者の保管義務が加重されて
特定物と同じく善管注意義務を負う(400条)
→特定後滅失について債務者に帰責事由が無ければ特定物と同じ
債権者主義(534条)が適用され一方債務者に帰責事由があれば
履行不能の債務不履行責任を負うことになる
また、特定の効果として特約が無い限り特定によって目的物の
所有権が移転するとされている(判例)

○種類債権には原則として特定まで履行不能がないが「制限種類債権」には
履行不能がある(条文にはないが契約の解釈で決まる)

☆債権の目的の一般的要件=適法性・社会的妥当性、可能性、確実性
→民法総則の法律行為とほぼ重なる

○客観的な経済価値のある目的物に限って保険がかけられるようにする
損害保険契約(商630条)はいかなる主観的価値も自由に
契約の目的物にできるとする民法399条の例外規定

○債権と請求権の違い・・・
実体法と訴訟法が未分化だったローマ法では権利とは訴訟可能性
=「訴権」でありその後実体法と訴訟法が分化していくにつれて
実体法上の権利と訴訟上の権利が明確に区別されるようになった
それにともなって両次元に分化した訴権を媒介する概念として
ヴィントシャイトが考え出したのが「請求権」
→訴訟上の請求がなされるにはまず実体法上の権利が存在しなければならい
(請求権は物権からも債権からも生じるのはこのため)

<第3章 弁済による債権の実現>
☆「弁済」=正常な経過による債権の実現
日常語と違って法律の弁済は金銭の支払いに限らず引渡や登記も含まれる
→債務の本旨に従った給付をなすことが弁済で履行と同じ意味になる

☆第三者による弁済が有効な場合は債務者の債務は消滅して
弁済者が債務者に対して求償する関係が残る=「代位弁済」

○差押と弁済が競合した時、第三債務者は差押債務者に弁済しても
差押債権者との関係では弁済の効力を主張できない(481条)

○「転付命令」=差押債権者に被差押債権を券面額(差押えられた債権の

名義価格)で移転して債権の弁済があったものと扱う制度(民事執行法159条)
転付債権が存在する限りその差押債権者が優先的に弁済を受けることができる
ただし第三債務者の無資力の危険は差押債権者が負う

○受領権限のない者への弁済も有効な弁済と扱う例外・・・
「債権の準占有者」(478条)、「受取証券の持参人」(480条)
→478条の善意・無過失の立証責任は弁済の有効を主張する側(弁済者)
にあるが480条では弁済の効力を否定する側(真の債権者)にある
真正な受取証書を持っていることにそれだけ強い推定力を認めている
(478条は銀行預金の払戻をめぐってよく問題になる)

○預金担保貸付における相殺では名義変更などで預金者と貸付の相手方が
異なる場合でも478条の類推適用によって銀行を保護した判例がある
(最判昭和48年3月27日)
→多くの場合478条は真の債権者から請求を受けた債務者の抗弁として
機能する=債務者の援用とともに効果が確定する

○インフレによる価格変動があっても金銭債務は券面額を支払えばよい
という「名目主義」がとられている(最判昭和36年6月20日)

○弁済受領者の義務・・・
受取証書を交付すること(486条)
債券証書がある時に全部弁済を受けた場合はこれを返還すること(487条)

○弁済による代位が認められる場面=法定代位&任意代位

○任意代位が認められるための要件・・・
・債権者の承諾→銀行取引約定書ひな型には「代位権不行使特約」がある
・誰が代位弁済したのかを原債権者から債務者に通知するか
債務者が代位弁済を承諾したのでなければ債務者との関係で
任意代位を対抗できない
→弁済による代位は債権譲渡に類似している
また、債務者以外の第三者に対抗するためにはこの通知・承諾が
「確定日付ある証書」をもってなされることが必要

○債権者の協力義務・・・
・全部弁済を受ければ「債券証書と担保物」を代位者に交付する
・「担保保全義務」を負う
→銀行取引ではこの担保保全義務の免除を保証人と銀行との特約で定めている
(疑問を呈する学説も多い)

○代位者が複数のとき=人的担保は頭数で物的担保は財産価格に応じて
負担部分を分配する(501条但書)

○弁済の提供は債権者に関しても信義則上の協力義務があるとされる

○受領遅滞(413条)の効果=債務不履行の責任が発生しない、
双務契約の場合は債権者の同時履行の抗弁権がなくなる、
特定物の引渡における注意義務の軽減、増加費用の負担、危険の移転、
受領遅滞は供託の原因となる
→受領遅滞の効果のほとんどは弁済の提供の効果と同じ

○債権者に契約上の債務として受領義務を認めるべき場合があり
受領義務を果たさなければ債権者に通常の契約上の義務違反として
損害賠償の問題が生じ場合によっては解除事由ともなることがあるとされる
(最判昭和46年12月16日)

○「弁済供託」の要件=債権者が弁済の受領を拒絶、債権者の受領不能、
債権者不確知(494条)

<第4章 債務不履行>
○債権の効力の展開→
裁判手続で実体法上の権利の存否を判定できる「訴求力」
→その確定判決を債務名義として執行手続で実現できる「執行力」
→執行力の中には債権の内容をそのまま強制的に実現する「貫徹力」、
債務者の一般財産に強制執行して債権の内容を実現する「掴取力」

○債権の効力は最も弱いものから「給付保持力」、「訴求力」、「執行力」
→自然債務は給付保持力しかない
(カフェー丸玉女給事件:大判昭和10年4月25日)

○行為債務
直接強制は憲法18条で禁止されている強制労働になるから許されない
それゆえ他人にやらせて費用を債務者から取立る「代替執行」(414条)と
罰金を課して債務者の履行を経済的に強制する「間接強制」
(民事執行法172条)がある
→通説では間接強制は債務者の人権に関わるのでこれを極力さけて
代替執行すべきだとされていたが疑問が呈されている

○救済方法(723条)として問題になる謝罪広告は判例では
一定限度で強制履行が可能とし代替執行を認めている
(最大判昭和31年7月4日)

○債務不履行の用語としての使い方は統一されないため
債務不履行の事実のみが要件の「強制履行」(帰責事由は必要ではない)と、
帰責事由が要件とされている「解除・損害賠償」、の二つに分けて考える

☆特に種類物債権の場合は債務不履行の被害者だからといって
損害の発生を座視していれば強制履行は認められず
また損害賠償も制限される=「損害軽減義務」
→日本ではまだ正面から肯定されていないが
国際動産売買ウィーン条約でも採用されている

☆損害賠償請求権が発生する要件(415条)・・・
債務不履行の事実、債務者の帰責事由、損害の発生・因果関係

○債務不履行では中心的な給付義務以外に広範な信義則上の義務が
発生することが認められているが
その一つが「安全配慮義務」(最判昭和50年2月25日)
→契約責任としての安全配慮義務は特定の当事者間の
特別な社会的接触関係を基礎として認められる義務なので
社会生活上発生する他人に対する一般的な安全配慮義務とは異なる
(最判昭和58年5月27日)

☆契約責任と構成するか不法行為責任と構成するかの違い・・・
・「時効」は契約構成が有利→10年vs3年(ただし加害行為20年)
・「立証責任」は契約構成がやや有利だが実質上はあまり変わらない
・「遅延損害金の起算日」は不法行為が有利
・「遺族固有の慰謝料請求権」は不法行為が有利(相続人には違いは小さい)
・「相殺」も不法行為が有利
・「弁護士費用の請求」は違いはない

○安全配慮義務をめぐる裁判例は
労働災害・公務災害関連と学校事故が多い

☆安全配慮義務は大数的には不可避的な事故について
そのコストをいかに分配すかという側面が強い
→労働場や学校のようにある程度の危険を伴う「場」を提供している
主体に対してそこで生じた事故被害についてのコストを負担させ
(労働者や学生一人一人に損失分散の負担を負わせるよりもはるかに効率的)
保険で分散させる役割を担わせて安全対策のための
インセンティヴを与える制度として捉えられる=「事故法」

☆帰責事由の立証責任は債務者側にある
→債務者側が免責のために帰責事由がないことを立証するためで
原告が立証すべき事実という意味での「要件」ではないので
不法行為における過失の立証責任とは逆

○「履行補助者の過失」=被用者的補助者(債務者自身が指揮・命令できる者)
と独立的補助者(独立して事業をおこなう者)がある

○損害賠償の範囲の確定=「損害賠償の範囲」と「損害の金銭評価」

○契約違反に対する損害賠償を契約締結時に当事者が予見しえた範囲に
限定すべきとした「ハドリー事件」(英法)が416条の源流

☆「通常損害」に加わる「特別損害」で問題となる予見可能性の解釈
・予見する主体は「債務者」(判例)
・予見可能性を判断する時期は「履行期もしくは不履行時」
(契約締結説ではなく不履行時説:大判大正7年8月27日)

○419条が定めた金銭債務についての特則
=債務不履行の事実(履行遅滞)を立証すれば損害の立証は不要
(帰責事由だけでなく不可抗力さえ免責事由にはならない)
→金銭債務では損害の立証のなしに賠償がとれる

○賠償額の予定があるからといって「当然に」
解除や履行の請求ができなくなるわけではない(420条2項)

<第5章 第三者による債権侵害>
○引き抜きによる不法行為を認めるかどうかは転職の自由を考慮して
相当悪質な場合にのみ不法行為の成立を認める判例がある
(ラクソン事件:東京地判平成3年2月25日)

<第6章 金銭債権の履行確保に関する諸制度>
○金銭債権の履行確保(金融取引法)は法律と現実との最も生々しい接点
魑魅魍魎が徘徊する世界を法律がいかに規制しているかを見ることは
民法の典型的な機能を見る機会になる

○本来の給付(金銭)の代わりに別の給付(土地など)をもって行う
「代物弁済」(482条)は抜け駆け的弁済に用いられることが多い

☆正攻法による執行を維持するため抜け駆け的債権回収を抑制する機能・・・
・責任財産を保全する制度
→「仮差押・仮処分」(民事保全手続)、「債権者代位権」(423条)
・抜け駆け的債権回収が行われた場合の事後処理的制度
→「債権者取消権(詐欺行為取消権)」(424条)

<第8章 債権譲渡>
○債権回収の手段としての債権譲渡を正攻法の手続に則って行うのが
「転付命令」(民事執行法159条)

○所有する複数の債権を一括して譲渡しこれを担保に融資を受けるのが
「譲渡担保」←包括的な担保権の設定が可能かについては議論がある

○転付命令(強制執行)と譲渡禁止特約が競合した時に(466条2項但書)
譲渡禁止特約に対抗できるのは相手が悪意か重過失に限る
(最判昭和48年7月19日)

☆対第三者対抗要件は確定日付ある証書による譲渡人から債務者への通知、
または確定日付ある証書による債務者の承諾(467条2項)
→債権の譲渡では不動産と違い債務者を情報センターにして債務者が
登記所の役目を担うので債務者への通知または債務者の承諾が対抗要件になる

○確定日付ある証書は公正証書と内容証明郵便がよく使われる
また確定日付と到達時が分離した場合判例は到達時説を採用している

○物の譲渡とは違う債権譲渡特有の論点=
債務者に対する対抗要件問題と「異議を留めない承諾」にかかわる問題

○債権者の変動=「債権譲渡」、債務者の変動=「債務引受」

☆債務引受の三種・・・
・「免責的債務引受」(債務が同一性を保ちつつ新債務者に移転する)
→債権者が害される可能性が大きいので債権者の同意なしには認められない
・「併存的(重畳的)債務引受」(新債務者がもとの債務者と並んで
債務者になる→実質は人的担保)
→債権者に有利なのでもとの債務者と引受人の合意で可能
・「履行の引受」(債務者はもとのままだが引受債務者が
もとの債務者に代わって弁済する義務を負う)
→債権者には関係ないので債務者と引受人間だけで契約できる

○不動産賃貸借契約の賃貸人の地位移転は賃借人の同意なしで移転できる
(最判昭和46年4月23日)
→新賃貸人が賃借人に賃料請求するための対抗要件は
目的物に対する登記の移転

<第9章 相殺>
☆相殺は簡便な決済手段だけでなく債権担保としての機能を果たし
優先的な債権回収を可能にする手段となる

☆相殺する側の債権=「自動債権」、相殺される債務=「受動債権」
(反対債権)

☆相殺の効果は相殺を為すに適した状態=「相殺適状」まで遡及する

○受動債権とすることができない債権=不法行為による損害賠償債権、
差押の禁止された債権、差押を受けた債権

○相殺の担保的効力をめぐってはかつての制限説から511条の文言通り
両債務の弁済期を問題とすることなく相殺の効力を認める
「無制限説」に判例が移行(最大判昭和45年6月24日)

○転付命令との関係で相殺の担保的機能をどこまで保護するかが
争点になった判例は相殺が衝突する事例(相殺vs逆相殺)だったが
相殺適状の後先ではなく相殺の意思表示の後先で決する旨の判示
(最判昭和54年7月10日)

<第10章 責任財産の保全>
☆強制執行の引当になる債務者の財産が「責任財産」
→差押がなされない限り債務者の財産は債務者の支配下にあるのが
民法の原則だがその例外として一定の範囲で強制執行の準備のために
債権者が債務者の財産管理権に介入することを認めた
=「債権者代位」と「債権者取消権」=債務者の責任財産を保全する制度

☆債権者代位のメリット・・・
・債権者代位は債務者の「意思を無視して」行使できる
(代替的な手段として代理受領と債権の譲渡があるが
どちらも債務者の同意が必要となる)
・判例は金銭債権を代位行使する場合は代位債権者が結果的に
「優先弁済」を受けることを認めている←責任財産の保全目的を超えるもの
・消滅時効が迫っていても「債務名義が不要」
・催告、取消権、解除権、買戻権などの「執行の目的とならない
債務者の権利」でも代位行使できる
・本来想定されていないようなケースでも「債権者代位権の転用」として
債権者代位が可能←責任財産の保全目的を超えるもの

☆債権者代位の要件(423条)
・被保全債権=金銭債権、履行期の到来
・債務者=無資力、権利未行使
・行使される権利=一身尊属でないこと

☆債権者代位権の転用=「登記請求権」(最判昭和40年9月21日)
「賃借権に基づく妨害排除」(最判昭和4年12月16日)

○履行期の到来の例外(423条2項)=「裁判上の代位」、「保存行為」

○債権者代位権の理論的位置付け=責任財産保全制度説
vs簡便な債権回収手段説vs包括担保権説

○債権者代位権の効果は直接債務者に帰属するので(通説)
代位者はあくまで受領した物を債務者に返還しなければならない
→ただし金銭債権の場合は相殺によって事実上の優先弁済が可能

○代位権行使による既判力は「法定訴訟担当」に
該当するので債務者にも及ぶとするのが判例・通説

○債権者取消権の要件・・・
・債権者側=被保全債権→必ずしも金銭債権に限らない
            債権取得時期(詐害行為前)
・債務者側=客観的要件→詐害行為、
      主観的要件→悪意
・受益者、転得者側→悪意

○債権者代位権とは違い債権者取消権は裁判所に請求しなければならない
(424条1項本文)

☆債権者取消権の効果を決定づける判例(大連判明治44年3月24日)は
取消訴訟は「形成訴訟」で財産の回復を求めるかどうかは債権者の自由で
効果は相対的にのみ生じる=「取消の相対的効力」ので
債務者を被告とする必要はないとしている(債務者に当事者適格はない)

○債権者が取り消しうる範囲・・・
物が不可分な場合には取消債権者の債権額を超える場合でも原則として
現物返還が認められる(最判昭和30年10月11日)
ただし抵当権登記の末梢によって現物返還が不当になる場合には
価格賠償のみが認められる

<第11章 保証>
○資力や信用の劣る企業者に信用を与え金融機関からの融資を
用意にするための保証=「債務保証」(信用保証協会が担う)

☆保証の従たる債務・・・
・「附従性」(保証債務は主たる債務に附従する)
「成立における附従性」(主たる債務がなければ成立しない)
「内容における附従性」(主たる債務より重くなることはないなど)
「消滅における附従性」(主たる債務が消滅すれば消滅する)
・「随伴性」(債権譲渡の際に保証債務は主たる債務とともに移っていく)
・「補充性」(主たる債務者が履行しないときに始めて履行が可能)
←補充性には保証人に抗弁権が与えられている「催告の抗弁権」(452条)
、「検索の抗弁権」(453条)
(合意で予め補充性を排除するなら「連帯保証」になる)

☆主たる債務とは独立に債権者に生じた損害を填補することを目的とした
契約を「損害担保契約」→449条は附従性の例外としてこれを認めたもの

○保証債務の内容は主たる債務と同一でなくてもよく
保証契約の解釈によって導かれるので不代替的な債務の保証も可能
→ただし保証債務の重さは主たる債務より大きくなることはない

○債務契約が債務不履行により解除された場合には(法定解除)、
請負人の前払返還債務(原状回復義務)にも保証が及ぶ
(最大判昭和40年6月30日)

○補充性の抗弁権とは債権額100万円のうち80万円は取れたはずなのに
債権者が放置したために後で執行した時は50万円しか得られなかったという
場合には保証人は50万円を支払う必要はなく抗弁権行使直後に執行すれば
負担したであろう20万円の限度で弁済すればよいとするもの
→補充性における「債権者の協力義務・配慮義務」

○保証人が主たる債務者に代わって弁済した場合は当然に
主たる債務者に対して弁済額全部を求償できる

☆求償の違い・・・
・委託を受けて保証人になったとき
→保証人に損害が生じないよう完全に求償できる(459条1項)
・委託を受けないで保証人になったとき
→自ら進んで保証人になったのだから弁済した当時に主たる債務者が
利益を受けた限度で求償できる(462条1項)
・主たる債務者の意志に反して保証人になったとき
→保証人の権利は最も薄弱で主たる債務者が求償の時点で
利益を受けている限度でのみ求償できる(462条2項)

☆委託を受けた保証人特有の権利・・・
「求償権の事前行使」(460条)と求償しうる範囲は459条2項が準用されて
法定利益だけでなく避けられなかった費用その他の損害賠償も得られる
→委託を受けない保証人の求償権には利息、費用、損害賠償は含まれない

☆保証人が二人以上いる場合=「共同保証」は保証人の数に応じて
債務額を分割されるのが原則=「分別の利益」(456条)
特約で全額について債務を負担する共同保証をすることも可能=「保証連帯」
→実際には分別の利益のない共同保証が圧倒的に多い

○共同保証人が弁済すれば主たる債務者に対して求償権を有するのは
当然だが共同保証人間でも求償することが認められている

○継続的保証=「根保証」の種類→信用保証、身元保証、
不動産賃貸借から生じる賃借人の債務保証

○身元保証は身元保証法で規制されている
→身元保証法の特色・・・
・身元保証の存続期間の上限を5年に制限
・使用者には被用者が業務上不適任又は不誠実であったり任務又は任地変更で
保証人に危険が及ぶ場合には遅滞なく身元保証人に通知する義務がある
・上記のような事実がある場合に身元保証人に解約告知権あり
・保証責任の限度を定めるにつき裁判所に広い裁量権あり

<第12章 多数当事者の債権債務関係>
☆ひとつの債権・債務に相続などで複数の当事者が生じた場合は
分割可能である限り債権も債務も頭割りするのが民法の原則
=「分割債権・分割債務」(427条)
→ただし不可分性や別段の意思表示があるときや法律の規定があるとき、
特別の慣習があるときは427条の適用は排除される

○組合でも権利能力なき社団でもない団体が融資を受けるのが
合意によって連帯債務が生じる典型的な場合
→連帯債務が成立すると団体構成員はそれぞれ独立に債務を負う
債権者は誰にどれだけ請求しようと自由

☆連帯債務者の一人に生じた事由は他の債務者に影響しないのが原則
=「相対的効力」(440条)だが例外は「絶対的効力事由」(434条~439条)
→保証の場合主たる債務者に生じた事由は原則全ての保証債務に影響するが
(附従性)、保証人に生じた事由は原則主たる債務に影響しない。
この一方通行が保証の特色だが連帯債務は双方で影響し合う
絶対的効力事由が多い

○法律が連帯債務である場合でも債権の効力を強めるべきとするときには
絶対的効力事由を制限する解釈をすべきだとされている
このような連帯債務は本来民法が規定する連帯債務そのものではないので
「不真正連帯債務」(全部義務)と呼ばれる
(不真正連帯債務にも求償関係はある)

○連帯債務における無資力のリスク負担部分は債権者との関係では
原則として平等であり債権者が実際の負担部分に対して悪意
または重過失の場合にのみ主張できるとされる

<第13章 抵当権>
☆典型担保物権→約定担保物権=質権、抵当権
       →法定担保物権=留置権、先取特権
・非典型担保物権→仮登記担保(代物弁済予約)、譲渡担保、所有権留保
(非典型担保→代理受領など)

☆担保物権の代表格の抵当権は目的物の占有を設定者のもとに
とどめたままの担保=「非占有担保物権」
→登記・登録による公示の可能な物に限って抵当権の設定が可能

○登記がなされていればたとえ設定者がその建物を第三者に譲渡しても
抵当権は建物にくっついて移転する=「追及力(効)」

○抵当権設定者は債務者自身である必要はなく債務の責任のみを負う
設定者を「物上保証人」

☆抵当権は目的物を売却した代金から優先弁済を受けることができる
=「優先弁済的効力」→留置権以外の担保物権全てが持っている効力
(留置権には「留置的効力」)

○抵当権の及ぶ範囲は370条が規定・・・
・土地が目的物の場合には抵当権の範囲から建物が除外される
・「付加一体物」
→抵当権設定時に存在した従物に関しては付加一体物に含まれる
借地上のガソリンスタンド店舗建物に対する抵当権が設定当時から
存在している地下タンク、ノンスペース型計量器、洗車機などの
設備にも及ぶことを認めた判例がある(最判平成2年4月19日)

○抵当権は借地権に及ばないので抵当物権の買受者を立法的に保護するために
借20条により地主の承諾に代わる許可を裁判所に求めることが可能

○たとえ物上代位権が認められても必ず抵当権者が優先できるとは
限らないので(304条)実際には抵当権者は抵当権設定の際に
火災保険金債権(停止条件付債権)に質権を設定していくことが多い=債権質

☆抵当権は非占有担保物権だが先取特権と性質の同一性を認めて
賃料への物上代位が肯定されている(最判平成元年10月27日)

☆日本は土地と建物が別個の不動産とされているので抵当権の目的物に
関しても特別な手当が必要となる=「法定地上権」、「一括競売」

○民法は自己借地権を認めてないので競売による買受人や建物所有者を
保護するために法律上当然に地上権が発生することを認めた
=「法定地上権」(388条)

○土地と建物は別個の不動産なので更地に抵当権が設定された後で
建物が建った場合にはその所有者が土地所有者自身であろうと
第三者であろうと建物を収去する前提で抵当権を
実行するのが原則だが、抵当権設定後に設定者が建てた建物を
土地とともに競売する=「一括競売」(389条)が認められている
→ただし優先弁済は土地の価格についてのみ行える

☆抵当権に劣後する賃借権は抵当権の実行とともに覆るが
抵当権の設定された不動産を借りてしまった賃借人の保護のため
短期に限って設定者の賃貸権限を保証した「短期賃貸借制度」(395条)がある
しかしこの制度は民法典の中でもっとも弊害の多い制度の一つとされている
濫用=「詐害的短期賃借権」

○短期賃貸借の要件・・・
・登記→賃貸借が登記されることはまずないので判例は特別法上の
対抗要件でもよいとした(借地権は建物登記、借家は占有)
・602条の期間を超えないこと→ただし抵当権者に損害を与える賃貸借に
ついては抵当権者は裁判所にその解除判決を求めることができる(395条)
(一種の債権者取消権)

○詐害的短期賃借権に対する対抗手段として抵当権者自らが
短期賃借権の設定を受ける「併用賃借権」があるが
これは判例により法的な意味は失われたので(最判平成元年6月5日)
実務では占有がなかったり形だけの占有しかない短期賃借権には
競売手続の中で「引渡命令」(民事執行法83条)という扱いが一般的

○抵当権は通常の物権と同じく侵害に対して物権的請求権が認められている
(最判昭和6年10月21日)
また第三者に対しても即時取得されていない限りでの返還請求権を認めている
→ただし抵当建物に不法占拠者がいても普通に使用収益する限り
妨害排除はできない

☆抵当不動産の所有権を取得した者=「第三取得者」はいつ抵当権が実行され
所有権を失うかわからない不安定な地位におかれるため
抵当権者の主導で第三取得者のために抵当権を消滅させる「代価弁済」と
(利用されることは少ない)
第三取得者の主導で抵当権を消滅させる「滌除」がある
→抵当権を買い取る制度でこれに応じなければ債権者は一ヶ月以内に
「増加競売」の請求をしなければならない

☆抵当権の処分=転抵当、抵当権の譲渡・放棄、
抵当権の順位の譲渡・放棄、抵当権の順位の変更
(順位の変更以外は被担保債権と切り離して抵当権によって把握された
担保価値だけを融通し合うもので存続における附従性の例外)

○転抵当(375条)は設定者の承諾がある場合=「承諾転抵当」だけでなく
承諾が無くても可能=「責任転抵当」

☆転抵当の対抗要件は原抵当権の登記につける「付記登記」(375条2項)だが
債務者や保証人、物上保証人、抵当不動産の第三取得者に対しては
原抵当権者から債務者への「通知または債務者の承諾」が要件(376条1項)

○ひとつの債権を担保するために複数の不動産に抵当権を設定している
「共同抵当」をひとつずつ競売するのを「異時配当」、
同時に競売するのを「同時配当」

<第14章 質権>
○質権には留置的効力と優先弁済権を有しているが占有担保物権としての
限界がありここに譲渡担保が生み出される素地がある

○質権者が質物をさらに質入れすることを「転質」

<第15章 法定担保物権>
☆先取特権の類型・・・
・一般先取特権→総財産へ(306条)
・動産先取特権→特定動産へ(311条)
・不動産先取特権→特定不動産へ(325条)

○先取特権の中心的効力は抵当権と同じく目的物を強制的に換価することが
可能な優先弁済権を有すること

○先取特権は公示のない担保物権であり一般担保物権は目的物の特定すらない
という点で担保物権としては取引の安全に対する配慮に欠けるとされている
しかし特定の債権に政策的な理由から優先弁済権を与えるべきだとする
要請から特別法によって認められた先取特権は多くまた増加している
(この点に関してドイツ法は制限しているが日本の民法はフランス法を継受)

<第16章 非典型担保>
☆非典型担保の類型・・・
・予め所有権を移転→消費賃借上の債権が存続=「譲渡担保」(主に動産)
       →消費賃借上の債権が存続せず=「売渡担保」(主に不動産)
・弁済のない場合に所有権移転→「仮登記担保」(不動産)
・所有権を売主に留保→「所有権留保」(主に動産)

☆譲渡担保の特色=所有権移転の形式をとる、単純な売買ではなく
消費賃借契約が併存していて債務を弁済すれば所有権が戻る
→経済的目的と法律上の形式にギャップのある譲渡担保をどのように
法律構成するかをめぐっては争いがある

☆仮登記担保=「代物弁済の予約」や「停止条件付代物弁済契約」
(債務不履行が停止条件)を予め結び債務の弁済を怠ると債務者の
土地建物の所有権を債権者に移転する形態の担保
(将来の所有権移転請求を保全するために仮登記をする)
→仮登記担保法が制定されて抵当権に対して持っていた
うま味がなくなってしまったので利用は減少したと言われる

☆所有権留保=電気製品や車などの割賦販売で使われる売主が代金債権を
担保する方法として目的物の引渡後も所有権を売主のところに
留保しておくものだが割賦販売法が規制している←代表的な消費者保護立法

この本をamazonで見ちゃう

2000 6/12
法学、民法
まろまろヒット率3

内田貴 『民法2―債権各論』 東京大学出版会 1997

痛いものコレクターとして「テツandトモ」がちょっと気に入っているけど
最近小ブレイクしているのでちょっとダメかなと思っている、らぶナベっす。

さて、『民法2~債権各論~』内田貴著(東京大学出版会)1997年初版。
民法の根幹である契約法と不法行為法を中心に記述している内田貴の第二段。
この部分には民法に限らず法学全体の基礎となる概念や規範が
満ちているとされていて現に法的推論の典型パターンが多いとされている。
アメリカのロースクールではまず最初にこの契約法と不法行為法を
徹底的にたたき込むことから始めるほどな部分重要とされている。
そして何よりもこの部分は読んでいてめちゃくちゃ面白い!!
一般原則の総則を中心とした『民法1』なんかよりずっと興味深い。
特に不法行為法でケースとして多数紹介されている医療過誤事件のところは
現実の問題と法律の視点が交差する接点はどこか鮮明になって
読んでいて思わず「ををっ!」とうなってしまうくらいぞくぞくした、最高!
(かなり法学フェチになっているかな?)
ただ唯一とも言える難点はやはり異様に長いことだ。
分厚いと感じた『民法1』よりもさらに分量が多い!(*o*)
途中で挫折しなかった自分に乾杯(笑)

以下は、チェック&要約する必要を感じた箇所・・・
<第1章 序説>
☆契約とは「債権の発生を目的とする合意」

○不法行為から発生する債権(被害者の損害賠償請求権)は
法律上当然に発生するもので合意に基づく契約とは全く違う

○債権発生原因=契約、事務管理、不当利得、不法行為
(四つ合わせて「債権各論」)

<第2章 契約法の構造>
○典型契約の分類(ただしこの分類に縛られないことも大切)・・・
・移動型(贈与・売買・交換)、
・利用型(消費貸借・使用貸借・賃貸借)
・役務型(雇用・請負・委任・寄託)
・その他の特殊な契約(組合・終身定期金・和解)

<第3章 契約とは何か>
○道徳の力だけでは取引秩序を維持していくのが
難しいので契約という法制度がある

○契約の拘束力に関する意思主義=人間は自らの意志に基づいてのみ
拘束されるという思想は非常に近代的なもので歴史的にいえば
それ以前には単なる合意だけでは法的な拘束力が無く
必ず一定の形式的要件が必要とされた
→ただし法律の世界での意思とは内心の意思ではなく
外部に表明された「意思表示」のこと

○日本では無償の契約でも合意だけで直ちに契約として
拘束力を獲得することができるのが原則
=「諾成主義」だが比較法的には珍しい

○電車や電気の利用などの社会類型的行為があれば個別の意思を問題と
することなく契約が成立するというのが「事実的契約関係理論」
→伝統的な意味での契約とは違う特殊な現代的契約

○相手方の作成した契約条件を飲むかどうかだけの契約
=「符合契約」に使う予め作成された契約条項
=「約款」又は「普通契約条款」
→約款規制法は各国で制定されているが日本には無く
消費者保護の観点から立法の必要性が指摘されている

○契約の種類・・・
典型契約ー無名契約(非典型契約)、双務契約ー片務契約、
有償契約ー無償契約、要物契約ー諾成契約、
単発的契約ー継続的契約ー継続的供給契約(電気、新聞など)

<第4章 契約プロセスと契約法>
☆契約法での重要な2点・・・
・現実の契約は一連のプロセス
 →契約法学の課題は全体として整合性を保ちつつ現実の契約実務の中の
  規範意識から乖離することないように解釈を加えること
・民法の契約法条文は契約の成立から始まるが現実の契約プロセスは
契約の成立とともに始まるわけではないし履行の完了、
存続期間の終了後も存続する
 →全体を視野に入れなければならない

☆契約交渉過程であっても相手に強い信頼を与え相手が費用の支出などを
おこなった場合にはその信頼を裏切った当事者は相手方が被った実損害
=「信頼利益」を賠償する義務を負うとされる
=「契約締結上の過失」(イェーリング)
(岩波映画事件:東京地判昭和53年5月29日)

○契約当事者間の情報や専門知識に大きな差がある契約の場合には
締結過程中に一方当事者から信義則上「情報提供義務」があるとされる
(フランチャイズ契約:京都地判平成3年10月1日)

○バイト募集や通販のカタログ配布はそれ自体契約の申込ではなく
「申込の誘因」であるとされる

○競争者がお互いに競争相手の条件を知りうるのが「競売」、
知りえないものが「入札」

○双務契約における「牽連性」・・・
・成立上の牽連性→原始的不能
・履行上の牽連性→同時履行の抗弁権
・存続上の牽連性→危険負担

○同時履行の抗弁権と留置権が重なった場合は
どちらを行使しても良いのが通説&判例

☆同時履行の抗弁権の要件(533条)・・・
・一個の双務契約から生じた相対立する債務があること
・相手方の債務が履行期にあること
・相手方が自己の債務の履行もしくは提供をしないで履行を請求すること

○履行期の例外としてある「不安の抗弁権」は海外では立法例が多く
日本でも下級審では認める判決も多い
→継続的な取引関係で相手方の買主に信用不安が生じた場合に
個別契約上の債務である出荷を停止するなど(東京地判平成2年12月20日)

○相手が任意に債務を履行しない場合には債権者が取りうる手段は三つ・・
・登記の移転などを基にした「現実的履行の強制」
・「契約の解除」
・以上のいずれを選択した場合でも損害があれば「損害賠償請求」

○現実的履行の強制を認める際に同時履行の抗弁権があれば
判決はまず原告に代金支払いを要求する「引換給付判決」になる
(大判明治44年12月11日)
→訴訟の上では相手方がひとたび履行の提供をしたからといって
当事者が同時履行の抗弁権の効果を全く受けられない訳ではない

○相手方の同時履行の抗弁権を消滅させることが解除の要件
→債権者が予め債務の受領を拒んでいる場合には「口答の提供」だけで
同時履行の抗弁権を消滅させることができる(493条但書前段)

○同時履行の抗弁権は取消権のように行使しなければ発生しない権利ではなく
要件が充たされている限り当然に認められるとされる=「存在効果説」

○存続上の牽連性の問題=「危険負担」・・・
・不能となった債務の債権者がリスクを負担するのが「債権者主義」
 →目的物が消滅しても支払い債務は残る
・不能となった債務の債務者がリスクを負担するのが「債務者主義」
 →目的物が消滅すれば支払い債務も消滅する
 
○債務者の責に帰すべき事由により債務の履行が不能になれば
その債務はもとの債務の目的物と等価値の金銭支払義務である損害賠償債務
=「填補賠償」に姿を変える(415条後段)
→危険負担の問題は生じない

○当事者無責の場合の危険負担・・・
・特定物に関する双務契約→牽連性なし(534条1項)=債権者主義
・それ以外の双務契約→牽連性あり(536条1項)=債務者主義

○危険負担における債権者主義は「危険は買主にあり(買主は危険を買う)」
というローマ法に拠っているが今日では合理的な説明がつけにくいため
二つの手段で不都合を回避・・・
・534条は任意規定なので債務者主義の特約をつける
・534条はいつから負担するかの期限は定めていないので移転登記
又は引渡がなされたとき(支配可能性の移転時)に危険が移転すると解釈する
→ただし債権者主義の不都合に対する判例の立場は明確ではない

○国際取引では危険負担の問題を含めて当事者が特約を置くのが慣行だが
その際に国際商業会議所が作成した「インコタームズ」と呼ばれる
定型取引条件をつけることが多い→FOB(free on board)や
CIF(cost insurance freight)などの記号で表される

○債務者主義が適用される場合に保険などで債務者が履行不能を原因とした
金銭や債務を獲得した時には債権者は引渡請求ができると考えられている
=「代償請求権」

○後発的不能が債権者の責に帰すべき事由によって生じた場合は
534条1項を適用して債権者主義として牽連性は否定される

☆709条で不法行為責任を追求する場合には相手の故意・過失を
原告が立証しなければならない(立証は難しい)
しかし債務不履行を理由に債務者に損害賠償を請求する場合には
過失に相当する帰責事由の立証責任は債務者側にある(抗弁事由)ので有利

○更新拒絶や解約申し入れ、解除に対しては「やむを得ない事由」を
要求する裁判例が多数出てきている→「契約関係継続義務」(継続性原理)
(資生堂東京販売事件控訴審判決:東京高判平成6年9月14日)

☆解除の要件・・・
1:債務不履行(履行遅滞・履行不能・不完全履行)があること
2:不履行が債務者の責に帰すべき事由によること
3:解除が541条の手続に従ってなされたこと
→1と3は債権者の立証責任

○当事者が複数いる場合の解除は全員に対してのみ可能(544条)
→「解除の不可分性」

○解除によって未履行の債務は消滅するが既履行の債務については
返還請求権が生じる(545条)→「原状回復義務」

☆「取消」は一応有効とはいえもともと瑕疵のある契約なので
意思表示をした本人を保護すべき要請が強い
一方「解除」は契約は始めから完全に有効なので
取引をした第三者を保護すべき要請が強い
→解除による対抗要件545条1項但書が詐欺に関する96条3項と違って
第三者に「善意」を要求していないのはこのため

<第5章 売買>
○売買は合意のみで成立する「諾成契約」(555条)

○「譲渡」という言葉は一般には売買と同義で用いられていることが多い

○解約手付(債務不履行が無くても任意の解除ができる旨の合意)・・・
・買主は手付金を放棄して契約を解除できる=「手付損」
・売主は手付金の倍額を払って契約を解除できる=「手付倍戻し」
→たとえ解約手付であっても履行の着手があったとされれば
解除権の行使は阻止されるとされている

○570条は契約法における最も重要な規定のひとつ
→瑕疵担保責任には法的性質をめぐって長い論争があり
民法学上最大の難問のひとつとされている

☆債務不履行責任は過失責任だが瑕疵担保責任は無過失責任とされている
→債務不履行の時効は一般の債権と同じ10年、
瑕疵担保の時効は除斥期間として1年

<賃貸借>
○民法における賃貸借は「対抗力」、「存続期間」、「譲渡・転貸」を中心に
借地借家法によって修正されている

○「一時使用のための借地権」には借25条の借地人保護規定が適用されない
→借地借家法は賃借人重視に傾いているが例外的に賃貸人の保護をしている
「借地人不在中の期限付建物賃貸借」(借38条)、
「取壊し予定建物の期限付賃貸借」(借39条1項)も同じ趣旨

☆敷金は担保の役割を果たすが契約存続中は賃料不払いがあっても
当然には充当されないのでたとえ十分な敷金が差し入れられていても
賃料不払いを理由とする契約解除が可能という判例がある
→賃貸借関係では賃借人の債務不履行があっても信頼関係を
破壊しない程度では解除できないが厳密には賃貸借契約上の
債務不履行といえなくても信頼関係が破壊されれば解除可能とする
=「信頼関係破壊理論(信頼関係の法理)」(最判昭和39年7月28日)

○賃借人が敷金返還を要求できるのは返還すべき額が確定する明渡時だけ
(判例)

○賃貸人が交代した場合には賃借人が支払った敷金は当然に
新賃貸人に引き継がれる(最判昭和44年7月17日)
→ただし賃貸借契約の終了後に家屋が譲渡された場合には
敷金は当然には新所有者に承継されない(最判昭和48年2月2日)

○賃借権が譲渡されて賃借人が交代した場合には特段の事情がない限り
敷金に関する権利義務関係は承継されないとされている
→敷金は敷金交付者の債務不履行を担保するために支払われるものだから
(最判昭和53年12月22日)

○賃貸人の中心的義務は賃借人に使用収益させることなので第三者が
賃借人の使用収益を妨害していればこれを排除する義務がある(601条)

○借地契約における増改築禁止特約が問題となることがあるが
借地上の建物は借地人の所有物で本来増改築は自由なので特約違反があっても
賃貸人がこの特約に基づいて解除権を行使するのは信義則上許されないとする
判例がある(最判昭和41年4月21日)
→借地人は地主と協議が進まない時には裁判所に条件の変更や
増改築の許可を求めることができる(借17上1項、2項)
また、この裁判は民訴の訴訟手続によらず非訟手続で行われる(借41条)

☆賃借人の中心義務は賃料支払義務(601条)なので税金の増減・地価の変動
などの経済変動、近傍の相場との比較から地代・家賃が不相当となると
当事者は地代・家賃の「増減額請求権」を取得して賃貸人・賃借人間で
合意が成立しなくても裁判所に地代の確定を求めることができる(借11条)
→調停前置主義で争われるこの権利は形成権なので遡及効がある
(値上げ時期を遅らせるための紛争引き延ばしを防ぐため)

○賃貸人の承諾なしに賃借権の譲渡も転貸もできず無断で行うと
解除原因となる(612条)が賃借人が特段の事情を立証できれば
解除の効力は認めないとする判例がある(最判昭和28年9月25日)

○不動産賃借権は登記がなければ第三者に対抗力がないが(605条)
登記申請は共同申請の原則なので(登記請求権がなければならない)
その不都合を修正するために借10条1項は借地権は登記がなくても
土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは
第三者に対する対抗力があると規定している

○本来は物権のみに認められているものだが特別法によって
賃借権が物権的効力を持つようになったことを理由にして(賃借権の物権化)
「賃借権に基づく妨害排除請求権を認める説」があり
不動産賃借権についてはこれを認めているとみられる判例がある
(最判昭和28年12月18日)

<第9章 役務型の契約>
☆受任者の中心的義務は契約で定められた委任事務を処理することだが
委任の本旨に従った善良な管理者の注意を持って
委任事務を処理する義務を負う=「善管注意義務」(644条)
また、付随的義務として「報告義務」(645条)、「受取物・果実の引渡義務」
(646条1項)、「取得権利の移転義務」(646条2項)がある

○委任契約の典型が医師や病院との医療契約であり
医師や病院が当然に善管注意義務を負う
→この義務違反が「医療過誤」
(ただし現在の医療過誤訴訟では不法行為構成で争われることも多い)

☆645条(委任終了時の顛末報告義務)がカルテや審査結果に関する
書類の閲覧・謄写を求める請求権の根拠となる

<第10章 その他の契約類型>
☆和解には和解された結果と反対の証拠が後に出てきてもその効力は覆らない
「和解の確定効」がある(696条)

○前提として争わなかった事実についての錯誤があった場合や
和解の結果給付することになったものに瑕疵があった場合には
和解の確定効は及ばないとされる

☆交通事故では被害者がそれ以上一切の請求権を放棄する旨の条項が
入っている和解契約があっても予想不可能性を理由にして
後遺症傷害の損害賠償請求ができる場合があることを認めた判決がある
(最判昭和43年3月15日)

<第11章 不法行為序説>
☆不法行為の機能は制裁もしくは報復の原理=目には目を・損害には賠償を
=に見えるが実際の機能としては被害者救済と将来の不法行為の抑止にある
→解釈でもこの二つの側面を考慮する場面が多い
(誰が損害を負担するのかという視点)

○損害保険では損害が保険によって填補されるとその限度で被害者の取得した
不法行為に基づく損害賠償請求権は保険会社に移る=「保険代位」(商622)

☆アメリカでは不法行為による損害を経済的コストと見なして
不法行為制度の抑止効果を経済学の市場モデルを使って説明する
「法と経済学」の分野が法学のすべての領域に及んでいる
→経済的価値によって不法行為の賠償額を求める「コースの定理」や
最も安く損害を回避できる者に賠償責任を負担すべきとする
カラブレイジの「最安値損害回避者理論」が有名
(ただしどちらも経済的価値に換算できない価値への対処や交渉費を
ゼロとしている点などの不法行為法制度の特徴的に重大な欠点がある)

○不法行為規定は709条~724条の16ヶ条だけで広い領域を規律するので
解釈の果たす役割が特に重要とされている

○賠償と填補の違い・・・
・「損害賠償」=違法行為(債務不履行や不法行為)によって
他人に損害を与えた者がそれを負担すること
・「損害填補」=適法な公権力の行使によって
損害が生じた場合に公平の見地から全体でその損害を負担すること
→ただし用法的には厳格ではなく二つの接近もある

<第12章 一般不法行為の要件>
☆不法行為での「過失」とは主観的過失概念ではなく「予見可能性」が
あったにも関わらず「結果回避義務」を怠ったこととされる
(大阪アルカリ事件:大正5年12月22日)

☆「ハンドの定式」
回避コスト(B)<損害発生の蓋然性(P)×被害者利益の重大さ(L)=過失あり
→ただし過失の一般的な判断基準はまだ確立されておらず
その試みの一つとしてこの定式を捉える必要がある
(1人の人間の費用と便益を比較する場合はこの費用便益分析が有効)

☆判例では医療事故での過失立証の困難さを補うために
極めて高度な予見義務・回避義務を課している
「東大梅毒輸血事件」(最判昭和36年2月16日)、
「スモン事件」(東京地判昭和53年8月3日)が有名
→結果回避義務の水準がその職業に従事する通常人を基準とするといっても
現にその職業に就いている人の平均という意味ではなく
たとえ現在行われていない水準でも規範的判断として
必要と判断されればそれが過失の判断基準となる

☆さらに「過失の推定」という手法によって原告の立証責任が
軽減される場合がある=「インフルエンザ予防接種事件」
(最判昭和51年9月30日)
→事実の証明とは違い「過失の証明」とは法的価値判断であるから
過失判断の対象となる事実の存否については経験則による推定が可能でも
過失判断そのものは現れた事実を前提とする裁判官の評価であって
経験則によって推定するものではないとされる
=公平の見地から過失判断の前提事実の一部について
立証責任を転換することが過失の推定

○過失責任に対する例外として様々な特別法があるが
709条は失火の場合には適用しないという一条だけの失火責任法がある

○不法行為による機会損失のことを「間接損害」と呼ぶ
(一般に債権者が企業であることが多いので「企業損害」とも呼ばれる)
→間接損害は故意の場合に限って不法行為が成立すべきだというのが通説

☆本来は適法で社会的に有益な権利行使であっても不法行為となりうる場合を
認めたとして有名なのが「信玄公旗掛松事件」(大判大正8年3月3日)
→適法行為による生活妨害型不法行為に対する特有の判断基準としては
「受忍限度論」を適用→これを基準にして積極的生活妨害だけでなく
消極的生活妨害(日照り遮断など)についても保護が広げられている

☆名誉毀損が不法行為になるためには「客観的な社会的評価」が
被侵害利益とならないといけないので主観的名誉感情の侵害は含まれない
(ただし709条の要件を充たせば別の不法行為として成立する)

○プライヴァシー侵害と名誉毀損の違い・・・
プライヴァシー侵害は社会的評価の低下を要件としない、
さらに公表された事実の真実性は不法行為成立を阻却しない

○理由無く(悪意または重過失)相手を訴えれば「不当訴訟」として
不法行為が成立する(不当な保全処分の場合も不法行為成立)

○損害とは所有権侵害という事実そのものではなく現実に生じた金銭的な
被害を意味しているとしているのが伝統的な損害概念=「差額説」
→ただし人身損害に関しては「損害事実説」が適当

○損害賠償の対象となるのは「財産的損害」と「精神的損害」
→人格的利益が侵害されてもそのことによって
経済的不利益が生じれば財産的損害になる

○財産的損害=「積極的損害」(直接のマイナス)と「消極的損害」(逸失利益)

○416条を相当因果関係と呼び代える必要はなくこの規定を不法行為に
類推適用することは妥当ではないため通説の「相当因果関係」
を「事実的因果関係」(あれなければこれなし)と損害賠償の範囲
(どこまで賠償させるべきか)に分けて考えるべき

☆因果関係の推定を認めた判例として・・・
「新潟水俣病事件」(新潟地判昭和46年9月29日)、
「ルンバール事件」(最判昭和50年10月24日)が有名
→因果関係の立証責任は被害者である原告にあるが立証は経済的、情報的に
困難なので因果関係を被害者の人体から企業の門前までたどれば
因果関係が推定されあとは企業の方で因果関係がないことを
証明する必要がある=「門前理論」
(事実的因果関係といっても自然科学的因果関係の証明ではなく
あくまで法的評価を経た因果関係ということ)

○「事実上の推定」(一応の推定)の学説では「蓋然性説」VS「確率的心証説」

○「責任能力」と「不法行為責任阻却事由」は被告が責任を
免れるために立証責任をおっている抗弁事由

☆責任無能力者が不法行為を行っても監督者がその義務を怠っていなければ
免責される→「中間責任」=監督者の責任は過失責任だが
過失の立証責任が転換されている(過失責任と無過失責任の中間)

○不法行為責任阻却事由(違法性阻却事由)
=正当防衛、緊急避難、被害者の承諾、正当(業務)行為、自力救済

<第13章 不法行為の効果>
☆損害賠償の目的はアリストテレスが挙げた正義の基本理念のひとつである
「矯正的正義」(平均的正義)なので損害賠償の内容をどう定めるかについては
一つの理論に従って論理的に導かれるよりも政策的な問題となる

☆不法行為にも416条が適用され賠償額算定の基準時の問題も
416条の論理を用いた判例として有名なのが
「富喜丸事件判決」(大連判大正15年5月22日)
→今日ではこの判決には批判が多い=不法行為制度の目的のひとつが
不法行為がなければあっただろう状態を回復することなので
基準時の原則は判例の不法行為時ではなく賠償を得る時とすべき

☆傷害の金銭的評価に関する裁判実務では・・・
・被害者が現実に費やした積極的損害
・逸失利益としての消極的損害
・慰謝料としての精神的損害
・・・を列挙する「個別損害項目積み上げ方式」を採用

☆死亡による逸失利益ではその人の生涯収入から生活費を控除したものを
算定するがこの逸失利益計算方法は人間を利益を生み出す
機械のように捉えることから批判も多い
→同じ事故で死亡した被害者も生前の収入、大人・子供、男女、
若者・老人の間で大きな格差が生まれる
→このため被害者の多数いる公害訴訟では「包括・一律請求方式」が
原告の団結を維持するために採用されることが多い

☆判例変更を含んでいると大法廷で審理される

☆財産的損害と非財産的損害との違いは算定基準があるかどうかだけの差

☆判例は過失相殺を行う際に考慮する被害者の過失相殺能力について
「事理弁済能力」があればよいとした(最大判昭和39年6月24日)
(11、12歳に基準をおく責任能力よりも低いく5、6歳でよいとされる)

☆たとえ被害者に事理弁済能力がなくても被害者側という一群のグループの
誰かに過失があれば過失相殺できるというのが「被害者側の過失の法理」
(最判昭和34年11月26日)
→最高裁が過失相殺の要件から責任能力を外した時点で判例は
被害者の過失ではなく行為態様を賠償額の判断において
斟酌するという方向に転換されたとみるべき

○過失相殺は弁論主義が適用されない上にその割合については
裁判官の裁量で決めいちいちその根拠を示す必要もない
(最判昭和34年11月26日)
→しかしその判断が合理性を欠いた場合は違法となる場合もある
(最判平成2年3月6日)

○過失割合が半々の交通事故で同乗していた当事者の妻への損害賠償について
夫の過失相殺を認めた判例(最判昭和51年3月25日)では
夫婦という特殊な関係ゆえに加害者が負うべき全額の連帯責任を
分割責任にしたという趣旨←「被害者側の過失」の隠れた機能

○損害の発生・拡大に寄与する被害者の肉体的・精神的要因
=「被害者の素因」には病的素因、加齢的素因、心因的素因がある

☆事前に「好意関係」のあった不法行為に対して過失相殺を認めた
「隣人訴訟」(津地判昭和58年2月25日)などは加害者はその帰責性の度合に
応じて賠償責任を負うという「帰責性の原理」規定が民法には無いので
過失相殺の法理が援用されていると考えられる

○「生命保険金」は損害賠償額の算定の際に「損益相殺」にならない
(払い込んだ保険料の対価的性質があり不法行為の原因とは関係ないため)

○「損害保険金」には商662条1項が定めている「保険代位」が適用
(被害者の重複填補を避けるための制度)

○「社会保障給付」・・・
・第三者行為災害の場合は労災保険法12条の4第1項が保険給付をした国に
保険代位と同じ趣旨の求償権を与えている
・使用者行為災害の場合は規定がないが判例では保険給付の限度額によって
使用者は民法による損害賠償責任を免れるとされている
(最判昭和52年10月25日)
→保険料を負担する使用者にとって労災保険が責任保険的な意味を
持っていることが重要な判断基準になっている

○労災保険給付と過失相殺が重なった場合どちらを先にするかでは
まず保険給付を控除してから過失相殺をする「控除後過失相殺説」を採用
(最判平成元年4月11日)→労災保険給付の社会保障的性格を強調

○不法行為によって直接の被害者以外の第三者に損害が発生すると
「広義の間接被害者」として彼らにも独立した損害賠償請求権が発生する

○一般原則よりも損害賠償が制限される間接被害者=「狭義の間接被害者」
の代表は企業損害を受けた企業やタレントなど

○民法が規定している不法行為の救済手段は損害賠償だけだが
判例は「差止請求」を認めている
→差止を命じなければ事後的な金銭賠償では回復できないほどの
損害が生じるか否かが「受忍限度」の中で判断される

○差止請求は物権的請求権としての構成には適用範囲に限界があり
人格権概念は明確性に欠けるとの批判があるので
これらの根拠を援用することが困難な事例では
不法行為に基づく差止を肯定すべきとされている

☆差止に故意・過失の「有責性は要件とならない」とされる

<第14章 特殊の不法行為>
○一般不法行為と特殊不法行為との差は「中間責任」の導入
(過失の立証責任を転換する形で過失責任原則を修正したもの)
→中間責任の特別法として自動車損害賠償保障法(自賠法)が有名

☆使用者責任(715条)の要件・・・
・使用関係の存在
・事業の執行に「付き」
・被用者の不法行為
・免責事由の不存在←立証責任転換
(戦後は判例上免責が認められたことはないので事実上の無過失責任)

○使用者責任における「取引行為的不法行為」(事業の執行に付き)で
重要になる「外形理論」の要件・・・
・加害行為が被用者の本来の職務と相当の関連性を有すること
・被用者が権限外の加害行為を行うことが
客観的に容易な状態に置かれていること

☆表見代理(110条)と使用者責任(715条)が重複する場合は一般的に
110条の方が715条より要件が厳しいものの効果が大きいが
両者の要件は近づけて解釈すべきだとされている
→ただし株券発行が無権限で行われたケースなど効果との関係で
110条の適用を認めるべきではない場合がある
(44条と54条との関係と同じ)

☆715条が問題となるケースで多いのは暴行と自動車事故であり
自動車事故の場合は「使用者の支配領域内の危険」に由来するかどうか
暴行の場合は「事業の執行行為との密接な関連性」があるかどうか
・・・が判断基準となる

☆使用者責任での判断基準・・・
・取引的不法行為→「外形理論」
・事実的不法行為→(危険物型)→「支配領域内の危険」
        →(暴行型)→「事業の執行行為との密接関連性」

○使用者責任の場合、使用者は一般不法行為の加害者とともに
「不真正連帯責任」を負う(いずれかが賠償金を支払えばその限りで免責)

☆自賠法は加害者側の責任を強化し無過失責任に近づけるとともに、
責任保険を強制して賠償のコストを保険によって分散させることで
被害者の実質的な救済を図ろうとしている
→このような手段は不可避的に損害をもたらす現代の危険な
活動についてしばしば用いられるスキーム
(このような立法では責任主体の特定をどうするかが導入する際に問題になる)

○無過失責任法での加害行為の無過失責任化は被害者救済の要請から
保険もしくはそれと同種の制度的手当が付随していて
結果的に加害者の負担の軽減となっていることが多い
→無過失責任とは不法行為責任から道徳的非難の要素を排除して
政策的に誰が保険をかけて損失分散を図るかを法定する意味合いを持っている
(自賠法はその典型)

○自賠法3条に定められた「運行共有者」とは危険責任の観点から
「運行支配があればよい」とされ広く責任が認められている
→判例では運行支配の有無が決定的な判断要素となる

○工作物責任(717条)で問題となる瑕疵の概念は570条でも出てくるが
570条では「品質・性能」が劣っていることに重点が置かれているのに対して
717条では「本来の安全性」を欠くことに重点が置かれている
(瑕疵の認定は比較的柔軟にされている)

○工作物占有者の責任は立証責任の転換された中間責任、
占有者が免責された場合に所有者が2次的責任を負う(この場合は無過失責任)

○PL法が定める欠陥の概念
=「製造上の欠陥」、「設計上の欠陥」、「警告上の欠陥」

○PL法の免責事由としてその時点における科学・技術の最高水準の知見でも
欠陥を認識できない場合は製造者に「開発危険の抗弁」がある
→親会社から指定された部品を担当した下請けメーカーなども
PL法は免責される場合がある

○複数の加害者がいてそのどちらかを確定できない場合は709条だけでは
損害賠償請求ができないため共同不法行為として719法が存在する
(不真正連帯責任)
→共同不法行為制度の意義は事実的因果関係の要件を緩和すること

<第15章 事務管理>
○「緊急事務管理」は悪意または重過失がない限り生じた損害について
賠償責任は負わない(698条)

○事務管理は他人のために事務を管理する意思が必要だが
「準事務管理」は自分自身のために他人の事務を管理する場合のこと

<第16章 不当利得法>
☆不当利得法は財産法の原則が機能不全を起こした場合の後始末を
する役割を担っているので「財産法のごみ処理場」、「実定法の裏街道」、
「法秩序の裏庭」などと言われたりする

○不当利得の代表=「給付利得」、「侵害利得」

○売買などのように財産の移転を正当化する法律関係に基づいて
財産移転が行われたが実はそのような法律関係が存在しなかった場合
=「表見的法律関係」が給付利得の典型
→この場合は危険負担や同時履行の抗弁権などについても
もとの契約や民法の規定の趣旨を反映させるのが当事者の公平に合致する

○不当利得(703条)の要件=受益、受益と損失の因果関係、損失、
法律上の原因がないこと(これがもっとも重要)

○侵害利得の類型の不当利得は「物権的請求権を補完する役割を果たす」
・物権的請求権=現物を返せという請求を基礎づける
・不当利得返還請求権=返還が不能となった時に
物の価値の返還請求を基礎づける

○受益と損失の因果関係は「社会観念上の因果関係があればよい」とされる
→あとの問題は法律上の原因で考えればよい

○給付利得については表見的法律関係が存在するが
侵害利得の場合は何ら具体的法律関係が存在しないのに権限のない人に
財貨が移転したということ自体が法律上原因がないとみなされる

○契約上の給付が相手方だけでなく第三者の利益になった場合に
給付を請求する権利=「転用物訴権」に関しては判例が統一されていないが
そもそも認めるべきではないという意見がある
(ブルドーザー事件:最判昭和45年7月16日)、(最判平成7年9月19日)

☆不当利得の要件を充たすと・・・
・善意の場合には「現存利益」の限度で(703条)
・悪意の場合は「利息を付して」返還することを義務づけている(704条)

○給付利得類型の典型は契約の無効・取消等だが表見的にせよ
法律関係が存在していた以上、不当利得法は誤って履行された
表見的法律関係の清算制度としての機能を果たす

☆自らの支配領域でリスクを負担するのが危険負担の本来の思想

○債務の存在しないことを知りながら債務の弁済として給付をした場合には
給付した物の返済を請求することはできない=「非債弁済」(705条)
=不当利得であっても返さなくてもよい特則
→ただし経済的・社会的圧力からやむを得ず弁済がなされた場合は
たとえ債務が存在しないことを知っていても本条は適用されない

○”clean hands”の原則を規定している708条が定める
不法の原因の典型は90条の公序良俗違反

○708条の適用をめぐって当事者双方が不法だった場合には
不法性を比較考量する→給付者の不法性が強い場合には708条本文によって
返還請求を否定するが受益者の不法性が強い場合には
708条但書を拡張解釈して返還請求を認めるべきとされている
(最判昭和29年8月31日)、(最判昭和44年9月26日)

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2000 6/1
法学、民法
まろまろヒット率5

内田貴 『民法1―総則・物権総論』 東京大学出版会 1999(第2版)

 5月26日(金)は僕の誕生日。
思えば去年の誕生日は夜遅く帰宅すると家族が既にバースディケーキを
ほとんど食べていて丁度僕が帰ってきた時にはその残骸をホームズ(雑種猫)が
食べているところだった、らぶナベ@あれは哀しいものを目撃した(^^;

さて、『民法1[第2版]~総則・物権総論~』内田貴著(東京大学出版会)。
いま出版されている民法の本の中では最高峰のものとして有名で
法学を始めた当初からいずれは読むことになるだろうと思っていた一冊。
読んでみると噂に聞いていた通り民法の基本から歴史的経緯、
そして社会と民法との関係がいま現在がどのようになっているかを
やわらかい表現を通して書いている。がちがちの法律書ではなく、
社会情勢の変化なども取り込んで広い視野で民法というものを紹介している。
論争に対する結論への論理的構成にも思わず納得してしまう説得力がある。
議論というものは突きつめてゆけば抽象論になっていってしまうものだが
そうした議論に対してそもそもの問題は何かに立ち戻って現実的な判断を下す
論理への姿勢には人間的な深みにも通じてとても感銘を受けた。
・・・こう書くとベタ誉めしているみたいだが一冊の分量がとにかく厚い!
さらにまだシリーズとして続編が続く!!(@@)
僕が読んだことのある分量が多いことで有名な『経営行動』(組織論)、
『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(社会学)、
『競争の戦略』(戦略論)、『薔薇の名前』(哲学)などの各分野の名著よりも
ずっと厚い。学術書としては最長の読書本になるんじゃないだろうか?

とりあえずは以下、チェック&興味をもったところ・・・
<序章 民法への道案内>
○法解釈とは・・・
法律の解釈はちょうど何人もの人々が順番に小説を連作していくようなもの。
これまでに形成された法規範の体系と整合的でありつつ、しかも、
政治的・社会的な価値の点で優れた創造的解釈を目指さなくてはならない
→それは決して解釈者の自由な価値判断ではなく
価値によって拘束された創造だといえる

○すぐれた法解釈とは・・・
・第一に法の解釈には一貫性が要求される
 (一貫性とはすでに蓄積されている確立した法原理との整合性)
 →法の解釈は斬新的な改革の道具ではありえても革命の手段とはなりえない
・第二にある事例で提示された解釈論は同様な事例で
 先例として機能することが予定されている
 →解釈論はその射程に含まれる類似の事例においても
 妥当性を主張しうるものでなければならない
・第三に優れた解釈論はその背後に説得的な思想を持ち、
 正義・衡平の観点から支持を得られるものでなければならない
 →常識に合致した結論でなければならない

<第1章 民法総則>
○英米には大陸法的な民法という観念はない→比較法的には「コモンロー」

☆民法の大原則=「私的自治の原則」
=人は自らの約束に基づいてのみ拘束される
=市民社会においては人が事務を負うのは自らの意志でそれを望んだ時だけだ

☆民法とは市民社会における社会現象をことごとく権利・義務という
法的概念に還元して捉えようとする壮大な試みなのである
→そのため法的関係をモデルとして単純化したもの

○日本の民法はドイツ流の民法典だと考えられていたが
少なくとも半分はフランス法の影響を受けている

○現在通用している民法は明治民法の財産法の部分と
戦後改正された家族法の部分である

<第2章 契約の成立>
○契約の構成・・・
・「申込」=それをそのまま受け入れるという相手の意思表示(承諾)があれば
 契約を成立させるという意思表示のこと
・「承諾」=申込の内容をそのまま受け入れること
 →条件を付けたり変更を加えたりすると新たな申込となる

○電話を含む対話者間の契約以外の場合を「隔地者間の契約」
→民法は隔地者に対する意思表示については到達主義をとった
(申込そのものは何らの法律関係の変動も生じないからあえて発信主義をとって
申込者をわざわざ苦しめる実益が何もない=誰も得しないため)。
ただし承諾については526条1項で発信主義をとっているが
これは国際的な流れからも疑問視されている

○到達主義をとると意思表示をした当事者は到達の事実を証明しなくては
ならない不利があるので立証は意思表示の書面が受領権限のある者の
「勢力範囲内におかれること」で足りるとした

○契約をめぐる学説・・・
・意思主義=契約がなされるには表示に対応する意思がなければならない
・表示主義=たとえ意思がなくても表示と認められるものがあれば
 意思表示となる
→民法は両者の折衷的な立場をとっている

○「心理留保」(93条)は真意のない意思表示の相手方を保護する規定
ただし自然債務に関しては履行義務無し→「カフェー丸玉女給事件」
(大判昭和10年4月25日)

○「虚偽表示」(94条)での「第三者」とは当事者、一般承継人以外で
虚偽表示の結果権利者らしい外観を呈している者と利害関係を持つに至った者

☆94条2項の趣旨・・・
真の権利者が自分以外の者が権利者であるかのような外観を作り出した時は
それを信頼した第三者は保護されるべきであり自らその外観を作った権利者は
権利を失ってもしかたない=「権利外観法理」(表見法理)
権利外観法理そのものを一般的に定めた条文は存在しないので
94条2項を類推適用することによって原則の適応がなされている

○94条2項が適応される第三者には判例は善意のみを要件としている
→学説では善意かつ無過失を要件とするものが有力

○第三者の範囲について対立している相対的構成vs絶対的構成は
94条2項の趣旨との整合性から絶対的構成が妥当
(善意の第三者が現れれば所有権は絶対的に移転する)

○「対抗問題」=対抗要件で優先劣後を決める問題(二重譲渡など)

☆94条2項の類推適用はあくまで権利者本人に虚偽の外観を作出したに
等しい落ち度が必要で偽りの登記を単に消極的に放置していたなどでは
不十分で積極的に承認した程度の関与を必要とする

○動産には即時取得があるので94条2項は適応されない

☆動産の取引では占有に公信力があるのに不動産の取引では
登記に公信力がないのは動的安全重視か静的安全重視かの違いのため

○心理留保と虚偽表示は実際上区別が微妙な事案が多いが第三者との関係で
同じ結論を導けるならばそのどちらかを追求する必要は余りない

○「錯誤」(95条)・・・
心理留保や虚偽表示は表意者がその違いを知りながらも意思表示をしている
のに対して錯誤は表意者がその食い違いに気づいていないので
その分表意者保護をする必要性が大きい

○錯誤で意思表示が無効となる要件・・・
1:法律行為の要素に錯誤があること
2:表意者に重大な過失のないこと
→錯誤には意思の決缺という議論をめぐって学説が対立してたが
個々の事例で判断してゆくべき
(情報不足や不注意などから不本意な意思表示をすることが錯誤)

○95条の目的が表意者の保護にあるため原則として表意者のみが
無効を主張できる=「取消的無効」
ただし・・・
1:債権保全の必要性
2:表意者が意思表示の瑕疵を認めているという要件
・・・があれば第三者からの無効主張も認められる

○当事者双方とも錯誤に陥っている「共通錯誤」には95条但書の適応はない

○「詐欺」(96条)の注意点・・・
1:欺罔行為が取引上要求される信義に反するものであることが必要
2:詐欺となる欺罔行為は積極的な作為に限らず沈黙も詐欺となる

○第三者の詐欺(欺罔行為による保証契約など)は相手方が
詐欺の事実を知っていることを要件に取消を認められている(96条2項)
→ただし善意の第三者には対抗できない(96条3項)

☆詐欺による第三者は取消前は96条3項で保護され、
取消後は94条2項の類推適応で保護される

○先例として拘束力が認められる判断=「レイシオ・デシデンダイ」

○「強迫」(96条)の要件は畏怖させる目的や手段が正当でないこと

<第3章 契約の主体>
○「権利能力」=司法上の権利義務の主体となる資格

☆改正された「成年後見人制度」に対しての意見・・・
民法がかかわるのはあくまで自己の財産を有する者の取引行為であるから
介護を要する無産の高齢者や障害者に対しては何らかかわりない
・・・これは改正案の限界ではなく民法の限界であり高齢者や知的障害者の
福祉政策に関して民法に過大な幻想を持つべきでない

○行為無能力による取消には第三者保護の規定がないが権利外観法理から
取消後の第三者との関係は94条2項の類推適用による保護が可能

☆人について民法が置いている規定は権利能力・行為能力のみ

☆民法の想定している「人」=「平等な権利能力を持ち、自らの意志に
基づいて、自由かつ合理的に行動できる、財産のある人」
→近代の法思想における典型的な人間像だったが様々な特別法で
想定されているのは「独自の人格を持った、弱く、必ずしも合理的ではない、
生身の人」であり伝統的な民法の人間像は再検討を迫られている

<第4章 代理>
○代理の種類・・・
「法定代理」=私的自治の補充を目的とする代理
「任意代理」=私的自治の範囲の拡張としての代理

○代理権の範囲が定められていない代理人がなしうる行為
=「管理行為」(103条)

○債務の履行に付いては自己契約と双方代理が許される108条の目的は
形式的な禁止ではなく実質的な「利益相反行為」を禁じている

○「代理権の濫用」=代理権の範囲内でしかも108条にも接触せずに
代理人が代理行為を行ったが実は自己あるいは第三者の私腹をこやすための
行為で本人がそれによって被害を被る場合→直接の規定はないが解釈的適用

☆妥当と思われる解決を提案するだけなら誰でもできるが民法の規範体系と
整合的な法律構成を与えることができてはじめて、当初の直観的判断は
法的判断としての正当性を主張できる。
そしてそこに法解釈者の専門能力が発揮される

☆「無権代理人の責任追及」(117条)の要件は無権代理人の側で
立証することによって責任を免れることができるという要件(消極的要件)
→相手方としては無権代理であったことだけを主張すればそれでよい

○無権代理人が本人を相続した場合さらに共同相続人がいる場合は
判例は資格併存説→信義則説→追認不可分説に立った(最判平成5年1月21日)

○本人が無権代理人を相続した場合は117条による無権代理人の債務も
相続されることを認めた判例がある(最判昭和48年7月3日)
→ただしこの事案は本来の債務が金銭の支払いであったことに注意
(履行請求と損害賠償請求は実質的に同じ)
不動産の場合は無権代理人の債務拒否は認められるとされている
(相続という偶然の事情によって本人が不当に不利に
扱われるべきではないから)

○表見代理の主張は無権代理人と取引をした相手方のとりうる最強の手段で
権利外観法理を根拠とする

☆109条は代理権など全くないのにあるかのような外観があった場合の規定
110条は一応代理権はあるがそれを超えたことをした場合の規定
どちらも目指すところは同じ権利外観法理だが本人が責任を負う根拠が違う
109条は自ら外観を作りだした者はその責任を負うべし(エストッペル)
110条はそんな信用できない者を代理人に選んだ本人がリスクを負担せよ

○権利外観法理を適応するには第三者の信頼のほかに
真の権利者側の帰責の要素が必要

<第5章 法人>
○財団を設立する行為を「寄附行為」

○公益法人の登記は民法上は対抗要件(45条)、
商法上は「成立要件」(商法57条)

○法人か否かの差は団体名義で不動産の登記ができるかどうかが
事実上唯一の違い

○法人制度の重要な意義は法人の財産を構成員の財産と区別して
構成員の債権者が追求できない独立の財産を作ることにある
(法人と取引する相手への取引安全のため)

○日本の民法の規定の多くはフランス法とドイツ法に由来しているが
起草者の関係からいくつかの重要な規定が飛び飛びに
イギリス法に由来している→43条と416条が有名
・43条の基になったイギリス法の制度は判例法によって生み出された原則で
越権行為(ultra vires)の理論と呼ばれているが解釈上も矛盾する
この条文の位置は問題があるといわれている

☆44条1項(法人の不法行為責任)と715条(使用者責任)の根拠は同じ
「報償責任」=使用者を通じて利益を得ているのだから
その過程で生じた不法行為については責任を負うべき

○44条と110条の民訴上での大きな違いは「過失相殺」があるかどうか
→裁判所が110条を認定するのに慎重な理由の一つだろうとされている

<第6章 契約の有効性>
○契約の有効性に関しては・・・
・一般的要件が何か
・要件が充たされなかった場合の効果は何か
・・・という二つの視点から見る必要がある
→一般的有効要件は確実性、実現可能性、適法性、社会的妥当性からなる

○代理権のない行為の効果が本人に帰属しないことは単なる無効とは違うので
有効要件と区別して「効果帰属要件」と呼ぶことがある

○不能の違い・・・
「原始的不能」=契約成立の時点で給付が不可能
「後発的不能」=契約成立後に給付が不可能→契約は無効とはならない

○「片面的強行規定」=一方当事者に不利な特約を禁ずる強行規定
→借地借家法9条など

○取締規定の分類・・・
・事実行為を取り締まるもの(道路交通法など)
・法律行為を取り締まるもの(道路運送法、食品衛生法など)

○私法上の契約の効力を無効にする取締規定を「効力規定」

○「脱法行為」=強行規定に直接には接触せずに他の手段を使って
その禁じている内容を実質的に達成しようとすること

☆「信義則」(1条2項)、「権利濫用」(1条3項)、「公序良俗」(90条)のように
解釈の余地の大きい漠然とした要件を持った規定のことを「一般条項」
→個別的な法規制がなされるまでの橋渡し的な役割を担うことが多い
(現在、民法に規定されていない新たな規範が
信義則を通して次々に生み出されている)

○公序良俗に関しては契約内容ではなく「動機の違法」が問題となる

☆無効には期間制限がない←取消的無効と取消との決定的な違い

<第7章 契約の効力発生時期>
○「停止条件付」の契約は条件成就の時から効力を生じる(127条1項)
「解除条件付」の契約は条件成就の時から効力を失う(127条2項)

○日週月を単位とする時は「初日不算入の原則」(140条)

<第10章 物権法序説>
○物権は当事者が合意しても創設することはできない=「物権法定主義」

<第13章 所有権の効力>
○「物権的請求権」
=返還請求権(rei vindicatio)、妨害排除請求権、妨害予防請求権

○物権的請求権には「行為請求権」的な要素と「忍容請求権」的な要素がある

○所有権に基づく返還請求と債権に基づく返還請求が同時に存在する時に
この二つがどういう関係にあるかは請求権競合説vs法条競合説が長く論争。
しかし法律上の地位として二つあるだけでどの権利かではなくそもそも
返還請求できる地位があるかどうかを問題にすべきという第三の立場が有力

○占有権の効力・・・
自分に「本権」があると誤信した(善意)占有者はその果実を
得ることができる(189条1項)が善意の占有者でも本権の訴えに敗訴した時は
起訴の時点から悪意とされる(189条2項)
また、たとえ善意であっても強暴か隠秘による占有は悪意とされる

○所有の意思のない占有を「他主占有」、意思のあるものを「自主占有」

<第14章 所有権の取得>
○取得時効の要件を立証するのは難しいが無過失以外の要件は
全て推定されていてその推定を覆そうとする相手方に立証責任がある
(186条1項)→占有取得の権原と他主占有事情が覆すべき事実

○日本の附合法の最大の特徴は建物が土地に附合しない点
→ヨーロッパではローマ法から地上物は土地に従うのが原則

<第15章 共同所有関係>
○物権法上の共有の最大の特徴「分割請求の自由」(256条)と
「持分権の自由譲渡」(明文上の規定なし)

<第16章 占有権>
○占有訴権と物権的請求権の関係は民事訴訟法にまたがる難問だが
最初の侵奪から1年以内の自力救済を認める判例:小丸船事件がある
(大判大正13年5月22日)

<第17章 物権変動>
○所有権はいつ移動するかについては所有権という概念を一つの物として
実体化するのではなく様々な機能の束を所有権と呼んでいるにすぎないと
考えて所有権の移転時期も個々の権能ごとに考える説がある
→所有権という魔術的な概念に振り回されない視点を獲得することが重要

○登記には公信力が無いという原則を貫くには不都合が多いので
実体的権利関係に合致した場合や実体的権利関係との齟齬が小さい時には
対抗力を認めることが多い

○仮登記は対抗要件にはならないが「順位保全の効力」がある

○相続による不動産の持分の取得は177条の適用される物権変動ではない
とする判例がある(最判昭和38年2月22日)

○両立しえない物権相互間で優劣を争う関係(食うか食われるか)=
「第三者」の範囲については制限説が通説で特に登記無しで対抗できる相手
(第三者でない者)に関しては「背信的悪意者排除の法理」が重要
(最判昭和43年8月2日)
→ただし背信的悪意者からの譲渡人は再び第三者となり対抗関係に立つ

☆動産の物権変動の対抗要件は原則として「引渡」だが(178条)
占有物が盗品・遺失物の場合は即時取得の成立が盗難・遺失の時から
2年間猶予される(193条)→ただし占有者が善意で購入した場合は
占有者が支払った代金を弁償しなければ取り返せない特則がある(194条)

☆不動産には登記に公信力がない点を94条2項の類推適用によって
取引安全を補うが、真の権利者に帰責事由が無い場合は第三者保護に関する
特別な規定がない限り外観除去が不可能な本人の犠牲で
第三者を保護することはできない
→公信力を正面から認めることと94条2項の類推適用との決定的な差
(真の権利者の帰責の程度の差)

<第18章 物権・債権・私権総括>
○物権・債権の区別は分類に囚われずに法律関係に適合した
処理を考えてゆくべき→「賃借権の物権化」など

○物権と債権の違い・・・
物権=誰にも主張できる「絶対性」、一物一権主義の「排他性」
債権=人によって主張できるかどうかが決まる「相対性」
→同じ物の上に立つときは物権がが優先する=「物権の優先的効力」

○権利濫用が適用された有名な判例宇奈月温泉事件(大判昭和10年10月5日)

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2000 5/18
法学、民法
まろまろヒット率5

竹原建 『行政書士最短最速合格法』 日本実業出版社 1999

最初は灼熱の熱帯雨林(マレーシア)、今回は極寒の草原(内モンゴル)と
ふと思い返せば世間一般で言うところの海外旅行というものを
いまだに体験したことが無いことに気がついた、
らぶナベ@それもすべて公務なのでまるで小須田部長のようだ・・・
「がんばれ~!まけんなー!ちからのかぎりいきてやれ~!!、エミリー!」

さて、『行政書士最短最速合格法』竹原建著(日本実業出版社)1999年初版。
学生のうちに一つくらいは公的な資格を取っておこうかなと思い立ち、
どうせ取るなら進路に近い行政書士の資格が良いだろうと購入した一冊。
試験がどのような感じなのかを知るには実際に試験問題に当たるのが
一番手っ取り早いので全科目の問題が載っているこの本を選んでみたが
今年度から試験の半分を占める記述問題が完全に変わることが購入してから
発表されたのでその点に関しては半分が無駄になってしまった。
(実際に細かいところは試験日まで不明のままらしい)
ただ、変更も作文的なものから実務に照らした法律問題の記述に
なるみたいなので僕としてはそれほど気にすることは無い上に、
この本自体参考書としてはコンパクトなのにちゃんと問題も載っていて
なおかつそれぞれの科目の参考書&予備校紹介まで書いてあるという
なかなかにかゆいところに手が届く一冊なので良しとしよう。
また、著者が「勉強は3カ月あれば大丈夫」と試験の簡単さを
強調していたのを国家資格の割にはずいぶん準備期間が短いなと思ったが
そういえば以前、他の人から2週間で良いと聞いたことがあるを思い出した。
週間モーニングで連載している『カバチタレ!』の資格が
それくらいの準備で得られるんなら挑戦しても良いかな?
興味ある人は連絡下さい、まったり勉強会開きましょう。
そして資格を取ったあかつきには言ってみよう・・・
「法律家ちゅうのはな、御上公認のヤクザなんや!」と(^_^)

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2000 3/9
法学一般、資格関係
まろまろヒット率3

藤沢周平 『漆の実のみのる国』 文藝春秋 上下巻 2000

何だか妙に静かな時期に静かな本を読んだ、らぶナベっす。

『漆の実のみのる国』藤沢周平著(文春文庫)上下巻2000年初版。
いまさら書くまでもなく藤沢周平の遺作で彼の故郷、
米沢を代表する人物である上杉鷹山と取り上げた小説。
ハード版が出版された時からずっと読みたいと思っていたが
ようやく文庫版が出たのでさっそく買って読んでみた。

上杉鷹山と言えばかつてジョン・F・ケネディが「最も尊敬する日本人は?」
と聞かれたときに躊躇無く彼の名前をあげたというくらい国内よりも
海外での評価が高いという点や「なせばなる。なさねばならぬ何事も・・・」
という彼の訓示などが注目されている人物。
(もっともこれは彼のオリジナルじゃないんだけど
武田信玄の「風林火山」と同じようにパクリの方が有名になった代表例)
彼に関しては小大名からの養子という不安定な立場、
保守的な反発を示す藩上層部、無気力感がただよう農民、
返済不能とされた財政赤字、奥さんは身体障害者という
絵に描いたような絶望的状況下で粘り強く藩政改革をおこなって
最終的に成功させたというその華々しい経歴が注目されることが多い。
4年ほど前に僕が読んだ堂門冬二の『小説 上杉鷹山』(学陽書房)は
困難に立ち向かった偉大な改革者としての上杉鷹山を英雄的に描いていた。
当時は確かにちょっと持ち上げすぎだなという感想を持ったものだ。

この『漆の実のみのる国』はそういう意味では逆に読んでいてもどかしい。
改革が軌道に乗ったと思えば頓挫し成果らしい成果はほとんどあがらない。
そのあまりにも長い道のりに疲れて去ってゆく人々や
気持ちがゆれる鷹山の姿を中心にえがいている。
消えそうでそれでも燃えそうな遠くにある光明をつかもうとする
長い長い月日を小説にしているという感じだ。

この本のタイトルになったように上杉鷹山の改革の代表としては
今でも米沢の名産になっている漆塗りが有名だがその漆の木の殖産でさえ
当初は「15万石を実質30万石にする起死回生の政策」という情熱で
施行したものの実際は大した成果があがらず
藩財政の足を引っ張ることになったものとして書かれている。

この小説の最後の下りでは上杉鷹山が若い頃漆の実は大きくて
実がみのる時期には風に揺られてカラカラと音がなるものだろうと思ってが
現物を見てみると実際には米粒ほどの大きさしかなくて驚いたことを
思い出して微笑する場面で終わっている。
本当は文芸春秋の連載ではあと二回分残っていたらしいんだが
藤沢周平が「これで良い」と言ったのでこの小説はここで終わっている。

何かに追いかけられる感覚を受けて走り出したい気分の中、
静かにゆっくりと歩いた人々の物語というべきだろうか。

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2000 2/28
小説、歴史
まろまろヒット率4