三井誠・酒巻匡 『入門刑事手続法』 有斐閣 1998(改訂)

この本で六法+法学総論は全てにそれぞれ3冊づつ読み終えた(総数21冊)、
らぶナベ@ほぼゼロの状態で11月から始めた法学の勉強も3カ月半で
「どんな状況でもどんな本でもとりあえず3冊読めばその分野は理解できる」
という僕の勝手な読書理論(書籍三段撃ち)を完成させることができたので
法学も僕にとっての「武器」と言える域まで達成したというところか。
伝説によると同じようなコンセプトで鉄砲の「三段撃ち」を使って
長篠の戦いに臨んだとされる信長に妙なしんぱしぃを感じてしまう(^_^)

さて、武器としての法学の正式なスタートを切ることになった
その記念すべき1冊の感想をば・・・
『入門刑事手続法[改訂版]』三井誠・酒巻匡著(有斐閣)1998年改訂初版。
前に読んだ『伊藤真の刑事訴訟法入門』伊藤真著(日本評論社)1998年初版で
著者が薦めていたので刑事訴訟法の3冊目としては最適かなと思って購入。
内容の方は刑事訴訟法の手続法としての面に特化していて
全体の流れを追うことを重視して書かれているので読みやすい。
理論だけでなく統計なども使って現実の刑事裁判の実体を紹介してくれたり
最終章では実際に使われる書類を通して刑事手続の流れを
紹介してくれているというなかなかに良い本。

以下、チェック&まとめ・・・
○実際の刑事訴訟法の出だしは189条から始まる

○刑事訴訟法が実現しようとする実体法の類型・・・
「刑法」、「特別刑法」(覚せい剤取締法など)、「行政刑法」(道交法など)

<起訴前手続>
[捜査とは]
○捜査を規律する法律・・・
「刑事訴訟法」、「警察法」(組織法)、「警察官職務執行法」(権限法)

○「捜査機関」=司法警察職員、検察官、検察事務官の3種の総称

○刑事訴訟法上の司法警察職員とは原則として巡査部長以上を指す
(司法巡査は巡査が当たる)

○警察において発生を認知した「刑法犯」は窃盗犯(刑235条)と
業務上過失致死傷事犯(刑211条)が全体の約9割を占めている

○「検挙」=警察で事件を検察官に送致・送付するか
もしくは微罪処分に付することを指す

○刑事訴訟法が定める捜査のきっかけは6つ・・・
・「現行犯」(212条以下)
・「変死体の検視」(229条1項)
・「告訴」(230条以下)と「告発」(239条以下)
 →意思を表示する主体によって違う
・「親告罪」(告訴がなければ無効)
 →告訴権者が犯人が誰か知った日から6カ月を経過すると無効
・「請求」→「外国国章損壊罪」(刑92)など
・「自首」(245条)→実体法の刑法では42条1項

○検察官が指定した一定の軽微な事件は不送致→「微罪処分」(246条但書)

○検察官は管轄区域の司法警察職員に対して
捜査に対して必要な「一般的指示」(193条1項)、
「一般的指揮」(193条2項)することが可能
また、検察官が第一次的な捜査機関として捜査をおこなう時には
特定の司法警察職員を「具体的指揮」(193条3項)することが可能

[捜査の方法・実行]
○197条1項の「本文は任意捜査」、「但書は強制捜査」に関する規定

○事実に誤りがない時でも被疑者は「供述調書」の署名押印を拒否できる
(198条5項)

○事情聴取はマスコミ用語で正式には「参考人取調べ」(223条1項)

[被疑者の逮捕]
○被疑者の既済人員のうち実際に逮捕されているのは約2割
→8割は不逮捕・在宅事件として身柄拘束なしで捜査が続けられる

○逮捕状を請求できるのは検察官だけでなく警部以上の司法警察職員
=「特定司法警察職員」(199条2項)でも可能

○「逮捕状請求」(規139条)=「請求書」&「疎明資料」の提出

○「逮捕状の緊急執行」(201条)と「緊急逮捕」(210条)との違いは
逮捕する時に令状が発布されているかどうかの差

○「現行犯逮捕」(212条1項)も「準現行犯逮捕」(212条2項)も
その判断は微妙で憲33条(令状主義)との対立が争点になる場合も多い

○逮捕後の被疑者の弁解は「弁解録取書」に既済されるが
取調べとは別とされ「供述拒否権の告知」(198条2項)は
実務上は不要だと考えられている
→「身柄送致」(203条)された被疑者の取調べには告知が必要

☆逮捕に関する特別の不服申立ての規定が無いなど
逮捕された被疑者の地位が問題となっている

[勾留]
○被疑者勾留の要件=60条1項で限定列挙

○検察官による「勾留請求書」(147条)→裁判官による「勾留質問」(61条)
→「勾留状」(207条) の発布へ

○「代用監獄」が原則化している勾留場所について議論がある

○勾留期間は勾留の請求をした日から起算する(208条1項)

○裁判官は適当と判断した時は職権によって
勾留の執行を停止することができる(95条)
→ただし検察官の請求によって「勾留の執行停止の取消」(96条1項)も可能

○起訴前勾留=「被疑者勾留」、起訴後勾留=「被告人勾留」

[捜索・差押え・検証]
○証拠に必要な血液や胃液などの採取には本人の同意が得られなければ
「鑑定処分許可状」をもって強制的に採取可能

○令状の執行には時刻の制限がある(222条4項)ので
特別の旨の記載がなければ日没後から日出前は捜査できない

○公務員や国会議員等の職務上の秘密、医師や弁護士等の業務上の秘密には
一定の範囲と条件のもとで押収を拒絶する権利が認められている
(103条~105条)

○逮捕にともなう逮捕現場の捜索・差押え・検証は令状無しで可能(220条)
→現行犯逮捕と共に「令状主義」(憲35条)の例外
 ただし緊急逮捕に対応するような緊急捜索や緊急差押えの制度は無い

[その他の強制処分]
○捜査機関が特別の学識経験を持つ第三者に
報告を求める「鑑定嘱託」(223条以下)には・・・
「鑑定留置」(224条)と「鑑定の必要な処分の許可」(225条)がある
→対象者が拒んでも強制的に鑑定としての身体検査ができるかは争いがある

[被疑者の防御]
○被疑者の弁護人選定権は被疑者だけでなく法定代理人、保佐人、
配偶者、直系の親族および兄弟姉妹にもある(30条2項)
→ただし実務上は逮捕についての通知義務はないとされる

○選任できる弁護人の数は各被疑者に対して3人以内に限られる(35条)
→ただし実務上は請求があれば許可される

☆接見交通権を制限する接見制限(39条3項)に不服があれば
裁判所に対して「接見指定処分に対する準抗告」ができる(430条)

○裁判官は接見・授受の禁止に加えて書類などの検閲や差押えができる(81条)

☆被疑者と弁護人でも押収、捜索、検証、証人の尋問や鑑定の処分などの
強制処分を裁判官に対して請求することができる=「証拠保全手続」(179条)

○捜索や検証に対しては法文上、準抗告の規定はない

<公訴提起>
[公訴提起の手続]
○検察官による事件処理・・・
・「終局処分」→起訴処分、不起訴処分
・「中間処分」→中止処分、移送処分

○検察官による不起訴処分の種類・・・
・起訴すべき条件が欠けているとき
・法律上、犯罪が成立しないとき
・証拠上、犯罪事実を認定できないとき
・刑の免除にあたるとき
・起訴を猶予すべきとき(起訴便宜主義)

☆不起訴処分は裁判所の判決とは違って「確定力はない」ので
不起訴処分を取り消して捜査を再開することが可能=「再起」

○強制力を持たないため検察審査会による不起訴不当の議決後に
検察官が実際に起訴の手続をしたのは6%しかない

○検察官に対する「付審判手続」(262条)は起訴便宜主義の例外

○管轄=「事物管轄」、「土地管轄」

○移送・送致・送付の違い・・・
・「移送」→事件などを同種類の機関相互間で送る(19条)
・「送致」→事件などを異種類の機関相互間で送る(206条)
・「送付」→書類や証拠物のみを送る(242条)

[公訴提起の方法]
○起訴状の訴因が不明確な時は裁判官は検察官に対して「釈明」を求め、
これに応じない時に初めて手続を打ち切るとされる(208条1項)

☆起訴後は原則として公訴提起された裁判所が
被告人の身柄処置についての責任を持つ(規164条)

○「起訴状一本主義」(憲37条1項、256条6項)により
起訴状に書く「余事記載」には被告人の経歴や性格、
前科などは構成要件要素と不可分な場合にしか記載不可

○刑事訴訟法での時効(=「公訴時効」)期間は法定刑を基準にする(252条)
→犯罪行為(生じた結果も含む)が終わった時から起算する(253条)

○裁判官がその事件の審理に適切でない時・・・
「除斥」(20条)、「忌避」(21条~25条)、「回避」(規13条)
→除斥か忌避理由のある裁判官が判決に関与すれば判決破棄の事由に(377条)

<公判手続>
[公判のための準備活動]
○第一回公判期日前の準備=「事前準備」、第二回以後=「期日間準備」

☆「証拠開示」に関しては裁判官の「訴訟指揮権」(294条)を根拠に
検察官の所有する証拠を弁護人に閲覧させるように命じることが可能
(最決昭和44・4・25)

○被告人が召喚に応じないときは裁判所は強制的に「勾引」ができる(58条)

○請求があれば原則的に保釈できるのが建前=「権利保釈」(89条)だが
実際上は裁判所の裁量に任されている=「裁量保釈」(90条)

[公判期日における手続]
○重大事件の場合は弁護人の出頭が開廷の要件=「必要的弁護事件」(289条)

○「黙秘権」(憲38条1項)の範囲が被告人を特定する
事項(氏名や住所)まで及ぶのかどうかには争いがある

○検察官の冒頭陳述は義務(296条)だが被告人または弁護人の冒頭陳述は任意
→事件が複雑で争点が多岐にわたるような場合には行うことが多い

○証拠をめぐる攻防の流れは「甲号証」(構成要件など)から
「乙号証」(前科や身上など)へ争点が移行していく

○「証人尋問」の流れは検察側が提出した参考人の供述調書を
被告人が証拠とすることに同意しなかった(=「不同意書面」)場合に
目撃者などの第三者を証人として取調べ請求するという経緯をたどる(326条)

☆不当なものでない限り「誘導尋問」は許される(規199の3条3項)

○憲38条1項の理念を刑事訴訟法上で実現させたのが「被告人質問」(311条)
→ただし被告人が質問に答えて任意に話せば有利不利を問わず証拠になる

☆「証拠調べに対する異議申立て」は法令に反している時だけでなく
その行為が相当でないという理由でも可能(規205条但書)

○裁判長の処分に対しても意義申立てが可能(309条1項)

☆証拠調べが終わると検察官による「論告求刑」(293条1項)→
弁護人による「最終弁論」→被告人による「最終陳述」(規211条)を行って
判決を待つ=最後の発言権は被告人にある

○「判決の宣告」(342条)は判決書の草稿にもとずいておこなわれる
→判決書の原本で判決が言い渡される民事訴訟法とは違う(民訴252条)

☆「訴因の変更」(312条)の関して判例は・・・
「具体的事実同一性説」と「択一関係説」を採用
→新旧の両訴因が事実として併存できない関係にある場合と
 併存できても両訴因が罪数論上一罪(科刑上一罪含む)を構成する場合に
 広義の公訴事実の同一性が認められて訴因が変更できる

○「訴因変更の必要性」では具体的事実に注目する「事実記載説」が通説
→被告人が防御する上で実質的な不利益をもたらすおそれのあるような
 事実のずれであるかどうかが判断基準になる

○訴因変更は裁判所による「訴因変更命令」(312条2項)でも可能
→裁判所が訴因変更を促すなどの措置を行わないで判決を下すと
 審理を尽くさなかった違法があるとされる

☆公判期日の訴訟手続は裁判所書記官が作成する
「公判調書」に記録される(48条)
→上訴審の判断資料は原審の公判調書に限定されていて
 他の資料では覆すことができないため重要(52条)

○裁判の「公開主義」(憲82条1項、憲37条1項)の範囲は
傍聴人がメモをとることまで認められる(判例:レペタ訴訟)

☆「釈明」=訴訟関係人が裁判官の発問に応じて
法律上・事実上の点を明確にすること

○「アレインメント(arraignment)制度」・・・
罪状認否手続(arraignment)で被告人が有罪の答弁をおこなえば
証拠調べ手続を飛ばして公判をする英米法上の制度
→当事者間の司法取引(plea bargainning)が可能になるが日本では
採用されていないため有罪を認めていても事実が公判審理に付される

<証拠法>
○情況証拠はマスコミ用語で正式には「間接証拠」

☆「無罪の推定」原則は構成要件事実だけでなく
違法性阻却事由や責任阻却事由についても適用される
→真偽不明の場合は無罪の結論

☆心証のレベル・・・
「疎明」=一応確からしい程度
   ↓
「証拠の優越」=肯定証拠が否定証拠を上回る程度
   ↓
「厳格な証明」=合理的な疑いを生じる余地がない程度
→証拠裁判主義(317条)で求められるレベル

[伝聞法則]
○「伝聞法則」(320条)=「供述書」(供述者自ら作成したもの)や
「供述録取書」(第三者の供述を録取したもの)は原則的に証拠にはならない

☆伝聞法則を考える際には常にその証拠によって立証しようとする事実
=「要証事実」は何かを中心に考える

☆伝聞法則の例外(321条以下)・・・
・被告人以外が関係した供述調書や供述録取書でも署名押印があるものは
 「再現不能」や「供述の自己矛盾」などを理由にして証拠能力が認められる
・検察官の目前での供述を録取した書面=「検察官面前調書」(検面調書)
 =「二号書面」でも321条1項の2の条件下で証拠能力が認められる
→これに関する証拠能力の有無が公判廷での争点となることも多い
(「調書裁判」化しているとの批判あり)

○「信用性の情況的保障」(特信性)=外部的状況から見て供述が行われた
信用性が担保されているだけでその供述の内容自体の信用性とは別

○証拠とすることができる書面や供述であっても任意性の
調査をした後でなければ証拠とすることができない(325条)

○伝聞法則で排除される書面や供述でも両当事者が
同意すれば証拠とすることが可能=「同意書面」(326条)
→同意は伝聞法則の例外のトップバッター、同意の実質は反対尋問権の放棄

○「承認」=自分に不利な事実を認める供述
 「自白」=犯罪事実の主要部分を認める供述
 →違いは補強証拠を必要とするかどうかの差(319条2項)

[自白]
☆「自白法則」は伝聞法則と違って任意性の無い自白調書に同意したとしても
証拠として使えない上に自由な証明の証拠とすることもできない
(憲38条2項、319条)
→その根拠は「虚偽排除説」VS「人権擁護説」VS「違法排除説」が対立

○自白法則が争われた事例・・・
両手錠をかけられたままの取調べは任意の供述ではない(最判昭和38・9・13)
や起訴猶予を期待した自白には任意性に疑いがある(最判昭和41・7・1)、
切り違え尋問による自白は任意性が無い(最大判昭和45・11・25)
・・・などの判例が有名

☆自白以外に証拠がなくその自白以外の証拠=「補強証拠」も無ければ
有罪にできない「補強法則」(憲38条3項、319条2項)は
共犯者の自白を唯一の証拠として被告人を有罪にする場合には
当てはまらないとする判例がある(最大判昭和33・5・28)

[違法に収拾された証拠の排除]
○適正手続の保障(憲31条以下)のためには「違法収拾証拠を排除」するのが
適切と考えられるがこれを直接定めた規定は無い
→これが争われた判例(最判昭和53・9・7など)では
 捜査の違法性を認めながらも証拠能力は肯定するというものがある

<公判の裁判>
[裁判とは]
☆不服申立ての種類・・・
・判決←「控訴」(372条)、「上告」(405条)
・決定←「抗告」(420条)
・命令←「準抗告」(429条)

○判決書は判決そのものではなく判決の内容を証明するための文書なので
裁判官が宣告の際に判決を言い間違えた場合はそれがそのまま判決になる
→実際にもたまにあるらしい

○民事訴訟法では訴訟関係人への判決書送達は義務(民訴255条)だが
 刑事訴訟法では訴訟関係人への判決書送達は任意(46条)

[実体裁判]
○有罪率がきわめて高いことが日本の刑事裁判の大きな特徴

○判決宣告後「14日以内」に控訴申立てがなければ判決は確定される(373条)
(宣告当日は算入されないので実質15日)
→確定すれば「一事不再理効」(憲39条)のため公訴提起はできない

[形式裁判]
○民事訴訟法では管轄違いによる移送を認めている(民訴16条)が
刑事訴訟法では原則として認められていない(329条)

○形式裁判である管轄違いの裁判と公訴棄却の裁判は
確定しても実体判決のような一事不再理効は生まれない
→免訴も形式裁判だがこれには一事不再理の効力があると考えられている

<上訴>
[控訴]
○控訴期間ぎりぎりまで勾留中の被告人が控訴申立てを迷ったとしても
第一審判決宣告日から控訴申立ての前日までの未決勾留日数は
全部刑に法定通算される→「不利益変更禁止の原則」(402条)の応用

○控訴の範囲が争われた判例=「新島ミサイル事件」(最大判46・3・24)

☆控訴審の構造・・・
民事訴訟法では第一審口頭弁論終結直前の状態まで戻す「続審制度」を取るが
刑事訴訟法では第一審判決当時の証拠のみに基づいて
原判決の当否を判断する「事後審制度」を取っている
→しかし例外である「382条の2」と「393条2項」が実際の控訴審事件の
 70%以上を占めていて原則と例外が逆転している

○控訴審の争点の設定は「控訴趣意書」を提出する当事者の義務(376条)

☆控訴理由・・・
訴訟手続の違反を理由にする「絶対的控訴理由」(378条)が原則だが
例外的に事実誤認や法令の解釈適用の誤りに対しても
その誤りが判決に影響した場合に限っては控訴理由とすることができる
=「相対的控訴理由」(380条以下)がある
→実際の控訴審での審判対象はこの「量刑不当」と「事実誤認」がほとんど

○控訴審で被告人の実質的利益を害することはないと考えられる場合には
検察官による「訴因の追加・変更」請求が認められるとされている
(最判昭和30・12・26)

○原判決の破棄は2種類・・・
・控訴理由に該当する事由があればそのまま原判決の破棄理由となる
 (397条1項)=「1項破棄」
・原判決後の情状を調査して原判決を破棄しなければ
 明らかに正義に反すると認められるとき(397条2項)=「2項破棄」

○実務上では破棄した場合には控訴審自らが新たに判決=「自決」するため
破棄差戻しや移送がなされることはほとんど無い(400条但書)
→たとえ差戻されても控訴審の判断は下級審の判断を拘束する
 「破棄判決の拘束力」がある

[上告]
☆「上告」=控訴審判決に憲法違反か法令違反があることを理由に
最高裁判所に対してその取消し・変更を申し立てること(405条)で原則的に
法令の解釈統一が目的なので事実誤認や量刑不当は上告理由に当たらない
→しかしそうした理由でも判決確定前に最高裁判所の裁量的判断で
 受理することができる「事件受理の申立て制度」がある(406条)
 (実際にも量刑不当を主張するものがほとんど)

[抗告]
○抗告の種類・・・
・「通常抗告」(419条)
 →実際には保釈の許可・却下に対するものが多い
・「即時抗告」(422条)
 →実際には執行猶予取消決定や再審請求棄却決定に対するものが多い
・「特別抗告」(433条)
 →刑事訴訟法では不服申立てができないとされる決定や命令に対して
  憲法違反・判例違反を理由に最高裁判所に不服申立てをする制度

○「再度の考案」(423条)=原裁判所が申立書を抗告裁判所に送付する前に
自ら抗告の理由があると認めるときは決定を更正しなくてはいけない

[準抗告]
☆「準抗告」=
・裁判官による命令に対する不服申立て(上訴に近い)
・捜査機関の処分に対する不服申立て(行政訴訟に近い)
・・・のまったく性質の違う二つがある(430条)

<確定後救済手続>
[再審]
☆「再審事由」の中では特に「6号事由」(435条)が重要
→明白性の要件を緩和した判例(最決昭和50・5・20)以降は
 「免田事件」、「財田川事件」、「松山事件」、「島田事件」など
 再審の著名なものはこの6号を事由に申し立てられたものがほとんど

[非常上告]
○「非常上告」=被告人救済の側面は無くほとんど利用されていない(454条)

<特別手続>
[略式手続]
○「略式手続」(461条)=書面審理だけで
50万円以下の罰金or科料を科する裁判をする

○略式手続に不満があって正式裁判を申し立てることは上訴ではないので
不利益変更禁止の原則は適用されない→科刑が重たくなることもある

[少年事件の特別手続]
☆少年の刑事事件はまず家庭裁判所に送致され調査の結果、
刑事処分が相当であると判断した場合に検察官に事件を送致する
=「逆送決定」=「20条決定」(少20条)

○少年事件では家庭裁判所が刑事処分にするかどうかの決定権を持つ
=検察官起訴専権主義、起訴便宜主義の例外→「起訴強制主義」(少45条)

[付随手続]
○未決勾留日数を本刑に算入する事については刑法21が「裁定算入」を
認めているが刑事訴訟法は必ず本刑に算入する「法定通算」(495条)を規定

○「仮納付」(494条)の裁判は直ちに執行できる上に
追徴の裁判が確定すると本刑の執行を終えたことになるので
道路交通法違反による略式命令の90%以上を占めている

○罰金or科料の刑を言い渡す際には被告人が法人or少年の場合を除いて
必ず労役場留置の言い渡しをしなくてはいけない
=「換刑処分」(刑18条、505条)

☆「追徴」=裁判時に被告人から没収物を没収できない場合に
没収に代えてその物に相当する価額を徴収する裁判(刑19条の2)

○「被害者還付制度」=判決の際に裁判所が押収している
財産犯罪によって得られた物件(贓物)は被害者に還付する(347条)

○有罪判決の場合でも被告人が貧困のため負担能力がない場合は裁判所の
裁量によって訴訟費用の負担を免除することができる(181条1項但書)
→たとえ負担させられる判決が下っても被告人は
 訴訟費用負担の執行免除申立てが可能(500条)

この本をamazonで見ちゃう

2000 2/16
法学、刑事訴訟法
まろまろヒット率3

日笠完治 『憲法がわかった』 法学書院 1999

今年は義理チョコ断絶宣言を出したけどメリルリンチに行った帰りに
チョコをもらってしまい(イメージキャラの牛さんチョコだったので思わず)
あっさり方針を撤回した、らぶナベ@というわけで義理チョコでも受付中っす

さてさて、『憲法がわかった』日笠完治著(法学書院)1999年初版。
憲法関連で3冊目に読んだ本。
当初は憲法学のバイブルと言われる芦部信喜の本を読もうと思っていたが
彼の本は人権に偏りすぎていて統治の記述が無いと聞いたので
まずは全体を把握することを第一の目的とする本を読もうと思って
本屋で探して選んできたのがこの本。
読んでみると「文章書くの下手だなぁ」と思うことが多々。
分かりやすく図解などを使って書こうとしているのは理解できるが
修飾語が多すぎて結論が見えにくい記述も多かったように思える。
どうもメリハリの感じられない構成&文章が目立ったが
よくよく見てみたら著者はドイツ公法の専門家だった。
確かに意味無いほどの時代変遷の列挙や抽象論的議論をしているのは
ドイツ観念論の傾向が強いからか?(ヘーゲルの影響)
どうも大陸法、特にドイツ関連の素養を持った日本人研究者っていうのは
日本語の文章がうまく無いように感じられる。
観念論的過ぎるためか?とりあえず結論を明確に書く
英米法の素養を持った研究者の方が読んでいてわかりやすさを感じる。

以下は、チェックした箇所・・・
○憲法前文は具体的事件に適応されるべき裁判規範ではなく、
個別条文の「解釈指針」でしかないとするのが通説

○憲法学の構成・・・
「憲法総論」、「基本的人権」、「統治機構論」、「憲法保障論」

○新旧憲法の違い・・・
・大日本帝国憲法→ドイツ憲法の影響→外見的立憲主義
 (法実証主義的、合理主義、演繹的傾向)
・日本国憲法→アメリカ憲法の影響→実質的立憲主義
 (判例中心主義的、機能主義、帰納論的傾向)

○グラウンド・・・
・憲法学の5段階構造
 「憲法理念」→「憲法原理」→「憲法典」→「憲法制度」→「憲法現実」
・法学のグラウンド
 「法理念」→「法律」→「現実」

☆憲法理念の価値序列・・・
「個人主義」→「自由主義」→「平等主義」→「福祉主義」→「平和主義」

○誰を指すのか曖昧な「国民」という言葉は錦の御旗的な機能を果たし
実際の政治的権力を行使している者の隠れ蓑となる可能性がある
→「国民主権の現実隠蔽的機能」

○「法律上の争訟」であっても「統治行為」の理論によって裁判所が
判断を回避した判例:「砂川事件」(昭和34)での安保条約の合憲性

○基本的人権を記載した条文の関係・・・
11条=「基本的人権の享有」(人権の大原則)
12条=「自由・権利の保持責任と濫用の禁止」(国民の債務)
13条=「個人の尊重・幸福追求権の保障」(国家・社会の債務)

○人権の限界=「公共の福祉論」に関する解釈では
「一元的内在制約説」が通説

○「二重の基準理論」が確率されたのはニューディール時代に
経済的自由が制約を受ける社会国家的政策が展開されたため

○13条=「個人の尊重」=「生命・自由及び幸福追求権」
=「幸福追求権」=「包括的基本権」
→裁判上で新しい人権を直接生み出すことが可能

○38条1項=「自己負罪拒否の特権」
(privilege against self-incrimination)」

○「国家の宗教活動の禁止」(20条3項)は
国家が「習俗的行為」を行うことまでは禁止していない
→判例:「津地鎮祭事件」(昭和52)

○「政教分離原則」(20条、89条)の違憲審査基準に関しては
「目的・効果基準」よりも「endorsement test」が有効とされる

☆「アクセス権」に憲法上の保障を与えようとする動きがあるが
国民とマス・メディアとの関係はあくまで私人間関係なので
憲法上の権利としてアクセス権を国民に認めることは難しい
→アクセス権の中核に位置するのが「反論権」だが
 判例:「サンケイ新聞反論権事件」(昭和62)ではこの権利を否定

○守秘義務がある人間には「証言拒絶権」があるが
(民事訴訟法197条、刑事訴訟法149条)
新聞記者を含めた報道関係者には守秘義務が無いとされる
→判例:「石井記者事件」(昭和27)

○行動を伴う表現(speech plus)の制約についての違憲判断基準
=「オブライエン・テスト」

○「二重の基準理論」の根拠=「代議的自治論」
経済的自由への制約は正常な民主主義的手続が保障されていれば
民意にもとづいて修正されるが精神的自由(特に表現の自由)への制約は
民主主義=代議的自治によっては是正されないとされているため
→政治部門と司法部門の役割分担

○厳格な審査基準の「事前抑制禁止の理論」
=相手側に情報ないし表現が伝達される前に
立法その他の公権力がその伝達を阻止することへの禁止
→検閲の禁止(21条2項)

○厳格な審査基準の「明確性の理論」
=「漠然性ゆえに無効」、「過度の広汎性ゆえに無効」

○厳格な審査基準の「より制限的でない他の選びうる手段」(LRA)
=立法目的を達成するための規制手段として規制の程度のより少ない
規制手段が存在するか否かを具体的・実質的に審査して
そのような手段がありうると解される時は当該規制立法を違憲とする審査基準

☆経済的自由権に対する消極的制約に対して
「厳格な合理性の審査」をしてさらに「LRA」の審査で違憲判決をした
判例:「薬局開設距離制限違憲判決」(昭和50)
→職業選択の自由(22条)への制限立法に対する合憲性審査をした

☆経済的自由権に対する積極的制約に対して
「明白性の原則」の審査で合憲判決をした
判例:「小売市場開設距離制限事件」(昭和47)
→職業選択の自由(22条)への制限立法に対する合憲性審査をした

○「国務請求権」=「受益権」
→「請願権」(16条)、「国家賠償請求権」(17条)、
「裁判を受ける権利」(32条)、「刑事補償請求権」(40条)

○「両議院独立活動の原則」・・・
「議員の資格争訟の裁判」(55条)、「定足数・表決数」(56条)、
「会議録」(57条2項)、「役員の選任・議院規則・懲罰」(58条)、
「国政調査権」(62条)などの条文にある「両議院は、各々・・・」に根拠

☆両議員独立活動の原則の例外(両院協議会)・・・
「法律案の議決」(59条)、「予算案の議決」(60条2項)、
「条約の承認」(61条)、「内閣総理大臣の使命」(67条2項)

☆衆議院だけにある機能=「内閣に対する信任・不信任の決議権」(69条)
「参議院の緊急集会における緊急措置に対する同意」(54条3項)

☆「国政調査権」(62条)の機能・・・
「情報提供機能」、「争点明確化機能」、「世論形成機能」
判例:「浦和充子事件」(昭和24)

☆地方公共団体による条例制定「自主立法」(94条)は
地方公共団体の事務に関する事項に限定されるが
国家法とは原則的に無関係の独自の法定立ができる
判例:「徳島市公安条例事件」(昭和50)

○司法消極主義による憲法判断の形式
「憲法判断回避の準則」
(憲法上の利益が保障されるなら憲法判断を回避)
    ↓
「違憲判断回避の準則」
(当該法令の解釈が多用にある場合には憲法に合致するような
限定解釈をおこなって当該法令の違憲判決をしない)
    ↓
「適法違憲」
(当該法令をその事件に適応する限りで違憲判断)
    ↓
「法令違憲」
(法令そのものが憲法に合致していないと判断)

この本をamazonで見ちゃう

2000 2/11
法学、憲法
まろまろヒット率3

松山正一 『この一冊で「刑法」がわかる!』 三笠書房 1996

刑法関連で読み終えた3冊目の本。
さらに今まで理論書で把握した骨格に肉付けする目的で
判例が豊富な三笠書房の『この一冊でわかる』シリーズを
読んできたがこれでこのシリーズをすべて読み終えたことにもなる。
内容の方は他の法律版と同じように刑法でもその例にもれず
実によく様々な具体例を紹介してくれている。(その数ざっと79例)
特に刑法は事例である各論を中心に考えるとわかりやすいので
なかなかに読んでいて楽しかった。
この本を読んで初めて知ったことだが『死刑囚』や『泥棒日記』で有名な
フランスの作家ジャン・ジュネは本人も常習窃盗犯で
終身刑まで言い渡されたことがあるらしい。
その時はサルトルやコクトーの奔走で特赦を得たらしいが
「彼の作品って単なるマニアの結晶やん(^^;」と突っ込んでしまった。
僕の痛いものコレクションに新たなコレクションが加わった。

以下、チェック&まとめたところ・・・

○刑罰の分け方=「生命刑」、「自由刑」、「財産刑」、「名誉刑」

○日本の刑罰は重い方から死刑→懲役→禁固→罰金→拘留→科料→没収
・死刑~科料までが「主刑」で没収は「付加刑」

☆一つの行為が複数の犯罪にあたる場合は刑罰の量刑の枠を
それぞれ刑罰の重い方を選んでその範囲内で処罰する(54条1項)
=「観念的競合」

○懲役刑(13条)と禁固刑(16条)は共に無期と有期があり、
有期の上限は15年だが最長「20年」まで延長することが可能

○「拘留」は刑法上の刑罰だが同じ発音をする
「勾留」は刑事訴訟法上の強制処分で刑罰ではない

○裁判を下される全犯罪の90%以上が罰金刑
(罰金は原則1万円以上、科料は千円以上1万円未満)

○刑罰の「科料」と同じ発音の交通違反などで支払う
「過料」は行政上のもので刑罰ではない
→「科料」を「とがりょう」、「過料」を「あやまちりょう」と呼ぶことも

○刑期は暦による年や月の単位で計算する(22条)
→2月と3月とでは3日も違う

○執行猶予を加えることができるのは3年以下の懲役か禁固、
または50万円以下の罰金の時のみ(25条)

○執行猶予中の犯罪でももう一度だけは執行猶予を受けることができる

○仮釈放で出所した人間の数が満期釈放で出た人間の数を上回っている(56%)

○例外的だが教師に「暴行罪」(208条)を適応した判例がある

○他人の封筒などの信書を開けると「信書開封罪」(133条)
→内容を見なくても読める状態であれば該当

○「あの肉はミミズの肉だ」などの嘘の情報などで業務活動を妨げれば
実害の有無に関わらず「信用毀損及び業務妨害罪」(233条)

○憲法20条「信教の自由」を刑法上で実現させたのが
「宗教的感情に関する罪」(188条~192条)

○民訴では証人や身内にとって重大な利害関係のある事柄については
裁判での宣誓を拒否できる(民事訴訟法196条)
刑訴でも証人自身や身内などが処罰を受ける可能性のある
事柄については宣誓を拒否できる(刑事訴訟法146条)

○警官が無理矢理職務質問をすれば「公務員職権乱用罪」(193条)、
また条件が整っていない逮捕や要件が整っていない勾留をおこなえば
「特別公務員職権乱用罪」(194条)

○職務上知った他人の秘密を漏らすと「秘密漏示罪」(134条)

○「傷害罪」(204条)と「暴行罪」(208条)との線引きは問題となるが
被害者が精神衰弱症になるまでイタ電をし続けた犯人には
物理的攻撃をしていなくても傷害罪が適用された判例がある

○ペットが他人を怪我させれば買い主は「過失傷害罪」(209条)
→ただし親告罪

☆「過失」=「注意義務違反」=
「予見可能性」+「回避可能性」があったにも関わらず
「結果予見義務」or「結果回避義務」を欠いたこと
○全くの第三者でも喧嘩をはやし立てると「傷害現場助勢罪」(206条)
☆単純な理論上では殺意無しで殴って相手が死んでしまえば
「傷害罪」(204条)+「過失致死罪」(210条)で懲役最大10年だが
結果的に死を招いた傷害に対しては「あれ無ければこれ無し」の
条件関係を重視して「傷害致死罪」(205条)を適応し懲役最大15年
→故意犯よりも過失犯が重く処罰されることを「結果的加重犯」
過失致死罪」(210条)よりも「業務上過失致死罪」(211条)の方が重い

○13歳未満の女の子との性交は同意を得ていても「強姦罪」(177条)
また、強姦罪は原則的に親告罪だが輪姦の場合は告訴無しでも成立する

○要求を受けたのに人の住居などから立ち去らなければ「不退去罪」(130条)

☆線引きが難しい「強盗罪」(236条)と「恐喝罪」(249条)との違いは
主観的な判断でなく客観的な性質に注目
→被害者が現実に反抗を抑圧されたかどうかは問わない

○借金の返済であっても強要すると「恐喝罪」(249条)

☆借金の借用証でも破ると「私用文書毀棄罪」(259条)
→「毀棄」とは文書としての役割を果たさなくすることなので
隠匿行為も毀棄のうちに含まれる

○「公用文書毀棄罪」(258条)は親告罪ではないが
「私用文書毀棄罪」(259条)は親告罪

☆預かった封書全体をネコババすると「横領罪」(252条)、
中身だけ抜き取ると「窃盗罪」(235条)でこちらの方が重たい
→占有を侵害している方が罪が重い

○ローン返済完了前に商品を売っても「横領罪」(252条)に該当
→支払が終わるまでその商品の所有権は売り主にあるため

○「盗品などに関する罪」(256条)は懲役刑と罰金刑の
両方が科される刑法上では唯一の罪

○役員が焦げ付くとわかっていた融資すれば「背任罪」(247条)

☆犯人自身とその家族が証拠を消しても「証拠隠滅罪」(104条)にはならない

☆被害者やその家族、目撃証人を脅したり面会を強要しただけで
「証人威迫罪」(105条の2)

○最近の判例による違法ではない安楽死の要件・・・
1:耐え難い肉体的苦痛があること
2:患者の死が避けられず、かつ死期が迫っていること
3:肉体的苦痛を除去・緩和する方法を尽くし、他に手段がないこと
4:生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があること←これが一番重要

☆「建造物損壊罪」(260条)と「器物破損罪」(261条)は
物理的に使用できなくする場合だけでなく
心理的に使えなくした場合でも該当する

☆「併合罪」の量刑の枠はもっとも重い刑の1.5倍を上限とする(47条)

☆原則的には悪事を重ねる再犯の刑期は2倍になり
情状酌量された犯人の刑期は2分の1になる

○親告罪で告訴権のある被害者に犯人が自分の罪を告げて処分を委ねると
自首と同じ扱いを受ける=「首服」(42条)

この本をamazonで見ちゃう

2000 2/6
法学、刑法
まろまろヒット率3

渋谷昌三 『人はなぜウソをつくのか』 河出書房新社 1996

らぶナベ@苦手なものランキングトップクラスのカラオケを克服中、
練習していると「紙ヒコーキ飛ばし過ぎ」と突っ込まれるっす(^^;

さて、『人はなぜウソをつくのか』渋谷昌三著(河出書房新社)1996初版。
去年は個人的にも何かとウソに苦労させられたし、
僕が選んだ進路も嘘と接していくことになるものなので
嘘についてちゃんと取り上げた本を一度は読んでみようと思い、
医科大学で教鞭を取る心理学者が書いたこの本を買って読んでみた。
実際に嘘は身近なものだが「ウソはいけない」と教義的に捉えるあまりに
意識して正面から嘘と向き合う事は少ないように思える。
この本の中でもっとも印象に残り有意義だと思えるのは・・・
「嘘はその人の置かれた立場を明確にする。
・・・相手を思いやるきっかけに」と著者が述べている点だ。
この本では発達心理学的側面から「なぜ人は嘘をおぼえていくのか」
という事も取り上げられているが、当人が嘘を憶えた事情や
うそをつく状況を冷静に受けとめれば一様に責めるのは良くないなと感じた。
また、この本は嘘にまつわる実験やアンケート結果を紹介しているのだが
その中に今までについた嘘とその結果についてのアンケート答案例・・・
「(女性)3歳くらいの時に死んだふりをした→そのまま放っておかれた」
・・・というのには不覚にも笑ってしまった(^^)
子供の嘘に対しては「許せるものに対しては大いに笑ってやり、
許せないものに対しては大いに怒るなどの柔軟な対応が必要」
・・・という風な事を書いていたがこれは大人にも当てはまるだろう。
そしてこの本では普段は経験的に分かっていることでも
心理学的にはどう説明していてどのような学説があるかの記述があり、
それがなかなかに興味深かった。
日常生活を捉える際の新しいフレームワークを得た感じがする。
薄っぺらい新書のわりにはなかなかに読む価値があった一冊(^_^)

以下、その他チェックした項目・・・
○嘘の定義・・・
「騙すことによってある目的を達成しようとする意識的な虚偽の発言」
(シュテルン)←つまり無意識についた嘘は嘘とは簡単には言い切れない

○ウソの分析は「嘘の意図」と「嘘の結果」を使って
立体的に分析する(ピーターソン)

○ヒステリーや意志薄弱性の人間にみられる虚言症は
事実に反しているにも関わらず事実であるように思いこんでいる
→ヒステリーの人間の自己顕示欲求=「喝采願望」

○「halo効果」=ある人の際立った特徴があると
その他の特徴がすべてその特徴に従属して評価されること

○生後10ヶ月でも寝たふりや聞こえないふりなどの嘘をつく
→自分以外の存在がわかると子供は嘘をつき始める(ごまかしをおぼえる)

○小さな子供ほど現実の出来事と空想との産物がつきにくい
→悪意とは言い切れないので頭ごなしに怒ってはいけない

○子供が意識して嘘をつくようになる時にモデルとなるのは
「嘘はいけない」と言っている親自身(エクマン)
→ごまかした態度を子供に見せたり「言うな」と嘘を強制したり
「人を育てる」として適応のための嘘をつく人間を育てている

○子供が親に初めて嘘をうまくついた時に
子供は絶対的だった親の束縛から自由になれる(ホイト)

○契約社会の西欧では嘘に代わりユーモアが発達し、
曖昧な日本においては嘘ではないとされる外交辞令が盛んになった

○女性には「ふりをする」などの対人摩擦から身を守ろうとする嘘が多い

○嘘の自白と同じく役割が期待される嘘を社会として紡ぎだしている
=「権力を背景に持つ一種の役割期待」(浜田)

○男性は相手とうまくやっていこうとしながら
常に相手より優位に立とうとするために嘘をつく
女性はとにかく相手との摩擦をさけようとする嘘をつく(実験結果より)

☆自己防衛のために嘘を守り通すのでやがてそれが身についてしまい
その人のパーソナリティを形成する→嘘が人格を形成する側面もある

☆「防衛規制」(フロイト)=人は強い不安を体験すると
パニックになるので自分に都合の良い解釈をして自己防衛する
→相手がどんなに怒ろうとも本人には問題意識が希薄なので
どうして相手が怒っているのかわからない
(つまりどんなに怒っても意味無いわけね(;_;))

○「甘いレモンの理論」=イソップ物語にある「すっぱい葡萄」を
応用させたもの、自分のやったことを過大評価させる合理化

☆不安から一時的に逃れる「逃避」には・・・
「空想への逃避」と「現実への逃避」がある
→現実への逃避には無益なこと(テレビを見まくる)、
有益なこと(仕事に打ち込む)の二つともあるが
どうせ逃避するならば「有益な現実への逃避」を心がけたいものだ

○被害者意識の強い人間は事実を曲げて他人のせいにする
「投射」という防衛機能を持っていることがある

○自分の気持ちと正反対の態度を示す=「反動形成」
→本音を隠すための嘘

○失敗した時のための口実をあらかじめ用意しておくこと
=”self handicaping”
→自己評価の低い人間ほどこの傾向が強い

○最初の判断が間違いだったことを認めると
自分の判断能力に問題があることになりプライドが傷つくので
当人の努力不足や運の悪さなど自分勝手な嘘の理由を築き上げる
→教師や指導者に多い

○人の記憶は残りやすいが場所の記憶は残りにくい
→名刺の余白に日時や場所、要件などのメモを入れたりすると有効

○計画的に過去の記憶を強調する質問をすると
その記憶が様々に加工されてよみがえることがあるので
記憶の内容が変わってしまうことがある→意識しない嘘

○強い不安にされされている人は他人と一緒にいたいと思う
=「親和欲求」(シャクター)
→長子、一人っ子に強い

○嘘を公開して自分をその状況に追い込む=”public commitment”
→本田宗一郎が成功した秘訣

○話すよりも書くことで嘘がつけなくなる傾向がある
→「わかった」という人に対して
「具体的に計画書を書いてきてくれ」と求めることによって
嘘や寝返りの防止につながる
(“public commitment”はプライドに訴えるもの)

○人がよく考えた上で判断できるのは
そうしようとする強い欲求と能力がある時だけに限られる
→機長症候群の温床

○誰もが了承できる事から頼んで本題を切り出す
“fit in the technique”(段階的説得法)の要点は
自分の行動に矛盾が生じてしまうことへの警戒を突く点

○絶対OKしそうもないことから要請出して譲歩案を切り出す
“shut the door in the face technique”(門前払い法)の要点は
譲歩のお返しという相手の義務感と印象を良くしたいという気持ち、
そして最初の案を拒絶した事への罪を補う気持ちを突く点

○嘘でも最高の条件を出してその承諾後に修正を求める
“low ball technique”(釣り球説得法)の要点は
一旦応じてしまうと深い関係ができてしまい
それを維持しようとする気持ちを突く点

○普段使うキーワードが入ればそれに反応してしまう
簡便法=「ヒューリステック」
→どんな要請でも「~ので」が入ると了承しやすくなるなど

○自動車ディーラーや不動産屋などがメインを値引きをして
オプションでその値引き分を取り返そうとするのは
「コントラストの原理」を利用している

○人は常に相手の期待に対してもっとも敏感に反応する(ローゼンソール)

○相手への感情が同時に相手から自分への感情と共鳴する=「好意の返報性」

○集団の中の真の権力者は地位が最も高い人間ではなく、
もっともよくまねをされる人間(デッカー)

○会議などで発言しなくても相手の動作をまねることで
相手と同じ意見であることを伝える=「同調ダンス」(シェフレン)は
似たものを愛する「類似性の原理」がその根幹
→自分と違うタイプの他人に接すると「自己不確定感の脅威」を受けるため

○不自然なまばたきが多いと嘘だったり自信が無かったりする可能性が高い
→弱点を知られないように自分のまなざしを隠そうとしている

○まばたきは情報処理中は抑えられ終了すると多くなる

☆自分の気持ちを発信する能力は「顔→手→足の順」だが
嘘やごまかしの手がかりは逆に「足→手→顔の順」に出る!
→顔には漏れにくいが首からしたには漏れやすい

○会話などでの嘘の徴候・・・
沈黙に敏捷に反応する、短く話そうとする、話に柔軟性が無くなる、
手を動かしたり隠そうとする、相手との距離(個人空間)を取ろうとする

○会話に集中する電話より直接会う方が騙しやすいことが判明している
→相手の手足に注目し後日電話で確認すると見抜きやすい

○聞き間違いも言い間違いも共に「錯誤行為」(フロイト)
→ど忘れは忘れたことにしたいという願望がある時が多い

○英語に見る嘘の種類・・・
lie,deception,cheat,fraud,fake,sham,swindle,charlatan,fib,trick

○女性は嘘を漏らすこと(符号化)が多いが
男性は嘘を見つけること(解読化能力)が低いので見破れない
→よくできたものだ

この本をamazonで見ちゃう

2000 2/4
心理学、教育学
まろまろヒット率5

司馬遼太郎 『箱根の坂』 講談社 上中下巻 1987

もういい年なのでいい加減そろそろ自立しようと思い立ち
妄想銀行大阪支店長の地位を捨てて「妄想証券取引所」(NABEDAQ)を
開設した、らぶナベ@ただいまさまざまな銘柄が上場中!
(現在、佐伯日菜子株が高値圏にあり)

さて、『箱根の坂』上・中・下巻 司馬遼太郎著(講談社文庫)1987年初版。
時々、なぜか無性に司馬遼太郎の本を読みたくなる事があるのだが
現在そういう時に読み返すはずの『龍馬がゆく』『燃えよ剣』
さらには心のベスト本『坂の上の雲』までもがことごとく人に貸していて
手元に無かったためこの機会に新しいのでも読んでみようと思い、
どうせ読むならスケールの大きなやつのが良いだろうと買って来た一冊。

内容の方は戦国大名の代表格とされる北条早雲を主役にした歴史小説。
以前、司馬遼太郎の『空海の風景』上・下巻(中央公論新社)1994年改版初版
というタイトルの本を読んだがこの作者の書く本はすべて
その登場人物が生きた「風景」をえがいているような気がする。
社会状況だけでなく地理的環境、風土までその人間たちの見た
「風景」をえがくのがこの作者の真骨頂だろうが
特にこの小説では北条早雲の生きた「風景」が強く感じられた。
そういう意味でとても司馬作品らしい小説。

北条早雲といえばギラギラした成り上がり者のイメージが強いが
その生涯を見てみると・・・
中央官僚を務める伊勢家の傍系のさらに傍系という厄介者の立場に生まれ
その状況に甘んじて次期将軍候補者に仕えるも政治に絶望し
応仁の乱の中でも鞍職人として人生の前半生を波風立てないよう生きるが
駿河の今川家に嫁いだ妹分の要請から主体的な役割を演じていき
10年以上かけてじっくりと今川家の内紛をおさめてゆき
50代になって始めて一城の主として自分なりの政治をおこない
60代になって戦国時代の幕を切る小田原攻めを指揮し、
70代になって10年以上防戦一方だった浦上氏を攻めてあげて
さらに80代になってからその浦上氏を滅ぼして
戦国大名北条氏の基礎を造りあげるという「お前はおじゃる丸か!」と
思うくらいに成り上がり者というイメージの割に鷹揚というか
時間を計るメモリが人より長い感じを受けてしまう。
応仁の乱で台頭してきた足軽や土豪、鉄製農具の普及で力を付けた
農民とその加工品を扱う商人たち(旧時代では数段下の人間たち)の
台頭と守護や将軍家の実質的な没落という時代を見つめる視点に
自信があったからこそこういう時間の使い方ができたのだろう。
単に混乱する状況を嘆く旧時代の既得権益者に過ぎなければ
(もし彼が伊勢家の本家の長男であれば)また違った人生を歩んだのだろう。
既得権益、既成権威が揺らぐことへの恐れは人を動揺させるが
その動揺をどう捉えるのかでその人の価値は決まってくるということだろう。

北条早雲の人から見れば別人のような人生の状況変化、
理解しにくいほどの極端な能力の使い方、
人生の前半生にみられた勘の鋭さを扱いかねるところなどには
何か親近感というか相通じるものを感じてしまう(^^)
ま、僕も焦らず地殻変動の進む現在をいきてゆこう。

この本をamazonで見ちゃう

2000 1/25
小説、歴史
まろまろヒット率5

伊藤真 『伊藤真の刑事訴訟法入門』 日本評論社 1998

この本で『3時間でわかる』シリーズに続いて『伊藤真の入門』シリーズも
六法を通してすべて読み終えたことになる。
去年の11月から始めた法学もそろそろ初級編を越えたところだろうと感じる、
らぶナベ@約3ヶ月で基礎を固めるられたのは天佑だろう(^^)

さて、その『伊藤真の刑事訴訟法入門』伊藤真著(日本評論社)1998年初版。
刑事訴訟法は民事訴訟法と比べて構造も簡単だし流れも一本しかないので
あまり気合い入れて勉強するまでも無いし何より実際にもお堅い分野なので
僕自身あまり携わることは無いだろうと思っていたがこの本の中で著者が・・
「刑事訴訟の場は法益がもっとも鋭く対立する場なので
刑事訴訟に携わることは法律家としての真価が問われる」
・・・という風な書き方をしていたのに思わず反応してしまい、
「それなら一度は携わってみてやろうか?」と思ってしまった。
根が単純なので相変わらずこういう挑発に弱い(^_^)
内容の方は刑事訴訟法は「応用憲法」とも呼ばれるくらいのものなので
(概念もドイツ法を元にした刑法よりも英米法を元にした憲法に近い)
刑事訴訟法上の論議で解決できない時は常に憲法に戻るところが根幹だろう。
これは憲法31条(「適性手続の保障」)以下で国家の憲法としては例外的に
刑事手続きに関する条文が事細かく規定されいているのにも由来している。
憲法という抽象性の強いものを最も法益の対立が激しい場で実現させるという
この刑事訴訟法は「現実的な割り切りも必要」と著者も言っているように
どうやら携ってゆくだけの価値がありそうな感じだ(^^)

以下、チェック&まとめた箇所・・・
☆刑事訴訟法とは「刑法を実現するための手続」

☆「真実発見」と「人権保障」との調和が刑事訴訟法のテーマ
(人権保障=手続保障)

☆たった一人の無実の人のために多数の真犯人を逃がす考えは
憲法13条の「個人の尊重」という趣旨から来ている

○刑事訴訟法が実現しようとしている刑法は明治時代からのドイツ法体系を
ベースにしているが刑事訴訟法自体は戦後のアメリカ手続法の影響を
受けているのでそのギャップがどうしても出てくる

○刑事訴訟法と民事訴訟法の違い・・・
・「訴訟物」→刑訴の「訴因」(検察官の主張する過去の具体的事実)
      =民訴の「権利」(いま現在の関係)
・刑訴の「公判」=民訴の「口頭弁論」
・刑訴の「実体裁判」&「形式裁判」=民訴の「本案判決」&「訴訟判決」
・刑訴の「訴因の変更」=民訴の「訴えの変更」

<捜査>
○捜査=「被疑者の身柄確保」、「証拠の収集・保全」

○刑事訴訟法では警察官=「司法警察職員」
→警察官という言葉は出てこない

○警察官自体は「行政警察活動」と「司法警察活動」の二つの仕事がある

○検察官も司法警察職員も行政権に属する(司法権には属さない)

○捜査構造論・・・
「糾問的捜査観」VS「弾劾的捜査観」
(強制捜査は認められる)VS(強制捜査は認められない)

○もっとも捜査と人権との対立が生じるのが「職務質問」(警職法2条)
→職務質問は行政警察活動の一環にすぎないのであくまで任意

○「捜査の必要性」VS「人権侵害の危険の防止」の調整について判例&学説は
具体的な事件ごとに必要性と相当性を判断して適法性を判断するとしている

○職務質問でおこなわれる「所持品検査」の根拠は警職法2条1項

○自動車検問を正面から定めている法律はない

○強制捜査は例外的な場合で基本はあくまでも「任意捜査の原則」(197条)

○強制捜査に関しては・・・
立法権からの「強制処分法定主義」(197条1項但書)
司法権からの「令状主義」(憲法33条、35条)
・・・のふたつの歯止めがある

○強制捜査=
・「証拠の採取」=「捜索」、「押収」、「検証」、「鑑定」
・「被疑者の逃亡防止・罪証隠滅の防止」=「逮捕」、「勾留」

○「逮捕」=最大72時間身柄を拘束することができる短期の身柄拘束処分
・通常逮捕(199条)
・現行犯逮捕(212条)=令状主義の例外
・緊急逮捕(210条)=令状主義の例外

☆逮捕には被疑者を「取り調べるためという要件は含まれない」
→結果的に取調べが可能なだけであって取調べを目的にはできない

○逮捕が適法かどうかのチェック・・・
・逮捕の理由があること
・逮捕の必要性があること

○逮捕後「48時間以内」に検察官のほうに身柄を送る(203条)

○○警察段階で「48時間」(203条)、検察段階で「24時間」(205条)
最長「72時間」の間は逮捕で身柄拘束が可能

○勾留(208条)の期間・・・
「10日間」の身柄拘束が認められている(208条1項)
さらに「10日間」の延長が認められる(208条2項)
→全部で「20日間」

☆逮捕の「3日間」(72時間)+勾留の「20日間」で
合計「23日間は被疑者の身柄拘束ができる」
(起訴前の勾留に関して)
→起訴後の勾留は判決が出るまで続く

○「起訴後の勾留」(60条)でも取調べの必要性は要件ではない

○「保釈」(88条)=起訴後に勾留されている場合に
一時的に身柄を解放する手続
→起訴前の勾留には保釈はない(207条1項但書)

○「逮捕前置主義」(207条1項)=逮捕は必ず拘留より先
→勾留にも二度の司法審査が必要

○逮捕・勾留には「事件単位の原則」を適用(×「人単位の原則」)
→「逮捕・勾留の1回性の原則」を導きだしさらに・・・
・「一罪一逮捕・勾留の原則」(同時反復の禁止)
・「再逮捕・再勾留禁止の原則」(異時反復の禁止)

○「別件逮捕・勾留」は・・・
・逮捕・勾留を自白獲得のための手段にしている
・法定の拘束期間の逸脱
・令状主義に反する
・・・という三つの点から学説&判例でも違法と判断
→オウム事件でどういう判決が下るか注目

○「押収」=「差押」(強制)と「領置」(任意)

○「検証」=場所、物、人について強制的にその形状を五官の作用によって
認識する処分→「実況検分」は任意処分で検証は強制処分

○強制捜査の中で特に議論になっているのが「強制採尿」
→判例は要件を厳格に絞ったうえで認める

☆被疑者の取調べ「受忍義務」に関して判例は198条1項但書を
反対解釈して逮捕・勾留されているときは取調べ受忍義務があるとしている
→学説では否定、実務と学説とが真っ向から対立している場面
ただし被告人の取調べ受忍義務に関しては判例も学説も否定している

○不当な捜査に対する被疑者の防衛
・「被疑者の不当な捜査処分を積極的に争う権利」
・「弁護人の助力を得る権利」

○被疑者の不当な捜査処分を積極的に争う権利・・・
・「勾留理由開示請求」(207条1項、87条)
・「不当な勾留決定に対する準抗告の手続」(429条1項2号)
・「勾留の取消請求」(207条1項、87条1項)
・「不当な押収などに対する準抗告」(429条、430条)
・「押収物の還付請求」(123条2項)

○「準抗告」=勾留が60条の要件を満たしていないことへの不服申立

○「勾留理由開示請求」は被疑者を励ます場として弁護人が使うことが多い

○弁護人の助力を得る権利(憲法34条)・・・
・「弁護人選任権」(30条)
・「接見交通権」(39条)

○接見交通権(39条1項)を制限する「接見指定」(39条3項)の解釈については
「限定説」VS「非限定説」

○被疑者には被告人と違って国選弁護制度はない

<公訴の提起>
○日本は検察官が公訴をおこなう「国家起訴独占主義」(247条)
→イギリスは私人でも独自に起訴できる(シャーロック・ホームズの土壌)

○親告罪の代表は「強姦罪」(刑法177条)、「名誉毀損罪」(刑法230条)、
「器物破損罪」(刑法261条)

○日本は訴追裁量権を検察官が持っている「起訴便宜主義」(248条)

☆起訴便宜主義の定義・・・
「訴訟条件が具備し犯罪の嫌疑があるにも関わらず起訴猶予を認める法制」

○「不起訴処分」=
「嫌疑なし」と「起訴猶予」のまったく内容の違う二つがある

○強大な権限を持つ検察官に対する制限として・・・
検察官による不当な不起訴に対しては「通知制度」、「検察審査会制度」、
「準起訴手続」の三つの救済の制度があるが
検察官による不当な起訴処分に対しては条文上制限がない
→338条4項を解釈して「公訴権濫用論」で対応する

○「検察審査会」の意見に検察は従う義務はない(強制力も拘束力もなし)
→御巣鷹山の日航機墜落事故での不起訴処分に対する強制力のなさが有名

○「公訴権濫用論」を巡った判例としては「チッソ川本事件」が有名

○形式裁判の訴訟条件=
「管轄違い」(329条)、「免訴」(337条)、「公訴棄却」(338条)

○「免訴」の中で最も大切なのが「時効が完成したとき」(337条4号)
時効の具体的条文は250条、253条、254条

○「公訴棄却」(338条4号)の「公訴提起の手続がその規定に違反した」
というのは公訴提起の手続の法令違反のような場合

○「公訴棄却の決定」に関してはロッキード事件の時に田中角栄が死亡して
339条4号によって公訴棄却の決定がなされたのが有名

○「起訴状一本主義」の根拠は256条6項

○「訴因」=犯罪構成事実が特定、具体化された犯罪事実のこと
     =「公訴事実」←訴状では物語風に書く

○公訴事実の概念はドイツ刑法を元に、
訴因の概念はアメリカ刑法を元にしているため重複している

○訴因の機能=「告知機能」(被告人のため)、「識別機能」(裁判のため)

○「訴因特定の要請」VS「裁判官の予断排除」の場合は
弊害の大きさを比べて「裁判官の予断排除のほうを優先する」

<公判手続>
○公判手続の流れ
「冒頭手続」
・人定質問(規則196条)
・起訴状朗読(291条1項)
・黙秘権等告知(291条2項)
・罪状認否(291条2項後段)
   ↓
「証拠調べ手続」
・検察官の冒頭陳述(296条)
・証拠調べの請求(298条)
・証拠決定(297条)
・証拠調べの実施
・被告人質問(311条)
   ↓
「弁論手続」
・論告求刑(293条1項)
・最終弁論(293条1項)
・最終陳述(293条2項)
   ↓
「判決の宣告」(342条)

○検察官が「論告求刑」をして(293条1項)、
弁護側が「最終弁論」をする(293条2項)

○迅速な裁判を受ける権利(憲法37条1項)が
争点になった判例は「高田事件」が有名
→高田事件以来迅速な裁判に反するとして免訴された事件はない

○「審判の対象」は実際に社会で起こったことではなく
「検察官が主張した具体的な事実」
=裁判所は真相解明ではなく検察官が構成してきた事実を審議する
→「当事者主義」(×「職権主義」)
ただし例外として裁判所が命令を下すこともできる(312条2項)

○「訴因の変更」(312条)は「公訴事実の同一性を害しない程度」で認められる

○公訴事実の同一性とは「機能概念」でしかない(×実体概念)

○訴因の変更は「不告不理の原則違反」を防ぐためある
→「訴因変更の要否」の問題+「訴因変更の可否」の問題

○「証拠裁判主義」(317条)のため「厳格な証明」が求められる

○「厳格な証明」
=「証拠能力ある証拠を使え」&「適式な証拠調べを経ろ」

○「証拠能力」=証拠としての許容性
・「自然的関連性」
・「法律的関連性」
・「違法収拾証拠排除」

○また聞きは証拠能力が認められない=「伝聞法則」(320条1項)
→被疑者の「反対尋問権」(憲法37条2項)を実現するため
ただし例外として「相手方が同意した書面」は証拠能力がある(326条以下)

○強制・拷問などによる自白は証拠能力がない=「自白法則」(319条1項)

○自白だけでは有罪にはしない=「補強法則」(憲法38条3項)

○犯罪事実の存否や程度に関する事実(構成要件、違法性、有責、処罰条件)
については「厳格な証明」を適応、
それ以外の事実については「自由な証明」を適用

○戦後、被疑者に訴訟における主体的地位を与えて
「当事者主義的訴訟構造」が確立された

○「挙証責任」→検察官にある→「疑わしきは被告人の利益に」
ただし「同時傷害」(刑207条)、「名誉棄損の事実証明」(刑230条2項)は
被告人に挙証責任がある例外

○立証の程度は「合理的疑いを入れない程度」までしないといけない
(>「証明の優越」)
→弁護人の役割は別に無罪を主張しなくても良く
検察官が主張してきた証拠に疑いを持たせるようなことをおこなえば十分

○「証明力」=証拠の価値←「自由心証主義で裁判官が判断」(318条)
(×法定証拠主義)

○「自由心証主義における合理性の担保」
・判決文には証拠を挙げなくてはいけない(335条)
・証拠能力
・自白についての補強法則(319条2項)

<裁判>
○法律用語としての裁判=裁判所または裁判官の
公権的な判断を内容とする意思表示
EX:裁判所による「判決」、裁判所による「決定」、裁判官による「命令」

○裁判の種類=
・「実体裁判」→「有罪判決」、「無罪判決」、
・「形式裁判」→「管轄違いの裁判」、「免訴判決」、「公訴棄却判決・決定」

○「一事不再理効」=確定判決によって生じる再訴を遮断する効力
=まとめて有罪にできた範囲については1回しか裁判は許されない
←憲法39条の「二重の危険禁止の法理」から

○「再審」と「非常上告」=
上訴とは別の制度で確定判決に対する非常救済手段
・「再審」(435条以下)=判決の確定後事実認定の誤りが
 発見されたことを理由にしておこなう
・「非常上告」(454条)判決の確定後審判が法令に
 反したことを理由にしておおなう

○裁判の執行は検察官が指揮しておこなう
→死刑には法務大臣の執行命令が必要

この本をamazonで見ちゃう

2000 1/22
法学、刑事訴訟法
まろまろヒット率3

伊藤真 『伊藤真の刑法入門』 日本評論社 1997

ようやく去年のうちに蒔いた「策」が実ってきてモンゴルにタダで
行けることになりそうな、らぶナベ@でもこの時期に行くって超極寒やん(^^;

さて、『伊藤真の刑法入門』伊藤真著(日本評論社)1997年初版。
日本の刑法は参考に使ったドイツ刑法の単語をそのまま直訳した
専門用語が多くてパッと見はかなり難しそうな感じがするけど
内容や構造自体は民法よりもずっと単純なので
単語さえ丁寧に押さえればかなり楽な法律。
ただ、六法の中では一番学説が鋭く対立していて
いろんな学説が出てくるのでちょっとうざったい所もある。
これはやっぱり刑法が人を殺せる法律だからだろう。
(刑法学者にも必要以上に攻撃的な人間が多いのはこのためか(^^;)
しかしこの本の著者も「いちばん最初にマスターできるのは刑法」
と書いているように誰かの学説の立場に立って研究するとか
資格試験用に勉強するとかではないなら(単にまんべんなく学ぶだけなら)
あまり学ぶ価値が見出せない法律だなぁっと感じた。
戦うなら刑法よりもやっぱり民法だ(^o^)
それとこの本を読んでみて国自体に対する罪がまだ残っていることを知った。
最近、社会的権威を破壊するというような意図を持って子供やお年寄りを
殺している事件が目立っているけどどうせ権威に楯突く犯罪をするなら
刑法第77条の内乱罪に該当するような楯突きかたをして欲しいもんだ。
でかいことを言って弱い立場の人ををちまちま攻撃する姿は
見ていてなさけなさを感じてしまう。
悪いことは完全に小さくやるか完全に希有壮大にやるか二つに一つだ(^_^)

以下、そんなこんなでその他にチェックした箇所・・・
<刑法総論>
○刑法は「法益保護機能」(処罰の範囲を広げるべき)と
「自由保障機能」(処罰の範囲を限定すべき)の二つの調整がテーマ

○イギリスでは取り調べの状況を全てテープで録音している

<犯罪の定義>
☆『犯罪とは「構成要件」に該当する「違法」で「有責」な行為』
・「構成要件」とは一般的、類型的な形式的判断
 →手術も傷害罪の構成要件に該当する
・「違法性」とは個別具体的な事情
 →手術は構成要件に該当するが違法性はないので犯罪は阻却
・「責任」とは思いとどまらなかったことを非難できること
 →責任主義(責任なくして刑罰なし)

<構成要件>
○「構成要件要素」=
・「客観的構成要件要素」(その事実の外面性)
 →実行行為、結果、因果関係を検討
・「主観的構成要件要素」(その行為者の内面性)
 →故意かどうかを検討
・・・の二つから成る
→まず客観から入って主観にうつるのが特徴

<客観的成立要件>
○客観的構成要件要素=「実行行為」、「結果」、「因果関係」の三つ
→結果が発生したときだけ因果関係を検討するこの順番が重要

○「実行行為」の定義・・・
「法益侵害の現実的危険という実質を有し、
構成要件に形式的にも実質的にも該当すると認められる行為」
→法益侵害の危険性を持っているかどうかが
実行行為の有無の判断するポイント(このため呪いは犯罪ではない)

○「不作為犯」=何もしないこと自体が実行行為にあたること
EX:溺れている「自分の」子供を助けなかったことなど
→「作為義務」の有無が不作為犯の成立要件!

○「間接正犯」=
他人を「道具のように」利用して間接的に犯罪をおこなうこと
→「道具理論」のため道具のように使われた人には責任が無いとされる
(間接正犯の成立要件は主観的要素と客観的要素から成る)

○犯罪の分類
・「正犯」=「直接正犯」&「間接正犯」
・「狭義の共犯」=「教唆犯」&「幇助犯」
・「結果犯」=結果の発生を要求する
・「挙動犯」=結果の発生を必要とせず一定の行動をするだけで犯罪になる

○因果関係には・・・
・「条件関係」=「あれなければこれなし」
・「相当因果関係」=「社会通念上相当であること」
・・・の二つが必要とされるのが通説→「折衷的相当因果関係説」

<主観的構成要件>
○主観的構成要件=「構成要件的故意」
「故意」とは「客観的構成要件要素(犯罪事実)に該当している事実を
認識、認容していること」

☆刑法では故意犯が原則!(38条1項)
過失を処罰する規定が例外的に明記されていなければ裁けない
→「窃盗罪」(第235条)は故意犯なので過失で人の物を盗めば処罰されない

○「構成要件的錯誤」があるときは構成要件的故意が阻却されるかどうかが
論点となる→「具体的符合説」VS「法定的符合説」(通説)

<違法性>
○構成要件に該当すれば原則として違法だが
例外的に違法性が阻却される場合がある→「違法性の阻却」

☆何をもって「違法」と言うのか?
「法益侵害説」VS「法規範違反説」が刑法の根本!
→通説は「法規範違反説」

○二つの説の違い・・・
・「法益侵害説」=結果無価値論(結果が悪い)だけ
 →故意犯と過失犯の違いはない
・「法規範違反説」=行為無価値論(行為が悪い)+結果無価値論
 →故意犯と過失犯は違う

○「違法性阻却事由」=
・「正当行為」←「法令行為」・「正当業務行為」・「一般的正当行為」(35条)
・「緊急行為」←「正当防衛」(36条)・「緊急避難」(37条)・「自救行為」

○被害者の承諾があれば一般正当行為として違法性が阻却される場合がある
→尊厳死の問題に出てくるか?

○「正当防衛」と「緊急避難」の違い・・・
「正当防衛」=相手が不正=正対不正
「緊急避難」=相手が正=正対正

○過剰防衛は「任意的減免」(36条2項)になる

<責任>
○行為者を非難する(=責任を負わせる)ためには・・・
・「責任能力」
・「責任的故意、責任的過失が無い」
・「期待可能性」
・・・の一つでも欠けてはいけない

○「責任能力」=「是非弁別能力」+「行動制御能力」

○「刑の減軽」は有期ならば半分になるのが普通

○責任無能力は原則無罪だが「原因において自由な行為」理論によって
修正されることがある

☆故意・・・
・「構成要件的故意」
・「責任故意」=「違法性阻却事由を基礎づける事実の不認識」
 +「違法性の意識の可能性」

○「違法性阻却を基礎づける事実の不認識」
「誤想防衛」などの場合は故意責任は向けられないこと=勘違いは許される
→ルイジアナ州で起こった服部君射殺事件で被疑者に無罪判決が出たのもこれ

○「違法性の意識の可能性」には「制限故意説」が通説

○「期待可能性」は実際の事件で認められることはない→最後の安全弁

     ☆☆故意犯の成立要件☆☆
○構成要件
・「客観的構成要件」=実行行為→因果関係→結果
・「主観的構成要件」=構成要件的故意
         ↓
      <構成要件に該当>
         ↓
○違法性阻却事由はないか?
・「正当行為」=法令行為・正当業務行為・一般的正当行為
・「緊急行為」=正当防衛・緊急非難・自救行為
         ↓
      <違法性阻却なし>
         ↓
○責任要素
・「責任能力」=是非弁別能力+行動制御能力
・「責任故意」=違法性阻却事由を基礎づける事実の不認識
 +違法性の意識の可能性
・「期待可能性」
         ↓
       <責任あり>          
         ↓ 
       <故意犯成立>

○修正された構成要件
・時間的修正→「未遂」、「予備」
・人的修正(共犯)→「共同正犯」(60条)、「教唆犯」(61条)、
 「幇助犯」(62条)、「共謀共同正犯」(条文無いが判例では認められている)

○「未遂」が処罰されるのは各本条で定められている場合だけ!(例外的)

○未遂・・・
・「中止未遂」=自己の意思により中止
 →刑罰は必ず減軽もしくは免除の「必要的減免」(43条但書)
・「傷害未遂」=たまたま中止
 →刑罰の減軽は裁判官が判断する「任意的減軽」(43条本文)

○「免除」とは有罪と判断するが刑を執行しないで免除するという意味

○「未遂犯」と「不能犯」を分ける「実行行為としての危険性」は
科学的見地からではなく一般人の見地から判断する

○「実行の着手の意義」では「実質的客観説」が通説

○「共同正犯」には個人責任の原則を修正した「一部実行全部責任」を適用

○共同正犯の成立要件・・・
・主観的要件=共同実行の意思が存在すること
・客観的要件=共同実行の事実が認められること

○教唆犯の犯罪性に関しては「共犯従属性説」VS「共犯独立性説」
・・・共犯従属性説が通説で特にその中の「制限従属性説」が有力

○幇助犯の成立要件=「幇助行為」&「被幇助者の実行」
→幇助犯の刑は「正犯の刑を減軽する」

○幇助の物理的方法による場合を「有形的従犯」、
精神的方法による場合を「無形的従犯」

<罪数>
○二個以上の犯罪の場合はまとめて数罪と呼ぶ

○一罪か数罪かは「包括的一罪」と「法条的競合」がある

○数罪の場合の処罰方法は
・「科刑上一罪」=観念的競合(54条1項前段)と牽連犯(54条1項後段)
・「併合罪」=確定裁判を経ない数罪

<刑法各論>
○最近は各論の重要性が見直されている

☆刑法各論を学ぶ時は常に「保護法益」から見ていくのがとても重要!

○保護法益には「個人的法益」、「社会的法益」、「国家的法益」がある

○胎児などの何をもって「人」になるのかは「一部露出説」が通説

○「傷害罪」(204条)=人の生理的機能を害すること
「暴行罪」(208条)=人の身体に向けられた有形力の行使のこと

○「業務上過失致傷罪」(211条)の「業務上」とは
「仕事の上で」という意味ではない!

○「脅迫罪」(222条)は本人かその人の親族に害を与えると
告知しなければ該当しない→友達や知り合いでは該当しない

○「強要罪」(223条)=義務のないことを行わせること

○「名誉毀損罪」VS「表現の自由」との調整を図る目的で
戦後になって「230条の2」が生まれた
→「公共の利害」、「公益目的」、「真実の証明」の
三つの要件の下では違法性が阻却される(230条の2の1項)
・違法性がたとえ阻却されなくてもそれが真実だと信じていたときは
「違法性の錯誤」として違法性が阻却される場合がある(誤想防衛と同じ)

○「名誉毀損罪」(230条)と「侮辱罪」(231条)との違いは
事実を摘示するのかしないのかの差

○刑法での「信用」とは経済的信用に限る

<財産罪>
☆財産罪の分類方法には「占有」に注目する!
・占有が移転するか、移転しないか
・被害者の意思に反しての移転か、瑕疵ある意思に基づく移転か

☆「財物」の意義に関しては「有体性説」VS「管理可能性説」
通説は管理可能性説の中の「物理的管理可能性説」
→単なる情報のようなものは財物とは認められない!

☆財産罪の保護法益は「占有説」が通説
→判例占有説ではひったくり犯人からバッグを取り戻すのは
窃盗罪の構成要件に該当するが自救行為として違法性は阻却

☆「窃盗罪」(235条)の客体は「財物」しかなく「財産上の利益」は
客体にはならないので財産上の利益を盗んでも窃盗罪には該当しない!
→最初から意図しないで無銭飲食すれば刑法では無罪になる場合がある
・「財産上の利益」も客体になるのは「強盗罪」(236条)、
「詐欺罪」(246条)、「恐喝罪」(249条)、「背任罪」(247条)だけ
 →これらは「2項犯罪」と呼ぶこともある

☆財産罪総論では「保護法益」と「不法領得の意思」が論点になる

○窃盗罪の成立のために必要な「不法領得の意思」・・・
・「所有権者として振る舞う意思」(不可罰的な使用窃盗と区別するため)
・「物の経済的用法に従って使用、処分する意思」(毀棄罪と区別するため)
→黙って友達の消しゴム使った&チャリ乗ったは窃盗罪にはあたらない

○死者に占有は無いので死者からの窃盗というのはありえないが
判例では被害者を殺害した者自らが殺害直後に財物を奪取した場合には
窃盗罪が成立すると考えられている
(死者が生前有していた占有を侵害したという説明)

○「強盗罪」(236条)は暴行、脅迫を手段とするところが特徴
→殴った後で物を取る意思が生じた場合は強盗罪ではなく暴行罪&窃盗罪
反抗を抑圧する状態になった後に物でも取ってやろうと思って取った場合は
強盗罪にはならない→刑の重さが違うので裁判で争われる争点になるだろう

○「強盗致死傷害罪」(240条)で被害者を死亡させた時は
「死刑又は無期懲役」の日本の刑法では珍しくとても重たい刑罰

○単に人を騙す罪というのは日本にはない!
→財産上の利益を侵害しない限り無罪

○「横領罪」(252条)の保護法益=「委託信任関係」
→信頼を裏切る場合は刑罰が重い
・種類は「単純横領」、「業務上横領」、「占有離脱物横領」

○「社会的法益に対する罪」の代表・・・
「放火罪」(108条以下)、「偽造罪」(148条)

☆「公共の危険」=「不特定または多数人の生命、身体、財産に対する危険」
→放火罪は社会的法益に対する罪なので
現住建造物放火罪の場合は殺人罪よりも重たい

○放火罪をいつ既遂とするかは「独立燃焼説」が通説

○「偽造罪」(148条)の保護法益=「文書の公共的信用、社会的信用」
→成立には「行使の目的」が必要

○日本の偽造罪では「形式主義」(作成名義の真実性を確保する)を原則にして
例外的に「真実主義」(内容の真実性を確保する)を取り入れている

○国家的法益に対する罪の代表は「内乱罪」(77条)

○「偽証罪」(169条)は「法律で宣誓した証人」だけがその対象になる

○「賄賂罪」(197条)の保護法益=「公務員の職務に対する信頼」
→成立には不正なことをやる必要はない

この本をamazonで見ちゃう

2000 1/18
法学、刑法
まろまろヒット率3

伊藤真 『伊藤真の憲法入門』 日本評論社 1999(第2版)

最近複数の友人から指摘されていることによると僕という人間は
マニュアル車で例えるとトップギアとローギアしかなくて
どうやら2速や3速というものが無いみたいっす。
僕のことをけっこう知っている女性によれば僕を見ていると
「かなりカッコ良い時」か「かなりキモイ時」の二つに一つしかなくて
いわゆる「普通の時」というものが無いらしい。
何かを運営していたり決断したり大局で物事を考えていたりする時は
トップにギアが入ってるけどその他の時は見事にダメダメ人間らしいっす。
ローの時の僕の姿しか知らない人や逆にトップの時の姿しか知らない人には
(知り合いの半数以上がその分類に入るだろう)僕という人間が
かなり誤解されているだろうから「普通の時もおぼえろ」と言われている、
らぶナベ@よく考えたらそれって余計なお世話やん(^^;っす

さて、本題の『伊藤真の憲法入門』伊藤真著(日本評論社)1999年第2版。
この本を読んでみて感じたことは憲法は六法の中で一番馴染み深いが
その分やたらと深いところもあるように思える。
どうしても議論が抽象的になってしまうから憲法と向き合う時には
自分自身の価値判断を決断して接していくことが必要になってくるだろう。
また、憲法のもっとも重要な点としては憲法が国民にではなく
国家を制約しているという点とその存在理由の第一を
人権(≒自由)においている点だろう、統治はその手段でしかない。
そしてその第一の存在理由を規制することになる
公共の福祉の適用が議論の中心になってくる。
そういう意味で議論の的は簡単に絞れるが抽象的議論になってしまうので
けっこうやっかいなものだろう、憲法学者ってやっかいな人間が多いし(^^;
そしてこの憲法自体がかなりさくさくっと作られたものなので
条文解釈にあまりこだわり過ぎるとちょっと間違うような気もする。
(不思議なポジションにある第97条のエピソードが有名)
第9条の解釈に関しては特にこのことを強く感じた。

以下、チェックした点・・・
☆人権と統治の関係は目的と手段の関係(第13条)
→政治は自己目的ではない
≒自由主義と民主主義も目的と手段の関係にある。

○人権の概念・・・
「固有性」、「不可侵性」、「普遍性」

○ある個人の人権を制限するものは他の個人の人権でしかありえない。
→対立する人権を調整するための実質的公平の原理が「公共の福祉」

☆公共の福祉の種類・・・
・「自由国家的公共の福祉」→人権が生まれながらにもっている制約
・「社会国家的公共の福祉」→経済的自由についてのみ認められる制約

☆公共の福祉の審査方法・・・
「違憲審査基準」に関しては「二重の基準理論(double standard)」を使う。
・経済的自由権に制限をしている法律には緩やかな審査基準を適用する。
・精神的自由権を制限している法律には厳しめな審査基準を適用する。
→政治部門と司法部門の役割分担の発想!
精神的自由のような民主制の過程の下で自己回復が難しい問題には
司法は積極的に関与するが経済的自由のような高度に政治的判断が
必要な問題には司法は消極的にしか関与しない。

○厳しい審査基準の種類・・・
・「事前抑制禁止の理論」
・「明確性の理論」←「萎縮効果」を防ぐため
・「明白かつ現在の危険の基準」
・「より制限的でない他の選びうる手段の基準」
=☆「LRA(Less Restrictive Alternative)の基準」→もっとも重要!

○穏やかな審査基準・・・
・「明白性の原則」
→誰が見ても明白に違憲だとする時にのみ違憲判断を下す

○公共の福祉の種類の性格・・・
・自由国家的公共の福祉=「消極的内在的制約」(厳格な合理性の基準で判断)
・社会国家的公共の福祉=「積極的政策的制約」(明白性の原則で判断)

○公共の福祉による規制を審査する基準の厳しさの段階・・・
「精神的自由権に対する制約」の基準が一番厳しく、
 →「LRAの基準」
「経済的自由権に対する消極的な制約」が次に厳しく、
 →「厳格な合理性の基準」
「経済的自由権に対する積極的な制約」の基準がもっとも穏やか。
 →「明白性の原則」

☆違憲審査の違い・・・
・「付随的違憲審査制」←私権保障型(日本、アメリカなど)
・「抽象的違憲審査制」←憲法保障型(ドイツ、イタリアなど)

○人権問題を考える上での視点・・・
・そもそも誰の人権が問題になっているのか?
・どのような人権が問題になっているのか?
・誰によって制約されているのか?
・その制約は許されるのか?←もっとも重要な点!
・どこで救済されるのか?(政治部門か司法部門か)

☆法=社会規範=一定の価値観
その法律がどんな価値観に基づいて作られたのかが重要、
同時に自分自身の価値判断も必要になる。

○民事訴訟法は公法(裁判の手続を定めているため)

○憲法は国家権力の側を規制するもの(第99条)、
国民に憲法を守れとは憲法には一言も書いていない。
→ドイツ憲法では国民にも憲法を守ること(憲法忠誠)を強制している。

☆憲法の特質・・・
「自由の基礎法」(大目標)
「制限規範性」(手段)
「最高法規制」(手段)

○「法の支配」(現在の日米)VS「形式的法治主義」(戦前の独仏)
=「正しい法に従う」VS「法にはすべて従う」

○表現の自由(第21条)を支える価値・・・
「自己実現」、「自己統治」

○人身の自由の中で最も重要な条文が第31条(適性手続の保障)。

○生存権は第25条に規定されている。

○「法律上の争訟」であっても裁判所で適性な判断を下せないと
思われる問題は「統治行為」の理論によって受け付けないことがある。
→政治部門と司法部門の役割分担!

☆地方自治は第92条で「制度的保障」を受けている。

○地方自治の本旨・・・
「住民自治」、「団体自治」

○憲法に条文が無くても(超憲法的)国民による「抵抗権」と
国家による「国家緊急権」は認められているとするのが通説。

○第9条は2項の「前項の目的を達するために」の意味の
取り方によって解釈が違ってくる。

この本をamazonで見ちゃう

2000 1/10
法学、憲法
まろまろヒット率3

辻原登 『翔べ麒麟』 読売新聞社 1998

昨日のNHKラジオ「やさしいビジネス英会話」のVocabulary Buildingに
出てきた”hero sandwich”って一体どんなサンドイッチなのか
かなり気になっている、らぶナベ@そんなにメジャーなのかなぁ?

さて、記念すべき2000年第一冊目に読み終えた本をば・・・
『翔べ麒麟』辻原登著(読売新聞社)1998年初版。
タイトルフェチの僕がこの題名に惹かれて一昨年くらいから
何となく読んでみたいなと感じていた小説。
古今和歌集に載っている阿倍仲麻呂の和歌・・・
あまのはら ふりさけみれば 春日なる
三笠の山に いでし月かも
・・・は遣唐使として中国に渡りそこで皇帝に気に入られて出世したものの
日本に帰りたくても帰られなかった望郷を詠った悲歌として知られているが
果たしてこの歌は本当に悲歌なのだろうか?という疑問と
正倉院に収められている宝物の中で唯一出所の分からない七絃琴
(金銀平文琴)を物語の基点として書かれたちょっと珍しい歴史小説。

8世紀半ばの東アジアを舞台に唐政府の中枢を担う行政官、
阿倍仲麻呂(唐名:朝衡)と広嗣の乱の首謀者の息子として
汚名を受けながら遣唐使に参加した藤原真幸の二人を主役にして
日本と新羅の激しい外交対立、国際色豊かな長安の文化、
活力を失い楊貴妃に溺れる玄宗皇帝、中国社会の構造変化、
楊貴妃の従兄である宰相の楊国忠と阿倍仲麻呂の宮廷闘争、
李白や杜甫などの官僚出身の詩人たちの姿をえがいている。

『村の名前』で芥川賞を受けた著者と読売新聞連載ということから
読む前にはかなりお堅いものをイメージしていたが
唐代末期に起こった安史の乱の影で重要な役割を果たしたのが
実は阿倍仲麻呂と藤原真幸だという大胆な視点で書かれていた
思いきりの良さに思わず驚いてしまった。
阿倍仲麻呂をしたたかな政治家と捉えること自体には異論は無いが
ちょっとノリが軽すぎるかなと戸惑うようなところもあった。
ただスケールの大きな物語としてはさすがに読ませてくれたし
それなりに内容に深さもあった。
分量が多いしハードカバーしかまだ出ていないのであまり薦めしにくい本だが
こういうのが好きならちょっと毛色の違う歴史小説としてお薦めできる。

最後に読んだ感想を一言・・・
「俺もいつか麒麟のように翔べるだろう」

この本をamazonで見ちゃう

2000 1/5
小説、歴史
まろまろヒット率3

伊藤真 『伊藤真の商法入門』 日本評論社 1997

今晩から来年までスキーに行くのでこれが今年最後に読んだ本になる。
読書録を振り返って見てみると今年は一冊きっちりと読んだ本が52冊だった。
吉本プロジェクトや就職活動などで忙しかった去年よりもずっと読めたので
来年はきっと良いことがあるだろうと思いこんでいる、
らぶナベ@さぁ読書も終わったので、いざ妄想銀行白馬支店設立へ!?
(ゲレンデ妄想ファンドを創ってやろう(^^))

さて、本題の『伊藤真の商法入門』伊藤真著(日本評論社)1997年初版をば。
「どんなに馴染みが無くても3冊読めば理解は飛躍的にアップする」という
僕の勝手な読書理論の方針に添って読み終えた商法関連3冊目の本。
この本の前に民法と民事訴訟法はすでに3冊読み終えていたので
商法の入門は何の問題もなく読み通せた。
民法を基本にして取引の活性化と流通を重視するために
保護の色合いを薄めたのが商法だからだ。
そういう意味でおそらく六法の中ではもっとも危険な法律なんだろう。
法学部の人が見たら怒る表現だろうけどどちらかを重視したら
どっちかが軽視されるのが現実なんだから仕方ない(^^;)

読み終わって一番感じたことは結局は法律なんてものは
どんなに公平、厳格を建前にして強調したとしても
「どっちを優先させるのか?」に落ちつくという点だ。
原則と修正という柔軟性はあってもしょせんはルールでしかない。
最後は限りなく二者択一的な戦略的勝敗に集約される。
そういう視点で見ればどんなにややこしかったり
むつかしそうに見える法学理論や判例も楽に理解できる。
現実社会の物事を実際に扱うんだから対立する利害を
完璧に問題なく公平に裁くなんてこと自体が最初から無理。
もちろんそうなって当たり前なんだがこのことを理解せずに
奇麗な語句で飾られた建前論を頭から信じ込んで法学に接すると
かなりやばい事になるんだろうなっとあらためて感じた。
それは僕が法学のずっと前に政治学と歴史学に接していたから
そう感じるんだろうけど。(混じりっけ無しの理想家こそ実践で弊害を生む)

以下、チェックした箇所・・・
☆「合理化」(アクセル)と「適性化」(ブレーキ)の調和が
商法のテーマ→対立ベクトルの調整が法律全体のテーマ

☆倒産という言葉は法律上存在しない。
→倒産と破産とはまったく別の概念!

☆「ヤオハン・ジャパン」倒産の直接原因・・・
大量に発行した「転換社債」が不況のために株式に転換されずに
社債として償還されてしまい決定的な資本割れをおこしたため。
→株式には払込金の返還義務はないが社債は債務なので返還義務がある

☆資本制度の大原則・・・
「資本充実の原則」、「資本維持の原則」、「資本不変の原則」

☆手形における法律関係には手形関係(手形法)と原因関係(民法)の
「二本立ての法律関係」がある。

☆民法と商法との違い・・・
<法的利率>
民法→5%、商法→6%
<債権時効>
民法→10年、商法→5年(手形法→3年)
<支払免責>
民法→善意無過失、商法→善意無重過失

☆民法第93条から96条までの意思表示瑕疵に関する規定が
手形行為に適用されるかどうかの争いがある。
→取引の安全を図るために民法の原則を修正する

○商法ではまずどんな利益が対立しているかを理解することが最も重要。
→条文の趣旨を読みとること!

○範囲が広い商法の中で特に重点的なポイント・・・
<会社法>
株式会社→「資本制度」、「設立」、「株式」、「機関」
<有価証券法>
約束手形→「有価証券理論」、「振出」、「裏書」、「支払」
<商法総則・商行為>
商法総則→「商人」、「商号」、「商業使用人」、「商業登記」

○「資本金」とその会社が実際に持っている「財産」とは基本的に無関係。

○株式会社の出資者(社員)は「間接有限責任」しか負わないので
その会社の債権者を保護するために会社財産の確保が必要→「資本制度」

○「資本」は枠組み、「財産」は中身。

○純粋持ち株会社は独占禁止法改正で解禁された。

○商法上株式の払い戻しのことを「退社」と呼ぶ。
→「資本維持の原則」からこれは認められない。

○「株式譲渡自由の原則」の存在理由・・・
・会社にとって株主の個性は問題にはならないという「許容性」
・投資家にとって投下資本回収の唯一の方法だという「必要性」

○取締役は商法上の「忠実義務」の他に民法上の「善管注意義務」を負う。
→これは株主共同訴訟などで重要になる点

○取締役は「競合避止義務」、「利益相反取引規制」、「報酬決定の制限」
を受ける。(前の二つは取締役会の承認あれば可)

○会社の役職を現す社長、専務、常務などの言葉は商法上には無い。
法律上での役職は「取締役」、「代表取締役」、「監査役」しかない。
→日常用語とはまったく別の概念

○商法第254条2項が所有と経営の分離を表している。

○「変態設立事項」とは会社設立に関して定款に定めないと
効力が認められない「相対的記載事項」の一部。
→「現物出資」、「財産引受」、「設立費用」など

○商法で言う「信用の授受」とはお金の貸借りのこと。

○手形は信用授受の手段、小切手は単なる支払の手段。
→手形は振出した本人が支払う、小切手は支払を委託するだけ

○手形の裏書人の人数が増えれば増えるほど保証人=人的担保が増えるので
手形が流通していく上で支払がより確実になっいき理論上は
「流通促進の法技術」となる→ただし実務では「回り手形」として警戒される

○手形の債務がどの時点で発生するのかという「手形理論」では
「交付契約理論」と「創造理論」が対立している。
→手形事件の時には大きな焦点に、ただしどちらも「善意無重過失」で
取得した手形所持人は保護されるという結論は同じ

○手形関係と原因関係との文言・・・
・原因関係と併存するつもりで手形を振出せば「支払のために」
・そのうちどちらを先に行使してもいいならば「担保のために」
・原因関係上の権利を消滅させて振出すならば「支払に代えて」

○裏書きの効力・・・
・「権利移転的効力」
・「担保的効力」
・「資格授与的効力」

○「権利外観理論」とは善意の手形取得人を保護すべきとした
条文には書かれていない学説上の理論。

○振出人が支払を拒む事由には・・・
「物的抗弁」→すべての人に主張できる
「人的抗弁」→特定の人にだけ主張できる
・・・の二つある。

○手形取得人を保護する制度は「人的抗弁の制限」と「善意所得」の二つ。

この本をamazonで見ちゃう

1999 12/27
法学、商法
まろまろヒット率3