伊藤眞 『民事訴訟法』 有斐閣 2000(補訂)

サッカーオリンピック日本代表の要を担う中村俊輔は
何か確固たるポリシーのもとであの髪型をしているのか気になっている
らぶナベ@ずっと前からあのままだから・・・

さて、『民事訴訟法』[補訂版]伊藤眞著(有斐閣)2000年補訂第1版。
民事訴訟法研究の第一人者による体系書。
著者は同姓同名さらに同大学出身の予備校経営者とはまったくの別人。
民訴はこの著者の本と上田徹一郎の本とどちらにしようか
最後の最後まで悩んだが少し難解でも後々のためになるような気がする
こっちの本を購入・・・読み始めてちょっとだけ後悔(^^;
何しろバリバリの理論書なので他の本と比べても極端に事例紹介などの
具体例が少なく(刑訴の方が判例の紹介が多かった)
抽象的な表現を具体化するのに苦労した。
さらに入門者を想定していない高度な理論書らしく
ポイントや説明が一つの箇所にまとまっていないので
事前に民訴の入門書を3冊読んでいてもかなり要点をつかみむのに苦労した。
(この本を解説していたある人は「頭の良い人の文章とは大抵こういうもの」
ということを言っていたようだが確かに納得)
そして1冊単位で見れば僕が法律関係で読んだ本の中で
最も分量があったのでとにかく読むこと自体がかなり大変だった。
途中でこういう本は一通り流れをつかんで必要なら戻ってこようと開き直り、
読み進んだがチェック項目をまとめるのにもちょっと苦労した。
とにもかくこれで民訴、刑訴の両手続法は読み終えたことになる(^_^)

以下、チェック&要約・・・
<第1章 民事訴訟法への招待>
☆自力救済が許される範囲が極めて限られる理由はそこには
単に一方当事者の権利主張があるにすぎず何ら客観的根拠がないため
→ただし最近は事態の緊急性や手段の相当性などを考慮して
より拾い範囲で適法性を認めてゆく傾向にある(最判昭40.12.7)

☆解決内容の正当性を保障するための方策=中立的解決機関、正当な解決基準

○調停(民事調停・家事調停)における解決内容の正当性は
両当事者の自由意思に基づく合意→調停では解決基準に法を適用することは
要求されておらず条理に反しない限り法と異なった内容でも許される
→そのため効力には執行力は含まれるが既判力は含まれないとされる(民調16)

○調停と違って第三者である仲裁人の裁判に従う仲裁には
当事者が仲裁人の仲裁裁判に従う拘束力がある
→仲裁においてはあらかじめ仲裁契約の形で仲裁判断の拘束力について
当事者間の合意がなされているから(公催仲裁786)

○民事訴訟法は中立的紛争解決機関として裁判所が手続を主宰する、
紛争解決基準として実体法が適用される、
相手方である被告は応訴の意思に関わらず手続
=訴訟法関係に組み込まれるという点で調停・仲裁とは異なる

○非訟事件は権利義務の確定を目的としないので
要件事実認否の確定は必要ない
=そのため審理手続きを口頭弁論によって行う必要がないし
相対立する2当事者の存在も必要ない

☆非訟手続が憲法82条に反するかどうか→権利義務関係の存否そのものを
確定するためには訴訟手続によらなければならないが
権利義務が存在することを前提としてその具体的内容を形成することは
非訟手続でも許されるとされる(最大決昭35.7.6)

○付随手続=強制執行手続、民事保全手続、倒産処理手続
特別手続=督促手続、手形・小切手訴訟、少額訴訟、人事訴訟、行政訴訟

☆訴訟法は訴訟という大量現象を公平に規律しなければならない役割を担って
いるのでその解釈も当事者の個別的事情のみにとらわれることはできないが
一方で権利義務をめぐる当事者間の紛争に解決を与える役割もあり
公益性の名の下に当事者の利益が無視されてはならない
→具体的問題に関する法解釈にあたってはこの二つの要請=
「公益性」vs「紛争解決性」をどのように調和させるかが重要な判断要素

☆当事者間の紛争が訴訟の形をとって裁判所に持ち込まれた場合に
最初になすべきことは当事者間において何が真の争いかを発見すること
が重要=「争点整理」→争点が圧縮されれば当事者の合意が成立しやすくなる

○「効力規定」=その規定に違反する訴訟行為の効力が否定されるもの
(任意規定と強行規定それぞれある)
「訓示規定」=その違反が訴訟行為の効力に影響をもたない規定

☆判決に?おいてある法的結論が示されていてもそれが当該事件の解決に
とってのみ意味を持つものか、一般通用性を持つものかを考える必要がある
=「判例の射程」問題

<第2章 受訴裁判所>
○外国国家は民事裁判権に服しない=「主権免除」
→ただし国家の私法的行為については主権免除を認めない制限免除主義が通説

○国際裁判管轄とは民事裁判の対物的制約を具体化したものとされる

○事物管轄は原則として当事者の意思で変更ができない専属管轄ではないので
当事者間の合意(11条)や被告の応訴(12条)によって変更されることがある

○管轄に関しては「原告は被告の法廷に従う」のがローマ法以来の原則だが
現行法では大きな機能を果たしてはいない

○財産上の訴えは義務履行地に(5条1項)、不法行為の訴えは不法行為地に
(5条9項)裁判籍が認められる
→加害者とされる側が原告となる損害賠償債務不存在確認訴訟でも
不法行為地の裁判籍が適用される(東京地判昭40.5.27)

○原告が管轄違いの裁判所に訴えても被告がこれに対して異議を唱えずに
応訴すれば当該裁判所に管轄権を認めてもよい(12条)

<第3章 当事者>
○自然人は死亡で法人は解散によってその当事者能力は消滅するが
解散法人も清算の目的範囲内では存続するものとみなされるから(民73条)
清算の結了までは当事者能力が残存する
(法人の機関には当事者能力は認められない)

○地方公共団体には当事者能力が認められる(自治21条)が
行政庁には民事訴訟での当事者能力は認められない
(ただし行政訴訟では当事者能力が認められる)

○「法人格なき社団」の要件=対内的独立性、財産的独立性、
対外的独立性、内部組織性(最判昭39.10.15)
→実体法上は民法の組合であっても訴訟法上は法人格なき社団として
当事者能力が認められる(大判昭10.5.28)

○当事者能力が認められる者は訴訟上の請求の主体or
その相手方になりうるが訴訟行為の結果によって
重大な利益・不利益を受けるので法はさらに「訴訟能力」を
一定の者に限って認めている→そのため当事者もしくは
補助参加人としての地位を持たない者は訴訟能力が要求されない(民102)

○未成年者と成年被後見人は訴訟無能力者なので
法定代理人によってのみ訴訟行為をすることが許される(31条)
被保佐人と被補助人は彼らの同意もしくは
これに代わる家庭裁判所の許可が必要(民12、16条)

○人事法律関係では本人の意思が尊重されることを考慮して
訴訟行為について能力制限を受けた者であっても
法定代理人や保佐人等の同意を得なくても訴訟行為が認められる(人訴3条)

○本人たる当事者のために訴訟代理人が複数存在する場合であっても
それぞれの代理人が単独で当事者を代理する権限を有するので
相手方や裁判所の訴訟行為も一人に対してなせば足りる
=「個別代理の原則」(56条)

<第4章 訴え>
☆訴え=裁判所に対する審判の要求=「訴訟行為」
審判の対象=被告に対する請求=「訴訟物」
→二つは相手方が異なる

○訴えの類型の中で「確認訴訟」がもっとも基本的な類型
(どの訴訟も確認判決的性質を内包しているため)

○「形式的形成の訴え」は権利関係の確定を目的としないので
その実質は非訟事件(最決昭43.2.22)
→法律関係の重要性などの政策的理由から訴訟手続になっている
→処分権主義&弁論主義は妥当しない=境界確定の訴えなど(大連判大12.6.2)

☆「訴訟要件」=訴訟行為の有効性、当事者の実存&当事者能力、
訴訟能力&訴訟代理権、裁判権&管轄権、訴訟費用の担保提供、
訴えの利益&当事者適格、不起訴の合意&仲裁契約の不存在、
二重起訴の不存在

☆訴えの利益=「権利保護の資格」&「権利保護の利益」

☆権利保護の資格=「法律上の争訟」
→判例が定める法律上の争訟=訴訟物が当事者間の具体的権利義務
または法律関係とみなされること(最大判昭27.10.8)、
訴訟物についての攻撃防御方法が法令の適用に適するもの(最判昭56.4.7)

○近年多発している宗教団体の内部紛争に関して
住職の地位確認を求める訴えはそれが宗教上の地位であり
具体的権利義務または法律関係にあたらないから権利保護の資格を欠くが
住職の地位を前提とする宗教法人の代表役員の地位の確認の訴えは
訴訟物が法律上の地位となるから認められるとされる(最判昭55.1.11)

☆権利保護の利益=訴えの提起の必要性&許容性

○将来の給付訴えの利益が認められる要件=
履行期が到来してもその履行が合理的に期待できない事情の存在、
もしくは給付の?性質から履行期の到来期において即時の給付がなされないと
債務の本旨に反する結果となるか原告が著しい損害を蒙る場合

○確認訴訟の対象となりうる訴訟物も権利関係に限られるのが原則だが
過去の事実関係であってもその確認が現在の法律関係をめぐる
紛争の抜本的解決に適切かつ不可欠である場合には確認の対象となる
→国籍訴訟など(最大判昭32.7.20)

○請求の内容が一般的に裁判所による審判に適するものかどうかが
権利保護の資格、
当事者と訴訟物との関係について裁判所が本案判決をなすべきかどうか
当事者適格

○訴訟物たる権利関係の主体に認められる当事者適格の例外が訴訟担当
→担当者自身が当事者となる点で訴訟代理とは違う
(職務上の当事者、選定当事者など)

☆給付訴訟の訴訟物に関して訴訟物論争がある=同一の社会生活関係から
占有権に基づく返還請求権と所有権に基づく返還請求権の二つが発生する場合
実体法上の請求権の個数に着目して二つの訴訟物が
成立するとするのが旧訴訟物理論(通説・判例)
→紛争の一回的解決という点からは新訴訟物理論が優れているように見えるが
裁判所の釈明権行使、信義則による遮断効の拡張、
二重起訴の範囲の拡張などを使用すれば旧訴訟物理論でも不利益はなく
民202条1項に新訴訟物理論は接触する

○処分権主義は私的自治をその根幹としているので私的自治が制限される
権利関係(人事訴訟、会社関係訴訟)では処分権主義も制限されることがある
また私人間の権利関係が訴訟物とならない形式的形成訴訟でも制限されうる

☆一部請求で後遺症の損害賠償が問題となることがあるが債権全額を前訴で
明らかにすることは不可能であるので一部請求の考えにはなじまない
→後遺症に基づく損害賠償請求権は同一不法行為に基づくものではあるが
別個の被侵害利益によるものとして実体法上別の権利であるから
むしろ前訴の訴訟物とは別の訴訟物となり何ら前訴判決による訴訟法上の
制限&結果を受けるべきではないと考えるべき(最判昭43.4.11)

<第5章 訴訟の審理>
☆訴訟指揮権=審理の進行に関する行為、審理の整序に関する行為、
期日における当事者の訴訟行為の整理に関する行為、
訴訟関係を明瞭にするための措置

☆口頭弁論の進行=訴訟物たる権利関係の存否の判断に
必要な事実を裁判所の判断資料とするための手続=「事実主張」
→これらの事実のうち裁判所の判断の対象となるべき事実を確定する手続
=「争点整理」・・・この二つを合わせて「弁論」
→争いとなる事実についての証拠申出&それについての証拠調べ
・・・現行法は「適時提出主義」&「証拠結合主義」の下に
三つの手続を段階的に区別せず一体のものとして進めることを原則としている

○準備的口頭弁論(164条)と違って弁論準備手続(168、169条)は
傍聴の可能性は認められているものの公開を要しない期日で行われる
→争点整理は弁論準備手続が原則だが社会的関心が高く
争点整理自体について広く一般の傍聴を認めることが合理的な事件の場合には
準備的口頭弁論による争点整理が適するとされる

☆適時提出主義が原則だが「時機に遅れた攻撃防御方法」は却下される
→その要件=時機に遅れて提出されたものであること、
それが当事者の故意または過失にもとづくものであること、
それについての審理によって訴訟の完結が遅延すること(157条)
→攻撃防御方法には事実主張、証拠申出だけでなく否認や自白の撤回など
それにもとづいて審理の必要を生じさせる当事者の訴訟行為も含む

☆「弁論主義」=訴訟物たる権利関係の基礎をなす事実の確定に必要な
裁判資料を当事者の権能と責任に委ねる原則(159条、179条)
第1:主要事実(権利関係を直接に基礎づける事実)については
当事者による主張がなされない限り裁判所はこれを判決の基礎にはできない
第2:主要事実について当事者の自白の拘束力が認められる
第3:事実認定の基礎となる証拠は当事者が申し出たものに限る
(職権証拠調べの禁止)
→ただし一定の事項については弁論主義と対立する概念である
「職権探知主義」&「職権調査主義」が適用される

○事実&証拠に関わるものが「弁論主義」、
審判の対象の定立&処分に関わるものが「処分権主義」

☆裁判所は訴訟関係を明瞭にするために事実上&法律上の事項に関して
当事者に問いを発しまたは立証を促すことができる=「釈明権」(149条1項)
→当事者は裁判所に対して釈明権の行使を求めることができる=
「求問権」(149条3項)上に裁判所が合理的な範囲で釈明権の行使を
怠った場合には釈明義務違反として上告理由が認められる

○別の事実が独立に法律効果の変動につながるかどうかが
「抗弁」と「否認」との違い

☆複数の主張の順序に当事者が条件を付ける場合には
それが訴訟手続の安定を害する不合理なものでない限り
いずれも訴訟資料として扱われる=「仮定的主張」、「仮定的抗弁」
(原告がその所有権の取得原因として売買契約の存在を主張して
これが認められないときには取得時効の完成を主張するのが仮定的主張、
賃金返還請求訴訟で被告が第1に金銭受領事実を否認し
予備的に弁済を主張するのが仮定的抗弁)

○私法行為には信義則(民1条2項)、権利濫用禁止原則(民1条3項)が適用される
→当事者の訴訟行為についても信義誠実訴訟追行義務を課したのが2条
(最判昭34.3.26、最判昭41.7.14など)=訴訟上の禁反言、訴訟上の権能の失効

○取調べの対象となる有形物が「証拠方法」、
取調べの結果として得られるのが「判断資料」、
証拠資料の中で裁判官の心証形成の原因となるものが「証拠原因」

☆因果関係の証明について判例の判断=「特定の事実が特定の結果発生を
招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、
その判定は通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を
持ちうるものであることを必要としかつそれで足りる」(最判昭50.10.24)

○自白の撤回が認められる場合=第1に相手方の同意がある場合、
第2に自白が相手方または第三者による刑事上罰すべき行為によって
おこなわれた場合、第3に上記のいずれの要件に合致しない場合であっても
自白が錯誤に基づいてなされた場合→錯誤を主張するためにはその前提として
自白事実が真実に反することの証明が要求される
(自白当事者は本来自己が証明責任を負担していなかった事実について
錯誤の内容として証明責任を負担せざるを得ない)
さらに過失の有無は問題とならない(最判昭41.12.6)

☆肯認的争点決定主義に基づく「擬制自白」(159条)の対象となるのは
自白の対象と同じく弁論主義に服する主要事実に限定される
→ただし権利自白についても自白と同じく
その中に含まれる事実に関する擬制自白が成立しうる

☆民訴は刑訴と違って伝聞証言と違法収集証拠に対しての制限が緩やか
=反社会的手段を用いて採集された証拠については証拠能力が
否定されることを前提としながらその程度に至らないとして
無断録音テープの証拠能力を肯定した判例がある(東京高判52.7.15)

☆損害賠償請求の証明責任は損害賠償請求権を主張する当事者が負うが
証明度の特例として確信に達していない時であっても
相当な損害額を裁判所が認定できる(248条)=「証明度軽減法理」
→自由心証主義の例外(特許法105条の3など)

○保全事由(証拠保全の要件)=第1に証拠方法の客観的性質から
将来における証拠調べが困難となる事情、
第2に証拠方法の支配者の行為という主観的事情によって
得られるべき証拠資料の取得が不可能になる場合(234条)
→どの程度の具体性が要求されるかについて医師のカルテなどで議論がある

<第6章 訴訟の終了>
○訴えの取下げによって訴えの提起に基づく訴訟関係や訴訟行為は
遡及的に消滅する(262条1項)

○本案の終局判決言渡し後に訴えを取り下げた者は
同一の訴えであれば再訴が禁止される(262条2項)
→ただし訴えの取下げ時と比較して後訴の提起時に訴えの提起を必要とする
合理的事情が存在すれば同一の訴えとはみなされない(最判昭52.7.19)

☆訴訟上の和解のメリット=原告か被告かの一刀両断的判断ではなく
「条理・実情にかなった解決」が与えられる
→条理・実情にかなった解決とは事実関係について証明責任による判断を
避けるという意味でも、法的基準を条理によって
修正するという意味でも用いられる

☆数個の請求について一個の判決がなされ一部の請求についてのみ
不服申立てがなされた時でも確定遮断効は判決全体について生じる
=「上訴不可分の原則」(大判昭6.3.31)

○定期金賠償を命じた確定判決について後遺症の程度など口頭弁論終結時に
損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じたことを理由として
当事者が確定判決の変更を求める訴えを提起することができる(117条)

○既判力の目的は紛争解決基準の安定、当事者に対する手続保障(114条)
→既判力の時的限界または基準時は事実審の口頭弁論終結時

○取消の主張は既判力によって遮断される(最判昭36.12.12)、
解除権も基準時前にいつでも解除権行使が期待できた以上
解除の効果を主張することは既判力によって遮断される

○確定判決?中の判断のうち主文に包含されるもののみが既判力を有するのが
原則(114条1項)→特定された訴訟物は実体法上の権利関係であるから
実体法上の属性=法的性質も既判力によって確定される
→これに対して判決理由中の判断そのものには
114条2項が規定する相殺の抗弁の場合を除いて既判力が認められない

○「仮執行宣言」の要件=請求が財産上のものであり
その必要性が認められる場合(259条)

○仮執行宣言はその宣言を変更する判決または本案判決自体が
変更されることによってその限度で効力を失う(260条)
→仮執行宣言の効力が消滅すれば仮執行宣言によって
被告が給付したものの返還やそれによって被告が受けた損害の賠償を
裁判所が原告に命じなければならない
(損害賠償責任については判例&通説は無過失責任説を採用)

○155条2項によって弁護士の付添いが命じられた場合の他は
弁護士費用は当事者費用には含まれない(民訴費2条)
→その根拠は弁護士強制主義が採用されていないためだが議論が続いている

○訴訟費用に関する担保提供の方法や手続は他の法令によって
訴えの提起について立てるべき担保に準用される(81条)
→株主総会決議取消の訴え(商249条)、株主代表訴訟(商267条)など

○経済的余裕の無い当事者には裁判費用などの支払いを猶予し
その者が勝訴した時には訴訟費用の負担を命じられた敗訴当事者から
国が費用を取り立てる制度=「訴訟救助」は法人も対象となる

<第8章 多数当事者訴訟>
○現在の判例&学説は特別な補助参加人の地位について
「共同訴訟的補助参加」という特例を承認している
→共同訴訟的補助参加人の地位=当事者の訴訟行為と接触しても
補助参加人の訴訟行為が主たる当事者に
有利なものであるときはその効力が認められ、
補助参加人の上訴期間が主たる当事者とは独立に計算される
EX.破産管財人を当事者とする訴訟に参加する破産者、
債権者代位訴訟に参加する債務者など(この地位の特例以外の補助参加の利益、
補助参加の手続、裁判の効力などはすべて通常の補助参加の場合と共通)

○当事者が補助参加の利益を持つ者に訴訟係属の事実を通知する
「訴訟告知」は被告知者が告知側に補助参加しなかった場合に
被告知者は参加できた時に参加しなかったものとみなされ
参加的効力によって拘束される機能がある(53条)

<第9章 上訴>
○上訴制度の歴史は手続保障の視点から上訴の機会を保障するものと
正義の迅速な実現の視点から上訴を制限するものとの衝突によって動かされた
→手形・小切手訴訟や少額訴訟では不服申立てが異議に限られ
控訴が認められていないこと(356条)、最高裁が上告審となるときは
法令違反が絶対的上告理由とはならないこと(312条)などは
この二つの対立を考慮したもの

○仮執行に基づく執行力は上訴による確定遮断効の影響は受けないが
抗告に関しては即時抗告についてのみ執行停止の効力が認められる(334条)

○控訴審=事実認定の不当or法令適用の違背→「事実審」
上告審=法令適用の違背に限られる→「法律審」

○控訴による不服は訴えについての第一審判決の判断を対象とするものだから
第一審判決の理由が不当であってもその結論において正当である時には
控訴棄却の判決がなされる(302条1項)

☆最高裁への上告理由は憲法違反or絶対的上告理由に限られるが
その他に上告受理申立理由も定められている(318条1項)
→日本は英米と違って判例の一般的拘束力は認められていないので
下級審が上級審の判例に示された法例解釈と異なった判断を
示すこともありうるので下級審判決に対して判例の解釈を
維持すべきか変更すべきかを判断する必要があるため
(判例違反が法令解釈に関する重要な事項を含むのはそのため)
→判例違反がない場合でも最高裁として判断を示す必要があれば
上告受理申立理由が認められる

<第10章 再審>
○民訴でも確定終局判決に対して10の事由を定めて再審

この本をamazonで見ちゃう

2000 8/29
法学、民事訴訟法
まろまろヒット率3

白取祐司 『刑事訴訟法』 日本評論社 1999

最近、僕の人生の半分は勘違いと妄想で構成されていたことに気がついたけど
後戻りができないことにも気がついてしまってコマッチングならぶナベっす。

さてさて、『刑事訴訟法』白取祐司著(日本評論社)1999年初版。
以前、法学の基本書を紹介するHomePageで絶賛されていたので
思わず購入して読んでみることにした一冊(少年の様に影響されやすい体質)。
確かに法学の本としてはかなり読みやすい文章だし視点も明確だ。
だいたい訴訟法の本は読んでいて退屈だったりするけれど
この本は突っ込んだり関心したりできたのでなかなかに楽しめた。
例えば「被告人に自分は真犯人だと打ち明けられても弁護人が
無罪主張することは許される」と断言している部分には違和感を感じた。
その理由は当事者主義的訴訟構造の下では真実とはあくまで擬制だから
ということらしいが(詳しくは以下のチェック項目で)ちょっと説得力が無い。
でも『評決のとき』のような真実と事実がぶつかる時には
こういう議論が鮮明化してくるのだろう。
また、DNA鑑定に対して司法が妙に慎重な態度を取っている理由は
最高裁で死刑が確定されたが再審で一転無罪になったという
とんでもない事件の争点が当時それほど信頼性が無かった
血液型鑑定に頼っていたという実にこわい事例があるかららしい。

以下、チェックした部分・・・
<はしがき>
☆刑事訴訟法学の魅力は個々の問題に内在する対抗軸、
すなわち手続主体間の利害・緊張関係が生み出すダイナミズムにある
・・・いわゆる論点と言われるものもその大半は
真実発見(犯人必罰)と適正手続との緊張関係を凝縮・反映したもの

<序章>
☆訴訟法的な考察方法に従う限り「真犯人」なるものはいない
(いるのは犯人らしき「被疑者」、「被告人」にすぎないし
「無実の者」も観念的なものにすぎない)
→刑事手続の目的は真犯人の発見ではなく無実の者を処罰しないところにある

☆刑事訴訟法は刑法と比べて手続法としての独特な思考方式に立って
問題を解決しようとする点に特徴がある
→実体法が二次元的な発想だとしたら
訴訟法は三次元、四次元の発想が要求される

☆刑事訴訟法は他の法分野と比べて理論(学説)と実務の距離が
大きい分野だと言われているが実務と言った場合に
何を持って実務と言っているのかに注意する必要がある
→実務と判例は常に一致するわけではない

<第1章 総説>
○自然人は死亡によって法人は解散によって当事者能力を欠く(339条1項4号)
→ただし死後の再審は可能

☆弁護人が真犯人だと打ち明けられた被告人のために
証拠不十分を突いて無罪主張することは許される
→当事者主義の訴訟構造では当事者が証拠によって
合理的疑いを超える証明を果たした事実のみが「真実」(擬制)であり、
客観的真実なるものは訴訟では始めから放棄しているから
←どうも説得力が無いぞ!

○一人の検察官が行った事務は独立の官庁が行ったことと同じ効果がある
=「検察官同一体の原則」

○裁判官への忌避申立(21条1項)はまず認容される可能性はない
←チッソ川本事件(最決昭48.10.8)

☆被害者の意思を手続に反映させるなど被害者保護の気運が高まっているが
被告人は「被害者」に対比される「加害者」ではなく、
加害者か否かを確認される判決が下るまでは
あくまで「無罪の推定」を受けることに注意が必要

○裁判所自ら訴訟を開始する原理=「糾問主義」=「職権主義」、
裁判所以外の者が訴訟を開始する原理=「弾劾主義」=「当事者主義」

○適正手続の保障(憲31条)で最も重要なものは「違法収集証拠排除法則」
(最判昭53.9.7)

<第2章 捜査>
○捜査の原則=任意捜査の原則、強制処分法定主義、捜査比例の原則
(以上197条)、関係者名誉保護の原則(196条)、物証中心主義

○任意捜査と強制捜査の区別に関するリーディングケース「最決昭51.3.16」
=任意捜査と強制捜査の間に「強制処分の程度にいたらない有形力の行使」
という範疇を認めて、必要性、緊急性、具体的状況のもとでの相当性
の要件をみたせば認容されると判示した
(「個人の意思の制圧」と「身体等の制約」があることが強制処分の要件)

○逮捕・勾留中の被疑者が余罪の取調中に自白しても
自首に当たらないとするのが判例(東高判昭55.12.8)

○4夜に渡る任意の身体的拘束を利用した取調べを任意捜査として認めたのが
「グリーンマンション事件」上告審判決(最判昭59.2.29)

○カメラの隠し撮りを任意捜査として認めたのが
「京都府学連事件」最高裁大法廷判決(最大判昭44.12.24)

○おとり捜査の違法性に関しては「犯意誘発型」、「機会提供型」
に分けて判断する(最決平8.10.18)

○コントロールド・デリバリー(controled delivery)は麻薬特例法3条、
4条によって新設された新しい捜査方法で「泳がせ捜査」を認める

○現行法は「検証について準抗告を認めていない」が、
この押収と検証の伝統的な区別は情報に対する重要性が高まってきている
現代の状況に合致しなくなってきている(逮捕にも認められていない)

○捜査・差押時における被疑者・弁護人の立ち会い権は認められていない
(222条1項は113条を不準用)

○専門家に鑑定の嘱託を行う「嘱託鑑定」(223条1項)は
あくまでも任意捜査なので直接強制はできない

○逮捕の現場で差押え、捜査、検証することができると定めた
220条1項の解釈をめぐっては合理説(相当説)が判例(最大判昭36.6.7)
→憲35条との整合性で批判を浴びている

☆強制採尿問題(最決昭55.10.23)に関して判例の法形成機能を
肯定的に評価する向きもあるが強制処分法定主義の性格を考えると、
立法の予想しない人権侵害を伴う強制処分を判例で創造することは問題
→ここらへんが民事訴訟法との大きな違い!

○逮捕の「相当な」理由(199条1項)とは被告人を有罪にするだけの嫌疑より
低くても良いが捜査・差押えの要件としてよりは高い嫌疑だとされる

○ロッキード事件の際に捜査段階で「刑事免責(Immunity)」が用いられたが
最高裁は刑事免責の適法性を否定(最大判平7.2.22)

<第3章 公訴・公判>
○国家訴追主義+起訴独占主義=「検察官起訴専権主義」
(比較法的にも珍しい制度)

○検察側の証拠開示を事前に弁護側が求める条件として
「証拠調べの段階であること、具体的必要性があること、
防御のために特に重要であること、罪証隠滅・証人威迫のおそれがないこと」
を判示した「最決昭44.4.25」以降は証拠の事前全面開示について
判例は沈黙している

○訴因変更については訴因の事実的側面を重視して
重要な点で事実に変化があれば構成要件が同一でも訴因の同一性はなく、
訴因変更が必要になるとする「事実記載説」が判例・通説(×法律構成説)

☆公訴提起による「時効の停止効」は公訴事実の同一性に及ぶとするのが
判例・通説

○当事者主義+直接主義+口頭主義=「口頭弁論主義」

<第4章 証拠>
○自由心証主義→適正な事実認定の原則→訴因について確信にいたらなければ
端的に無罪を言い渡す→灰色無罪は問題とならない

☆「心証の程度」は「疑わしきは被告人の利益に」の原則が貫かれるので
有罪判決の際には「反対事実の存在の可能性を残さないほどの確実性を
志向した上での”犯罪の証明は十分”であるとの確信的な判断に
基づくものでなければならない」とされる(最判昭48.12.13)
→大陸法と英米法の折衷的な表現

☆証拠の「関連性」(relevancy)とは要衝事実の存否を推認しうる
蓋然性(probability)のこと→これを欠くと証拠能力が否定される

☆司法がDNA鑑定に未だ慎重な理由は十分な関連性(証明力)を持たない
血液型鑑定によって少なくない誤判(再審無罪)が生まれたため
(これが自然的関連性のない科学的証拠の許容性=証拠能力を否定する根拠)

☆違法収集証拠排除法則(Exclusionary Rule)が適用されるには
まず「重大な違法」があり証拠を認容することが「相当でない場合」
という非常に限定された条件下のもとでのみ可能=「最決昭53.9.7」
(捜査官が主観的に令状主義潜脱の意図を持って始めて違法と言えるなど)

○自白の証明力の注意則(判断基準)=客観的証拠との一致、
秘密の暴露、臨場感体験供述の有無、自白内容の矛盾・変転
→この注意則はかえって間違った判断を導く可能性があるので注意が必要

☆共犯者の自白にも補強証拠が必要かについては憲38条3項の
「本人の自白」に共犯者の自白も含まれるのかという問題になる
→含めずに補強証拠を不要とする「消極説」が判例
=「練馬事件」大法廷判決(最大決昭33.5.28)

☆伝聞法則の理想(320条)は現実によって大きく裏切られている
→現行法自体が伝聞法則の例外を多く認めているため(321条以下)
→特に検面調書という捜査書類を伝聞の例外としたので
結果として公判の形骸化の要因となっているとされる

☆伝聞法則の例外を認める要件=
反対尋問に代わる客観的担保がある場合に限られなければならない
「信用性の情況的保障」(特信情況)、
一定の伝聞証拠を使用する特別の必要性がなければならない「必要性」
→この2つの原理が厳格に求められる

☆相手方の同意を得た「同意書面」(326条)を伝聞証拠の例外と認めるのは
特信情況、必要性の2つの原理では説明できない例外であり、
これに当てはまるときは他の例外事由に当たるかの吟味も省略できるという
伝聞法則不適用の一種

☆伝聞証拠であっても被告人・証人等の供述の証明力を争う
「弾劾証拠」として用いる場合には例外として証拠能力が認められる(328条)
→ただし自己矛盾の供述(同一人の不一致供述)に限る限定説が通説

<第5章 裁判と救済手続>
☆A事実とB事実のいずれかの事実が存在することについては
合理的疑いを超える確信が持てるものの、
そのどちらかについての確信が持てない時=「択一的認定」の問題
→二つのうち少なくとも軽い事実であることは確かなのだから
そのうち軽い方の事実で有罪判定を下す(最決昭33.7.22)
→ただし無罪の推定の原則に接触することでもあるので無罪判定もある

○一事不再理効の及ぶ範囲=被告人と裁判を言い渡した国家の間のみ生じる
主観的範囲(別の公判で共犯者に矛盾した判決が言い渡されることもある)と、
公訴事実の同一性(312条1項)の客観的範囲で再訴は禁止される

○上訴をするためには「上訴の利益」が必要とされる(最決昭37.9.18)

☆原審の死刑判決に対して控訴したがその後に自ら取り下げたために
死刑が確定してしまった事例で、この取り下げが有効か否かについて
「死刑判決宣告の衝撃及び公判審理の重圧に伴う精神的苦痛」によって
個別的訴訟能力を欠いていたとして本人の上訴取り下げは無効と判示した
「最決平7.6.28」は死刑確定から被告人を救済したユニークな事例

○上訴審の破棄判決の下級審への拘束力は原判決に対する消極的否定的判断
(原判決認定の事実は存在しないなどの破棄の直接理由)についてのみ
生じるのであって積極的肯定的判断(その判断を裏付けるアリバイの存在など)
は拘束しない(最判昭43.10.25)

☆控訴審が職権調査の上で直接に攻防対象になっていない部分を
有罪判定することは許されない=「攻防対象論」(最大判昭46.3.24)
→当事者主義のためと不利益変更禁止のため

☆絶対的控訴理由(377条、378条)と相対的控訴理由(379条)との違いは
手続違反が判決に影響を及ぼしたことの立証を要するかどうかの差

○上告審の機能=違憲審査機能、法令解釈統一機能、具体的救済機能

○「二俣事件」(最判昭28.11.27)以降、「事実誤認の疑い」が
上告理由として認められた(411条の職権破棄)

○再審請求人のクリアすべき基準で
「確定判決における事実認定につき合理的疑いを生じしめれば足りる」
として再審の道を開いたのが「白鳥決定」(最決昭50.5.20)

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2000 8/22
法学、刑事訴訟法
まろまろヒット率4

前田雅英 『刑法総論講義』 東京大学出版社 1998(第3版)

これで憲法・民法・刑法の基本三法すべての体系書を一通り
読み終えたことになる、らぶナベっす(リーガルなフェチ化進行中)

さて、『刑法総論講義』[第3版]前田雅英著(東京大学出版社)1998年第3版。
同じ著者が書いた『刑法各論講義』に続いて読んだ総論についての体系書。
総論を読んで改めて思ったが刑法は議論のための議論をしている感じがする。
人の命を奪うほどの刑罰を扱うのだからある程度は普遍的な方程式は
必要だろうがそれにかなりこだわりすぎているように思える。
もともと人間がすることに対して処罰を加えるんだから
一律的な方式を当てはめることは本質的に限界があるはず。
(実際に刑法の中には形式的理論では説明が苦しい部分が多くある)
その前提の上で議論していかないと現実と隔離した議論が
延々と続いてしまう、そういう点では民法の方がずっと大人に感じる。
最近、具体例である刑法各論が見直されてきたというのは
当然といえば当然の流れだろう。
著者も実質的という言葉を使ってこの方向性を強調しているが
まだまだ足りないと思う。抽象的な議論に足を取られ過ぎないことも大切。

<序章>
☆犯罪の定義=「その国の国民が刑罰を使ってまで
守ろうとする利益を侵害する行為」
=刑罰は副作用の強い薬品のようなものなので他の手段で
犯罪防止が図れるならばなるべく用いるべきではなく、
効果が期待できない場合も用いるべきではない

○犯罪には自然科学が探求するような本質は存在しない→
刑法学は基本的に犯罪をどう設定するのが国民の利益に通じるか、
国民の意識にかなうかを考察する学問

○具体的な犯罪行為を確定する「犯罪論」と犯罪に対する効果としての
刑罰を論じる「刑罰論」は表裏の関係にある

○行刑法に犯罪学を加えたものを「刑事政策学」
→刑法、刑事訴訟法、刑事政策学を「全刑法学」と呼ぶ

☆刑法の機能=「規制的機能」、「保護的機能」、「保障的機能」

☆戦前の反省から刑罰法規を形式的に解釈して恣意的刑罰権の運用を防止する
形式的犯罪論=「刑罰謙抑主義」が戦後の主流だったが徐々に
「処罰に値するか否か」に注目する「実質的犯罪論」が台頭してきている

☆日本の刑法典の犯罪の類型が包括的で条文自体が少ないという特徴は
法解釈の裁量の幅が広いことを意味する=罪刑法定主義の枠内であっても
判例が法規範性を持たざるを得ない要因が存在している(日本刑法最大の特徴)

☆犯罪は「それ自体の悪(mala inse)」とされた自然犯と
「禁じられた悪(mala prohibita)」とされた法定犯に分けられることもあるが
両者の差は質的なものでなく量的なものに過ぎない

☆通常の公判手続で有罪を言い渡される被告人の数は認知件数と比べると
かなり少ないが(起訴率自体も半数)、その分公判手続での無罪率が
極端に少ないのが日本の刑事司法最大の特徴
←刑事事件の処理を刑罰を科すことの有無という通常の流れから
離脱させて処理することを「ディバージョン」

<第1章 刑法理論の発展>
○犯罪を「構成要件に該当し、違法で、有責な行為」と
三分説で定義したのはベーリング

☆旧派刑法学と新派刑法学の違い・・・
・旧派刑法学
フォイエルバッハ、ヘーゲル、小野清一郎
応報刑論=刑罰と保安処分は峻別される二元主義
客観主義
   vs
・新派刑法学
リスト、ベーリング、牧野英一
目的刑論=刑罰と保安処分は一体化する一元主義
主観主義
→ドイツ刑法学を基盤に日本の刑法学は
新派理論と旧派理論の対立を軸に発展してきた

☆現在でも刑罰論は応報刑論と目的刑論との対立から整理すべき=
「犯罪が起こったから刑を科す」vs「犯罪が起こらないように刑を科す」
(主要な対立点は犯罪行為における「自由意思」を承認するか否か)
→通説は折衷的な「相対的応報刑論」=「刑罰は犯罪結果に対する応報であり
犯罪予防の効果も期待できるから正当化される」

☆違法性は客観的に判断し、責任は主観的に判断する

<第2章 犯罪論の基本構造>
○法的安定性の要請が強い点が民法と比較した時の刑法最大の特徴
→安定性を求めるならば形式理論が最も適しているとされる

○犯罪論に求められる要件・・・
処罰に値するだけの害悪の存在すること(違法性)、
行為者にその行為に対する非難が可能であること(責任)

○法益侵害説=結果無価値論、法規範違反説=行為無価値論
→違法性の根拠を客観的なものに限定するか否かの争い

☆違法性阻却事由判断とは「可罰的法益侵害を超える利益の有無」

<第3章 罪刑法定主義と刑法解釈>
○罪刑法定主義は類推解釈の禁止が要請されるがあまりにも厳格な解釈は
妥当性を欠く→刑法各論の役割の大部分はこの類推解釈の禁止原則が
どの程度まで厳格に追及されるかに答えること

○合憲性を争う際に用いられる「明確性の理論」は法規それ自体の明確性を
問う理論だが判例は不明確の故に違法だとする主張に対して
法規が一見不明確に見えても「一定の解釈を行えば」明確となるという
判断を下すことが多い(アメリカやドイツでもみられる)
=不当な法規自体を違憲無効とするのではなく法文に限定解釈を
加えることによってそれを合憲とする「合憲的限定解釈」が用いられる
→影響の広がりと混乱を考えると法規そのものの違憲無効という
伝家の宝刀はできる限り抜くべきではないため

☆憲法学者は法令自体を違憲無効とすることについて抵抗感が少ない
=裁判官が実質的な立法活動を行うことは慎むべきであるという
権力分立原理論が強く意識されている
一方、刑法解釈学では合憲で合理的な処罰範囲を設定するには
どのように実質的に解釈すればよいのかという形で議論が展開される
(解釈学のためその対象となる法文自体の違憲性という問題意識は少ない)

○類推解釈は禁止されているが拡張解釈は許容されるとされる(最決平8.3.19)

☆刑法解釈の特色を論じる際に援用されるのが電気窃盗判例(大判明36.5.21)
→条文解釈として不合理なものはやはり罪刑法定主義の観点から
構成要件該当性を否定するが可能な限り具体的該当性を考慮して
柔軟な解釈をおこなうのが日本の刑法解釈の特色
=権利行使と財産犯論や共謀共同正犯論でも用いられる(最判平8.2.8)

○日本の刑法は「属地主義」(1条1項)を採用しているが日本国民の
国外犯については犯罪地の内外を問わずに刑法の適用を認める
「属人主義」を適用する(3条)

<第4章 客観的構成要件>
○客観的構成要件は違法行為の類型なので構成要件に該当する行為は
正当化事由(違法性阻却事由)が存在しない限り違法
→客観的構成要件の最も重要な構成要素は「結果」と「行為」

○一定の身分を有する場合のみ処罰するのが「真正身分犯」(賄賂罪など)
一定の身分を有する場合を重く処罰するのが「不真正身分犯」
(業務上過失致死傷害罪など)

☆刑法典は主体を自然人である個人を対象にしてきたが最近法人自体の
責任を問うべきであるという考え方が有力視されてきている(最判昭40.3.26)
←現在認められている法人処罰はあくまで個人を処罰した場合に
併せて事業主を処罰する「両罰規定」にすぎない

○軽微犯についての無罪判例は刑事司法システムの中で微罪処分や
起訴猶予によってふるい落とされるので実際上は非常に少ない

☆意識不明の重傷者を勝手に手術して治療する行為は「推定的同意」
として論じられる問題=緊急避難もしくはそれに準じる要件が
必要とされる(許された危険概念が使われることもある)

☆刑法での「行為」=「意思に基づく身体の動静」

○不作為の真正身分犯→「命令規範違反」
不作為の不真正身分犯→「禁止規範違反」
=不真正身分犯を罰するには「作為との等価値性」が求められる

○不作為とは絶対的な無為ではなく「一定の期待された作為をしないこと」

○犯罪論の対立が最も鮮明となるのが未遂の処罰範囲

☆中止未遂(43条後段)の要件には「結果発生防止の努力」が必要とされる

☆因果関係の相当性の判断基準=実行行為に存する結果発生の確率の大小、
介在事情の異常性の大小、介在事情の結果への寄与の大小

○因果関係の相当性判断について判例は「あれなければこれなし」の条件説を
採用しているとされてきたが現在は相当因果関係説を採用するに到っている
(最決昭42.10.24)

☆「相当因果関係説」=一般人の社会生活上の経験に照らして
通常その行為からその結果が発生することが「相当」と認められる場合に
刑法上の因果関係を認める説

<第5章 正当化事由>
☆正当化事由(違法性阻却事由)とは違法性がゼロになるのではなく
処罰に値しない程度になることを意味する
(生じた法益侵害を上回るだけの利益を担っているか否か)
判例が共通に挙げる要件=「目的の正当性」、「手段の相当性」、
「法益の衡量」、「相対的軽微性」、「必要性・緊急性」

☆正当防衛の要件=「法益の相対的な権衡」、「防御手段の相当性」
(防衛手段の必要最小限度性)

☆正当防衛よりも緊急避難の要件は厳しい→何も不正の侵害を行っていない
者に向けられた法益侵害行為を正当化するには他に避ける方法がない
唯一の方法に限られる=「補充性」が必要
←過失犯における結果回避義務と重なる面がある

<第6章 責任>
○未必の故意と認識ある過失の区別が故意と過失の限界線となる

○犯罪遂行意思は確定的であるがその遂行は一定の条件にかかっている
「条件付故意」には故意責任が認められる(最決昭56.12.21)

○法律の錯誤か事実の錯誤かの議論については最判平1.7.18が重要
(法律の錯誤を事実の錯誤と認定)

○事実の錯誤には客体の錯誤、方法の錯誤、因果関係の錯誤がある
→判例は個別の客体に対する認識を重視しない法定的附合説を採用

☆「法定附合説」は認識した内容と発生した事実が一致していなくても
構成要件の範囲内で附合していれば故意を認める
(およそ人を殺そうとしたのであるから他人であっても殺人既遂罪)

☆故意と実行行為との罪の重さが違う抽象的事実の錯誤(38条2項)にも
法定附合説が適用されて両者の構成要件が「重なる範囲」で処罰される

○過失の注意義務=「結果予見義務」&「結果回避義務」
→予見可能性&結果回避可能性が議論の中心になる

☆「許された危険」=本来的に法益侵害の危険を伴う
鉱工業・交通・医療などの行為につき社会的有用性を根拠に
法益侵害の結果が発生した場合でも一定の範囲で許容する考え方
←社会の活発な活動の維持を優先する価値判断が特色
(「新過失論」や「信頼の原則」などに影響)

☆「森永ヒ素ミルク事件判決」(高松高判昭41.3.31)では
結果回避義務を課す前提として具体的結果の予見可能性は不要で
行為になんらかの不安感が伴えば足りるとした「不安説」が採用された
→処罰範囲を限定する新過失論とは逆の方向性(ただし判例では定着せず)

<第7章 共犯>
☆教唆犯を処罰する61条での犯罪は何かという解釈には
「制限従属性説」(違法は連帯に責任は個別に)が通説

○共犯についてのすべての問題は形式論では決定し得ない

○共同正犯とは違い意思が通じ合わない「片面的教唆」、
「片面的幇助」は成立可能

○「自己の犯罪か否か」が正犯と共犯を分ける基準
→ただし判例は殺人や強盗などの重たい罪に対しては
見張り行為も共同正犯と判定している

○65条1項は「連帯的作用」、65条2項は「個別的作用」を定めたもの
=1項は真正身分、2項は不真正身分

○重い罪を教唆したところ正犯者が軽い罪を実行した場合
→両罪の重なる範囲で軽い罪の教唆犯を認める
軽い罪を教唆したところ正犯者が重い罪を実行した場合
→両罪の重なる範囲で軽い罪の教唆犯を認める(制限従属性説)

☆共犯と中止犯との関係=共犯者・共同正犯者の一部が任意に中止し、
かつ結果発生を防止した場合に、本人についてのみ中止未遂が認められる

<第8章 罪数論>
○条文上数個の構成要件に該当するように見えるが実は構成要件相互の関係で
一個の構成要件にしか該当しないのが「法条競合」
(特別関係、補充関係、択一関係、吸収関係)

○法条競合には含まれないが一罪と評価されるものの総称=「包括一罪」
(付随犯、狭義の包括一罪、接続犯、不可罰的事後行為)

☆数罪を犯した場合でも、一個の行為が数個の罪名に触れる「観念的競合」と
犯罪の手段又は結果である行為が他の罪名に触れる「牽連犯」は
「科刑上一罪」(54条1項)として扱われる(既判力は他の部分にも及ぶ)

○確定裁判を経ていない数罪のことを「併合罪」(45条)

<第9章 刑罰の具体的運用>
○執行猶予の取消=「必要的取消」(26条)と「裁量的取消」(26条の2)

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2000 8/3
法学、刑法
まろまろヒット率4

前田雅英 『刑法各論講義』 東京大学出版社 1999(第3版)

心斎橋そごう本店に「夏の売りつくしセール」というポスターが
貼ってあったのを見て「夏に限らず君自身が売りつくしやろ?」と思わず
突っ込んでしまった、らぶナベ@マジで誰か買ってあげてください(^^;
(そごう&大丸は御堂筋を中心にした心斎橋界隈の象徴なもので)

さて、『刑法各論講義[第3版]』前田雅英著(東京大学出版社)1999年第3版。
刑法学の第一人者が書いた刑法の基本書、スタンダードな一冊らしい。
このシリーズは総論と各論でワンセットとして構成されているが
刑法は各論の方が読んでいて面白いし最近その重要性が
妙に注目されているようなのでまずは各論から読んでみた。
刑法各論は結局は具体例を集めたものなので今まで読んだ
入門書の知識でも十分に対応できるものだった。
こうした分量の本のわりにはチェック項目自体も少ないし
あえていえば目新しいものも少なかったように思える。

法学の中では人命まで扱う刑法は一番厳しく事例も深刻なものばかりだけど
だらこそ思わず笑ってしまう具体例もいくつかあった。
例えばわいせつの罪で出てくる「わいせつ」の定義について
「家族だんらんの場での朗読がはばかれるか否か」を基準にした
最高裁判決がある(最判昭32.3.13)がそれは子供が基準になり
わいせつ概念を広げすぎるので不当とだ学説から批判されていることや、
殺人罪か同意殺罪かが争われた事例(3年以上の懲役か7年以下の懲役か)で
究極のSMプレイとして下腹部をナイフで刺すことを依頼された結果、
被害者を死亡させた事例について同意殺を適用した判例などを読んでいると
法廷で「この本は家族団らんの場で朗読しても大丈夫か?」とか
「この場合のSMプレイとはこういった趣向のもので・・・」とかいう話を
真剣に議論している姿を想像して微笑んでしまった、不謹慎かな?(笑)

以下は、チェック・・・
<序論>
☆各論では圧倒的に構成要件該当性判断が重要な役割を果たす
→その中でも実際上重要なのが各犯罪類型の「実行行為とは何か」

<第1章 生命・身体に対する罪>
○自殺は犯罪ではないのにそれを教唆・幇助した人間を処罰する
自殺関与・同意殺罪(202条)は61条・62条とはまったく別個の
「他人の生命の否定に関与する行為の処罰を独自に規定したもの」と考える

○自殺関与罪(202条)と同意殺人罪の区別は
その人が直接手を下したといえるかどうか

○自殺関与・同意殺人罪の解釈上最も問題となる殺人罪(199条)との区別は
「真意に基づく殺害の嘱託があったかどうか」
→究極のSMプレイとしてナイフで刺すことを依頼されてその結果被害者を
死亡させた事例について199条の成立を否定し202条を適用した
(大阪高判平10.7.16)=3年以上の懲役と7年以下の懲役の差

☆錯誤による殺人同意があった場合は「自殺が真の自己決定に基づくか否か」
という規範的評価によって202条の成否を判断する
また199条か202条かが問題となる場合には錯誤の重要性以上に
殺人罪として「実行行為性が認められるかどうか」を検討しなくてはいけない
→199条で処罰するには積極的に殺したと同視し得る事情が必要=
心中と偽って青酸ソーダを飲ませた事例では199条を適用(最判昭33.11.21)

○傷害罪(204条)の未遂処罰は規定されていないが
実質的には暴行罪(208条)が傷害未遂をカヴァーする

☆傷害罪とは「人間の生理機能への侵害」を罰する規定なので
女性の髪の毛を剃る行為は傷害罪ではなく暴行罪を適用(大判明45.6.20)
また近時の判例を総合すると傷害の態様にもよるが全治4、5日までは
204条の構成要件には該当しないとするのが合理的と思われる
→10年以下の懲役か2年以下の懲役かの差

○同時傷害罪(207条)は同時犯として暴行を加え傷害の結果が生まれた場合に
意思の連絡を欠いても「共同正犯」として扱われる刑法の特例

☆同時傷害の同時犯が共同正犯として扱われるのは
「同一期間におこなわれ」、「意思の連絡がないこと」、
そしてどの行為が傷害結果を生じしめたかが不明であることが要件
(意思の連絡があれば本条に関係なく共同正犯となる)
→207条は事実上被告人に挙証責任を転換する規定

○暴行罪は「身体に対する有形力の行使」を罰する規定なので
拡声器を使って耳元で大声を発する行為も208条に該当する
(大阪高判昭45.7.3)

○凶器準備集合罪(208条の2)の凶器とは殺傷用の「性質上の凶器」だけでなく
使い方次第では殺傷にも使用できる「用法上の凶器」を含む
また要件である「共同加害の意思」は積極的な攻撃目的だけでなく
相手が攻めてきたら反撃するといった受動的なものも含む(最決昭37.3.27)

○過失犯は刑法典上は例外的犯罪として規定されているが
我が国の刑法犯の中では過失犯(特に過失致死傷害罪)の占める割合は大きい

☆過失傷害罪(209条)は親告罪で過失致死罪(210条)は罰金刑しかない
→故意犯と比較して著しく刑が軽いのがその特徴

☆業務上過失致死傷害罪(211条)の要件である「業務」には
「社会生活上の地位」に基づき、「反復継続性」があり、
かつ「生命・身体への危険」を含むことを要求されている
→ただし業務の範囲は非常に広がっているので誤って人を殺害しても
業務性が否定されるのは家事、育児、自転車の運転ぐらいに限られる
=罰金しかない過失致死罪の適用は実際上はほとんどなく
5年以下の懲役であるこの211条が適用される場合が多い

○遺棄の罪は処罰範囲が微妙で可罰判断が国や時代によってかなり異なる犯罪
→日本では女性が犯す率が圧倒的に高い

☆遺棄罪の保護法益は生命、身体に対する危険犯(個人法益に対する罪)と
するのが現在の通説なので被害者に完全な同意が存在すれば遺棄罪は不成立
→ただし遺棄致死罪の場合には過失致死罪が成立し得る
(同意殺が可罰的であることと同じ)

○遺棄罪(217条)と保護責任者遺棄罪((218条)が処罰する遺棄には
安全な場所から危険な場所に移す「移置」と
危険な場所に放置する「置き去り」とがある
→不作為である置き去りに対しては被告人に保護義務がある場合のみ
218条で処罰される(最判昭34.7.24)

<第2章 自由に対する罪>
☆強要罪(223条)は一種の結果犯であり未遂処罰があることが
脅迫罪(222条)とは異なる→3年以下の懲役か2年以下の懲役の違い

☆強制わいせつ罪(176条)は被害者に男性を含む点が強姦罪(177条)と異なる
→7年以下の懲役か2年以上の懲役の違い

☆住居侵入罪(130条)の保護法益は「住居に誰を立ち入らせ
誰の滞留を許すかを決める自由」=「新住居権説」が通説(最判昭58.4.8)
→それゆえ大家が家賃を払わない間借り人を追い出すために
侵入する行為も130条を構成する(最決昭28.5.14)

<第3章 名誉・信用に対する罪>
☆たとえそれが真実であっても名誉毀損罪(230条)が適用されるが
公共の利害に関するなど一定の要件が備わった事実の場合には
それが真実と証明されれば処罰されないのが230条の2
→名誉への罪はドイツでは原則としてそれが真実であれば不処罰とされ、
逆にイギリスでは真実であるほど摘示する行為は法益侵害が大きいとされた
→日本の230条の2はこの二つの中間的な処理をするものといえる

☆業務妨害罪(234条)と公務執行妨害罪(95条)とを分ける「公務」とは
「強制力を行使する権力的公務」であるかどうか(最決62.3.12)

<第4章 財産に対する罪>
○現行の財産犯規定では情報そのものを財産として保護することは難しいので
情報の盗用などの行為類型に対してはまず著作権等の無体財産権の侵害として
保護を拡大していく方向が模索されなくてはならない
(情報自体を盗む罪も検討されたが1987年の立法は見送られた)

○物であっても誰の所有にも属さなければ財産犯の客体にはならない
→野生動物を捕獲する行為は銃猟法違反などになることはあっても
窃盗罪(235条)には当たらない

☆保護法益である財物の要件として必要な「他人性」は
民法上の権利の有無とは独立して判断すべき=「独立説」
→抵当権の有効性が民法上争われていても建造物損壊罪(260条)が
成立するとした判例がその代表(最決昭61.7.18)
=社会通念上一応は尊重すべき経済利益が認められれば他人性の要件は足りる

☆財産犯の構成要件解釈では法的権原に基づかない所持の侵害も
窃盗罪や詐欺罪に該当すると解し、自己の財物や権利に基づく
奪取行為の可罰性は違法性阻却の問題として処理される(最決平1.7.7)

☆毀棄罪を除く財産犯に対して判例&通説は客観的構成要件要素の認識を
超えた「不法領得の意思」という「主観的超過要素」を加えて要求する

○不法領得の意思=「自ら所有権者として振る舞う意思」、
「物の経済的用法に従って利用・処分する意思」

○窃盗罪は未遂を処罰する(243条)が財物の占有侵害の危険が
希薄な段階で処罰する必要はない(最決昭40.3.9)

○窃盗罪の既遂は被害者が占有を喪失し行為者(もしくは第三者)が
占有を取得した時点で成立する(最判昭24.12.22)

☆不動産侵奪罪(235条の2)にも242条が適用されるので
たとえ自己の不動産であっても他人の占有に属し
または公務所の命令で他人が看守する不動産は他人の不動産とみなされる
ただし過去に不動産の占有を開始した後にその占有が不法となっても
235条の2は成立しない→占有の態様が質的に変化した場合には侵奪を認める
(最決昭42.11.2)

○親族間の犯罪に関する特例(244条)は
強盗罪と毀棄罪以外のすべての財産犯に適用される

☆強盗罪(236条)と恐喝罪(249条)とを分けるのは暴行&脅迫が
「相手の反抗を抑圧する程度」の強度かどうか(最判昭24.2.8)=客観説が通説
→5年以上の懲役か10年以下の懲役かの違い

○強盗致死傷害罪(240条)における「負傷」とは
「強盗の機会に他人に傷害を加えること」(最判昭23.3.9)

☆「処分(交付)」が詐欺罪(246条)と窃盗罪とを分ける概念とされてきた
→現刑法は利益窃盗を処罰しないので処分行為の存否は詐欺罪と無罪を分ける

☆通説&判例は詐欺罪も財産犯である以上その成立要件として損害を要求する
→損害については「実質的個別財産説」で判断(大判昭3.12.21)
=医師であると偽って適切な薬を販売した事案で詐欺罪の成立を否定

☆恐喝罪(249条)の脅迫は脅迫罪(222条)の脅迫とは異なり
相手またはその親族の生命・身体・名誉・自由・財産に対する
害悪の告知に限定されない=婚約者に対する害悪も含まれる

☆債権者が債務者を脅して債権を取り立てる行為が恐喝罪に当たるかどうかの
判断については「実質的個別財産説」が有力だが
その判断基準は結局、実質的違法性阻却事由の問題に帰着する
→判例は「権利性」と「手段の相当性」の二つの要素を中心とした
違法性阻却判断を採用している(最判昭30.10.14)=無罪判断も多い

☆権限がないのに所有者でなければできない処分をすることが横領罪(252条)
=「権限逸脱」
単に権限を濫用するに過ぎないのが背任罪(247条)=「権限濫用」
→背任罪だけには未遂処罰規定がある(250条)

○背任罪が処罰する任務違反行為の典型例は無担保もしくは
十分な担保なしに貸し付ける「不正貸付行為」(最決平10.11.25)
ただしその裁量の範囲内であれば不適切な貸付であっても
任務違反とはならないのでそれを超えて権限濫用したといえる場合に
始めて背任罪が認められる(最決昭38.3.28)
それ故そもそも濫用の余地のない者にとっては背任はあり得ない

○背任罪でも不処罰な「主として本人のため」の行為判断で重要なのが
損害発生の確率、得られるであろう利益の衡量、
危険な取引を行わなければならない必要性の程度を踏まえた上で
本人のために行ったかという主観的メルクマールの判断(最決平10.11.25)

<第5章 公衆の安全に対する罪>
☆社会法益に対する罪は実害が発生していなくても
「抽象的な危険が発生した段階」で刑罰権を発動する点に最大の特徴がある

☆現住建造物放火罪(108条)や他人に対する非現住建造物放火罪(109条1項)
とは違って、自己に対する非現住建造物放火罪(109条2項)と
建造物等以外放火罪(110条)は「公共の危険」の発生=一般人をして
他の建造物に延焼すると思わせる程度の状態を要件とする「具体的危険犯」

<第6章 偽造の罪>
○テレホンカードなどのカード型有価証券のどの部分が
財産権を表示しているかについては可読部分と磁気部分の両者を含む
「一体説」が判例(最決平3.4.5)

○権限逸脱→偽造罪成立→横領罪、権限濫用→偽造罪不成立→背任罪

<第7章 風俗秩序に対する罪>
☆公然わいせつ罪(174条)とわいせつ物頒布罪(175条)でのわいせつの定義=
「徒に性欲を興奮または刺激せしめ」、
「普通人の正常な性的羞恥心を害し」、
「善良な性的道義観念に反するもの」の三つの要件をみたすもの
(最判昭26.5.10)

<第8章 国家法益に対する罪>
☆ロッキード事件判決(最判平7.2.22)は賄賂罪(197条以下)における
「職務権限」を実質化したものとされる
=賄賂罪における職務概念にとって重要なのは
「法的に明示された範囲内のことを行ったか否か」や
「通常職務として行っているのか否か」ではなく
「職務として影響を及ぼし得るか否か」

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2000 7/26
法学、刑法
まろまろヒット率4

「たたかう被害者の集い」造事務所 『法律を味方にするトラブル対策ガイド』 情報センター出版局 2000

ついに『おじゃる丸』に匹敵できるまったり番組が出現しました、
その名も『とっとこハム太郎』(テレビ東京系列)!
OPからすばらしく投げやりな気分にさせてくれるのでお薦めな、
らぶナベ@ちなみに僕はハム太郎(ハムスター)に顔が似ているそうです(^^;

さて『法律を味方にするトラブル対策ガイド』「たたかう被害者の集い」
造事務所編(情報センター出版局)2000年初版。
手頃なサイズで軽いノリの構成をしているわりには細々した事柄から
「腰の重い警察の動かし方」のような大事までそつなく載っている。
さらに「おまけの知恵袋」では携帯・PHSから#9110で
警察総合相談にアクセスできることや相手先と電話で話すときに
事前にNTTに連絡して発信履歴を明細に明記させるなどの
テクニックが紹介されているし「巻末資料」ではトラブルごとに
カテゴライズされた相談&連絡先が大量に載っている。
(この一覧を手元に置いておきたくて買ったようなもの)

日常生活で巻き込まれる可能性のあるほぼ全てのトラブルに関しての
対策が網羅されているので今まで僕が読んだこの手の本の中では
一番良い編集をしているのじゃないだろうか?

もちろん弁護士が監修しているとはいえ本の性質上専門的なことは
あまり書かれていないという欠点はあるけれど
どのトラブルに対してどういう対応ができるのかということを
ざっと知るには良い一冊と言えるだろう。

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2000 7/22
法学一般
まろまろヒット率3

是本信義 『図解「孫子の兵法」を身につける本』 中経出版 1999

異常に忙しい時でも暇人のように思われる自分のキャラが
たまに憎いと思っているらぶナベ@「忙しい暇人会」会長の地位はまだまだ安泰か?(^^;

『図解「孫子の兵法」を身につける本』是本信義著(中経出版)1999年初版。
松阪で極上肉おごってもらった服部の家からパチってきた孫子の解説書。
思い起こせば小学校くらいの時に田舎からの帰り途中で新幹線の駅の
キヨスクにあった孫子の本を親にねだって買ってもらって以来
(三笠書房だったかな?)
孫子は人生で5本の指に入るくらいの愛読書になった。
単純に読み物として読んでいて面白いし痛快な面がある。
それに様々な場面ですぐに応用できる示唆に富んでいるので
自信を持って「すごい本」だと言い切れる数少ない本だ。
最近はちゃんと読んでいなかったがおそらく20世紀最高の戦略理論家である
リデル・ハートの代表著作『戦略論』を読んだ時もその中で口酸っぱく
孫子への回帰=”indirect approach”が主張されていたのを覚えている。

しかし数年ぶりにあらためて読み返してみると
色々な意味ですばらしい本であることは変わらないけれど
ここに書かれている視点にとらわれすぎていては
すごく可能性の小さな人間になってしまうのではないだろうか?
っと思ったりした。
この本を生涯の愛読書として手放さなかった武田信玄が
最後は織田信長に勝てなかったのもわかるような気がしてきた。
これは戦略という概念自体が本質的に現状甘受→応用型だからだろうか。
ある意味で接し方を間違えるととても危険な本になるのだろう。
そういう点でも危険な男にはぴったりの本だが(^_^)
あくまでも応用書であるけど基本書では無いと言った方が良いのかな?

ちなみにこの解説書の中身自体は著者が海上自衛隊出身ということもあってか
ビジネス書のくせにポエニ戦争や第二次大戦中などの戦史を事例に
取り上げていてそれを図解で説明してくれているので読んでいて面白い。
双方の意思決定や行動の過程を時系列にしてそれぞれのアプローチを
交差させる図形は見ていてかなり楽しめる。
戦略はその性質から文字だけだと理解に時間がかかるけど
図解にすると飛躍的にわかりやすくなるという性質をあらためて感じた。
薄っぺらいだろうと思って読んでみて案の定薄っぺらかったが、
どうしてなかなか薄っぺらく解説されていても
様々な事を考えさせてくれる孫子はやっぱりすごい本かも(^^)

ちなみに西洋に孫子の紹介者した立て役者のリデル・ハートは
最近「このイギリス人って孫子の読み方間違っているんじゃないか?」
っていう風に突っ込まれているらしいんだけどどうなんだろう?
彼の解説について僕はそんなに違和感感じなかったんだけどなぁ。

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2000 7/18
戦略論
まろまろヒット率3

『行政書士マスターDX2 一般 教養・論述編』 東京法経学院出版 2000

行政書士試験問題集の一般教養版。
今年から司法関係の試験は大きく変わるが行政書士試験もかなり変化する。
でも一般教養問題は残るということで一度通してやってみた。
するとすると自分がいかに漢字間違いが多いか痛感することに(;_;)
ちょっとした漢字の違いが見分けられなくなっている!
そういえば大学に入ってから手書きをすることがほとんどなくなった、
SPIでもこんなに漢字問題なかったしなぁ。
とりあえず何度かこなして問題に慣れることが対策案かな。

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2000 7/17
法学一般、資格関係
まろまろヒット率3

中嶋博行 『違法弁護』 講談社 1998

雪印に続いて森永もやばそうなので気に入っている牛乳プリンも
店頭から消えちゃうのかな?と心配しているらぶナベっす。

さてさて、『違法弁護』中嶋博行著(講談社文庫)1998年初版。
この作家の処女作『検察捜査』に続いて読んだ第二作目の小説。
これらの作品はまだ読んでいない『司法戦争』を加えて
「法曹三部作」と呼ばれているらしい。
話の筋立ては横浜でおこった警官射殺事件を中心にして
貿易会社による企業犯罪、その会社顧問の法律事務所と神奈川県警との対決、
最高検察庁の内部腐食などがスケール大きくえがかれている。
そして今回も主役は法曹界に席をおく気の強い女性。
国際約款やM&Aなどの渉外法務を専門にする(マジでめっちゃ儲かるらしい)
大型法律事務所にアシスト弁護士=つまりヒラ弁護士として務めながら
パートナー弁護士になろうとする彼女の野心を主軸に書かれている。
会社への強制捜査を清算手続でかわすなど渉外法務の知識を使って
リーガルディフェンスをする箇所などはなかなかに読ませてくれる。
それに多面的に利害関係者を絡ませていきながらも退屈させない話の展開は
本職が弁護士らしくてやっぱりうまいなと思うが(そうやって仕事するんだね)
前の作品と比べるとちょっと見劣りしてしまう、似ている点も多いし。
批評家も解説で「三部作として読まないとダメ」と苦しい言い訳をしていた。
実際に著者の作品の中では一番売れてないらしい(^^;

ちなみに解説で批評家がこの分野(リーガルサスペンスもの)の第一人者
ジョン・グレシャムのデビュー作品『評決のとき』もほとんど売れなかったと
言っているが映画を見る限りジョン・グレシャムの作品の中では
この『評決のとき』が一番良いと思うのは僕だけだろうか?
特に最後の法廷シーンは僕にこの進路を選ばせたきっかけの一つなのに・・・

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2000 7/13
小説、法学一般
まろまろヒット率3

福田大助・樋口收 『"崖っぷち"から"大逆転"の法律相談』 KKロングセラーズ 1999

変に勝負運が良いのでビリヤードでは”9ball”での勝率が高いらぶナベっす。

さて、『”崖っぷち”から”大逆転”の法律相談』福田大助・樋口收著
(KKロングセラーズ)1999年初版。
もめ事が社会的な病気だとすればこの本は二人の弁護士による「症例」集。
KKロングセラーズらしく軽い編集しているので気軽に読めるが
競売物件をねらってくる占有屋、抗告屋の話などここで紹介されている
49のケースはそれぞれまさに魑魅魍魎が跋扈するものばかりで
「世の中ってこわいな」と思ってしまう(^_^)
そういうものを相手にするなら『蒼天航路』の登場人物のような
図々しいまでの心胆がいるのだろう。

サラ金が最も恐れるのは大蔵省銀行局長通達、
仕事中で受けた損害には労災認定に加えて民法715条で慰謝料も請求できる、
極度額がある根抵当と同じように根保証は判例で制限されているので
逃れられることもある、取引先の経営に不安があるなら民法311条で
先取特権として倒産前に取引先から債権を譲渡してもらうのが一番確実、
相続などで共有している土地・建物の一部に抵当権を設定して借金して
物件の一部だけを競売しても買う人間はいないし民法252条で
共有の多数原理が優先するので安全、どうしても手形の裏書きをしなくては
いけない時は無担保裏書きをすれば良い、通常借地権の価格は土地の七掛、
街宣車による妨害も民事保全法23条の仮処分で防ぐことができる、
ダブル不倫の場合に配偶者の協力があれば反訴で慰謝料の相殺が可能
刑法185条で賭博は禁止されているが一時の娯楽に共する物
=一般的な夕食代くらいは免除される
・・・などはもしもの時のために知っておいた方が良い予防接種だろう(^^)

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2000 7/9
法学一般
まろまろヒット率3
法務 キャリア

『行政書士マスターDX1 実務法令編』 東京法経学院出版 2000

家の冷蔵庫に大量に残っていた雪印ヨーグルト『ナチュレ』を食べながら
(それも話題沸騰の大阪工場製)「この酸味と危険とは等分なのか」
と感じ入っている、らぶナベ@危険を愛する男っす。

『行政書士マスターDX1~実務法令編~』(東京法経学院出版)2000年版初版。
カテゴリ的には行政書士の問題集。
でも1問+解説で見開きいっぱい使っているほど説明が長い!
その上に360問を軽く超えるほど問題が掲載されているのでやたらと分厚い。
問題に慣れるために一通やってみようと始めたが問題集を解くというよりも
完全に読書状態。おかげで住民票や戸籍など知らなくても良いような
知識まで付いてしまった。この上一般教養編まであるんだから
完全に終わらせる頃には雑学王になってそう(^^;

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2000 7/7
法学一般、資格関係
まろまろヒット率3