藤沢周平 『漆の実のみのる国』 文藝春秋 上下巻 2000

何だか妙に静かな時期に静かな本を読んだ、らぶナベっす。

『漆の実のみのる国』藤沢周平著(文春文庫)上下巻2000年初版。
いまさら書くまでもなく藤沢周平の遺作で彼の故郷、
米沢を代表する人物である上杉鷹山と取り上げた小説。
ハード版が出版された時からずっと読みたいと思っていたが
ようやく文庫版が出たのでさっそく買って読んでみた。

上杉鷹山と言えばかつてジョン・F・ケネディが「最も尊敬する日本人は?」
と聞かれたときに躊躇無く彼の名前をあげたというくらい国内よりも
海外での評価が高いという点や「なせばなる。なさねばならぬ何事も・・・」
という彼の訓示などが注目されている人物。
(もっともこれは彼のオリジナルじゃないんだけど
武田信玄の「風林火山」と同じようにパクリの方が有名になった代表例)
彼に関しては小大名からの養子という不安定な立場、
保守的な反発を示す藩上層部、無気力感がただよう農民、
返済不能とされた財政赤字、奥さんは身体障害者という
絵に描いたような絶望的状況下で粘り強く藩政改革をおこなって
最終的に成功させたというその華々しい経歴が注目されることが多い。
4年ほど前に僕が読んだ堂門冬二の『小説 上杉鷹山』(学陽書房)は
困難に立ち向かった偉大な改革者としての上杉鷹山を英雄的に描いていた。
当時は確かにちょっと持ち上げすぎだなという感想を持ったものだ。

この『漆の実のみのる国』はそういう意味では逆に読んでいてもどかしい。
改革が軌道に乗ったと思えば頓挫し成果らしい成果はほとんどあがらない。
そのあまりにも長い道のりに疲れて去ってゆく人々や
気持ちがゆれる鷹山の姿を中心にえがいている。
消えそうでそれでも燃えそうな遠くにある光明をつかもうとする
長い長い月日を小説にしているという感じだ。

この本のタイトルになったように上杉鷹山の改革の代表としては
今でも米沢の名産になっている漆塗りが有名だがその漆の木の殖産でさえ
当初は「15万石を実質30万石にする起死回生の政策」という情熱で
施行したものの実際は大した成果があがらず
藩財政の足を引っ張ることになったものとして書かれている。

この小説の最後の下りでは上杉鷹山が若い頃漆の実は大きくて
実がみのる時期には風に揺られてカラカラと音がなるものだろうと思ってが
現物を見てみると実際には米粒ほどの大きさしかなくて驚いたことを
思い出して微笑する場面で終わっている。
本当は文芸春秋の連載ではあと二回分残っていたらしいんだが
藤沢周平が「これで良い」と言ったのでこの小説はここで終わっている。

何かに追いかけられる感覚を受けて走り出したい気分の中、
静かにゆっくりと歩いた人々の物語というべきだろうか。

この本をamazonで見ちゃう

2000 2/28
小説、歴史
まろまろヒット率4

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です