新しい分野の本を読む時はいつも最初は戸惑うけど読み終えると嬉しい、
らぶナベ@旅行をしたときに近い感じです(^^)
さて、その『マインド-認知科学入門』Paul Thagard著&松原仁監訳(共立出版)1999年初版。
初めて読み終えた認知科学本。
院進学を決めたので入学前のこの準備期間(~2003年4月)に今まで触れたことがなかった
認知科学、言語学、社会心理学などの基本入門書を読むことにした。
まずは認知科学の入門書を読もうと思っていたところ、
東大院情報学環の植田一博助教授が入学パンフレットで
この本を薦めていたので買って読んでみた。
内容は「思考は、心の表象とその構造を操作する計算手続きによって最も良く理解される」
っという現在の認知科学の中心的仮説を
「CRUM(Computational-Representational Understanding of Mind)
=心の計算-表象的理解」と名付けて、
この考えを軸に認知科学の代表的なアプローチ=「論理」、「ルール」、
「概念」、「類推」、「イメージ」、「コネクション」を検証する第1部と、
他の分野から寄せられた認知科学への疑問に反論して、
さらにCRUM自体も修正(補足&拡張)する第2部から構成されている。
この本の中で一番興味深かったのは、
一般的に感情と思考は別のものと考えられていて、
感情は冷静な思考にとっては邪魔なものだとする考えについて・・・
そもそも「人間の問題解決はかなり複雑であり、
急速に変化する環境、および多くの社会相互作用の中で、
互いに矛盾する多数の目標を達成しなければならない」
だから「感情はこうした問題解決場面に手短に”評価”(appraisal)を下し、
その後の思考に対して二つの重要な貢献をなす」
「”焦点化”(focus)させ、あなたの限られた認知リソースをその事柄に集中させる」
そして「”行動”(action)の準備となるものを与える」
つまり「感情は人間の思考にとって、単なる付随的で迷惑なものであるわけではなく、
評価や焦点化や行動にかかわる認知的機能を持つものである」
<第9章:感情と意識-CRUMの拡張>
・・・っと批判している点だ。
ただ、読んでみてあらためて感じたことは、
認知科学はまだ生まれたばかりの領域なので
統一的見解が少なくて入門者にとっては少し煩雑な感じがする。
議論の中身も脳神経科学の発展によってかなり変わってくるんじゃないのだろうか。
著者も「認知科学はロックンロールとほぼ同じ年齢である。
両者とも1950年代中頃からいろいろな場所で起こり始めた」
そのために「現時点では認知科学はまだ初期段階にあり、
理論的な多様性は欠点というよりむしろ望まれる特徴である」
だから「統合的で、分野をまたぐ努力が
心の特徴を理解するうえで本質的であり続ける」と述べている。
<第8章:総論と評価-認知科学の功績>
また、科学書だから仕方ないとはいえ、ベタベタな直訳が多いのもどうかと思った。
読み終えてから学部生の頃、認知科学が好きな後輩がいたのを思い出した。
当時はコンピュータオタクっぽくて嫌煙していたが、
こんなことならちゃんと話を聞いて本を紹介してもらうんだった(^^;
以下、その他にチェックした箇所の抽出&要約・・・
○多くの認知科学者は、心における知識は心的表象
(mental representation)を形成していることに同意する。
<第1章:表象と計算-あなたは何を知っている?>
○認知科学では、人間が思考し行動するのに心的表象を操作するための
心的手続き(mental procedure)を持っていると考える.
<第1章:表象と計算-あなたは何を知っている?>
○プラトンはもっとも重要な知識は感覚経験とは関係ない
人間の生まれ持った徳(virtue)のような概念からくると考えた。
デカルトやライプニッツといった他の哲学者は、
知識はただ考え推論(reasoning)することによって得られるとする
合理主義(rationalism)の立場をとった。
これに対してアリストテレスは「すべての人は死すべき運命にある」
(All human are mortal)といった経験から学ばれるルールによって知識を議論し、
ロックやヒュームが支持して経験主義(empiricism)の立場ができた。
カントは人間の知識は感覚経験と心の生得的能力の両方に依存するとして、
合理主義と経験主義両者の統合を試みた。
<第1章:表象と計算-はじまり>
○実験なしの理論は無であるが、理論なしの実験は盲目である。
<第1章:表象と計算-認知科学の方法>
☆認知科学のモデルを理解するためには、理論、モデル、プログラム、
プラットフォームの役割を理解する必要がある。
・認知的「理論」=表象構造の集合とそれらの構造を操作する手続き集合
・計算「モデル」=理論の構造とプロセスをデータ構造とアルゴリズムで構成される
コンピュータプログラムの類推として解釈することで具体的にしたもの
・ソフトウェア「プログラム」=このモデルをテストするためのもの
・ハードウェア「プラットフォーム」=プログラムを走らせる土台
<第1章:表象と計算-理論、モデル、プログラム>
○命題論理と述語論理は、真であるか偽であるかを記述する
表明(assertion)を扱う場合はうまくいが不確実性は扱えない。
<第2章:論理-表象能力>
○確率を扱う計算機システムの開発は難しい。
なぜなら、確率の利用は計算論的な爆発
(モデルの変数や命題の数が増えるにつれて必要とする確率の数が
指数関数的に増加すること)を引き起こすからである。
<第2章:論理-計算能力>
☆論理に基づくシステムにおいては、思考の基本的操作は論理的演繹であるが、
ルールに基づくシステムでは、思考の基本的操作は探索(search)である。
<第3章:ルール-計算能力>
○概念に基づくシステムにおいて非常に効果的に適用できるプロセスは、
継承(inheritance)である
<第4章:概念-計算能力>
☆初心者と熟練者の違いは熟練者がルールを持っているという点にあるが、
教育研究によれば、熟練者は概念やスキーマとして
記述可能な高度に組織化された知識を持っているとされる。
<第4章:概念-応用可能性>
○潜在的に認知科学の教育に対する関係は生物学と医学との関係と同じである。
つまり実際的な治療のための理論的バイアスである。
<第8章:総論と評価-比較評価>
○カオスシステム(chaotic system)では多くの変数における
非常に小さな変化に依存して急激な変化(相転移)を示すため、
系の振る舞いを予測することが大変困難である。
天気を、2、3日より前に予測するのが困難な理由は、
気象学者が2、3日後の天気に影響を及ぼす全ての変数の小さな変化を
すべて観測することができないからである
<第11章:ダイナミックシステムと数学的知識-ダイナミックシステムからの挑戦>
ちなみに著者のHPはこちら→http://cogsci.uwaterloo.ca/
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2002 11/21
認知科学
まろまろヒット率3