関谷直也 『風評被害 そのメカニズムを考える』 光文社 2011

渡邊義弘「がんばっぺし!石巻復興応援ブース」を七夕まつり・鈴の音市に出展しました☆
(2012年8月5日 『読売新聞』朝刊・第12面 「養殖業者の復興支援 松阪の商店街 石巻の海藻、祭りで販売」)

さて、『風評被害 そのメカニズムを考える』関谷直也著(光文社)2011。

1954年の第五福龍丸被爆事件から2011年の東日本大震災までの戦後日本の風評被害の経緯をたどりながら、風評被害の実態に迫ろうとする一冊。
風評被害は比較的新しい言葉で、まだしっかりとした定義がなされていない。
そこで著者は・・・

☆風評被害の定義=ある社会問題(事件・事故・環境汚染・災害・不況)が報道されることによって、
本来「安全」とされるもの(食品・商品・土地・企業)を人々が危険視し、消費、観光、取引をやめることなどによって引き起こされる経済被害
<第1章 風評被害とは何か>

・・・と定義し、事例を通して・・・

☆風評被害=情報過多社会、安全社会、高度流通社会における災害や原子力事故などがもたらす経済被害の一形態
→これを避けることは根本的に困難であるという前提で対策を進める必要がある
<終章 風評被害にどう立ち向かうか>

・・・と結論づけている。
その上で・・・

☆許容量=害か無害か、危険か安全かの境界として科学的に決定される量ではなくて、
人間の生活の観点から、危険を「どこまでがまんしてもそのプラスを考えるか」という社会的概念
<終章 風評被害にどう立ち向かうか>

・・・と、許容量を科学的概念から社会的概念へ位置づけている。

ただ、事例の紹介の多くの紙面を割いているということもあり、著者自身もあとがきで述べているように、
副題の「メカニズムを考える」ところまで踏み込めているかについてはやや疑問がある。
現代社会では不可避のテーマという点では同意できるので、次作も期待したい。

以下はその他でチェックした箇所(一部要約含む)・・・

○風評被害という概念、およびその事象が、歴史的に原子力ときわめて深い関係にあった
<第2章 「放射能パニック」と風評被害>

○(マスメディアは)科学的な安全性を伝えることよりも、「不安」の方がニュースバリューを持つ
→結果「不安」に満ちた主観的な意見や感情が広く共有されていく
<第5章 安全と風評被害>

○風評被害に加担しない一番の近道=普段通りの生活を送ることで経済を回していくこと
<第9章 東日本大震災における「風評被害」と「うわさ」>

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2012 8/7
風評被害、情報・メディア、社会学、社会心理学、心理学、経済学
まろまろヒット率3

新雅史 『商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道』 光文社 2012

渡邊義弘@おかげさまで「まろまろ記」が7月19日に11周年を迎えました☆

さて、『商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道』新雅史著(光文社)2012。

商店街の誕生と隆盛、衰退の過程を社会史・政治史・経済史の流れの中で明らかにし、その限界と可能性に踏み込む一冊。
著者自身も酒屋の息子として育ったこともあり、この本の目的を・・・

○これまでの商店街論は、わずかな事例で商店街をことさら称揚したり、あるいは経済至上主義の立場から頭ごなしにそれを否定したりするものばかりだった
→そうした極端な議論は、かえって商店街の可能性と限界の双方を見失わせる結果となる
→商店街がこの国にひろがったのはなぜか、そしてどのような過程で商店街が凋落したのか、こうした問題に正面から答えようと思った
<序章 商店街の可能性>

○「商店街」という理念は評価できるが、それを担う主体に問題があったというのが、わたしの立場
→過去の共同体を復活させるためではなく、生活保障となるべき地域の拠点として、商店街を定位したい
<第1章 「両翼の安定」と商店街>

・・・と明言している。
また、商店街の誕生について、様々な資料から・・・

○商店街はあくまで近代的なものである
→それも、流動化という、現代とつながる社会現象への方策のなかで形成された人工物だったのだ
<第1章 「両翼の安定」と商店街>

○離農者を中間層化しようとする試みの中で「商店街」という理念が形成されたが、
担い手は「近代家族」であったため、事業の継続性という点で大きな限界があった
<第1章 「両翼の安定」と商店街>

・・・という特徴を指摘。
日本の戦後史の政策を踏まえた上で、最後に・・・

○規制と給付のあるべき政策の組み合わせを検討する
→業界の保護のために存在するのではなく、地域で暮らす人々の生活をささえ、かつ地域社会のつながりを保証するために存在する
→これまでの規制は、業界や一部経営者を利するだけになっていたため、その正当性がなくなってしまった
<第5章 「両翼の安定」を超えてー商店街の何を引き継げばよいか>

○商店街の存在理由は「生存競争の平和的解決」
<第5章 「両翼の安定」を超えてー商店街の何を引き継げばよいか>

・・・という提言につなげている。

特に、僕自身も商店街のある町で暮らす一人として、本来は社会政策であった商店街が、あたかも既得権益と見なされるようなっていく過程は読んでいて胸が痛くなった。
それだけに、単なる商業振興ではなく、地域社会政策として商店街を位置づける著者の主張は心に響くものがある。
地域に生きる人々のための場としての商店街の価値を考えさせられた一冊。

以下は、その他にチェックした箇所(一部要約含む)・・・

○商店街は、商業地区であるだけでなく、人々の生活への意志があふれている場所である
<序章 商店街の可能性>

○近代化は、農業層から雇用者層への移行だけでなく、都市自営業層への移行をも進めた
都市自営業層を安定させたところに日本の近代化の大きな特徴がある
<第1章 「両翼の安定」と商店街>

○「商店街」という理念は、零細小売商が対立していた協同組合、公設市場、百貨店の長所を貪欲に取り入れつつ形成された
→1:百貨店における近代的な消費空間と娯楽性、2:協同組合における協同主義、3:降雪市場における小売の公共性
<第2章 商店街の胎動期(1920~1945)ー「商店街」という理念の成立>

○自民党による1980年代の年金制度の改正は、男性サラリーマンと専業主婦のカップリングを優遇するもの
→男性家長制をモデル化
<第4章 商店街の崩壊期(1974~)ー「両翼の安定」の奈落>

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2012 7/23
商店街、地域活性化、社会史、政治史、経済史、歴史
まろまろヒット率4

中野雅至 『投稿論文でキャリアを売り込め』 日経BP社 2004

渡邊義弘@宇気郷公民館講座「ソーシャルメディアと情報発信」が新聞記事に取り上げられました。
(2012年7月11日 『中日新聞』朝刊・第14面 「災害時の連絡にフェイスブックを 松阪宇気郷 過疎の山間地で活用講座 集落孤立の恐れも 万一に備え住民ら学ぶ」 宇気郷公民館「ソーシャルメディアと情報発信」)

さて、『投稿論文でキャリアを売り込め』中野雅至著(日経BP社)2004。

地方公務員→国家公務員→大学教員というキャリアを持つ著者が、投稿論文によるキャリア形成の有効性と、実際の書き方、投稿の仕方を解説する一冊。
内容は、「個人勝負の時代・知識重視の時代・雇用流動化の時代」という三つのトレンドがはっきりとしているにも関わらず、
「個人の能力を客観的に判定する仕組み」がまだ確立されていないことが現代のキャリア形成の問題だと指摘している。
その上で、投稿論文は学歴や資格よりも有効だと述べている。
確かに、学歴や資格は「身に付ける」ものだけど、投稿論文や成果物は「産み出す」ものとして共感できる。
中でも・・・

○テーマを絞り込む理由
1:より専門的な情報が提供されるようになるから
2:漏れている情報・知識が少なくなる
3:希少価値がある
4:論理の飛躍がなくなる
5:当該分野での専門知識の豊富さを証明する
<第4章 投稿論文の書き方(1) 何をテーマにして書くか>

○本論=仕事で相手を説得するのと同じ要領
1:誰の名前を使えば相手が話を聞いてくれるか(文献)
2:どういう数字を使えば説得力が増すか(統計)
3:相手の理解を求めるためにどういうたとえ話が有効か(ケーススタディ)
・・・この三つをどういう順番で話すがのもっとも有効かを考えるのと同じ
<第5章 投稿論文の書き方(1) どういう風に書くのか(論の立て方)>

・・・という部分は、著者のキャリアならではの言葉として説得力を感じた。

以下は、その他にチェックした箇所(一部要約含む)・・・

○思いつくままにアイデアを書くことの効果
1:自分の頭の中を整理できる
2:書いているうちに何か思いつくこともある
3:書いたものを眺めているうちに断片的なアイデアが結びつく
4:形に残るという安心感を得ることができる
<第4章 投稿論文の書き方(1) 何をテーマにして書くか>

○読者にわかりやすい序論
What(どういう仮説・テーマを)
Why(どういう理由で)
How(どういう風に説明するのか)
・・・を明確に示す
<第5章 投稿論文の書き方(1) どういう風に書くのか(論の立て方)>

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2012 7/14
作文指南、実用書、学問一般
まろまろヒット率3

P.B.メダウォー、加藤珪訳 『科学の限界』 地人書館 1992

渡邊義弘@健康診断の結果から中性脂肪減を目指そうと思っています。

さて、『科学の限界』 P.B.メダウォー著、加藤珪訳(地人書館)1992。

科学の限界を明らかにしつつ、その有用性と可能性を論じる科学哲学書。
著者は免疫系の研究で知られるイギリスの生物学者。
(組織移植の研究と後天性免疫寛容の発見によってF.M.バーネットと共に1960年にノーベル生理学・医学賞受賞)
原著は、“THE LIMITS OF SCIENCE” (1984)。

内容は・・・

○科学的真理とは、科学的研究の目標と考えられることが多いが、実際には科学には絶対的に明白な確実さ、すなわち批判の余地なく決定的に確実なものはありえない
<科学(scians)についてのエッセー>

○実際には、科学の方法というようなものは存在しない
→科学者は問題を解決するためのある種の道筋ー素人のまったくの暗中模索よりは成功の可能性の大きい研究の方法ーはもっているが、論理的に記すことのできる発見の手順を用いるわけではない
→科学者の日々の仕事の大部分は、自分の仮説にもとづく想像の世界が現実の世界と一致するかどうかを確認するための観察や実験を行なうことにある
<科学の発見はあらかじめ計画できるか>

○演繹法と帰納法の限界
・演繹法は、すでに示されている情報をはっきりした形にするにすぎない
 →手順によって新たな情報を生み出すことはできない
・帰納法は、仮説であって、その確実性を主張するものではない
→既知の事例を合計した以上の情報を含むことはありえない
<科学の限界>

・・・という限界を明確にして・・・

○政治が実は可能なことをする術であるとすれば、科学の研究はまさしく解けるものを解く術である
<科学(scians)についてのエッセー>

・・・と結論づけている。
その上で・・・

○科学における生産的行為は仮説の提示、「推測」することの中にある
<科学(scians)についてのエッセー>

○仮説は創造的な思考の産物
<科学の限界>

・・・として仮説の持つその創造的な側面を強調。
芸術と同じように科学はこれからも枯渇しないと主張している。
著者のこの考えは、解説の中で紹介される・・・

○電子が何かについては知らないが、電子がどのように働いたり、作用するかは知っている
→科学にできることは、そうしたことを明らかにするこ
<解説ー研究の方法とメダウォー>

・・・という事例が分かりやすい。
また、情報について・・・

○情報量保存の法則=いかなる論理的推論のプロセスも公理および前提に含まれる情報量、
あるいは推論の出発点となる観測結果の記述に含まれる情報量を増大させることはできない
<科学の限界>

○情報=意味のあるメッセージの伝達を可能にするような構造もしくは秩序、あるいは何らかの構造もしくは作業に特異性を与え、
規定するコミュニケーションという形の構造もしくは秩序
<科学の限界>

・・・と位置付けている点にも注目した。

ちなみに、著者はロンドン大学時代にポパーと同僚だったとのことで、ポパーへの言及が多いのもこの本の特徴の一つとなっている。

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2012 7/9
科学哲学、学問一般
まろまろヒット率3

三島浩司 『シオンシステム[完全版]』 早川書房 2012

渡邊義弘@2011年4月から松阪在住です。

さて、『シオンシステム[完全版]』三島浩司著(早川書房)2012。

医療特区に指定された松阪市では、虫寄生医療が進められていた。
同じ松阪市内の自立支援施設で働く青年は、自分の記憶と身体に疑念を持っていた。
虫寄生医療を進める研究所、反対する日本医師会、主導権を握ろうとする厚生労働省の三つがせめぎ合う中で青年は虫寄生医療と自分を結ぶ接点を見つける。
画期的な医療の進歩は生命倫理を揺るがしながら、「竹取物語」を現代に再現させていくことになる・・・

医療の進歩による生命倫理の再考と宇宙を結ぶスケールの大きなバイオメディカルSF小説。
もともと『シオンシステム』と『続シオンシステム』の二つを合わせたものなので、メディカルサスペンスと群像劇が合わさった大河的な小説になっている。
中でも物語の重要な鍵となる伝書鳩のモチーフが印象的で・・・
「還るべき場所がある、そう思ったときに長さを測る物差しは消える。(中略)過去から向かってくる光に導いてもらえばいい。」(還るべきシステム)
・・・という一節は心に残った。

また、この本は研究室の佐倉統教授から「松阪が舞台だよ」とプレゼントされた小説でもある。
確かに、研究所は旧飯南郡(合併して現松阪市)の山間にあり、自立支援施設も松阪市内。
さらに反対勢力の日本医師会会長も松阪市で病院経営しているという風に、松阪が主要な舞台になっている。
物語の中には松阪市(役所)も出てくるので、次は松阪市情報政策担当官も登場させてほしと思ったりもした。てへぺろ(・ω<) この本をamazonで見ちゃう

2012 7/8
SF小説
まろまろヒット率3

神永正博 『ウソを見破る統計学―退屈させない統計入門』 講談社 2011

渡邊義弘@宇気郷公民館講座「ソーシャルメディアと情報発信」の講師をつとめました。

さて、『ウソを見破る統計学―退屈させない統計入門』神永正博著(講談社)2011。

統計が鍵となる話題について父と娘が会話して、その後で解説するというストーリー仕立てになっている統計学の本。
読んでいて印象的だったのは・・・

○P値の求め方をコーヒー作りに例えて・・・
1:お湯&コーヒー豆=自由度&カイ2乗
2:フィルター=カイ2乗分布
3:美味しいコーヒー=P値
<第7章 麦酒研究部はB型王国>

・・・と説明しているところは、過程が分かりやすくて面白いと思った。
また・・・

○相関関係は因果関係とは違う
<第4章 その数学が就職を決める>

○検定はあくまで「偶然といえる確率がどれくらい小さいか」を問題にしているのであって、「結論が絶対正しい」とまでは断言できない
→統計的検定とは、あくまで「高い確率でそう言える」ということだけ
<第7章 麦酒研究部はB型王国>

・・・などを強調しているところは、忘れがちになることもあるのであらためて留め置く必要性を感じた。

ちなみに、タイトルは『ウソを見破る統計学―退屈させない統計入門』だけど、
内容はウソを見破ることよりも統計の基礎解説の方が比重が高いので、
どちらかというと主題よりも副題の方がより内容を表している一冊でもある。

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2012 7/6
統計学
まろまろヒット率3

竹沢尚一郎 『社会とは何か―システムからプロセスへ』 中央公論新社 2010

渡邊義弘@松阪ソーシャルメディア朝会(朝オフ会)が新聞記事に取り上げられました。
(2012年6月30日 『中日新聞』朝刊・第22面 「地域の活性化へ朝会で情報交換 松阪市職員渡辺さんフェイスブックで呼び掛け 出勤前手軽な交流」)

さて、『社会とは何か―システムからプロセスへ』竹沢尚一郎著(中央公論新社)2010。

“社会”という概念は、どのような歴史的要望で発明され、発見され、成立して来たのか。
その変遷をたどりつつ、フランスの移民問題と水俣病問題の実例を通じて”社会”とは何かを問う一冊。
“社会”は明確なシステムではなく、様々な多様な個人と集団がせめぎ合うプロセスであることを明らかにしている。
無意識のうちに使うことが多い”社会”とは何かを見つめ、考える機会になる一冊。

以下はチェックした箇所(一部要約含む)・・・

☆社会とは明確な境界のあるシステムではないし、自律的な単位でもない
→歴史的存在としての人間が、他者とともにより良き集団的な生を築くにはどうしたらよいかを考え、それを実現しようとして作り出した観念であった
<はじめに>

○(デュルケームとパーソンズの社会学)社会を等質的な閉じたシステムとするその社会学は、
形式的な整合性をなにより優先する、裂け目もなければ当事者の顔も見えてこない、無機質の社会像を呈していた
<第3章 社会の科学の成立―社会主義と社会学>

☆文化の創造によって社会的に承認を得ようという試みは、個別化を前提にした営みであるがゆえに、
一部のスターとなる成功者は生むとしても、集団としての達成につながるものではない
→文化による社会統合の試みは、広範な連帯を打ち立てることが困難であるがゆえに、
集団の次元では失敗することが宿命づけられている
<第4章 社会と文化―文化の名による排除から社会統合へ>

☆生活の質が脆弱化にさらされ、しかも政府が無力化しつつあるとの意識をもつ人々の多くは、
国境に代わる境界によって自集団の外枠を明確化した上で、そのなかに同胞と住まうことで落ち着きを得ようとする傾向がある
→そのために活用されているのが文化であり、文化の壁を高く掲げることで自他の区別を絶対化し、他者に対する排除を強化してきた
<第4章 社会と文化―文化の名による排除から社会統合へ>

○マルチカルチャリズム(多文化主義)は、ひとつの国家のうちに複数の文化集団の存在を認める点では開放的・多元的な思想だが、
それぞれの文化集団のうちに単一性を求めている点では、閉鎖的・一元的な発想
→マルチカルチャリズムの思想が抱える根本的な課題は、各文化集団の自律性を強調するあまり、
複数の文化集団のあいだでどのように対話とコミュニケーションの回路を切り開くかを理論化できない点
<第4章 社会と文化―文化の名による排除から社会統合へ>

☆社会は、それを構成するすべての部分が機能的に連関しあう等質的なシステムではなく、
多様な諸個人と多様な構成原理をもつ諸集団が、自分たちの生の環境をより良きものにするべくせめぎ合う場であり、
そうした行為がおこなわれるひとつの競合的なプロセスであると考えるべき
<第5章 社会と共同体―複数性の社会へ>

○生活の共同とたがいの身体への関心、そして深い情緒性にもとづいた複合的な関係性のみをコミュニティと呼ぶべき
→権力作用による抑圧や排除、あるいは葛藤、抵抗や交渉などの相互作用がくり広げられる状況あるいは現場
<第5章 社会と共同体―複数性の社会へ>

○コミュニティとは、生活の共同に根ざすがゆえに強固なつながりをもつ人間の結合
→それゆえに、外部に対しては閉鎖的な性格を帯びざるをえない
→しかし、それが公共圏に結びついたとき、外部の社会へとつながっていくこができた
<第5章 社会と共同体―複数性の社会へ>

☆強固な団結と持続性をもつコミュニティと、外部に向けての開かれと情報発信力をもつ公共圏が結びついたことで、
水俣病の運動はわが国では例外的な永続性と広がりをもつ運動体となることができた
<第5章 社会と共同体―複数性の社会へ>

○社会がその力を枯渇することなく、新しい力を生み出しつづけることができるのは、
内部に多様で異質な要素を抱え、そこに生じる軋轢や齟齬が私たちにより良き生とは何かをつねに問い質しているため
→そのように多様性と複数性を有している点にこそ、社会のもつ可能性と自己変革の能力を認めるべき
<第5章 社会と共同体―複数性の社会へ>

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2012 7/1
社会学、社会学史
まろまろヒット率4

杉山公造・下嶋篤・梅本勝博・橋本敬・永田 晃也 『ナレッジサイエンス―知を再編する81のキーワード』 近代科学社 2008改訂増補

渡邊義弘@ダイエットのために黒烏龍茶を愛飲中です。

さて、『ナレッジサイエンス―知を再編する81のキーワード』杉山公造・下嶋篤・梅本勝博・橋本敬・永田 晃也編著、北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科監修(近代科学社)2008改訂増補。

ナレッジサイエンス(Knowledge Science、知識科学)に関連する81のキーワードを集めた解説書。
まだ体系化の途上であるものの、話題になることが多いナレッジサイエンス関連領域をそれぞれコンパクトにまとめられている。
僕は通読したけれど(この読書日記は通読したものだけ記録)、辞書としても使えるようになっているのが便利な一冊。

以下はチェックした箇所(一部要約含む)・・・

○組織は単に人間を管理し機械的に情報を処理する手段ではなく、個人が自己の成長を達成するための自己超越の場
<01 知識創造企業>

○知識創造における場の本質は「相互関係」
→知識は文脈から切り離しては存在できず、文脈とは相互関係
<03 場>

○先行者の優位性=技術的リーダーシップ、利益の先取り、ブランドイメージの確立、希少資源の占有
後発者の優位性=先行者の開発した技術にただ乗り、不確実性の減少
<11 企業の技術戦略>

○政策という知が創造されるプロセス
1:体験から生まれる知覚データの集合としての思い(暗黙知)=データ
2:議論によって表出された断片的な情報としての政策コンセプト(形式知)=情報
3:総合化された知識としての政策(形式知)=知識
4:政策実行から生まれた知恵としての実践知(暗黙知)=知恵
<22 政策知>

☆情報は、状況と状況との間の性質の相関に依存する
<23 情報と知識>

☆情報が知識であるための条件=主体の存在、相関への適応、行動の統制
<23 情報と知識>

☆当事者は必ずしも自らの行為の理由や原因を分かっているわけではない
→主観(意識)の反省を逃れるのが日々の実践(practice)の特徴
<28 フィールドワーク>

○ハビトゥス=文化的な規定によって形成されるが、社会環境の変化に応じて実践に転調を加える柔軟性を部分的に併せ持つ
→完全に自由ではないが、文化的規範に操られる人形でもないというのがブルデューの考える習慣的行為者
<29 実践とハビトゥス>

○言語的表現の意味
1:意味=言語を理解するために必要な文法的知識
2:内容=文が表現している状況と話者・聞き手に関する情報
3:効果=発話から聞き手が導き出す結論
→しだいに文脈依存度が強くなっていく
<34 意味論>

○方法論=技術ほどの詳細さは持たないが、哲学よりは詳しい行動のガイドライン
<42 システム方法論>

○カオス理論による決定論であるが予測不可能なシステムは、予測可能性を追究してきた古典科学の終焉を告げている
<44 カオス>

☆アフォーダンスは、内面に作り上げられた外界の像は存在しないと主張する点でデカルト主義と相対立する
→デカルト的アプローチは感覚ではとらえられない世界を探求するのに適し、
アフォーダンスは普段あまり考えないで行っている日常的な行動を説明するのに向いている
<61 アフォーダンス>

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2012 6/27
ナレッジサイエンス、学問一般
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安彦良和・矢立肇・富野由悠季 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』 角川書店 全23巻 2011

中学生の時に『ガチャポン戦士2カプセル戦記』にハマっていた、渡邊義弘です。

さて、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』安彦良和著、矢立肇・富野由悠季原案、メカニックデザイン(角川書店)全23巻2011。

1979年放送のアニメ、『機動戦士ガンダム』(通称、”1st”)のキャラクターデザインと作画ディレクターを担当した著者によるコミカライズ。
ガンダムはテレビ放映時から30年以上が経過する中で様々な続編・派生が生まれ、現代の英雄伝説となっている。
そんなガンダムの”ORIGIN”(起源)を意識して描かれた作品。

内容はテレビ放映時の大筋をなぞりながら、設定の修正や独自エピソードを追加してアレンジがなされている。
貴種流離譚(シャア)や旅を通じた成長(ホワイトベースのクルー)、父親殺し(アムロとランバラル)、悲恋(アムロとララア)など、
英雄伝説の要素はそのままに、物語の背景となる歴史的経緯や駆け引きを描いて物語に厚みを持たせている。

通読してみると、特にシャアの苦悩がより鮮やかに描かれていたのが印象的だった。
それだけに、シャアの苦悩や悲恋の軸となる人類の革新=ニュータイプ論については踏み込まれなかったのはやや残念。
現代の英雄物語だけにアニメ化も期待したい作品。

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2012 6/26
マンガ本
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大上丈彦・森皆ねじ子 『マンガでわかる統計学 素朴な疑問からゆる~く解説』 ソフトバンククリエイティブ 2012

渡邊義弘@第3回目の松阪ソーシャルメディア朝会(朝オフ会)を開催しました☆
(当日の様子)

さて、『マンガでわかる統計学 素朴な疑問からゆる~く解説』大上丈彦著、メダカカレッジ監修、森皆ねじ子イラスト(ソフトバンククリエイティブ)2012。

統計学の解説書。
内容は、平均・分散・標準偏差(第1章)から仮説検定(第5章)までをオーソドックスに解説しているけれど、
タイトルにあるようにポイントがマンガで解説されているので分かりやすい。
特に印象に残ったのは・・・

「統計学=確率に基づいた判断を行う学問」

・・・と定義して、「確率計算」と「判断」の両方の大切さを、「確率計算が欠ければただの占い、判断が欠ければただの確率計算」と表現しているところ。
<43 仮説の検定>

また、正規分布を解説する第2章の扉絵では・・・

「ヒストグラムをびよーんして、標準正規分布に当てはめろ!」

・・・と表現しているところも思わず笑ってしまった。

以下はその他でチェックした箇所(一部要約含む)・・・

○普通でないヒストグラムには、理由があると考えろ
<02 二峰性のヒストグラムとは>

○確立分布こそがギャンブルの真の姿
→1等がよく出る売場 ≠ よく当たる確率が高い
<06 確率密度関数とは>

○平均や分散は、自分でやるときも、人のを見るときも、ヒストグラムの見た目、特に「左右対称」と「一峰性」を必ずチェック
<09 分散が「ばらつき」とはかぎらない?>

○統計では仮説の採択は「否定できなかった」という意味であって、肯定ではない (帰無仮説)
<43 仮説の検定>

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2012 6/25
統計学、マンガ本
まろまろヒット率3