斉藤徹 『ソーシャルメディア・ダイナミクス ~事例と現場の声からひもとく、成功企業のソーシャルメディア戦略~』 毎日コミュニケーションズ 2011

渡邊義弘@石垣島で開催されたソーシャルメディアに関する国際ワークショップとシンポジウムにパネリスト出席しました。

さて、斉藤徹 『ソーシャルメディア・ダイナミクス ~事例と現場の声からひもとく、成功企業のソーシャルメディア戦略~』 毎日コミュニケーションズ 2011。

ソーシャルメディアを利活用した企業の成功例と今後の戦略をまとめた一冊。
企業の成功例については掘り下げが浅く、フィクションのストーリーを作るなど、総じて内容の薄さを感じた。

そんな中でも、ブロガーとしても知られる広告プランナーのさとなお(佐藤尚之)が対談の中で、
「ソーシャルメディアでは共感を紡ぐことが重要」という視点を持って・・・

「こんな化粧品が出ました」ってTwitterで書いても、これは単なる情報だから、この情報洪水時代、誰も相手にしない。
でも「これ使ったら50のおっさんなのにお肌つるつる」と言ったら、「おー、面白い」ってみんなの共感が集まってくる。
そこがソーシャルメディアにおけるクリエイティヴのポイント

・・・と述べているところは印象に残った。
共感を得るためには、自分自身の人格と体験を明らかにして発信することが必要だと思っていただけに、”共感”が持てた

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2013 6/6
情報・メディア、HP・blog・SNS関連、ソーシャルメディア
まろまろヒット率2

梅田望夫 『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる』 筑摩書房 2006

渡邊@常滑でも朝会を開いています(ごはん日記)。

さて、『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる』梅田望夫著(筑摩書房)2006。

インターネット、チープ革命、オープンソースの三つの潮流から、ウェブ(Web)の進化と、その影響を解説する一冊。
2000年代半ばに”Web 2.0″という言葉を日本で広めた本でもある。

初版が7年前なので事例は古くなっていることや、Googleを持ち上げ過ぎているところ、
「自分はエスタブリッシュメント(社会的地位のある者)だけど捨てちゃうよ」というやや嫌味なところを差し引いても、
2000年から始まったウェブの進化についてある程度まとまった解説がなされている。

特に印象に残ったのは、インターネットの普及によって誰もがプロの一歩手前までは行けるが、
そこから先に抜け出すには別の要素が必要となるという点を将棋士の羽生善治が指摘した・・・

☆インターネットは学習の高速道路と大渋滞をもたらした
<第6章 ウェブ進化は世代交代によって>

・・・という表現だ。
誰もがすぐに一定のところまではたどり着くけれど、そこから先に行く=プロとして生計を立てる、には、
大きな競争と壁があるということを端的に表現していて、心に残った。

以下は、そのチェックした箇所・・・

○インターネットの真の意味=不特定多数無限大の人々とのつながりを持つためのコストがほぼゼロになった
<序章 ウェブ社会―本当の大変化はこれから始まる>

○「力の芽」が「持てるもの」によって忌避される類のものである一方、「持たざるもの」にとってはものスゴイ武器であるときにその「力の芽」は着実に育つ
<第1章 「革命」であることの真の意味>

☆Web 2.0 =ネット上の不特定多数の人々(や企業)を、受動的なサービス享受者ではなく能動的な表現者と認めて積極的に巻き込んでいくための技術やサービスの開発姿勢
<第3章 ロングテールとWeb 2.0>

○ロングテールの本質=参加自由のオープンさと自然淘汰の仕組みをロングテール部分に組み込むと、未知の可能性が大きく顕在化し、しかもそこが成長していくこと
<第3章 ロングテールとWeb 2.0>

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2013 5/22
情報・メディア、HP・blog・SNS関連
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松村太郎・徳本昌大 『図解 ソーシャルメディア早わかり』 中経出版 2011

渡邊@今週末に石垣市で開催されるソーシャルメディアに関する国際ワークショップとシンポジウムにパネリスト出席することになりました。

さて、『図解 ソーシャルメディア早わかり』松村太郎・徳本昌大著(中経出版)2011。

Facebookやtwitterなどのソーシャルメディアの特徴と現状を図解する解説書。
初版は2年前なのでアメリカと日本の現状についてはやや古くなっているけれど、ソーシャルメディアの特徴の解説は今でも分かりやすい。
特に、ソーシャルメディアの特徴を・・・

☆マスメディア(新聞など)や個人メディア(ブログなど)と、ソーシャルメディア(Facebookなど)の違い
=情報の流れが誰とつながっているかに大きく左右される
→閉鎖性と拡散性を併せ持っているのが特徴
<第1章 ソーシャルメディアとは何なのか?>

・・・として、人と人の関係が情報流通に大きく関わっていることを指摘している点に注目した。
また、アメリカや日本の企業の事例を紹介しながら・・・

○ソーシャルメディア利活用で重要なのは、長期的な関係づくりを見守ろうとする会社の理解
<第4章 日本企業のソーシャルメディア活用はどうなっているのか?>

・・・とまとめているのは、僕自身も行政の情報政策を担当するだけでなく、各種団体への講師派遣(とこなめ焼協同組合「ソーシャルメディア講座」など)の中で感じていたことなので、とても共感できた。

以下は、その他にチェックした箇所(一部要約含む)・・・

○Sympathize(共感)→Identify(確認)→Participate(参加)→Share&Spread(共有・拡散する)=SHIPS
<第2章 ソーシャルメディアは何を変えたのか?>

○ソーシャルメディアは人脈を維持する負担が格段に軽減
<第2章 ソーシャルメディアは何を変えたのか?>

○「つながり」を支えているのは、情報の共有・共感
<第2章 ソーシャルメディアは何を変えたのか?>

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2013 5/21
情報・メディア、ソーシャルメディア
まろまろヒット率3

渡辺和子 『置かれた場所で咲きなさい』 幻冬舎 2012

今月から東京大学大学院情報学環特任研究員常滑市情報政策担当員に就任した渡邊義弘です。

さて、『置かれた場所で咲きなさい』渡辺和子著(幻冬舎)2012。

キリスト教の修道者と教育者である著者が、これまでの経験を基に書き綴ったエッセイ。
八重山の島々めぐりをしていた去年の夏に、記録的な二つの台風に見舞われ、さらに一度通過した台風が戻ってくるという珍しい気象現象(FUJIWARA EFFECT)で石垣島での滞在を余儀なくされたことがあった。
その時に何気なく知っていたこの本のタイトルを思い起こしてい以来、気になっていた一冊。

読んでみると、何と言ってもタイトルにもなっている「置かれた場所で咲きなさい」(“Bloom where God has planted you”)について述べているところが印象に残った。
たとえば・・・
「咲くということは、仕方がないと諦めるのではなく、笑顔で生き、周囲の人々も幸せにすること」
「他人の出方で幸せになったり不幸せになったりしては、私は環境の奴隷でしかない(略)そこで環境の主人となり自分の花を咲かせよう」
「境遇を選ぶことはできないが、生き方を選ぶことはできる」
・・・などは、大阪で生まれ育ち、京都と東京の学校に通い、松阪で働き、今回常滑に来た今の自分の感性と共鳴するものがあった。

また、この他にも・・・
「いい出会いをするためには、自分が苦労をして出会いを育てなければならない」
「今日より若い日くなる日はないから、毎日を”私の一番若い日”として輝いて生きる」
「信頼は98%。あとの2%は相手が間違った時の許しのために取っておく」
・・・なども印象深い。

自分も置かれた場所で咲くことができる人でありたい。

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2013 4/24
エッセイ
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田畑暁生 『情報社会論の展開』 北樹出版 2004

渡邊義弘@まろまろ記をスマートフォン表示対応しました☆

さて、『情報社会論の展開』田畑暁生著(北樹出版)2004。

「情報社会」という概念がどのように論じられてきたか、その歴史的展開を
内容は・・・
第1章:欧米の情報社会論
第2章:日本の情報社会論
第3章:情報社会論と現代社会論
第4章:情報の反意語とは何か?
・・・の4章構成になっていて、まず欧米と日本の情報社会論の展開を概観(1章、2章)した後に、
似たような言説で論じられることの多い情報社会論と現代社会論を比較(3章)、
さらに反語を考察することから情報概念に立体的に迫ろうとしている(4章)。

情報社会論は、思い込みや誇張が目立つものも多いことについて・・・

○情報社会論を鵜呑みにするのでなく、その論理を常に再確認し、それが前提している様々なイデオロギーも含めて、批判的に検討すること(略)
たとえ多くの瑕疵や思い込み、誇張があるとしても、情報社会論は無視するにはもったいない「思考の材料」
<第2章 日本の情報社会論>

・・・と、一定の価値を置いている姿勢に興味を持った。
また、4章で迫った情報概念の多様性については・・・

○情報化、情報社会、情報時代などを素材にして対話や議論をする場合に、情報という言葉の多様性のために、
話が平行線をたどったり、不毛な対立が起きたりする例が少なくない
<第4章 情報の反意語は何か?>

・・・という著者の体験は、僕自身も情報政策に携わる中で強く感じるところだったので共感できた。
多様な情報社会論、情報概念を考える上で整理の助けになる一冊。

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2013 1/20
情報社会論
まろまろヒット率3

倉阪秀史 『政策・合意形成入門』 勁草書房 2012

渡邊義弘@カンボジアでの日々を「カンボジア道中記」にまとめました。

さて、『政策・合意形成入門』倉阪秀史著(勁草書房)2012。

政策形成と合意形成の入門書。
著者は環境庁職員として環境基本法、環境影響評価法の制定に携わり、専門家として柏市環境基本条例の制定、三番瀬円卓会議・再生会議に携わった経験があるので、
理論的背景と共に政策形成・合意形成の実例が詳しく解説されている。
特に著者の経験を活かした前半の政策形成部分は、理論と実践のバランスが良く、読んでいて説得力があった。
(前半の政策形成部分と比べると、後半の合意形成部分はやや迫力に欠けた)

中でも政策実現の二つの条件として、「引き金」と「合理性」を挙げ、それぞれ具体的事例を丁寧に解説しているところは、
松阪市情報政策担当官として取り組んでいる政策立案の現場体験をいくつか思い出した。
実務の振り返りにもなった一冊。

以下は、チェックした箇所(一部要約含む)・・・

☆制度の定義=言語、習慣、約束ごと、契約、規則、法律など、複数の個人によって相互に共有された認識基盤
<第1講 政策とは何か>

☆政策の定義=社会的な課題の解決のために制度を変えようとする活動
 (対策の定義=社会的な問題の解決のために行われる個別の行動)
<第1講 政策とは何か>

○日本の国レベルでのパブリックコメント制度は、1992年の国際環境会議(地球サミット、UNCED)が最初
<第2講 市民による政策形成・合意形成はなぜ必要なのか>

☆政策形成に市民参加が必要な理由=1:個別の状況を反映させるため、2:公共的意識を涵養するため、3:政策の正当性を確保するため
<第2講 市民による政策形成・合意形成はなぜ必要なのか>

○政策実現の2条件=
 1:引き金→アジェンダ設定
  ex.事件・事故、外圧、イニシアティヴ、イベント、判決、政策の連鎖、制度化された政策変更
 2:合理性→政策内容決定
  ex.課題適合性、技術的実現可能性、社会的受容可能性、制度的整合性、費用効率性、反作用の防止、副作用の防止
<第3講 政策をどのように作っていくのか>

○政策立案者の行動指針=
 1:時代と社会に応じた社会的課題を敏感に把握すること
 2:「引き金」を逃さずに行動すること
 3:「引き金」を作り出すように行動すること
 4:政策の合理性を確保するように努力すること
<第3講 政策をどのように作っていくのか>

○政策立案者が備えるべき能力=1:課題発見力、2:政策立案力、3:調整力
<第3講 政策をどのように作っていくのか>

○インタビューにあたっては、たとえ仮説の誤りが発見されても、仮説に執着しない
 →あくまでも現場の声を素直に受け止めることが重要
<第4講 課題発見力を養う>

○法案を作成する作業は、既存の法令に規定されたいくつかのパーツを組み合わせて、一つの新しいルールをプログラミングする作業
<第6講 どのようにして法案を作成するのか>

○やりたいことをすべて条文に書ききるのではなく、民間主体によって必要な対策が行われるように、
どの権利・義務を変更すべきか考えて、その部分を法律によって担保するという姿勢が重要
<第8講 実際に法案を作ってみる(その2)>

☆合意形成は、最終的に得られる状態が「全員の賛成」であるかどうかではなく、
プロセスの中で、社会的合意に向けて関係者の協力関係が構築されていくことがより重要
<第9講 どのように合意形成を進めていくのか>

○ファシリテイターの役割=
 1:議論の目的や議論のルールを明確にする
 2:議論に慣れていない人からもいろいろな意見が出されるようにする
 3:出された意見をまとめる作業を効率的に行う
 4:議論の成果を確認する
<第13講 参加型合意形成プロセスの運営>

○論点が対立するテーマでの議論においては、メリットとデメリットをもれなくだぶりなく整理すること自体が、議論の成果物になることもある
<第13講 参加型合意形成プロセスの運営>

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2013 1/17
政策学、合意形成論
まろまろヒット率3

藤田達生 『蒲生氏郷: おもひきや人の行方ぞ定めなき』 ミネルヴァ書房 2012

渡邊義弘@松阪市情報政策担当官としての任期も残り約3ヶ月となりました。

さて、『蒲生氏郷: おもひきや人の行方ぞ定めなき』藤田達生著(ミネルヴァ書房)2012。

安土桃山時代に近江日野(現・滋賀県日野町)に生まれて、織田信長、豊臣秀吉の下で活躍して、伊勢松坂城(現・三重県松阪市)、会津若松城(現・福島県会津若松市)を築城。
城下町作りを行なって、それぞれの町の基礎を作った戦国大名、蒲生氏郷の伝記。

蒲生氏郷は江戸時代に家が断絶していることもあって、史料に基づいた伝記が少ない。
この本は、歴史学のアプローチから蒲生氏郷の実像に迫る貴重な一冊。

特に蒲生氏郷を中心にした蒲生一族を通して中世から近世への転換期像を明らかにすることをテーマにしていて、
個々人の武勇に頼る戦いからシステム化された軍政への変遷、さらには戦闘集団から統治集団へと変換する武士団の姿が詳細に描かれている。

中でも印象に残ったのは、この本の副題にも使われている蒲生氏郷が故郷の近江日野の方向を眺めて歌ったとされる・・・

おもひきや人の行方ぞ定めなき
我ふる郷をよそにみむとは

・・・という歌への解説だ。
本領を”一所懸命”に守る中世の武士から、転封を受け入れる近世の武士への転換期にあって、出世と共に故郷を失うことの感慨を歌ったものだとする著者の指摘は胸に残った。

ちなみに、この本を読み終えたことで、「松阪の三傑」と呼ばれることがある、蒲生氏郷、三井高利本居宣長の三人の伝記を読み終えたことになる。
一つの区切りを感じた読書でもある。

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2012 12/21
伝記
まろまろヒット率3

中田易直 『三井高利』 吉川弘文館 1988

渡邊義弘@講師とファシリテイターを担当している宇気郷ソーシャルメディア講座から、Facebookページの「いいね!宇気郷」が誕生しました☆

さて、『三井高利』中田易直著(吉川弘文館)1988。

江戸時代に松阪(当時は”松坂”)に生まれ育ち、呉服店(越後屋)と両替店で成功して三井財閥の基礎を作った三井高利の伝記。
三井高利は、松阪商人(伊勢商人)を代表する人物ではあるけれど、史料に基づいた伝記は少ない。
この本は、歴史学のアプローチから三井高利の実像に迫ろうとする貴重な一冊。

内容は、三井高利の経営手法と共に、三井高利が生きた江戸時代初期の経済状況について詳細に記述されているのが特徴。
特に、呉服業と並んで事業の中心となる両替業について詳しく書かれているので、当時の金融システムが理解できるものになっている。

また、三井高利個人の経歴としても、江戸に自分の店を出したのが50代になってからという遅咲きの点。
幕府や大名などの公権力との不即不離(付かず離れず)の姿勢が印象深い。
時代背景と個人とのバランスが良い伝記。

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2012 12/9
伝記、経済、経営
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田畑暁生 『離島の地域情報化政策』 北樹出版 2011

渡邊義弘@「人類進化学」(米田穣・総合研究博物館教授)のために柏に初めて行って来ました。
(Facebookの記事)

さて、『離島の地域情報化政策』田畑暁生著(北樹出版)2011。

今年は、八重山の島々をめぐったり、宇気郷ソーシャルメディア講座の講師をつとめるなどのご縁をいただいた。
そのご縁を通じて、地理的に不利な条件を持つ離島と山里(中山間地域)は、少子高齢化の進展が早いことから、
これから日本の地域が直面する問題に先取りして取り組んでいる地域だという認識を持つようになってきた。
こうした離島と山里の課題に、情報の視点から取り組むための参考に手に取った一冊。

内容は、沖縄(第1章)、薩南諸島(第2章)、長崎(第3章)、瀬戸内(第4章)、伊豆・小笠原諸島(第5章)、日本海(第6章)の6つの地域ごとに、離島の地域情報化政策がまとめられている。
読んでみると、一つ一つの離島の取り組みが紹介されている点は参考になるけれど、その地域の地域情報化政策の特徴や傾向、
さらには離島全般の地域情報政策の記述が無かったのは、分析の視点から物足りなさを感じた。

また、人口規模や地理的特徴の書き方がマチマチなのでいちいち調べなくてはならず、読みづらかった点。
単純な誤字がある点(p. 58「ホームページ政策」)、確認を取っていないものがある点(p. 122「これは孫請けだろうか?」)なども目立った。
重要な分野であることは間違いないので、これからのさらなる研究を期待したいと感じた本でもある。

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2012 12/1
情報政策、離島
まろまろヒット率2

高坂正堯 『海洋国家日本の構想』 中央公論新社 2008

渡邊義弘@東北行脚の時に漁業再開をお手伝いしたホタテ貝を素材に相可高校の生徒さんがグラタンを作っていただきました。

さて、『海洋国家日本の構想』高坂正堯著(中央公論新社)2008。

国際政治学者である著者による「現実主義者の平和論」と「海洋国家日本の構想」の二つの論文を中心にした論文集。
著者の本は、これまでも代表作である『文明が衰亡するとき』をはじめとして、『国際政治―恐怖と希望』
『世界史の中から考える』『世界地図の中で考える』『世界史を創る人びと』などを読んできたけれど、
その理想と現実とのバランス感覚にいつも感銘を受けて来た。

この論文集でも・・・

☆手段と目的との間の生き生きとした会話の欠如こそ、理想主義者の最大の欠陥
→問題の解決は、まず目的を定め、次にその手段を見出すという思考法によってではなく、
 目的と手段との間の生き生きとした会話を通じて設定された政策によってのみ得られる
<現実主義者の平和論>

・・・として、理想と現実、目的と手段の生き生きとした対話の必要性を述べている。
その上で・・・

☆文明と文明との間の交渉こそ歴史を規定する最大の要因
→その交渉を支えるコミュニケーションの構造こそ、ある文明やある国家の国際政治的位置を決定するもの
<海洋国家日本の構想>

☆偉大さを引き出しうるのは、慎重さと冒険、「非英雄主義」と「英雄主義」をつなぐことができる政治の技術であり、さらに慎重さを単なる慎重さに終わらせない視野の広さ
→その水平線こそ日本の未来がある
<海洋国家日本の構想>

・・・として、慎重さと冒険との間をつなぐ政治の技術(現実的に言えば「権力」)を軸に海洋国家日本のあるべき姿を提案している。
この本の原著は1965年初版だけど、この論述の流れはまったく色あせていない。
加えて・・・

☆真実に見るとはそれを行動につなぐ意欲を持ち、したがって共感と責任を持っていなくてはならない=水平線
<海洋国家日本の構想>

・・・という風に著者が定義する「水平線」の言葉の重みも感じた。
今も変わらず海洋国家日本のあり方を強く訴えかける一冊。

以下は、その他でチェックした箇所(一部要約含む)・・・

○重要なことは、未来のいつか意見が分かれるということではなくて、現在なすべき共通の仕事があるということ
<現実主義者の平和論>

○第2党とは明日にでも実現できることを語る政党であり、異端とは、いつ実現できるか判らない理想を語る人々
<外交政策の不在と外交議論の不毛>

○政策と世論をつなぐという政党の基本的役割を、陳情=利益の環流というパイプ一本に頼っている自民党のアキレス腱は外交問題にある
→自民党が外交と世論をつなぐ働きをしていないために、政府はその昨日をマスコミに頼っている
<外交政策の不在と外交議論の不毛>

○人間が完全に善人でもなく、また完全に悪人でもないところに政治の必要とその可能性が生まれる
<核の挑戦と日本>

○日本史における二つの大きな悲劇、鎖国と満州事件は、ともに、日本の外に開いた部分と内を向いた部分が接触を失い、均衡を失ったときに起った
→とくに、日本の内にいるエリートたちが、外に開いた部分に対する共感を失ったとき、悲劇が訪れた
<海洋国家日本の構想>

○われわれは東洋と隣り合っているが東洋ではなく、「飛び離れた西」ではあるが西洋ではない
→それは悩みであると同時に、日本が世界政治で活躍する可能性でもある
<海洋国家日本の構想>

○「勘」は「読み」という合理的な計算を通じてしか生かされえない
<あとがき>

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2012 11/18
国際政治、外交政策
まろまろヒット率5