痛いものコレクターとして「テツandトモ」がちょっと気に入っているけど
最近小ブレイクしているのでちょっとダメかなと思っている、らぶナベっす。
さて、『民法2~債権各論~』内田貴著(東京大学出版会)1997年初版。
民法の根幹である契約法と不法行為法を中心に記述している内田貴の第二段。
この部分には民法に限らず法学全体の基礎となる概念や規範が
満ちているとされていて現に法的推論の典型パターンが多いとされている。
アメリカのロースクールではまず最初にこの契約法と不法行為法を
徹底的にたたき込むことから始めるほどな部分重要とされている。
そして何よりもこの部分は読んでいてめちゃくちゃ面白い!!
一般原則の総則を中心とした『民法1』なんかよりずっと興味深い。
特に不法行為法でケースとして多数紹介されている医療過誤事件のところは
現実の問題と法律の視点が交差する接点はどこか鮮明になって
読んでいて思わず「ををっ!」とうなってしまうくらいぞくぞくした、最高!
(かなり法学フェチになっているかな?)
ただ唯一とも言える難点はやはり異様に長いことだ。
分厚いと感じた『民法1』よりもさらに分量が多い!(*o*)
途中で挫折しなかった自分に乾杯(笑)
以下は、チェック&要約する必要を感じた箇所・・・
<第1章 序説>
☆契約とは「債権の発生を目的とする合意」
○不法行為から発生する債権(被害者の損害賠償請求権)は
法律上当然に発生するもので合意に基づく契約とは全く違う
○債権発生原因=契約、事務管理、不当利得、不法行為
(四つ合わせて「債権各論」)
<第2章 契約法の構造>
○典型契約の分類(ただしこの分類に縛られないことも大切)・・・
・移動型(贈与・売買・交換)、
・利用型(消費貸借・使用貸借・賃貸借)
・役務型(雇用・請負・委任・寄託)
・その他の特殊な契約(組合・終身定期金・和解)
<第3章 契約とは何か>
○道徳の力だけでは取引秩序を維持していくのが
難しいので契約という法制度がある
○契約の拘束力に関する意思主義=人間は自らの意志に基づいてのみ
拘束されるという思想は非常に近代的なもので歴史的にいえば
それ以前には単なる合意だけでは法的な拘束力が無く
必ず一定の形式的要件が必要とされた
→ただし法律の世界での意思とは内心の意思ではなく
外部に表明された「意思表示」のこと
○日本では無償の契約でも合意だけで直ちに契約として
拘束力を獲得することができるのが原則
=「諾成主義」だが比較法的には珍しい
○電車や電気の利用などの社会類型的行為があれば個別の意思を問題と
することなく契約が成立するというのが「事実的契約関係理論」
→伝統的な意味での契約とは違う特殊な現代的契約
○相手方の作成した契約条件を飲むかどうかだけの契約
=「符合契約」に使う予め作成された契約条項
=「約款」又は「普通契約条款」
→約款規制法は各国で制定されているが日本には無く
消費者保護の観点から立法の必要性が指摘されている
○契約の種類・・・
典型契約ー無名契約(非典型契約)、双務契約ー片務契約、
有償契約ー無償契約、要物契約ー諾成契約、
単発的契約ー継続的契約ー継続的供給契約(電気、新聞など)
<第4章 契約プロセスと契約法>
☆契約法での重要な2点・・・
・現実の契約は一連のプロセス
→契約法学の課題は全体として整合性を保ちつつ現実の契約実務の中の
規範意識から乖離することないように解釈を加えること
・民法の契約法条文は契約の成立から始まるが現実の契約プロセスは
契約の成立とともに始まるわけではないし履行の完了、
存続期間の終了後も存続する
→全体を視野に入れなければならない
☆契約交渉過程であっても相手に強い信頼を与え相手が費用の支出などを
おこなった場合にはその信頼を裏切った当事者は相手方が被った実損害
=「信頼利益」を賠償する義務を負うとされる
=「契約締結上の過失」(イェーリング)
(岩波映画事件:東京地判昭和53年5月29日)
○契約当事者間の情報や専門知識に大きな差がある契約の場合には
締結過程中に一方当事者から信義則上「情報提供義務」があるとされる
(フランチャイズ契約:京都地判平成3年10月1日)
○バイト募集や通販のカタログ配布はそれ自体契約の申込ではなく
「申込の誘因」であるとされる
○競争者がお互いに競争相手の条件を知りうるのが「競売」、
知りえないものが「入札」
○双務契約における「牽連性」・・・
・成立上の牽連性→原始的不能
・履行上の牽連性→同時履行の抗弁権
・存続上の牽連性→危険負担
○同時履行の抗弁権と留置権が重なった場合は
どちらを行使しても良いのが通説&判例
☆同時履行の抗弁権の要件(533条)・・・
・一個の双務契約から生じた相対立する債務があること
・相手方の債務が履行期にあること
・相手方が自己の債務の履行もしくは提供をしないで履行を請求すること
○履行期の例外としてある「不安の抗弁権」は海外では立法例が多く
日本でも下級審では認める判決も多い
→継続的な取引関係で相手方の買主に信用不安が生じた場合に
個別契約上の債務である出荷を停止するなど(東京地判平成2年12月20日)
○相手が任意に債務を履行しない場合には債権者が取りうる手段は三つ・・
・登記の移転などを基にした「現実的履行の強制」
・「契約の解除」
・以上のいずれを選択した場合でも損害があれば「損害賠償請求」
○現実的履行の強制を認める際に同時履行の抗弁権があれば
判決はまず原告に代金支払いを要求する「引換給付判決」になる
(大判明治44年12月11日)
→訴訟の上では相手方がひとたび履行の提供をしたからといって
当事者が同時履行の抗弁権の効果を全く受けられない訳ではない
○相手方の同時履行の抗弁権を消滅させることが解除の要件
→債権者が予め債務の受領を拒んでいる場合には「口答の提供」だけで
同時履行の抗弁権を消滅させることができる(493条但書前段)
○同時履行の抗弁権は取消権のように行使しなければ発生しない権利ではなく
要件が充たされている限り当然に認められるとされる=「存在効果説」
○存続上の牽連性の問題=「危険負担」・・・
・不能となった債務の債権者がリスクを負担するのが「債権者主義」
→目的物が消滅しても支払い債務は残る
・不能となった債務の債務者がリスクを負担するのが「債務者主義」
→目的物が消滅すれば支払い債務も消滅する
○債務者の責に帰すべき事由により債務の履行が不能になれば
その債務はもとの債務の目的物と等価値の金銭支払義務である損害賠償債務
=「填補賠償」に姿を変える(415条後段)
→危険負担の問題は生じない
○当事者無責の場合の危険負担・・・
・特定物に関する双務契約→牽連性なし(534条1項)=債権者主義
・それ以外の双務契約→牽連性あり(536条1項)=債務者主義
○危険負担における債権者主義は「危険は買主にあり(買主は危険を買う)」
というローマ法に拠っているが今日では合理的な説明がつけにくいため
二つの手段で不都合を回避・・・
・534条は任意規定なので債務者主義の特約をつける
・534条はいつから負担するかの期限は定めていないので移転登記
又は引渡がなされたとき(支配可能性の移転時)に危険が移転すると解釈する
→ただし債権者主義の不都合に対する判例の立場は明確ではない
○国際取引では危険負担の問題を含めて当事者が特約を置くのが慣行だが
その際に国際商業会議所が作成した「インコタームズ」と呼ばれる
定型取引条件をつけることが多い→FOB(free on board)や
CIF(cost insurance freight)などの記号で表される
○債務者主義が適用される場合に保険などで債務者が履行不能を原因とした
金銭や債務を獲得した時には債権者は引渡請求ができると考えられている
=「代償請求権」
○後発的不能が債権者の責に帰すべき事由によって生じた場合は
534条1項を適用して債権者主義として牽連性は否定される
☆709条で不法行為責任を追求する場合には相手の故意・過失を
原告が立証しなければならない(立証は難しい)
しかし債務不履行を理由に債務者に損害賠償を請求する場合には
過失に相当する帰責事由の立証責任は債務者側にある(抗弁事由)ので有利
○更新拒絶や解約申し入れ、解除に対しては「やむを得ない事由」を
要求する裁判例が多数出てきている→「契約関係継続義務」(継続性原理)
(資生堂東京販売事件控訴審判決:東京高判平成6年9月14日)
☆解除の要件・・・
1:債務不履行(履行遅滞・履行不能・不完全履行)があること
2:不履行が債務者の責に帰すべき事由によること
3:解除が541条の手続に従ってなされたこと
→1と3は債権者の立証責任
○当事者が複数いる場合の解除は全員に対してのみ可能(544条)
→「解除の不可分性」
○解除によって未履行の債務は消滅するが既履行の債務については
返還請求権が生じる(545条)→「原状回復義務」
☆「取消」は一応有効とはいえもともと瑕疵のある契約なので
意思表示をした本人を保護すべき要請が強い
一方「解除」は契約は始めから完全に有効なので
取引をした第三者を保護すべき要請が強い
→解除による対抗要件545条1項但書が詐欺に関する96条3項と違って
第三者に「善意」を要求していないのはこのため
<第5章 売買>
○売買は合意のみで成立する「諾成契約」(555条)
○「譲渡」という言葉は一般には売買と同義で用いられていることが多い
○解約手付(債務不履行が無くても任意の解除ができる旨の合意)・・・
・買主は手付金を放棄して契約を解除できる=「手付損」
・売主は手付金の倍額を払って契約を解除できる=「手付倍戻し」
→たとえ解約手付であっても履行の着手があったとされれば
解除権の行使は阻止されるとされている
○570条は契約法における最も重要な規定のひとつ
→瑕疵担保責任には法的性質をめぐって長い論争があり
民法学上最大の難問のひとつとされている
☆債務不履行責任は過失責任だが瑕疵担保責任は無過失責任とされている
→債務不履行の時効は一般の債権と同じ10年、
瑕疵担保の時効は除斥期間として1年
<賃貸借>
○民法における賃貸借は「対抗力」、「存続期間」、「譲渡・転貸」を中心に
借地借家法によって修正されている
○「一時使用のための借地権」には借25条の借地人保護規定が適用されない
→借地借家法は賃借人重視に傾いているが例外的に賃貸人の保護をしている
「借地人不在中の期限付建物賃貸借」(借38条)、
「取壊し予定建物の期限付賃貸借」(借39条1項)も同じ趣旨
☆敷金は担保の役割を果たすが契約存続中は賃料不払いがあっても
当然には充当されないのでたとえ十分な敷金が差し入れられていても
賃料不払いを理由とする契約解除が可能という判例がある
→賃貸借関係では賃借人の債務不履行があっても信頼関係を
破壊しない程度では解除できないが厳密には賃貸借契約上の
債務不履行といえなくても信頼関係が破壊されれば解除可能とする
=「信頼関係破壊理論(信頼関係の法理)」(最判昭和39年7月28日)
○賃借人が敷金返還を要求できるのは返還すべき額が確定する明渡時だけ
(判例)
○賃貸人が交代した場合には賃借人が支払った敷金は当然に
新賃貸人に引き継がれる(最判昭和44年7月17日)
→ただし賃貸借契約の終了後に家屋が譲渡された場合には
敷金は当然には新所有者に承継されない(最判昭和48年2月2日)
○賃借権が譲渡されて賃借人が交代した場合には特段の事情がない限り
敷金に関する権利義務関係は承継されないとされている
→敷金は敷金交付者の債務不履行を担保するために支払われるものだから
(最判昭和53年12月22日)
○賃貸人の中心的義務は賃借人に使用収益させることなので第三者が
賃借人の使用収益を妨害していればこれを排除する義務がある(601条)
○借地契約における増改築禁止特約が問題となることがあるが
借地上の建物は借地人の所有物で本来増改築は自由なので特約違反があっても
賃貸人がこの特約に基づいて解除権を行使するのは信義則上許されないとする
判例がある(最判昭和41年4月21日)
→借地人は地主と協議が進まない時には裁判所に条件の変更や
増改築の許可を求めることができる(借17上1項、2項)
また、この裁判は民訴の訴訟手続によらず非訟手続で行われる(借41条)
☆賃借人の中心義務は賃料支払義務(601条)なので税金の増減・地価の変動
などの経済変動、近傍の相場との比較から地代・家賃が不相当となると
当事者は地代・家賃の「増減額請求権」を取得して賃貸人・賃借人間で
合意が成立しなくても裁判所に地代の確定を求めることができる(借11条)
→調停前置主義で争われるこの権利は形成権なので遡及効がある
(値上げ時期を遅らせるための紛争引き延ばしを防ぐため)
○賃貸人の承諾なしに賃借権の譲渡も転貸もできず無断で行うと
解除原因となる(612条)が賃借人が特段の事情を立証できれば
解除の効力は認めないとする判例がある(最判昭和28年9月25日)
○不動産賃借権は登記がなければ第三者に対抗力がないが(605条)
登記申請は共同申請の原則なので(登記請求権がなければならない)
その不都合を修正するために借10条1項は借地権は登記がなくても
土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは
第三者に対する対抗力があると規定している
○本来は物権のみに認められているものだが特別法によって
賃借権が物権的効力を持つようになったことを理由にして(賃借権の物権化)
「賃借権に基づく妨害排除請求権を認める説」があり
不動産賃借権についてはこれを認めているとみられる判例がある
(最判昭和28年12月18日)
<第9章 役務型の契約>
☆受任者の中心的義務は契約で定められた委任事務を処理することだが
委任の本旨に従った善良な管理者の注意を持って
委任事務を処理する義務を負う=「善管注意義務」(644条)
また、付随的義務として「報告義務」(645条)、「受取物・果実の引渡義務」
(646条1項)、「取得権利の移転義務」(646条2項)がある
○委任契約の典型が医師や病院との医療契約であり
医師や病院が当然に善管注意義務を負う
→この義務違反が「医療過誤」
(ただし現在の医療過誤訴訟では不法行為構成で争われることも多い)
☆645条(委任終了時の顛末報告義務)がカルテや審査結果に関する
書類の閲覧・謄写を求める請求権の根拠となる
<第10章 その他の契約類型>
☆和解には和解された結果と反対の証拠が後に出てきてもその効力は覆らない
「和解の確定効」がある(696条)
○前提として争わなかった事実についての錯誤があった場合や
和解の結果給付することになったものに瑕疵があった場合には
和解の確定効は及ばないとされる
☆交通事故では被害者がそれ以上一切の請求権を放棄する旨の条項が
入っている和解契約があっても予想不可能性を理由にして
後遺症傷害の損害賠償請求ができる場合があることを認めた判決がある
(最判昭和43年3月15日)
<第11章 不法行為序説>
☆不法行為の機能は制裁もしくは報復の原理=目には目を・損害には賠償を
=に見えるが実際の機能としては被害者救済と将来の不法行為の抑止にある
→解釈でもこの二つの側面を考慮する場面が多い
(誰が損害を負担するのかという視点)
○損害保険では損害が保険によって填補されるとその限度で被害者の取得した
不法行為に基づく損害賠償請求権は保険会社に移る=「保険代位」(商622)
☆アメリカでは不法行為による損害を経済的コストと見なして
不法行為制度の抑止効果を経済学の市場モデルを使って説明する
「法と経済学」の分野が法学のすべての領域に及んでいる
→経済的価値によって不法行為の賠償額を求める「コースの定理」や
最も安く損害を回避できる者に賠償責任を負担すべきとする
カラブレイジの「最安値損害回避者理論」が有名
(ただしどちらも経済的価値に換算できない価値への対処や交渉費を
ゼロとしている点などの不法行為法制度の特徴的に重大な欠点がある)
○不法行為規定は709条~724条の16ヶ条だけで広い領域を規律するので
解釈の果たす役割が特に重要とされている
○賠償と填補の違い・・・
・「損害賠償」=違法行為(債務不履行や不法行為)によって
他人に損害を与えた者がそれを負担すること
・「損害填補」=適法な公権力の行使によって
損害が生じた場合に公平の見地から全体でその損害を負担すること
→ただし用法的には厳格ではなく二つの接近もある
<第12章 一般不法行為の要件>
☆不法行為での「過失」とは主観的過失概念ではなく「予見可能性」が
あったにも関わらず「結果回避義務」を怠ったこととされる
(大阪アルカリ事件:大正5年12月22日)
☆「ハンドの定式」
回避コスト(B)<損害発生の蓋然性(P)×被害者利益の重大さ(L)=過失あり
→ただし過失の一般的な判断基準はまだ確立されておらず
その試みの一つとしてこの定式を捉える必要がある
(1人の人間の費用と便益を比較する場合はこの費用便益分析が有効)
☆判例では医療事故での過失立証の困難さを補うために
極めて高度な予見義務・回避義務を課している
「東大梅毒輸血事件」(最判昭和36年2月16日)、
「スモン事件」(東京地判昭和53年8月3日)が有名
→結果回避義務の水準がその職業に従事する通常人を基準とするといっても
現にその職業に就いている人の平均という意味ではなく
たとえ現在行われていない水準でも規範的判断として
必要と判断されればそれが過失の判断基準となる
☆さらに「過失の推定」という手法によって原告の立証責任が
軽減される場合がある=「インフルエンザ予防接種事件」
(最判昭和51年9月30日)
→事実の証明とは違い「過失の証明」とは法的価値判断であるから
過失判断の対象となる事実の存否については経験則による推定が可能でも
過失判断そのものは現れた事実を前提とする裁判官の評価であって
経験則によって推定するものではないとされる
=公平の見地から過失判断の前提事実の一部について
立証責任を転換することが過失の推定
○過失責任に対する例外として様々な特別法があるが
709条は失火の場合には適用しないという一条だけの失火責任法がある
○不法行為による機会損失のことを「間接損害」と呼ぶ
(一般に債権者が企業であることが多いので「企業損害」とも呼ばれる)
→間接損害は故意の場合に限って不法行為が成立すべきだというのが通説
☆本来は適法で社会的に有益な権利行使であっても不法行為となりうる場合を
認めたとして有名なのが「信玄公旗掛松事件」(大判大正8年3月3日)
→適法行為による生活妨害型不法行為に対する特有の判断基準としては
「受忍限度論」を適用→これを基準にして積極的生活妨害だけでなく
消極的生活妨害(日照り遮断など)についても保護が広げられている
☆名誉毀損が不法行為になるためには「客観的な社会的評価」が
被侵害利益とならないといけないので主観的名誉感情の侵害は含まれない
(ただし709条の要件を充たせば別の不法行為として成立する)
○プライヴァシー侵害と名誉毀損の違い・・・
プライヴァシー侵害は社会的評価の低下を要件としない、
さらに公表された事実の真実性は不法行為成立を阻却しない
○理由無く(悪意または重過失)相手を訴えれば「不当訴訟」として
不法行為が成立する(不当な保全処分の場合も不法行為成立)
○損害とは所有権侵害という事実そのものではなく現実に生じた金銭的な
被害を意味しているとしているのが伝統的な損害概念=「差額説」
→ただし人身損害に関しては「損害事実説」が適当
○損害賠償の対象となるのは「財産的損害」と「精神的損害」
→人格的利益が侵害されてもそのことによって
経済的不利益が生じれば財産的損害になる
○財産的損害=「積極的損害」(直接のマイナス)と「消極的損害」(逸失利益)
○416条を相当因果関係と呼び代える必要はなくこの規定を不法行為に
類推適用することは妥当ではないため通説の「相当因果関係」
を「事実的因果関係」(あれなければこれなし)と損害賠償の範囲
(どこまで賠償させるべきか)に分けて考えるべき
☆因果関係の推定を認めた判例として・・・
「新潟水俣病事件」(新潟地判昭和46年9月29日)、
「ルンバール事件」(最判昭和50年10月24日)が有名
→因果関係の立証責任は被害者である原告にあるが立証は経済的、情報的に
困難なので因果関係を被害者の人体から企業の門前までたどれば
因果関係が推定されあとは企業の方で因果関係がないことを
証明する必要がある=「門前理論」
(事実的因果関係といっても自然科学的因果関係の証明ではなく
あくまで法的評価を経た因果関係ということ)
○「事実上の推定」(一応の推定)の学説では「蓋然性説」VS「確率的心証説」
○「責任能力」と「不法行為責任阻却事由」は被告が責任を
免れるために立証責任をおっている抗弁事由
☆責任無能力者が不法行為を行っても監督者がその義務を怠っていなければ
免責される→「中間責任」=監督者の責任は過失責任だが
過失の立証責任が転換されている(過失責任と無過失責任の中間)
○不法行為責任阻却事由(違法性阻却事由)
=正当防衛、緊急避難、被害者の承諾、正当(業務)行為、自力救済
<第13章 不法行為の効果>
☆損害賠償の目的はアリストテレスが挙げた正義の基本理念のひとつである
「矯正的正義」(平均的正義)なので損害賠償の内容をどう定めるかについては
一つの理論に従って論理的に導かれるよりも政策的な問題となる
☆不法行為にも416条が適用され賠償額算定の基準時の問題も
416条の論理を用いた判例として有名なのが
「富喜丸事件判決」(大連判大正15年5月22日)
→今日ではこの判決には批判が多い=不法行為制度の目的のひとつが
不法行為がなければあっただろう状態を回復することなので
基準時の原則は判例の不法行為時ではなく賠償を得る時とすべき
☆傷害の金銭的評価に関する裁判実務では・・・
・被害者が現実に費やした積極的損害
・逸失利益としての消極的損害
・慰謝料としての精神的損害
・・・を列挙する「個別損害項目積み上げ方式」を採用
☆死亡による逸失利益ではその人の生涯収入から生活費を控除したものを
算定するがこの逸失利益計算方法は人間を利益を生み出す
機械のように捉えることから批判も多い
→同じ事故で死亡した被害者も生前の収入、大人・子供、男女、
若者・老人の間で大きな格差が生まれる
→このため被害者の多数いる公害訴訟では「包括・一律請求方式」が
原告の団結を維持するために採用されることが多い
☆判例変更を含んでいると大法廷で審理される
☆財産的損害と非財産的損害との違いは算定基準があるかどうかだけの差
☆判例は過失相殺を行う際に考慮する被害者の過失相殺能力について
「事理弁済能力」があればよいとした(最大判昭和39年6月24日)
(11、12歳に基準をおく責任能力よりも低いく5、6歳でよいとされる)
☆たとえ被害者に事理弁済能力がなくても被害者側という一群のグループの
誰かに過失があれば過失相殺できるというのが「被害者側の過失の法理」
(最判昭和34年11月26日)
→最高裁が過失相殺の要件から責任能力を外した時点で判例は
被害者の過失ではなく行為態様を賠償額の判断において
斟酌するという方向に転換されたとみるべき
○過失相殺は弁論主義が適用されない上にその割合については
裁判官の裁量で決めいちいちその根拠を示す必要もない
(最判昭和34年11月26日)
→しかしその判断が合理性を欠いた場合は違法となる場合もある
(最判平成2年3月6日)
○過失割合が半々の交通事故で同乗していた当事者の妻への損害賠償について
夫の過失相殺を認めた判例(最判昭和51年3月25日)では
夫婦という特殊な関係ゆえに加害者が負うべき全額の連帯責任を
分割責任にしたという趣旨←「被害者側の過失」の隠れた機能
○損害の発生・拡大に寄与する被害者の肉体的・精神的要因
=「被害者の素因」には病的素因、加齢的素因、心因的素因がある
☆事前に「好意関係」のあった不法行為に対して過失相殺を認めた
「隣人訴訟」(津地判昭和58年2月25日)などは加害者はその帰責性の度合に
応じて賠償責任を負うという「帰責性の原理」規定が民法には無いので
過失相殺の法理が援用されていると考えられる
○「生命保険金」は損害賠償額の算定の際に「損益相殺」にならない
(払い込んだ保険料の対価的性質があり不法行為の原因とは関係ないため)
○「損害保険金」には商662条1項が定めている「保険代位」が適用
(被害者の重複填補を避けるための制度)
○「社会保障給付」・・・
・第三者行為災害の場合は労災保険法12条の4第1項が保険給付をした国に
保険代位と同じ趣旨の求償権を与えている
・使用者行為災害の場合は規定がないが判例では保険給付の限度額によって
使用者は民法による損害賠償責任を免れるとされている
(最判昭和52年10月25日)
→保険料を負担する使用者にとって労災保険が責任保険的な意味を
持っていることが重要な判断基準になっている
○労災保険給付と過失相殺が重なった場合どちらを先にするかでは
まず保険給付を控除してから過失相殺をする「控除後過失相殺説」を採用
(最判平成元年4月11日)→労災保険給付の社会保障的性格を強調
○不法行為によって直接の被害者以外の第三者に損害が発生すると
「広義の間接被害者」として彼らにも独立した損害賠償請求権が発生する
○一般原則よりも損害賠償が制限される間接被害者=「狭義の間接被害者」
の代表は企業損害を受けた企業やタレントなど
○民法が規定している不法行為の救済手段は損害賠償だけだが
判例は「差止請求」を認めている
→差止を命じなければ事後的な金銭賠償では回復できないほどの
損害が生じるか否かが「受忍限度」の中で判断される
○差止請求は物権的請求権としての構成には適用範囲に限界があり
人格権概念は明確性に欠けるとの批判があるので
これらの根拠を援用することが困難な事例では
不法行為に基づく差止を肯定すべきとされている
☆差止に故意・過失の「有責性は要件とならない」とされる
<第14章 特殊の不法行為>
○一般不法行為と特殊不法行為との差は「中間責任」の導入
(過失の立証責任を転換する形で過失責任原則を修正したもの)
→中間責任の特別法として自動車損害賠償保障法(自賠法)が有名
☆使用者責任(715条)の要件・・・
・使用関係の存在
・事業の執行に「付き」
・被用者の不法行為
・免責事由の不存在←立証責任転換
(戦後は判例上免責が認められたことはないので事実上の無過失責任)
○使用者責任における「取引行為的不法行為」(事業の執行に付き)で
重要になる「外形理論」の要件・・・
・加害行為が被用者の本来の職務と相当の関連性を有すること
・被用者が権限外の加害行為を行うことが
客観的に容易な状態に置かれていること
☆表見代理(110条)と使用者責任(715条)が重複する場合は一般的に
110条の方が715条より要件が厳しいものの効果が大きいが
両者の要件は近づけて解釈すべきだとされている
→ただし株券発行が無権限で行われたケースなど効果との関係で
110条の適用を認めるべきではない場合がある
(44条と54条との関係と同じ)
☆715条が問題となるケースで多いのは暴行と自動車事故であり
自動車事故の場合は「使用者の支配領域内の危険」に由来するかどうか
暴行の場合は「事業の執行行為との密接な関連性」があるかどうか
・・・が判断基準となる
☆使用者責任での判断基準・・・
・取引的不法行為→「外形理論」
・事実的不法行為→(危険物型)→「支配領域内の危険」
→(暴行型)→「事業の執行行為との密接関連性」
○使用者責任の場合、使用者は一般不法行為の加害者とともに
「不真正連帯責任」を負う(いずれかが賠償金を支払えばその限りで免責)
☆自賠法は加害者側の責任を強化し無過失責任に近づけるとともに、
責任保険を強制して賠償のコストを保険によって分散させることで
被害者の実質的な救済を図ろうとしている
→このような手段は不可避的に損害をもたらす現代の危険な
活動についてしばしば用いられるスキーム
(このような立法では責任主体の特定をどうするかが導入する際に問題になる)
○無過失責任法での加害行為の無過失責任化は被害者救済の要請から
保険もしくはそれと同種の制度的手当が付随していて
結果的に加害者の負担の軽減となっていることが多い
→無過失責任とは不法行為責任から道徳的非難の要素を排除して
政策的に誰が保険をかけて損失分散を図るかを法定する意味合いを持っている
(自賠法はその典型)
○自賠法3条に定められた「運行共有者」とは危険責任の観点から
「運行支配があればよい」とされ広く責任が認められている
→判例では運行支配の有無が決定的な判断要素となる
○工作物責任(717条)で問題となる瑕疵の概念は570条でも出てくるが
570条では「品質・性能」が劣っていることに重点が置かれているのに対して
717条では「本来の安全性」を欠くことに重点が置かれている
(瑕疵の認定は比較的柔軟にされている)
○工作物占有者の責任は立証責任の転換された中間責任、
占有者が免責された場合に所有者が2次的責任を負う(この場合は無過失責任)
○PL法が定める欠陥の概念
=「製造上の欠陥」、「設計上の欠陥」、「警告上の欠陥」
○PL法の免責事由としてその時点における科学・技術の最高水準の知見でも
欠陥を認識できない場合は製造者に「開発危険の抗弁」がある
→親会社から指定された部品を担当した下請けメーカーなども
PL法は免責される場合がある
○複数の加害者がいてそのどちらかを確定できない場合は709条だけでは
損害賠償請求ができないため共同不法行為として719法が存在する
(不真正連帯責任)
→共同不法行為制度の意義は事実的因果関係の要件を緩和すること
<第15章 事務管理>
○「緊急事務管理」は悪意または重過失がない限り生じた損害について
賠償責任は負わない(698条)
○事務管理は他人のために事務を管理する意思が必要だが
「準事務管理」は自分自身のために他人の事務を管理する場合のこと
<第16章 不当利得法>
☆不当利得法は財産法の原則が機能不全を起こした場合の後始末を
する役割を担っているので「財産法のごみ処理場」、「実定法の裏街道」、
「法秩序の裏庭」などと言われたりする
○不当利得の代表=「給付利得」、「侵害利得」
○売買などのように財産の移転を正当化する法律関係に基づいて
財産移転が行われたが実はそのような法律関係が存在しなかった場合
=「表見的法律関係」が給付利得の典型
→この場合は危険負担や同時履行の抗弁権などについても
もとの契約や民法の規定の趣旨を反映させるのが当事者の公平に合致する
○不当利得(703条)の要件=受益、受益と損失の因果関係、損失、
法律上の原因がないこと(これがもっとも重要)
○侵害利得の類型の不当利得は「物権的請求権を補完する役割を果たす」
・物権的請求権=現物を返せという請求を基礎づける
・不当利得返還請求権=返還が不能となった時に
物の価値の返還請求を基礎づける
○受益と損失の因果関係は「社会観念上の因果関係があればよい」とされる
→あとの問題は法律上の原因で考えればよい
○給付利得については表見的法律関係が存在するが
侵害利得の場合は何ら具体的法律関係が存在しないのに権限のない人に
財貨が移転したということ自体が法律上原因がないとみなされる
○契約上の給付が相手方だけでなく第三者の利益になった場合に
給付を請求する権利=「転用物訴権」に関しては判例が統一されていないが
そもそも認めるべきではないという意見がある
(ブルドーザー事件:最判昭和45年7月16日)、(最判平成7年9月19日)
☆不当利得の要件を充たすと・・・
・善意の場合には「現存利益」の限度で(703条)
・悪意の場合は「利息を付して」返還することを義務づけている(704条)
○給付利得類型の典型は契約の無効・取消等だが表見的にせよ
法律関係が存在していた以上、不当利得法は誤って履行された
表見的法律関係の清算制度としての機能を果たす
☆自らの支配領域でリスクを負担するのが危険負担の本来の思想
○債務の存在しないことを知りながら債務の弁済として給付をした場合には
給付した物の返済を請求することはできない=「非債弁済」(705条)
=不当利得であっても返さなくてもよい特則
→ただし経済的・社会的圧力からやむを得ず弁済がなされた場合は
たとえ債務が存在しないことを知っていても本条は適用されない
○”clean hands”の原則を規定している708条が定める
不法の原因の典型は90条の公序良俗違反
○708条の適用をめぐって当事者双方が不法だった場合には
不法性を比較考量する→給付者の不法性が強い場合には708条本文によって
返還請求を否定するが受益者の不法性が強い場合には
708条但書を拡張解釈して返還請求を認めるべきとされている
(最判昭和29年8月31日)、(最判昭和44年9月26日)
この本をamazonで見ちゃう
2000 6/1
法学、民法
まろまろヒット率5