渡邊義弘@日本語の中で好きな言葉の一つは「ご縁」です。
さて、ロバート・D. パットナム、柴内康文訳 『孤独なボウリング―米国コミュニティの崩壊と再生』 柏書房 2006。
アメリカ社会が人と人とのつながりが低下してる現状を明らかにしながら、その原因と影響を分析し、解決策を提案する一冊。
個人の間やコミュニティのつながりが、資本のように機能するという概念=社会関係資本(ソーシャルキャピタル=Social capital)の古典ともされている。
原題は、“Bowling Alone: The Collapse and Revival of American Community” (2000)。
読んでみて特に印象に残ったのは、社会関係資本の中で橋渡し型と結束型の違いについて述べているところだ・・・
☆社会関係資本の形式の中で、最も重要なものは「橋渡し型(bridging)」(あるいは包含型)と、「結束型(bondding)」(あるいは排他型)の区別
・結束型=特定の互酬性を安定させ、連帯を動かしていくのに都合がよい→「なんとかやり過ごす(getting by)」に適す=社会学的な接着剤
・橋渡し型=外部資本との連繋や、情報伝播において優れている→「積極的に前へと進む(getting ahead)」にのに重要=社会学的な潤滑剤
→結束型と橋渡し型の区分けは、それにより「どちらか一方」に社会的ネットワークがきれいに分けられるといったカテゴリーではなく、社会関係資本のさまざまな形態を比較する時に使える、「よりその傾向が大きい、小さい」という次元のこと
<第1章 米国における社会変化の考察>
☆結束型と橋渡し型の差違=集合的視点からは、われわれが必要とする社会関係資本の範囲は、直面している問題の規模に依存している
→小さい子どもが必要としている刺激と秩序を確保するという目的であれば、結束型の社会関係資本が最適
→福祉システムを置き換える場合どれにすべきか決定するなどに対しては、橋渡し的な社会関係資本が、公共の議論の質を最大限高める
→われわれの抱える最大の集合的問題に対しては、まさに橋渡し型の社会関係資本が必要とされるが、それは創り出すのが最も難しい
<第22章 社会関係資本の暗黙面>
○社会関係資本を促進するのは、必然的に等質なコミュニティ内の方が容易であるので、その創出を強調することは、社会のバランスを意図的でなくとも移動させ、橋渡し型社会関係資本から遠ざかり結束型社会関係資本に向かう可能性がある
<第23章 歴史からの教訓―金ぴか時代と革新主義時代>
・・・これらは、「情報をかけ橋」をテーマとして社会貢献に取り組んだ際に、「ご縁のご利益」が味方に、「内弁慶」が敵となる経験知を、形式知として説明できるものとして強く惹かれた。
また、芸術・文化活動と社会関係資本との関係について述べているところも印象に残った・・・
○社会関係資本の構築には、われわれが社会的、政治的、職業的アイデンティティを乗り越え、自身とは似ていない人々とつながることが必要となる
→重要であるにもかかわらずあまり活用されないのが、芸術、文化活動
→社会関係資本は、主目的が純粋に芸術的なものである文化活動の価値ある副産物となることがしばしばある
<第24章 社会関係資本主義者の課題に向けて>
・・・これは課題としてでなく、活用できる分野(伸びしろ)に感じた。
以下は、その他にチェックした箇所(一部要約含む)・・・
☆ネジ回し(物的資本)や大学教育(人的資本)は生産性を個人的にも集団的にも向上させるが、社会的接触も同じように、個人と集団の生産性に影響する
→物的資本は物理的対象を、人的資本は個人の特性を指すものだが、社会関係資本が指し示しているのは個人間のつながり、すなわち社会的ネットワーク、およびそこから生じる互酬性と信頼性の規範
<第1章 米国における社会変化の考察>
○社会関係資本と市民的美徳の違い=市民的美徳が最も強力な力を発揮するのは、互酬的な社会関係の密なネットワークに埋め込まれている時
→美徳にあふれているが、孤立した人々の作る社会は、必ずしも社会関係資本において豊かではない
<第1章 米国における社会変化の考察>
○社会関係資本は同時に「外部性」を有しているコミュニティに広く影響するので、社会的つながりのコストも利益も、つながりを生み出した人のみにその全てが帰せられるわけではない
→つながりに富む個人であってもつながりに乏しい個人であっても、つながりに富む社会に住んでいる場合はそこからあふれ出た利益を得ることができる場合もある
→社会関係資本は「私財」でありまた「公共財」であり得る
<第1章 米国における社会変化の考察>
☆一般的互酬性という効果的な規範は、社会的交換の密なネットワークにより支えられる
→誠実性は密な社会的ネットワークにより促進される
<第8章 互酬性、誠実性、信頼>
○参入と退去があまりに容易だと、コミットメント、誠実性そして互酬性は発達しない
→バーチャル世界の匿名性と流動性は「出入り自由」の「立ち寄り」的な関係を促進する
→この偶発性が、コンピュータ・コミュニケーションの魅力であるというサイバースペースの住人もいるが、社会関係資本の創造を阻む
<第9章 潮流への抵抗?―小集団、社会運動、インターネット>
○社会関係資本は、人々の願望を現実に返還するのを助ける数多くの特徴を持つ
1:市民が集合的問題解決をより容易にすることを可能とする
2:コミュニティがスムーズに進むための潤滑油となる
3:自らの運命がたくさんのつながりを持っている、ということへの気づきを広げる(積極的で信頼深いつながりを持つ人々は、周りの社会にとってよい性格特性を形成し、維持する)
4:目標達成を促進するのに役立つ情報の流れるパイプとして役立つ
5:心理学的、生物学的プロセスを通じて、個人の生活を改善する
<第16章 序論>
○社会関係資本のストックが消滅したことが、最もダメージを与えてしまう領域の一つは、われわれの子弟が学校の内外で受ける教育の質
<第17章 教育と児童福祉>
○貧しい人々は定義的に経済的資本がほとんどなく、人的資本の獲得においても圧倒的な障害に直面しているので、社会関係資本はその福祉に対して、不均衡なほどに重要
<第18章 安全で生産的な近隣地域>
☆社会関係資本、一人当たりの所得、所得格差、人種構成、都市化、教育水準の各州ごとの差違を検討した場合、社会関係資本が納税遵守を予測することに成功した唯一の要因
→自分の負担分を支払おうとする意向は、他者も同じようにしているという知覚に決定的に依存している
→社会関係資本に富むコミュニティにおいては、政府は「われわれ」であって「彼ら」ではない
<第21章 民主主義>
○民主主義は、市民が無私の聖人であることを必要とはしないが、適度な仕方で、大半の人々が多くの瞬間において不正の誘惑に抵抗することを仮定している
<第21章 民主主義>
○本書の構造:
第1部:社会関係資本の背景と分類
第2部:社会関係資本の急減
←第3部:その原因
→第4部:その帰結
第5部:解決策に向けて
<訳者あとがき>
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2016 2/3
社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)、社会学、政治学、政策学、経済学、コミュニティ論、アメリカ社会、研究方法論
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