今ある資源を最大限活用するのは戦略の基本だと思って、ごはん日記コンテンツを再編して文京ごはんを新たに展開した、
らぶナベ@ぷち情報戦略論です(^_-)→http://maromaro.com/archive/gohan/bunkyo/
さて、『戦略の本質―戦史に学ぶ逆転のリーダーシップ』野中郁次郎、戸部良一、鎌田伸一ほか著(日本経済新聞社)2005。
名著『失敗の本質』と同じスタッフによる戦略本。
太平洋戦争での旧日本軍の失敗を研究した『失敗の本質』では、旧日本軍の失敗の本質は進化論的な過剰適応にあるという結論だった。
では、逆に「成功した戦略の本質は何だろうか?」というテーマで出されたのがこの『戦略の本質』。
内容は、まず解釈的アプローチ(クラウゼビッツなど)と分析的アプローチ(ジョミニなど)の対比を通しながら、これまでの戦略論の系譜をひもといている(第1章)。
次に、戦略の本質が明確化するのは逆転の場面だとして、毛沢東の反「包囲討伐」戦(第2章)、バトル・オブ・ブリテン(第3章)、
スターリングラードの戦い(第4章)、朝鮮戦争(第5章)、第四次中東戦争(第6章)、ベトナム戦争(第7章)を事例研究して、
逆転を可能にした戦略の共通点をあらいだし(第8章)、10の命題を結論づけている(終章)。
読んでみて、確かに20世紀の戦史上の逆転劇を振り返ってみれば、
そこには不利な状況をくつがえした戦略のきらめきが垣間見られる。
そうした逆転の戦略はどれも、自分の不利な点を逆に利用し、いわば「出汁」に使って有利な状況を導き出している。
そのためには大きな視野での逆転の発想が必要だし、何よりも大きな決断が必要になる。
そこで戦略の本質である逆転の場面には決断を下したリーダーたちのリーダーシップが際立つ。
だから戦略の本質をリーダーシップ、いわば政治的判断&決断に置いたこの本の視点には納得できた。
ただ、前作の『失敗の本質』と比べると、事例研究の深さ、結論の明確さ、全体の説得力などに不満を覚えてしまった。
『失敗の本質』があまりに良すぎたからそう感じるのか、もしかしたら「失敗には理由があるが、成功には理由がない」ということなのか・・・
とにもかくにもとても興味深いテーマなので同じスタッフによる続編に期待したい。
以下はチェックした箇所(一部要約)・・・
○戦いの原則は、戦略の本質そのものではなくて、その本質から派生し特定の状況に適応された、戦略の具体的応用
<第1章 戦略論の系譜>
○戦略とは(略)二つの対立する意志の弁証法のアート(術)である(アンドレ・ボーフル)
<第1章 戦略論の系譜>
○戦略の本質は対立したものを合一し、時には転倒させる逆説的論理(エドワード・ルトワク)
<第1章 戦略論の系譜>
○戦略の本質を考えるにあたって重要なのは、各位相関に埋め合わせ(compensation)が成り立つこと(コリン・グレー)
<第1章 戦略論の系譜>
☆戦略は、何らかの政治目的を達成するための力の行使であるので、対立する意志を持つ敵との相互作用がダイナミックに展開される
→それゆえ戦略の各レベルでは逆説的論理が水平的かつ垂直的に作用する
→さらに戦略はいくつかの位相から成る複雑系の性質を有し、その位相間の相互関係の変化に応じて具体的な表れ方が異なってくる
<第1章 戦略論の系譜>
○毛沢東は戦争という現象を「対立統一」という弁証法の原理でとらえ、戦争の基本的な矛盾は敵と我との矛盾であるとした
→この矛盾は戦争の過程の始めから終わりまで存在するので、双方の主観指導の正しさまたは誤りによって、強から弱へ、弱から強へと変化する
→このような強弱の相互転化は戦争の一般原理なのであり、したがってこのような矛盾関係を創造的に解消しなければならないとした
<第2章 毛沢東の反「包囲討伐」戦―矛盾のマネイジメント>
○毛沢東の考える根拠地は空間的限界を突き破ってダイナミックに動く存在であって、それゆえに潜在的な増幅力をもつ
<第2章 毛沢東の反「包囲討伐」戦―矛盾のマネイジメント>
○メタファーは直感的・象徴的言語であるから、人々に生き生きとしたイメージを喚起し、理解を促進させ、
そして動機づけると同時に現実との対比からの類似性のみならず、ずれやギャップを克服するための思考も活性化させる
→メタファーの活用は、組織における価値の共有と創造性開発のリーダーシップ要件とも考えられる
<第2章 毛沢東の反「包囲討伐」戦―矛盾のマネイジメント>
○毛沢東にとっては直接的な実践は創造の源泉であって、実践-認識-再実践の無限の環境のなかで知識が獲得されていくのである
<第2章 毛沢東の反「包囲討伐」戦―矛盾のマネイジメント>
○戦いの原則・・・
目標の原則 (The Objective)
主導の原則 (The Offensive)
集中の原則 (Mass/Concentration)
経済の減速 (Economy of Force)
統一の原則 (Unity of Command)
機動の原則 (Maneuver/Flexibility)
奇襲の原則 (Surprise)
簡明の原則 (Simplicity)
保全の原則 (Security)
<第8章 逆転を可能にした戦略>
○直接アプローチは量的な大きさが質的な差を吸収しうるということを前提にしているが、
間接アプローチは死す的な差が量的な大きさを超越することができるということを前提にしている
→直接アプローチは規模の経済の論理が決定的な意味を持ち、
間接アプローチは的確な情報見積もりや状況判断、創造的な作戦計画、練度の高い軍事組織と作戦行動が重要
<第8章 逆転を可能にした戦略>
☆戦略は、各々独立した意図を持つ主体間の相互作用である
→作用-反作用の因果連鎖が逆説的であり、非線形的であるがゆえに主体間の相互作用はダイナミックなものとなる
<第8章 逆転を可能にした戦略>
☆戦略論の分析的アプローチと解釈的アプローチは相互補完の関係にあって、主観と客観の往環運動を通じて複眼的に真実に迫ることが基本なのである
<終章 戦略の本質とは何か―10の命題>
☆戦略の10の命題
1:戦略は「弁証法」である
2:戦略は真の「目的」の明確化である
3:戦略は時間・空間・パワーの「場」の創造である
4:戦略は「人」である
5:戦略は「信頼」である
6:戦略は「言葉」(レトリック)である
7:戦略は「本質洞察」である
8:戦略は「社会的に」創造される
9:戦略は「義」(ジャスティス)である
10:戦略は「賢慮」である
<終章 戦略の本質とは何か―10の命題>
☆あらゆる戦略は真空で生起するのではなく、一定の歴史的時間と地理的空間の制約のなかでパワーを
有効かつ効率的に発揮するというダイナミックな関係性として具現化される
→時間、空間、パワーの関係性をコンテクストと言う
<終章 戦略の本質とは何か―10の命題>
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2006 2/18
戦略論、戦史研究、リーダーシップ論、政治学、組織論、経営学
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