松山正一 『この一冊で「刑法」がわかる!』 三笠書房 1996

刑法関連で読み終えた3冊目の本。
さらに今まで理論書で把握した骨格に肉付けする目的で
判例が豊富な三笠書房の『この一冊でわかる』シリーズを
読んできたがこれでこのシリーズをすべて読み終えたことにもなる。
内容の方は他の法律版と同じように刑法でもその例にもれず
実によく様々な具体例を紹介してくれている。(その数ざっと79例)
特に刑法は事例である各論を中心に考えるとわかりやすいので
なかなかに読んでいて楽しかった。
この本を読んで初めて知ったことだが『死刑囚』や『泥棒日記』で有名な
フランスの作家ジャン・ジュネは本人も常習窃盗犯で
終身刑まで言い渡されたことがあるらしい。
その時はサルトルやコクトーの奔走で特赦を得たらしいが
「彼の作品って単なるマニアの結晶やん(^^;」と突っ込んでしまった。
僕の痛いものコレクションに新たなコレクションが加わった。

以下、チェック&まとめたところ・・・

○刑罰の分け方=「生命刑」、「自由刑」、「財産刑」、「名誉刑」

○日本の刑罰は重い方から死刑→懲役→禁固→罰金→拘留→科料→没収
・死刑~科料までが「主刑」で没収は「付加刑」

☆一つの行為が複数の犯罪にあたる場合は刑罰の量刑の枠を
それぞれ刑罰の重い方を選んでその範囲内で処罰する(54条1項)
=「観念的競合」

○懲役刑(13条)と禁固刑(16条)は共に無期と有期があり、
有期の上限は15年だが最長「20年」まで延長することが可能

○「拘留」は刑法上の刑罰だが同じ発音をする
「勾留」は刑事訴訟法上の強制処分で刑罰ではない

○裁判を下される全犯罪の90%以上が罰金刑
(罰金は原則1万円以上、科料は千円以上1万円未満)

○刑罰の「科料」と同じ発音の交通違反などで支払う
「過料」は行政上のもので刑罰ではない
→「科料」を「とがりょう」、「過料」を「あやまちりょう」と呼ぶことも

○刑期は暦による年や月の単位で計算する(22条)
→2月と3月とでは3日も違う

○執行猶予を加えることができるのは3年以下の懲役か禁固、
または50万円以下の罰金の時のみ(25条)

○執行猶予中の犯罪でももう一度だけは執行猶予を受けることができる

○仮釈放で出所した人間の数が満期釈放で出た人間の数を上回っている(56%)

○例外的だが教師に「暴行罪」(208条)を適応した判例がある

○他人の封筒などの信書を開けると「信書開封罪」(133条)
→内容を見なくても読める状態であれば該当

○「あの肉はミミズの肉だ」などの嘘の情報などで業務活動を妨げれば
実害の有無に関わらず「信用毀損及び業務妨害罪」(233条)

○憲法20条「信教の自由」を刑法上で実現させたのが
「宗教的感情に関する罪」(188条~192条)

○民訴では証人や身内にとって重大な利害関係のある事柄については
裁判での宣誓を拒否できる(民事訴訟法196条)
刑訴でも証人自身や身内などが処罰を受ける可能性のある
事柄については宣誓を拒否できる(刑事訴訟法146条)

○警官が無理矢理職務質問をすれば「公務員職権乱用罪」(193条)、
また条件が整っていない逮捕や要件が整っていない勾留をおこなえば
「特別公務員職権乱用罪」(194条)

○職務上知った他人の秘密を漏らすと「秘密漏示罪」(134条)

○「傷害罪」(204条)と「暴行罪」(208条)との線引きは問題となるが
被害者が精神衰弱症になるまでイタ電をし続けた犯人には
物理的攻撃をしていなくても傷害罪が適用された判例がある

○ペットが他人を怪我させれば買い主は「過失傷害罪」(209条)
→ただし親告罪

☆「過失」=「注意義務違反」=
「予見可能性」+「回避可能性」があったにも関わらず
「結果予見義務」or「結果回避義務」を欠いたこと
○全くの第三者でも喧嘩をはやし立てると「傷害現場助勢罪」(206条)
☆単純な理論上では殺意無しで殴って相手が死んでしまえば
「傷害罪」(204条)+「過失致死罪」(210条)で懲役最大10年だが
結果的に死を招いた傷害に対しては「あれ無ければこれ無し」の
条件関係を重視して「傷害致死罪」(205条)を適応し懲役最大15年
→故意犯よりも過失犯が重く処罰されることを「結果的加重犯」
過失致死罪」(210条)よりも「業務上過失致死罪」(211条)の方が重い

○13歳未満の女の子との性交は同意を得ていても「強姦罪」(177条)
また、強姦罪は原則的に親告罪だが輪姦の場合は告訴無しでも成立する

○要求を受けたのに人の住居などから立ち去らなければ「不退去罪」(130条)

☆線引きが難しい「強盗罪」(236条)と「恐喝罪」(249条)との違いは
主観的な判断でなく客観的な性質に注目
→被害者が現実に反抗を抑圧されたかどうかは問わない

○借金の返済であっても強要すると「恐喝罪」(249条)

☆借金の借用証でも破ると「私用文書毀棄罪」(259条)
→「毀棄」とは文書としての役割を果たさなくすることなので
隠匿行為も毀棄のうちに含まれる

○「公用文書毀棄罪」(258条)は親告罪ではないが
「私用文書毀棄罪」(259条)は親告罪

☆預かった封書全体をネコババすると「横領罪」(252条)、
中身だけ抜き取ると「窃盗罪」(235条)でこちらの方が重たい
→占有を侵害している方が罪が重い

○ローン返済完了前に商品を売っても「横領罪」(252条)に該当
→支払が終わるまでその商品の所有権は売り主にあるため

○「盗品などに関する罪」(256条)は懲役刑と罰金刑の
両方が科される刑法上では唯一の罪

○役員が焦げ付くとわかっていた融資すれば「背任罪」(247条)

☆犯人自身とその家族が証拠を消しても「証拠隠滅罪」(104条)にはならない

☆被害者やその家族、目撃証人を脅したり面会を強要しただけで
「証人威迫罪」(105条の2)

○最近の判例による違法ではない安楽死の要件・・・
1:耐え難い肉体的苦痛があること
2:患者の死が避けられず、かつ死期が迫っていること
3:肉体的苦痛を除去・緩和する方法を尽くし、他に手段がないこと
4:生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があること←これが一番重要

☆「建造物損壊罪」(260条)と「器物破損罪」(261条)は
物理的に使用できなくする場合だけでなく
心理的に使えなくした場合でも該当する

☆「併合罪」の量刑の枠はもっとも重い刑の1.5倍を上限とする(47条)

☆原則的には悪事を重ねる再犯の刑期は2倍になり
情状酌量された犯人の刑期は2分の1になる

○親告罪で告訴権のある被害者に犯人が自分の罪を告げて処分を委ねると
自首と同じ扱いを受ける=「首服」(42条)

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法学、刑法
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