司馬遼太郎 『箱根の坂』 講談社 上中下巻 1987

もういい年なのでいい加減そろそろ自立しようと思い立ち
妄想銀行大阪支店長の地位を捨てて「妄想証券取引所」(NABEDAQ)を
開設した、らぶナベ@ただいまさまざまな銘柄が上場中!
(現在、佐伯日菜子株が高値圏にあり)

さて、『箱根の坂』上・中・下巻 司馬遼太郎著(講談社文庫)1987年初版。
時々、なぜか無性に司馬遼太郎の本を読みたくなる事があるのだが
現在そういう時に読み返すはずの『龍馬がゆく』『燃えよ剣』
さらには心のベスト本『坂の上の雲』までもがことごとく人に貸していて
手元に無かったためこの機会に新しいのでも読んでみようと思い、
どうせ読むならスケールの大きなやつのが良いだろうと買って来た一冊。

内容の方は戦国大名の代表格とされる北条早雲を主役にした歴史小説。
以前、司馬遼太郎の『空海の風景』上・下巻(中央公論新社)1994年改版初版
というタイトルの本を読んだがこの作者の書く本はすべて
その登場人物が生きた「風景」をえがいているような気がする。
社会状況だけでなく地理的環境、風土までその人間たちの見た
「風景」をえがくのがこの作者の真骨頂だろうが
特にこの小説では北条早雲の生きた「風景」が強く感じられた。
そういう意味でとても司馬作品らしい小説。

北条早雲といえばギラギラした成り上がり者のイメージが強いが
その生涯を見てみると・・・
中央官僚を務める伊勢家の傍系のさらに傍系という厄介者の立場に生まれ
その状況に甘んじて次期将軍候補者に仕えるも政治に絶望し
応仁の乱の中でも鞍職人として人生の前半生を波風立てないよう生きるが
駿河の今川家に嫁いだ妹分の要請から主体的な役割を演じていき
10年以上かけてじっくりと今川家の内紛をおさめてゆき
50代になって始めて一城の主として自分なりの政治をおこない
60代になって戦国時代の幕を切る小田原攻めを指揮し、
70代になって10年以上防戦一方だった浦上氏を攻めてあげて
さらに80代になってからその浦上氏を滅ぼして
戦国大名北条氏の基礎を造りあげるという「お前はおじゃる丸か!」と
思うくらいに成り上がり者というイメージの割に鷹揚というか
時間を計るメモリが人より長い感じを受けてしまう。
応仁の乱で台頭してきた足軽や土豪、鉄製農具の普及で力を付けた
農民とその加工品を扱う商人たち(旧時代では数段下の人間たち)の
台頭と守護や将軍家の実質的な没落という時代を見つめる視点に
自信があったからこそこういう時間の使い方ができたのだろう。
単に混乱する状況を嘆く旧時代の既得権益者に過ぎなければ
(もし彼が伊勢家の本家の長男であれば)また違った人生を歩んだのだろう。
既得権益、既成権威が揺らぐことへの恐れは人を動揺させるが
その動揺をどう捉えるのかでその人の価値は決まってくるということだろう。

北条早雲の人から見れば別人のような人生の状況変化、
理解しにくいほどの極端な能力の使い方、
人生の前半生にみられた勘の鋭さを扱いかねるところなどには
何か親近感というか相通じるものを感じてしまう(^^)
ま、僕も焦らず地殻変動の進む現在をいきてゆこう。

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2000 1/25
小説、歴史
まろまろヒット率5

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