前田雅英 『刑法各論講義』 東京大学出版社 1999(第3版)

心斎橋そごう本店に「夏の売りつくしセール」というポスターが
貼ってあったのを見て「夏に限らず君自身が売りつくしやろ?」と思わず
突っ込んでしまった、らぶナベ@マジで誰か買ってあげてください(^^;
(そごう&大丸は御堂筋を中心にした心斎橋界隈の象徴なもので)

さて、『刑法各論講義[第3版]』前田雅英著(東京大学出版社)1999年第3版。
刑法学の第一人者が書いた刑法の基本書、スタンダードな一冊らしい。
このシリーズは総論と各論でワンセットとして構成されているが
刑法は各論の方が読んでいて面白いし最近その重要性が
妙に注目されているようなのでまずは各論から読んでみた。
刑法各論は結局は具体例を集めたものなので今まで読んだ
入門書の知識でも十分に対応できるものだった。
こうした分量の本のわりにはチェック項目自体も少ないし
あえていえば目新しいものも少なかったように思える。

法学の中では人命まで扱う刑法は一番厳しく事例も深刻なものばかりだけど
だらこそ思わず笑ってしまう具体例もいくつかあった。
例えばわいせつの罪で出てくる「わいせつ」の定義について
「家族だんらんの場での朗読がはばかれるか否か」を基準にした
最高裁判決がある(最判昭32.3.13)がそれは子供が基準になり
わいせつ概念を広げすぎるので不当とだ学説から批判されていることや、
殺人罪か同意殺罪かが争われた事例(3年以上の懲役か7年以下の懲役か)で
究極のSMプレイとして下腹部をナイフで刺すことを依頼された結果、
被害者を死亡させた事例について同意殺を適用した判例などを読んでいると
法廷で「この本は家族団らんの場で朗読しても大丈夫か?」とか
「この場合のSMプレイとはこういった趣向のもので・・・」とかいう話を
真剣に議論している姿を想像して微笑んでしまった、不謹慎かな?(笑)

以下は、チェック・・・
<序論>
☆各論では圧倒的に構成要件該当性判断が重要な役割を果たす
→その中でも実際上重要なのが各犯罪類型の「実行行為とは何か」

<第1章 生命・身体に対する罪>
○自殺は犯罪ではないのにそれを教唆・幇助した人間を処罰する
自殺関与・同意殺罪(202条)は61条・62条とはまったく別個の
「他人の生命の否定に関与する行為の処罰を独自に規定したもの」と考える

○自殺関与罪(202条)と同意殺人罪の区別は
その人が直接手を下したといえるかどうか

○自殺関与・同意殺人罪の解釈上最も問題となる殺人罪(199条)との区別は
「真意に基づく殺害の嘱託があったかどうか」
→究極のSMプレイとしてナイフで刺すことを依頼されてその結果被害者を
死亡させた事例について199条の成立を否定し202条を適用した
(大阪高判平10.7.16)=3年以上の懲役と7年以下の懲役の差

☆錯誤による殺人同意があった場合は「自殺が真の自己決定に基づくか否か」
という規範的評価によって202条の成否を判断する
また199条か202条かが問題となる場合には錯誤の重要性以上に
殺人罪として「実行行為性が認められるかどうか」を検討しなくてはいけない
→199条で処罰するには積極的に殺したと同視し得る事情が必要=
心中と偽って青酸ソーダを飲ませた事例では199条を適用(最判昭33.11.21)

○傷害罪(204条)の未遂処罰は規定されていないが
実質的には暴行罪(208条)が傷害未遂をカヴァーする

☆傷害罪とは「人間の生理機能への侵害」を罰する規定なので
女性の髪の毛を剃る行為は傷害罪ではなく暴行罪を適用(大判明45.6.20)
また近時の判例を総合すると傷害の態様にもよるが全治4、5日までは
204条の構成要件には該当しないとするのが合理的と思われる
→10年以下の懲役か2年以下の懲役かの差

○同時傷害罪(207条)は同時犯として暴行を加え傷害の結果が生まれた場合に
意思の連絡を欠いても「共同正犯」として扱われる刑法の特例

☆同時傷害の同時犯が共同正犯として扱われるのは
「同一期間におこなわれ」、「意思の連絡がないこと」、
そしてどの行為が傷害結果を生じしめたかが不明であることが要件
(意思の連絡があれば本条に関係なく共同正犯となる)
→207条は事実上被告人に挙証責任を転換する規定

○暴行罪は「身体に対する有形力の行使」を罰する規定なので
拡声器を使って耳元で大声を発する行為も208条に該当する
(大阪高判昭45.7.3)

○凶器準備集合罪(208条の2)の凶器とは殺傷用の「性質上の凶器」だけでなく
使い方次第では殺傷にも使用できる「用法上の凶器」を含む
また要件である「共同加害の意思」は積極的な攻撃目的だけでなく
相手が攻めてきたら反撃するといった受動的なものも含む(最決昭37.3.27)

○過失犯は刑法典上は例外的犯罪として規定されているが
我が国の刑法犯の中では過失犯(特に過失致死傷害罪)の占める割合は大きい

☆過失傷害罪(209条)は親告罪で過失致死罪(210条)は罰金刑しかない
→故意犯と比較して著しく刑が軽いのがその特徴

☆業務上過失致死傷害罪(211条)の要件である「業務」には
「社会生活上の地位」に基づき、「反復継続性」があり、
かつ「生命・身体への危険」を含むことを要求されている
→ただし業務の範囲は非常に広がっているので誤って人を殺害しても
業務性が否定されるのは家事、育児、自転車の運転ぐらいに限られる
=罰金しかない過失致死罪の適用は実際上はほとんどなく
5年以下の懲役であるこの211条が適用される場合が多い

○遺棄の罪は処罰範囲が微妙で可罰判断が国や時代によってかなり異なる犯罪
→日本では女性が犯す率が圧倒的に高い

☆遺棄罪の保護法益は生命、身体に対する危険犯(個人法益に対する罪)と
するのが現在の通説なので被害者に完全な同意が存在すれば遺棄罪は不成立
→ただし遺棄致死罪の場合には過失致死罪が成立し得る
(同意殺が可罰的であることと同じ)

○遺棄罪(217条)と保護責任者遺棄罪((218条)が処罰する遺棄には
安全な場所から危険な場所に移す「移置」と
危険な場所に放置する「置き去り」とがある
→不作為である置き去りに対しては被告人に保護義務がある場合のみ
218条で処罰される(最判昭34.7.24)

<第2章 自由に対する罪>
☆強要罪(223条)は一種の結果犯であり未遂処罰があることが
脅迫罪(222条)とは異なる→3年以下の懲役か2年以下の懲役の違い

☆強制わいせつ罪(176条)は被害者に男性を含む点が強姦罪(177条)と異なる
→7年以下の懲役か2年以上の懲役の違い

☆住居侵入罪(130条)の保護法益は「住居に誰を立ち入らせ
誰の滞留を許すかを決める自由」=「新住居権説」が通説(最判昭58.4.8)
→それゆえ大家が家賃を払わない間借り人を追い出すために
侵入する行為も130条を構成する(最決昭28.5.14)

<第3章 名誉・信用に対する罪>
☆たとえそれが真実であっても名誉毀損罪(230条)が適用されるが
公共の利害に関するなど一定の要件が備わった事実の場合には
それが真実と証明されれば処罰されないのが230条の2
→名誉への罪はドイツでは原則としてそれが真実であれば不処罰とされ、
逆にイギリスでは真実であるほど摘示する行為は法益侵害が大きいとされた
→日本の230条の2はこの二つの中間的な処理をするものといえる

☆業務妨害罪(234条)と公務執行妨害罪(95条)とを分ける「公務」とは
「強制力を行使する権力的公務」であるかどうか(最決62.3.12)

<第4章 財産に対する罪>
○現行の財産犯規定では情報そのものを財産として保護することは難しいので
情報の盗用などの行為類型に対してはまず著作権等の無体財産権の侵害として
保護を拡大していく方向が模索されなくてはならない
(情報自体を盗む罪も検討されたが1987年の立法は見送られた)

○物であっても誰の所有にも属さなければ財産犯の客体にはならない
→野生動物を捕獲する行為は銃猟法違反などになることはあっても
窃盗罪(235条)には当たらない

☆保護法益である財物の要件として必要な「他人性」は
民法上の権利の有無とは独立して判断すべき=「独立説」
→抵当権の有効性が民法上争われていても建造物損壊罪(260条)が
成立するとした判例がその代表(最決昭61.7.18)
=社会通念上一応は尊重すべき経済利益が認められれば他人性の要件は足りる

☆財産犯の構成要件解釈では法的権原に基づかない所持の侵害も
窃盗罪や詐欺罪に該当すると解し、自己の財物や権利に基づく
奪取行為の可罰性は違法性阻却の問題として処理される(最決平1.7.7)

☆毀棄罪を除く財産犯に対して判例&通説は客観的構成要件要素の認識を
超えた「不法領得の意思」という「主観的超過要素」を加えて要求する

○不法領得の意思=「自ら所有権者として振る舞う意思」、
「物の経済的用法に従って利用・処分する意思」

○窃盗罪は未遂を処罰する(243条)が財物の占有侵害の危険が
希薄な段階で処罰する必要はない(最決昭40.3.9)

○窃盗罪の既遂は被害者が占有を喪失し行為者(もしくは第三者)が
占有を取得した時点で成立する(最判昭24.12.22)

☆不動産侵奪罪(235条の2)にも242条が適用されるので
たとえ自己の不動産であっても他人の占有に属し
または公務所の命令で他人が看守する不動産は他人の不動産とみなされる
ただし過去に不動産の占有を開始した後にその占有が不法となっても
235条の2は成立しない→占有の態様が質的に変化した場合には侵奪を認める
(最決昭42.11.2)

○親族間の犯罪に関する特例(244条)は
強盗罪と毀棄罪以外のすべての財産犯に適用される

☆強盗罪(236条)と恐喝罪(249条)とを分けるのは暴行&脅迫が
「相手の反抗を抑圧する程度」の強度かどうか(最判昭24.2.8)=客観説が通説
→5年以上の懲役か10年以下の懲役かの違い

○強盗致死傷害罪(240条)における「負傷」とは
「強盗の機会に他人に傷害を加えること」(最判昭23.3.9)

☆「処分(交付)」が詐欺罪(246条)と窃盗罪とを分ける概念とされてきた
→現刑法は利益窃盗を処罰しないので処分行為の存否は詐欺罪と無罪を分ける

☆通説&判例は詐欺罪も財産犯である以上その成立要件として損害を要求する
→損害については「実質的個別財産説」で判断(大判昭3.12.21)
=医師であると偽って適切な薬を販売した事案で詐欺罪の成立を否定

☆恐喝罪(249条)の脅迫は脅迫罪(222条)の脅迫とは異なり
相手またはその親族の生命・身体・名誉・自由・財産に対する
害悪の告知に限定されない=婚約者に対する害悪も含まれる

☆債権者が債務者を脅して債権を取り立てる行為が恐喝罪に当たるかどうかの
判断については「実質的個別財産説」が有力だが
その判断基準は結局、実質的違法性阻却事由の問題に帰着する
→判例は「権利性」と「手段の相当性」の二つの要素を中心とした
違法性阻却判断を採用している(最判昭30.10.14)=無罪判断も多い

☆権限がないのに所有者でなければできない処分をすることが横領罪(252条)
=「権限逸脱」
単に権限を濫用するに過ぎないのが背任罪(247条)=「権限濫用」
→背任罪だけには未遂処罰規定がある(250条)

○背任罪が処罰する任務違反行為の典型例は無担保もしくは
十分な担保なしに貸し付ける「不正貸付行為」(最決平10.11.25)
ただしその裁量の範囲内であれば不適切な貸付であっても
任務違反とはならないのでそれを超えて権限濫用したといえる場合に
始めて背任罪が認められる(最決昭38.3.28)
それ故そもそも濫用の余地のない者にとっては背任はあり得ない

○背任罪でも不処罰な「主として本人のため」の行為判断で重要なのが
損害発生の確率、得られるであろう利益の衡量、
危険な取引を行わなければならない必要性の程度を踏まえた上で
本人のために行ったかという主観的メルクマールの判断(最決平10.11.25)

<第5章 公衆の安全に対する罪>
☆社会法益に対する罪は実害が発生していなくても
「抽象的な危険が発生した段階」で刑罰権を発動する点に最大の特徴がある

☆現住建造物放火罪(108条)や他人に対する非現住建造物放火罪(109条1項)
とは違って、自己に対する非現住建造物放火罪(109条2項)と
建造物等以外放火罪(110条)は「公共の危険」の発生=一般人をして
他の建造物に延焼すると思わせる程度の状態を要件とする「具体的危険犯」

<第6章 偽造の罪>
○テレホンカードなどのカード型有価証券のどの部分が
財産権を表示しているかについては可読部分と磁気部分の両者を含む
「一体説」が判例(最決平3.4.5)

○権限逸脱→偽造罪成立→横領罪、権限濫用→偽造罪不成立→背任罪

<第7章 風俗秩序に対する罪>
☆公然わいせつ罪(174条)とわいせつ物頒布罪(175条)でのわいせつの定義=
「徒に性欲を興奮または刺激せしめ」、
「普通人の正常な性的羞恥心を害し」、
「善良な性的道義観念に反するもの」の三つの要件をみたすもの
(最判昭26.5.10)

<第8章 国家法益に対する罪>
☆ロッキード事件判決(最判平7.2.22)は賄賂罪(197条以下)における
「職務権限」を実質化したものとされる
=賄賂罪における職務概念にとって重要なのは
「法的に明示された範囲内のことを行ったか否か」や
「通常職務として行っているのか否か」ではなく
「職務として影響を及ぼし得るか否か」

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