白取祐司 『刑事訴訟法』 日本評論社 1999

最近、僕の人生の半分は勘違いと妄想で構成されていたことに気がついたけど
後戻りができないことにも気がついてしまってコマッチングならぶナベっす。

さてさて、『刑事訴訟法』白取祐司著(日本評論社)1999年初版。
以前、法学の基本書を紹介するHomePageで絶賛されていたので
思わず購入して読んでみることにした一冊(少年の様に影響されやすい体質)。
確かに法学の本としてはかなり読みやすい文章だし視点も明確だ。
だいたい訴訟法の本は読んでいて退屈だったりするけれど
この本は突っ込んだり関心したりできたのでなかなかに楽しめた。
例えば「被告人に自分は真犯人だと打ち明けられても弁護人が
無罪主張することは許される」と断言している部分には違和感を感じた。
その理由は当事者主義的訴訟構造の下では真実とはあくまで擬制だから
ということらしいが(詳しくは以下のチェック項目で)ちょっと説得力が無い。
でも『評決のとき』のような真実と事実がぶつかる時には
こういう議論が鮮明化してくるのだろう。
また、DNA鑑定に対して司法が妙に慎重な態度を取っている理由は
最高裁で死刑が確定されたが再審で一転無罪になったという
とんでもない事件の争点が当時それほど信頼性が無かった
血液型鑑定に頼っていたという実にこわい事例があるかららしい。

以下、チェックした部分・・・
<はしがき>
☆刑事訴訟法学の魅力は個々の問題に内在する対抗軸、
すなわち手続主体間の利害・緊張関係が生み出すダイナミズムにある
・・・いわゆる論点と言われるものもその大半は
真実発見(犯人必罰)と適正手続との緊張関係を凝縮・反映したもの

<序章>
☆訴訟法的な考察方法に従う限り「真犯人」なるものはいない
(いるのは犯人らしき「被疑者」、「被告人」にすぎないし
「無実の者」も観念的なものにすぎない)
→刑事手続の目的は真犯人の発見ではなく無実の者を処罰しないところにある

☆刑事訴訟法は刑法と比べて手続法としての独特な思考方式に立って
問題を解決しようとする点に特徴がある
→実体法が二次元的な発想だとしたら
訴訟法は三次元、四次元の発想が要求される

☆刑事訴訟法は他の法分野と比べて理論(学説)と実務の距離が
大きい分野だと言われているが実務と言った場合に
何を持って実務と言っているのかに注意する必要がある
→実務と判例は常に一致するわけではない

<第1章 総説>
○自然人は死亡によって法人は解散によって当事者能力を欠く(339条1項4号)
→ただし死後の再審は可能

☆弁護人が真犯人だと打ち明けられた被告人のために
証拠不十分を突いて無罪主張することは許される
→当事者主義の訴訟構造では当事者が証拠によって
合理的疑いを超える証明を果たした事実のみが「真実」(擬制)であり、
客観的真実なるものは訴訟では始めから放棄しているから
←どうも説得力が無いぞ!

○一人の検察官が行った事務は独立の官庁が行ったことと同じ効果がある
=「検察官同一体の原則」

○裁判官への忌避申立(21条1項)はまず認容される可能性はない
←チッソ川本事件(最決昭48.10.8)

☆被害者の意思を手続に反映させるなど被害者保護の気運が高まっているが
被告人は「被害者」に対比される「加害者」ではなく、
加害者か否かを確認される判決が下るまでは
あくまで「無罪の推定」を受けることに注意が必要

○裁判所自ら訴訟を開始する原理=「糾問主義」=「職権主義」、
裁判所以外の者が訴訟を開始する原理=「弾劾主義」=「当事者主義」

○適正手続の保障(憲31条)で最も重要なものは「違法収集証拠排除法則」
(最判昭53.9.7)

<第2章 捜査>
○捜査の原則=任意捜査の原則、強制処分法定主義、捜査比例の原則
(以上197条)、関係者名誉保護の原則(196条)、物証中心主義

○任意捜査と強制捜査の区別に関するリーディングケース「最決昭51.3.16」
=任意捜査と強制捜査の間に「強制処分の程度にいたらない有形力の行使」
という範疇を認めて、必要性、緊急性、具体的状況のもとでの相当性
の要件をみたせば認容されると判示した
(「個人の意思の制圧」と「身体等の制約」があることが強制処分の要件)

○逮捕・勾留中の被疑者が余罪の取調中に自白しても
自首に当たらないとするのが判例(東高判昭55.12.8)

○4夜に渡る任意の身体的拘束を利用した取調べを任意捜査として認めたのが
「グリーンマンション事件」上告審判決(最判昭59.2.29)

○カメラの隠し撮りを任意捜査として認めたのが
「京都府学連事件」最高裁大法廷判決(最大判昭44.12.24)

○おとり捜査の違法性に関しては「犯意誘発型」、「機会提供型」
に分けて判断する(最決平8.10.18)

○コントロールド・デリバリー(controled delivery)は麻薬特例法3条、
4条によって新設された新しい捜査方法で「泳がせ捜査」を認める

○現行法は「検証について準抗告を認めていない」が、
この押収と検証の伝統的な区別は情報に対する重要性が高まってきている
現代の状況に合致しなくなってきている(逮捕にも認められていない)

○捜査・差押時における被疑者・弁護人の立ち会い権は認められていない
(222条1項は113条を不準用)

○専門家に鑑定の嘱託を行う「嘱託鑑定」(223条1項)は
あくまでも任意捜査なので直接強制はできない

○逮捕の現場で差押え、捜査、検証することができると定めた
220条1項の解釈をめぐっては合理説(相当説)が判例(最大判昭36.6.7)
→憲35条との整合性で批判を浴びている

☆強制採尿問題(最決昭55.10.23)に関して判例の法形成機能を
肯定的に評価する向きもあるが強制処分法定主義の性格を考えると、
立法の予想しない人権侵害を伴う強制処分を判例で創造することは問題
→ここらへんが民事訴訟法との大きな違い!

○逮捕の「相当な」理由(199条1項)とは被告人を有罪にするだけの嫌疑より
低くても良いが捜査・差押えの要件としてよりは高い嫌疑だとされる

○ロッキード事件の際に捜査段階で「刑事免責(Immunity)」が用いられたが
最高裁は刑事免責の適法性を否定(最大判平7.2.22)

<第3章 公訴・公判>
○国家訴追主義+起訴独占主義=「検察官起訴専権主義」
(比較法的にも珍しい制度)

○検察側の証拠開示を事前に弁護側が求める条件として
「証拠調べの段階であること、具体的必要性があること、
防御のために特に重要であること、罪証隠滅・証人威迫のおそれがないこと」
を判示した「最決昭44.4.25」以降は証拠の事前全面開示について
判例は沈黙している

○訴因変更については訴因の事実的側面を重視して
重要な点で事実に変化があれば構成要件が同一でも訴因の同一性はなく、
訴因変更が必要になるとする「事実記載説」が判例・通説(×法律構成説)

☆公訴提起による「時効の停止効」は公訴事実の同一性に及ぶとするのが
判例・通説

○当事者主義+直接主義+口頭主義=「口頭弁論主義」

<第4章 証拠>
○自由心証主義→適正な事実認定の原則→訴因について確信にいたらなければ
端的に無罪を言い渡す→灰色無罪は問題とならない

☆「心証の程度」は「疑わしきは被告人の利益に」の原則が貫かれるので
有罪判決の際には「反対事実の存在の可能性を残さないほどの確実性を
志向した上での”犯罪の証明は十分”であるとの確信的な判断に
基づくものでなければならない」とされる(最判昭48.12.13)
→大陸法と英米法の折衷的な表現

☆証拠の「関連性」(relevancy)とは要衝事実の存否を推認しうる
蓋然性(probability)のこと→これを欠くと証拠能力が否定される

☆司法がDNA鑑定に未だ慎重な理由は十分な関連性(証明力)を持たない
血液型鑑定によって少なくない誤判(再審無罪)が生まれたため
(これが自然的関連性のない科学的証拠の許容性=証拠能力を否定する根拠)

☆違法収集証拠排除法則(Exclusionary Rule)が適用されるには
まず「重大な違法」があり証拠を認容することが「相当でない場合」
という非常に限定された条件下のもとでのみ可能=「最決昭53.9.7」
(捜査官が主観的に令状主義潜脱の意図を持って始めて違法と言えるなど)

○自白の証明力の注意則(判断基準)=客観的証拠との一致、
秘密の暴露、臨場感体験供述の有無、自白内容の矛盾・変転
→この注意則はかえって間違った判断を導く可能性があるので注意が必要

☆共犯者の自白にも補強証拠が必要かについては憲38条3項の
「本人の自白」に共犯者の自白も含まれるのかという問題になる
→含めずに補強証拠を不要とする「消極説」が判例
=「練馬事件」大法廷判決(最大決昭33.5.28)

☆伝聞法則の理想(320条)は現実によって大きく裏切られている
→現行法自体が伝聞法則の例外を多く認めているため(321条以下)
→特に検面調書という捜査書類を伝聞の例外としたので
結果として公判の形骸化の要因となっているとされる

☆伝聞法則の例外を認める要件=
反対尋問に代わる客観的担保がある場合に限られなければならない
「信用性の情況的保障」(特信情況)、
一定の伝聞証拠を使用する特別の必要性がなければならない「必要性」
→この2つの原理が厳格に求められる

☆相手方の同意を得た「同意書面」(326条)を伝聞証拠の例外と認めるのは
特信情況、必要性の2つの原理では説明できない例外であり、
これに当てはまるときは他の例外事由に当たるかの吟味も省略できるという
伝聞法則不適用の一種

☆伝聞証拠であっても被告人・証人等の供述の証明力を争う
「弾劾証拠」として用いる場合には例外として証拠能力が認められる(328条)
→ただし自己矛盾の供述(同一人の不一致供述)に限る限定説が通説

<第5章 裁判と救済手続>
☆A事実とB事実のいずれかの事実が存在することについては
合理的疑いを超える確信が持てるものの、
そのどちらかについての確信が持てない時=「択一的認定」の問題
→二つのうち少なくとも軽い事実であることは確かなのだから
そのうち軽い方の事実で有罪判定を下す(最決昭33.7.22)
→ただし無罪の推定の原則に接触することでもあるので無罪判定もある

○一事不再理効の及ぶ範囲=被告人と裁判を言い渡した国家の間のみ生じる
主観的範囲(別の公判で共犯者に矛盾した判決が言い渡されることもある)と、
公訴事実の同一性(312条1項)の客観的範囲で再訴は禁止される

○上訴をするためには「上訴の利益」が必要とされる(最決昭37.9.18)

☆原審の死刑判決に対して控訴したがその後に自ら取り下げたために
死刑が確定してしまった事例で、この取り下げが有効か否かについて
「死刑判決宣告の衝撃及び公判審理の重圧に伴う精神的苦痛」によって
個別的訴訟能力を欠いていたとして本人の上訴取り下げは無効と判示した
「最決平7.6.28」は死刑確定から被告人を救済したユニークな事例

○上訴審の破棄判決の下級審への拘束力は原判決に対する消極的否定的判断
(原判決認定の事実は存在しないなどの破棄の直接理由)についてのみ
生じるのであって積極的肯定的判断(その判断を裏付けるアリバイの存在など)
は拘束しない(最判昭43.10.25)

☆控訴審が職権調査の上で直接に攻防対象になっていない部分を
有罪判定することは許されない=「攻防対象論」(最大判昭46.3.24)
→当事者主義のためと不利益変更禁止のため

☆絶対的控訴理由(377条、378条)と相対的控訴理由(379条)との違いは
手続違反が判決に影響を及ぼしたことの立証を要するかどうかの差

○上告審の機能=違憲審査機能、法令解釈統一機能、具体的救済機能

○「二俣事件」(最判昭28.11.27)以降、「事実誤認の疑い」が
上告理由として認められた(411条の職権破棄)

○再審請求人のクリアすべき基準で
「確定判決における事実認定につき合理的疑いを生じしめれば足りる」
として再審の道を開いたのが「白鳥決定」(最決昭50.5.20)

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