高坂正堯 『文明が衰亡するとき』 新潮社 1981

らぶナベ@今月18日にエニックス株が二部を飛び越して
東証一部に上場されるっす。
今年中に上場はあると思っていたけどまさかこんな早い時期に
それも飛び上場とは予想外っす、めざせ年内1万2千円台!(^^)

さて、『文明が衰亡するとき』高坂正堯著(新潮選書)1981年初版をば。
著者の高坂正堯は近代から現代にかけての日本の国際政治学の中でも
おそらく屈指の存在だろうと思われる国際政治学者。
沖縄返還では佐藤政権のブレインとしてその政策を支える
活躍をするなどの実践経験もある骨太な研究者。
個人的にも彼の今までの著作『国際政治』『世界史の中から考える』
『世界地図の中で考える』『世界史を創る人びと』などを通して
安易な理想主義の問題点を突っ込み、ドライな視点で現実を捉えながらも
だからといって決してすれたり投げやりにならない姿勢に好感を持っていた。
極端に楽観的になったり極端に悲観的になりがちな国際的なネタを
冷静にかつ愛情を持って見つめようとしている姿が伝わってくる書き手。
最近死んでしまったけど僕がもっとも好きな政治学者&物書きの一人。

この本はその彼の著作の中で一番の代表作というべき本。
いつか読みたいと思いながらもなぜか読む機会を見いだせなかった本、
大学院に入って本を読む時間があるというのはとても良いことだ(^^)
内容は誰もが一度は感じたことがある衰退と滅亡への
漠然とした不安、文明の衰亡論をテーマにしている。
衰亡の原因は一つだけではなくまた一直線で衰退するということも
無いために衰亡の究明は複雑になってくる。
だらこそ不安をかきたてられてどうしても安易な結論を出してしまいがちだが
この本はそういう意味では余裕がある書き方をしている。
構成としては古代ローマ、ヴェネツィアの隆盛と衰亡を軸にして
現代アメリカの苦悩と最後に海洋商業国家としての日本が戦後経済大国に
なりえた環境とその状況が変化しつつある今後の姿を示している。

昔から様々な人間を惹きつけてきた、
「ローマはなぜ滅んだか?」というテーマの大元、
古代ローマがどうして隆盛しどのようにして滅んでいったかを
これまで各時代ごとに出されてきた様々な仮説を紹介しながら
えがいているところは特に興味深かった。
確かにその時代その時代の不安がローマ衰亡論には見え隠れして
衰亡論の面白さが伝わってきて説得力がある。
また、様々な衰退要因を克服しながらも衰亡していったヴェネツィアの姿勢は
与えられた状況の中で困難に立ち向かう人間たちのカッコ良さを感じる。
そしてそれは領土も資源も無く海洋に面している
商業国家という点で似ている日本の姿をだぶらせてしまう。
(安易な類似は危険だけれど)

悲壮感が漂いそうなテーマでありながら決して感情的に高ぶったり
安易に悲観論に走らない、だからといって味気なく無いところは
さすが高坂史観だと思わせてくれる。
どうも僕は司馬遼太郎といい、高坂正堯といい、
安易な理想論や無責任な感情論に対して誰にも文句を言わせないほどの
資料調べとそれに基づく歴然とした事実を武器にして批判し、
それだからこその説得力を持って現実に絶望しないで
ユーモアを感じさせてくれる関西人的な書き手が好きなようだ。
(事実、二人とも根っからコテコテ関西人)
時にそれは感情論者や理想論者を逆なでしてしまうのだろうけど(^^;
現実的な視点で軟弱な理想主義を非難しつつも投げやりにならない
骨太な希望論は僕も心がけていきたいものだ。
たとえそれが避けがたい衰亡論のような一見絶望的なものであっても
それが必要だと、そう思わしてくれる名著だった。

以下、眼についた箇所の抜粋・・・
・ある時代に強力であった説というものは、時代おくれとして
簡単に片づけられないものなのである。

・ローマは狭い視野で、勝利の成果をむさぼろうとせず、
寛大に扱ったのであり、それ故、支配を永続させることができたのであった。

・財産の平等が質素を維持するように、質素は財産の平等を維持する。

・土木と法はローマ人がもっとも秀れていたところ

・権力と富を享受しうるようになったローマで、敢えてそれから逃避せず、
しかし、その奴隷にならないよう日毎自らをいさめ誘惑と戦う

・大衆は普通、彼等の属する集団やその価値によって自己を規制している。
そうしたものがなくなったとき、大衆は手取り早い方法で欲するものを
得ようとするのであるから、個人が原子化されているのが
大衆社会の特徴である。当然そこでは、大衆は操作され易い。

・幸運に臨んでは慎み深く、他人の不運からは教訓を学んで、
つねに最善をつくす

・巧妙な外交をおこなうものは、
契約を破ったりは滅多にしないものなのである。

・よい政治体制とは国内の活力と多様性とを保ちながら、
秩序と安定とを与えるもの

・勝敗の分かれ目はレーンが述べたように
「社会を組織する能力」の差にあった。
(ジェノヴァに勝ったヴェネツィアの要因)

・挫折は自らの限界を悟らせる。そして、人間は知恵を持つようになる。

・幸運に助けられた目ざましい成功と、どうしても克服できない脆弱性、
その二つが通商国家の運命であるというほかない。

・それをしていることを十分に承知している人間の行う偽善は、
有効であるとともに、かつ芸術的に美しい

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1999 8/17
歴史、政治学、エッセイ
まろまろヒット率5

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