ジョン・H.カートライト、鈴木光太郎・河野和明訳 『進化心理学入門』 新曜社 2005

決して鉄ちゃん(鉄道オタク)ではないけどダージリン・ヒマラヤ鉄道に飛び乗りしてみたい、らぶナベです。

さて、『進化心理学入門』ジョン・H.カートライト著、鈴木光太郎・河野和明訳(新曜社)2005。

研究室で発見したので借りて読んでみた一冊。進化心理学ではめずらしい入門書。
内容は進化心理学の主要な論点、仮説を手堅く紹介している。
章末ごとにまとめがある上に、用語説明もあってテキストとして使いやすい。
ただ、分量の関係上仕方ないとはいえ、進化心理学で僕が一番魅力的に感じる
「協力する心の理論」の記述はほしかった。

読み終えてみて、ヒトも動物の一種として進化してきたんだから、ヒトの心も環境適応の結果物
・・・っという進化心理学の基本姿勢はやっぱり説得力があると感じた。
ただ、訳者あとがきにもあったように安易な現状肯定の仮説に終始する可能性も同時に感じた。
検証が難しいだけに、時間がかかりそうな分野だけど魅力的な領域であることは確か。

以下は、チェックした箇所(一部要約)・・・

○ダーウィンの進化論が意味するおそるべきこと=自然界には究極的な目的も設計も運命も存在しない
<第1章 進化―自然淘汰と適応>

○人間行動の至近的説明と究極的説明を区別することが重要
<第1章 進化―自然淘汰と適応>

○性淘汰において性内淘汰と性間淘汰と区別することが重要
→性内淘汰と性間淘汰の両方がヒトの心の性質を形作ってきたと考えられる
<第3章 性淘汰>

○典型的なヒトの配偶を一言で言えば、不倫に悩む表向きの一夫一妻制
<第4章 人間の性を解明する>

○「心の原型」と「内的衝動の表出」という考えは新しいものではないが、
ユングは原型を神秘的な集合的無意識から解釈、
フロイトは子ども時代の原型的意志の欲求不満を過度に強調(さらにラマルク主義)
→進化精神医学はダーウィン理論。
<第5章 心の原型―適応反応としての恐怖と不安>

○進化精神医学は現代精神医学を精神障害のメカニズムの正常な機能を理解しようとせず、
その原因となっている欠陥だけを見つけようとしていると批判する(Nesse and Williams, 1995)
→至近的要因と究極的要因の違いとの批判
<第6章 心の病を進化から説明する>

○祖先の環境と現在の環境の間の相違点を強調するよりむしろ類似点を探すべき(Crawford, 1998)
<第6章 心の病を進化から説明する>

○精神障害の原因に対する仮説
=心的モジュール機能不全説、楽園追放説(ゲノム・ラグ説)、適応的堅実性説、
準備性説、正規分布説、抑うつ階級説、包括適応度説
<第6章 心の病を進化から説明する>

○ヒトの脳が大きくなった原因についての仮説
=多様な食物に関する認知能力の必要性説、社会的要因の役割説(マキャヴェリ的知能仮説と心の理論)、
性淘汰の効果説、脳と言語(ハードウェアとソフトウェア)の共進化説、道具使用説
<第8章 知能の進化>

○進化的適応環境=”Enviroment of Evolutionary Adaptation”(EEA)
→ヒトの持つ遺伝子が進化の過程で、その時の生存問題を解決するため自然淘汰によって形成された時期の環境
→約300万年~3万5千年前
<用語解説>

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2005 9/2
進化心理学
まろまろヒット率3

小河陽 『ペテロとパウロ』 講談社 2005

IBMのThinkPad-X31からPanasonicのLet`s note-CF-W4に代えた、
らぶナベ@レッツノー党なみなさん、どうぞよろしくお願いします(^_^)v

さて、『ペテロとパウロ』小河陽著(講談社選書メチエ)2005。

ユダヤ教の一分派だったイエス運動がキリスト信仰として世界宗教になる基礎を作った
原始キリスト教の二人のキーパーソン、ペテロとパウロの軌跡をたどった一冊。

伝道者の元祖としての二人の宣教戦略について知りたかったが、その記述は少なかった。
でも、限られた資料、特に聖典として後世の脚色が加わった可能性の高いものから、
実際の姿を導き出そうとする謎解き的なおもしろさを読んでいて感じた。
著者は神学者だけあって、理論構成や論理操作もおもしろく思えた。
(ただ、妙に文章に修飾が多いのも神学の特長か?)

英雄物語として脚色された部分を除いて見てみると、
実際のペテロはここ一番で逃げ出して泣いたりするし(イエスを見捨てる)、
パウロは会ってみると弱々しい印象で話がつまらないと評価されていた。
そんな二人が世界宗教への基礎を作ったというのはちょっとおもしろい。
「私は弱いときにこそ強い」というパウロの言葉の深さも感じた。

また、ペテロがイエスの弟子となる箇所では・・・
「彼は師となる人が示した律法についての造詣の深さに感銘を受けたのではない。
いや、むしろ伝統的な解釈や過去の権威にはまったく無頓着に、
それでいて彼らが子どものころから聞き知らされていた神について、神の掟について、
独自の解釈を自らの権威において語る、その言葉の力強さに圧倒されたのである」
・・・と著者が言っているのは、すべての新宗教帰依者に通じるものだろうと思った。

ちなみにペテロは復活、パウロは回心という神秘体験(ヌミノーゼ)を通して伝道者となった。
その神秘体験は実際はどういったものだったんだろうかと思った。
論理的に書かれたこの本の中でも、奥歯にものがはさまったような表現だったので、
余計にそのあやしさが目立っていて興味を感じた。

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2005 8/29
歴史、神学
まろまろヒット率4

杉浦昭典 『海賊キャプテン・ドレーク―イギリスを救った海の英雄』 中央公論新社 1987

万博ではマイナーな国々の料理を食べまくった、らぶナベです。

さて、『海賊キャプテン・ドレーク―イギリスを救った海の英雄』杉浦昭典著(中公新書)1987。

16世紀イギリスの海賊、後に提督として活躍したフランシス・ドレークを取り上げた歴史本。
正確に言うとドレークは完全に無法な海賊(pirate)というより、
敵国の船に対する私掠特許状を与えられた私掠船(privateer)の船長だ。
ナイトの称号を与えられたりプリマス市長も勤めたように、
彼はイギリス国内では彼は合法的な存在だった。

でも敵国、特に当時イギリスと覇権を争っていたスペインにとっては彼の経歴は海賊そのもの。
スペインの商船や植民地を襲いながらマゼラン隊に続いて世界史上2番目の世界一周を達成。
(その過程でホーン岬とドレーク海峡を発見)
スペインとの戦いではイギリス艦隊の実質的な指揮を取り、
カディス湾の奥まで進入してスペイン艦隊を奇襲(1587年)。
さらにスペイン艦隊との決戦であるアルマダ海戦では、
得意の焼き討ちで当時世界最強といわれた無敵艦隊(アルマダ)を壊滅させる(1588年)。
最後は洋上で生涯を終える彼は、史上もっとも成功した海賊といえるだろう。

奇襲や焼き討ちなどのB級なゲリラ戦術を得意とする一方で、
世界一周を達成するほどの大きな冒険心と実行力があって、指揮もうまい。
彼は二流国家時代はB級戦術で勝ち上がってきたイギリスの象徴的な存在ともいえる。
裏技が得意なのに正攻法もできるというまさに僕好みの人物だ。
ドレークの元上司で後にライバルとなるジョン・ホーキンズも魅力的な人物だし、
彼の人生を知るにしたがってすっかり彼と彼の活躍した時代を好きになってしまった。
逆にエリザベス1世のことがかなり嫌いになってしまったけど(^^;

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2005 8/22
歴史、海賊もの
まろまろヒット率4