修士研究枠組み「問題意識」

表現活動から出た疑問と研究目的


私は2001年7月からWEBサイト「まろまろ読書日記(現「まろまろ記」)」を立ち上げ、運営している。当初は単に私が読んだ本の読書日記を公開するだけのものであったが、意図しないコンテンツ部分の人気と発展(1)、閲覧者からのフィードバックがそのまま表現の一部となること(2)など、あたかもWEBサイトそれ自身がWEBマスターの手から離れて独自に進化(累積的な変異)するかのような感覚におそわれた。
このような独自進化は、当時私が関わっていた既存のコンテンツビジネスの経験と比べても異質なほどの早さで進展し、「WEB表現はなぜこうも表現として予測不可能性が高いのだろう?」との疑問を持つようになった。

また、WEBサイトの運営を続けるにつれ、上記のような既存のコンテンツビジネスの相違点だけでなく、共通点も顕著となった。それはコンテンツよりもコンテクストへの依存度が非常に高いという点である。たとえば成功するアイドルは顔が一番綺麗だからでも、一番歌がうまいからでもない。同じく成功するWEBサイトは技術的に高度なものでも、情報整頓が綺麗だからというわけではない。(どちらもむしろその逆が多い)

こうした体験から私は情報の価値の本質は情報それ自体にあるのではなく、情報を価値づける「感性の共鳴」というべき作用行為にあると考えるようになった。情報は、コンテンツそれ自体ではなく、そのコンテンツと接する人々が独自に形成するコンテキストによって価値づけられる。そもそも物理的実体のない情報の生産はコンテキスト形成までをデザインを視野に入れなくてはいけない。
WEB表現に不確定要素が高いのは、このコンテキスト依存度がより高いメディアであるからであると感じるようになった。

このような予測不可能性、不確定要素の高いWEB表現をどのように捉え、またどのように発展させていけばいいのか、という問いがこの系としての研究の端緒である(3)。
それは以下でみるように常に複雑な系を形成する人の流れを水路付けるコミュニケーション・デザインとして方向づけされてゆくことになる。

1:読書日記をメインコンテンツに置いたにも関わらず、常に最多アクセスは用語集、次点ははしり書きである。
2:掲示板がその代表例であり、これはWEBマスターが訪問者からの書き込みを改訂、削除、出版可能であるかどうかという議論につながる。
3:研究推移の様子は出来事メモに記載(特にまろまろ研究が中心的)。 問題意識の背景と研究の意義


現在、Windows95発売を契機として一般にインターネット元年とされる1995年から9年が経ち、計測困難なほどWEBサイトが誕生し、さらに指数関数的に増加している。そして、その多くは個人によるWEBサイト構築、表現である。
膨大な数のWEBサイトがあるのにも関わらず、こうしたWEB表現に対してはまだ十分な意味づけがおこなわれていない。個人がメディアを持つことについて意味付けを試みる端緒は垣間見られるものの、未だ確たるものは形成されていない。ここにこの研究テーマに取り組む表現者として必要性と研究意義があると考えられる。
また以下でみるように、多分に文脈に依存して形成されるWEB表現をどう捉えてゆくのかという方法論の模索は、突き詰めれば状況依存性と文脈依存性が高く、実態の補足が物理的に難しい「情報」という対象に対してのどのように取り組むかということであり、他の情報関連研究の取り組みに対しても寄与できるものと考える。

参考文献
<情報の状況依存性と文脈依存性について>
中島尚正・原島博・佐倉統編 『総合情報学』 放送大学教育振興会 2002年初版

<WEBサイト数把握の統計的な試みとして>
インターネット協会監修 『インターネット白書2003』 インプレス 2003年初版
武邑光裕監修 『HOW MUCH INFORMATION?』 東京大学大学院新領域創成科メディア環境学研究室 2003年初版

<WEB表現の意味づけの端緒として>
武邑光裕著 『記憶のゆくたてーデジタル・アーカイヴの文化経済』 東京大学出版会 2003年初版
水越伸著 『デジタルメディア社会』 岩波書店 2002年新版

<WEB表現について不十分ながらも注目すべきインタビューがあるものとして>
金田善裕著 『個人ホームページのカリスマ』 講談社 2002年初版
釜本雪生+くぼうちのぶゆき編著  『テキストサイト大全』 ソフトマジック 2002年初版
とってもe本プロジェクト編 『万有縁力~ネットの向こうに人が見える~』 プレジデント社 2001年初版
井上真花著 『おしえて先輩!人気ホームページのつくり方』 ソシム 2002年初版 研究の手法


主に文献研究から成る学術研究活動と、主にWEB上で展開される実践表現活動との相互フィードバックを手法とする。
これはINPUTとOUTPUTの系である(研究枠組み図)。もともと私は読書(INPUT)と読書日記(OUTPUT)とから成る系を持っていた。表現活動とは一般にOUTPUTのみであると認識されることが多いが、INPUTなき表現はありえない。意識するしないを問わずIINPUTをOUTPUTにつなげ再びINPUTを促す一種の系である。その系に学術研究をフックとして導入しながら、さらなる表現活動の環を広げるように展開していく。

また、以下の学術研究で見るように研究の対象となるWEB表現とは単にコンテンツの制作にとどまらず、それを見に来、その場で交流する人の流れまでを視野に入れたコミュニケーショナルデザインである。コミュニケーションとは双発的で複雑な系であるから、その系の一部だけ取り上げても本質的ではないが(指摘)、同時にたいへん捉えにくいものでもある(問題)。そこで自らが表現と研究から構成される系の育成を主要な手法として、とらえがたいダイナミズムを捉えてゆくことを主眼とする。

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