渡邊義弘@振り返ってみれば谷崎文学好きの人とは話が合うことが多いです。
さて、『陰影礼賛』谷崎潤一郎著(中央公論新社)1995。
電灯がなかった時代に形成された日本文化(=建築、紙、食器、食べ物、化粧、服など)にとっては、
陰影が重要であり、その陰影こそが日本の美の特徴だと論じる文化論。
原著は、昭和8年(1933年)に発表された谷崎潤一郎の代表的随筆。
(旧字体では『陰翳礼賛』)
内容は・・・
○日本に「なれ」と云う言葉があるのは、長い年月の間に、人の手が触って、一つ所をつるつる撫でているうちに、自然と脂が沁み込んで来るようになる、
そのつやを云うのだから、云い換えれば手垢に違いない。(略)
われわれの喜ぶ「雅致」と云うものの中には幾分の不潔、かつ不衛生的分子があることは否まれない。
・・・と身体性を強調しているところや・・・
○われわれ東洋人は己れの置かれた境遇の中に満足を求め、現状に甘んじようとする風があるので、暗いと云うことに不平を感ぜず、
それは仕方ないものとあきらめてしまい、光線が乏しいなら乏しいなりに、却ってその闇に沈潜し、その中に自らなる美を発見する。
・・・と現状肯定的な側面を強調しているところが印象的。
さらには・・・
○私は、われわれが既に失いつつある陰翳の世界を、せめて文学の領域へでも呼び返してみたい。
文学という殿堂の楣を深くし、壁を暗くし、見え過ぎるものを闇に押し込め、無用の室内装飾を剥ぎ取ってみたい。
・・・と文学宣言につなげている。
明るく照らされた部分ではなく、陰影に注目することの意味を考えさせられる一冊。
2012 9/17
文化論、随筆
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