春日武彦 『不幸になりたがる人たち―自虐指向と破滅願望』 文藝春秋 2000

これが今年38冊目に読み終えた本&20世紀最後に読んだ本になる、
らぶナベ@さぁ来い俺の世紀!(^_^)

さてさて、『不幸になりたがる人たち~自虐指向と破滅願望~』
春日武彦著(文芸春秋)2000年初版。
産婦人科医から精神科医に転向した著者によって書かれた
ちょっと奇妙に思える人々や不可解な事件についてのコレクション的な本。
思わず扇風機に指を入れてしまうとか運には限りがあると思いこんで
落ちている小銭を拾わなかったり幸運があっても不安に感じる人たちから
悲惨さの中に呆気なさや滑稽さを感じてしまう事件などについて
紹介しながら精神科医としての意見や感想を書いている。
人間が抱ちがきな不合理な思考や奇異なこだわりについて
正面から書かれているでの読んでいて楽しい。

確かに不幸だと思うことや絶望を感じることには独特の甘さがあり、
その快楽が忘れられずに中毒のようになってしまうことや
単なる不満や妬みなだけなのに自己正当化のために
責任を転化させることの快感は、ちゃんと「楽しみ」として認識しにくい。
この本はその認識しにくい快楽について書かれている点が興味深い。
さらに一歩踏み込んで自らのトラウマや人格形成状況さえも
自己正当化の言い訳に使う人々を紹介しているのも面白い。
ただし事例の紹介が伝聞推定に基づくものがほとんどなのは気になった。
(これは精神科医としての守秘義務から仕方ないかもしれないけど)
さらに妙に攻撃的というか冷ややかさを気取るところが鼻につく。
個人的にはあまりお友達にはなりたくない(^^;
また、人格障害と精神病とはまったく違うと主張しているがどうなのだろう?
その人そのものである人格障害と本来その人ではない精神病とは違うという
意見だったけれどちょっと納得できなかった。
(人格障害と精神病は重複することがあるので誤解を生むとも書いているけど)

以下、ちょっと面白いと思ったところ・・・
☆精神のアキレス腱は「こだわり・プライド・被害者意識」の三つだけ
→その中でも被害者意識は単なる不平や妬みをぶつける「敵」と
自分は優遇されるべきだという「特権」を求める点でたちが悪い
→被害者意識はアル中にとってのアルコールのように依存性がある・・・
つつましい幸せを得るよりもあえて被害者意識を堪能することを選ぶ人間は
世の中にはいくらでもいることを我々はしっておくべき

☆自分の気持ちを表現するぴったりくる言葉はないので近似値として言葉を
選んで我慢する→いつも我慢するのは耐えられないので既成の言葉に
感じ方や思考の方を微妙に迎合させていく←これが様々な不合理の原因

☆人間の価値観や物事の優先順位は「面倒」というキーワードによって
簡単に入れ替わっていく→面倒だからという理由で現状の不幸
に甘んじることはいくらでもある=億劫という心性こそが人間の行為を
不可解にしたり人生を不幸にする大きな要素のひとつ

☆(特異な事件と幼児体験や特殊な環境などとの因果関係について)
表面的な因果関係に拘ってしまい実際とはまったく別の物語が
周囲の人間によって勝手に作り上げられてしまうことが精神科領域の周辺では
しばしば起こる・・あたかも原因として映る出来事は実は契機でしかなく
潜在していた病状がそれによって顕在化したに過ぎないことが多い

☆催眠術は患者と医療者が共同作品としての物語を語ることが少なくない
→多重人格や記憶喪失、憑依といったものは確かに劇的だがこうした症状には
周囲へのアピールやブラフといった性格が強く付与されている
←本態は未熟な人格構造だからこそ示せる大胆な自己主張といった趣であり
心の深淵を覗き込むような根拠的な感触はない
(結局のところドラマティックなものがもたらす分かりやすさが
往々にして当事者同士の馴れ合いでしかないことが多い)

☆たとえ悲惨であったり不幸であろうとそれが具体的であればかえって
安心感につながる場合がある→曖昧であったり不確定であることは何よりも
人の心を不安に駆り立てるので何らかの具体的な事象に直面するほうが
心の負担が少ないと考える人は少なくない
→新興宗教などへの不可解な服従はこれが原因になることが多い

○神経症の人たちと話には運命に対して妙に理屈っぽいところと
呆れるばかりに詰めの甘いところが入り混じっていて
そのバランスの悪さこそが不幸を招いている原因のように感じられる
→心のバランスを失った人たちはある種の現実感を喪失しているので
奇矯なロジックがあたかも神託のように当人の行動を律する。
えてして精神の止んだ人々の言動は支離滅裂ではなく異様に論理的なだけ

○同じ偶然は繰り返さないという考えはいったん起きたことは
すぐには起きない→不幸を先取りして起こしてしまえば
もはや危険はなくなるといった奇想につながる

○(精神科にかかってくる自殺予告電話の対応について
ベテランとビギナーの差)=ベテランは特別な対応法など無いことを
最初から分かっているがビギナーはひょっとしたら何か特別なコツがあって
それを自分の不勉強や経験不足のために知らないのではないかと不安になる
→マスターしているべきところに空白が残っていると懸念している限りは
実力など発揮できない、勉強とは実際に使用する知識だけでなく
自信や覚悟やその根拠とおぼしきものを獲得するために行うのである

○過酷な人生を乗り切るために無意識のうちにいくつかの方策がある
=一つは運命などのように人間にとって不可解で不可抗力なものを受け入れて
納得するロジック、もう一つはひたすら現状維持を図り不幸を
慣れ親しんだものにして悩みや苦しみの輪郭を曖昧にすること、
さらにもう一つはこれ以上危険や不安と対立しないですむように
手っ取り早く小さな不幸を具体化させて
大きな不幸をやり過ごしてしまおうといった心の働き
→だから人間は気持ち悪いと思うか、それとも面白いと思うか
その捉え方の違いによって世の中のつらさは大きく違ってくるだろう

○説明が困難でしかも関心をそそってやまない事象に対する
アプローチの一つはコレクションの対象にすることである
←説明はできないけれどとにかく真実は手元にあるとして相対化を図る

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2000 12/29
心理学、教育学
まろまろヒット率4

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