北方謙三 『悪党の裔』 中央公論社 上下巻 1995

野島信司脚本のCX系列ドラマ『リップスティック』
不覚にも第1話目から完全にハマってしまった、
らぶナベ@しかしなぜあの役を三上博史が??
(豊川悦司の方が向いているかも)

さて、『悪党の裔』北方謙三著(中央公論新社)1995年初版上下巻を読みました。
この本を読むことになったもともとのきっかけは、
以前見たNHKの『堂々日本史』だったか何かで
南北朝時代の悪党にスポットを当てる特集が放映された時、
番組の中でこの小説の主人公、赤松円心(則村)に対して女子アナが
「・・・同じ時代に生きていたら私、彼に惚れてたかもしれない。」
と言った発言に対して番組にゲスト出演していたこの本の著者(北方謙三)が
「僕はすでに彼に惚れているんですよ。」と答えていたのが印象深かった。
いずれこの赤松円心の小説は読んでみたいと思っていたところ、
この前に読んだ同じ著者で同じく南北朝時代を舞台にした
『道誉なり』が予想以上にヒットだったのでさっそく手に取ってみた一冊。

この小説の主人公、赤松円心は播磨の半土豪・半盗賊である悪党として
領主や鎌倉幕府に対する悪党業をこそこそと続けてながらも
分裂した家中をまとめあげ各勢力に繋がりをつけて力を溜め
ついには鎌倉時代から南北朝時代へと移行する混乱期に
決定的な影響を与えた人間。
自分の代には結局来ないかもしれないと知りながらもそれでも
「いつか吹くはずだ」と信じる時代の風に乗ろうと腰を据えて見定め、
ついに鎌倉幕府に対する反乱をいったん起こせば
六波羅探題救援に向かってきた名越高家を集中して戦死に追い込み、
彼の同僚であった足利尊氏に鎌倉幕府への裏切りを決意させる。
建武の新政が崩壊すれば新田義貞の軍を少数でくい止めて
足利尊氏の西日本での再起に決定的な役割を演じる、
それもあくまで一人の悪党としての心を失わずに。

そういう彼の生き方を言い切っていると強く感じられる一節があった・・・
「天下を取れるとは思っておらぬ。そのために無理もしたくない。
ただ、天下を決する戦がしたい。この赤松円心が、天下を決したい。」
・・・地方の悪党としては大きすぎる野心を持って
その時を辛抱強く待ち続け、そして実現させた彼には確かに惚れる(^_^)

僕は分不相応な夢や野望を持った人間っていうのがどうも好きみたいだ。
そういうことをこの本を読んであらためて思った。
だから政策系の学部や学問が好きなのだろう。
「お前に絶対国なんか動かせるかよ!」って誰もが思う人間が
国を動かすようなプロジェクトやプログラムを当たり前のように考える。
そういうある意味で厚顔無恥で滑稽な人間たちに親しみを感じてしまう。
僕が学部のラウンジでギターを弾きながら天下国家を語っているような
勘違いな人間に痛いものコレクターとしての触手が動かされるのは
そういうことなのだろうと感じた。

そしてこの小説で主人公の赤松円心が登場したのは
人生の終盤、50代の半ばにもなってからだ。
そこから幕府の締め付けに耐えながら家中をまとめあげて
ようやく夢がかなう可能性があるほどの力を付けても決してあせらずに
周りが勢いに乗り遅れてはいけないと不用意に飛び出すことにも流されず
じっと「吹く風」を見きわめた彼の姿には少なからず感慨をおぼえた。
最近、僕と同い年や同年代の人間が芥川賞を取ったり、議員になったり、
企業で働いたりしているのを見ていると心動かされることもあったが
この本を通して赤松円心が僕に対して「無駄に焦るなよ」、
「いまは時代の流れを読み力を蓄えろ」と言っているように感じてしまった。
これは彼も僕も同じく「勘違い」な人間としての共通点があるからだろう(^^)
一人の人間としての生き方は『道誉なり』の佐々木道誉の方がずっと華麗で
カッコ良いが僕は道誉にはなれない。(あんまりなりたくないが(^^;)
でも円心にはなれるかもしれないし彼を越えることもできるだろう。
そういう分不相応な夢を僕にも与えてくれた本でもあった。

以下、この本の中でその他にチェックしたところ・・・
「学問とは、そういうものかもしれなかった。
ほんとうに戦で必要なものは、なにも教えない。」

「戦とは、騙し合いでもある。ここぞという時までこらえていなければ、
捨て石にされるだけよ。」

「よいか、光義。大儀のない戦を、長く続けてはならぬ・・・
大儀さえあれば、一敗地にまみれたとて、再び旗をあげられよう。」

「戦は、陣形や兵数だけでなく、大将の気持ちの闘いでもある。
それを忘れるな。」

「しかし、自分ひとりの存在が、天下を決する。
そういう立場に立つことはできるはずだ。」
「もし首を取ろうとするほどの小さな男なら、
首を取られる儂も同じだけ小さな男だ。」

「生きたいように生きているために、耐えている。」

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1999 4/12
小説、歴史
まろまろヒット率5

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