趣味は人間観察の、まろまろです。
さて、『ラ・ロシュフコー箴言集』ラ・ロシュフコー著、二宮フサ訳(岩波書店)1989。
17世紀フランスに生きた、ラ・ロシュフコー公爵フランソワ6世による名言集。
原題は“Réflexions ou sentences et maximes morales”(1664)=『人間考察もしくは処世訓と箴言』。
名言集と言っても、原題にあるように人間考察に軸を置ているので、よくある口当たりの良いものではない。
最初に・・・
「われわれが美徳と思いこんでいるものは、往々にして、さまざまな行為とさまざまな欲の寄せ集めに過ぎない」
・・・という言葉から初めているように、特に自己愛による偽善について鋭く切り込んだものが多い。
たとえば、相手のことを思う行為や正直さを愛する姿などの一般的に美徳とされていることのほとんどは、
結局は自己愛と支配欲の延長線上にあるものだと指摘する言葉が散りばめられている。
また、怠惰と惰性の力をハッキリと指摘している言葉も複数見受けられる。
この名言集は人間への幻想や希望を打ち砕くほどの痛烈さを持っている上に、
さらにそれらの指摘が無視できない説得力を持っていることから、
フランス・モラリスト文学の最高峰との評価をされてきた。
決して心地よくは無いけれど、原題の通り人間考察の参考になる一冊。
ちなみに、この名言集は刊行当時から現代にいたるまで物議を醸し続けているので、
何かと注釈を入れられることが多いことでも知られている。
(同時代に生きたスウェーデンのクリスティーナ女王による注釈が有名)
僕もこれにならってチェックした言葉に「→」でコメントを入れてみたのが以下(☆は特に心に残ったもの)・・・
1:われわれが美徳と思いこんでいるものは、往々にして、さまざまな行為とさまざまな欲の寄せ集めに過ぎない。
→そういう時もあるというのが正確だが、確かにそういう時の方が多いかもしれない。
18:栄達を極めた人びとの慎ましさは、その栄位をものともしないほど偉い人間に見せようとする欲望なのである。
→そんな人も多いというのが正確だが、これもそんな人の方が多いかもしれない。
22:哲学は過去の不幸と未来の不幸をたやすく克服する。しかし現在の不幸は哲学を克服する。
→哲学の現実。
30:われわれの持っている力は意志よりも大きい。だから事を不可能だときめこむのは、往々にして自分自身に対する言い逃れなのだ。
→めずらしく前向きで印象的。
☆37:過ちを犯した人びとに向かってわれわれがする説教には、善意よりも傲慢の方が多分に働いている。
そしてわれわれは、彼らの過ちを正そうというつもりはそれほどなしに、
むしろ、自分がそんな過ちとは無縁であることを彼らにわからせるために、叱るのである。
→自尊心を満足するための説教は確かに醜い。
47:運命によってわれわれに起きるすべてのことに、われわれの気質が値段をつける。
→騎士っぽい表現で気に入った。
54:富の蔑視は、哲人たちにあっては、自分の価値に正しく報いない運命の不当さに、仕返しをしたいという密かな欲望であった。
→捻くれた見方だけど、その見方も無視できない哲人は確かに多い。
☆62:ふつう見られる率直は、他人の信頼をひきつけるための巧妙な隠れ蓑に過ぎない。
→信頼を得るには率直さが必要だけど、それを媚びとして使う人もいるのは確か。
☆63:嘘に対する反発は、自分の証言に箔をつけ、自分の言葉に宗教的な畏敬の耳を貸させたいという、それと気づかぬ野心であることが多い。
→よく見かける偽善。
☆116:助言の求め方与え方ほど率直でないものはない。
助言を求める側は、友の意見に神妙な敬意を抱いているように見えるが、実は相手に自分の意見を認めさせ、彼を自分の行動の保証人にすることしか考えていない。
そして助言する側は、自分に示された信頼に、熱のこもった無欲な真剣さで報いるが、実はほとんどの場合、与える助言の中に、自分自身の利益か名声しか求めていないのである。
→ある意味で納得。ただし、それによって良い結果が出る場合もあるのも確か。
☆143:われわれが他人の美点を誉めそやすのは、その人の偉さに対する敬意よりも、むしろ自分自身の見識に対する得意からである。
→「前から分かっていたよ」というのはよく耳にするセリフ。僕はそれに対してその人がどう賭けたかで判断する。
☆165:われわれの真価は選良の尊敬を引きつけ、われわれの幸運の星は大衆の尊敬を引きつける。
→選挙。
☆237:何人も悪人になる強さを持たない限り善良さを称えられるに値しない。
それ以外のあらゆる善良さは、おおむね、惰性か意志の無力に過ぎない。
→その通り。そして惰性と意志の無力で善良になるなら結果的には良いことだと思う。
☆294:われわれに感嘆する人びとを、われわれは必ず愛する。
そしてわれわれが感嘆する人びとを、われわれは必ずしも愛さない。
→選挙。カリスマと呼ばれる人はこの点を勘違いしてはいけない。
306:他人に恩恵をほどこすことができる立場にある限り、人はめったに恩知らずに会わないものである。
→その通り。
322:軽蔑すべき人間に限って軽蔑されることを恐れる。
→よく見かける。
375:凡人は、概して、自分の能力を超えることをすべて断罪する。
→特にモンスター系な人に多い。
☆414:気違いと馬鹿は気分でしか物を見ない。
→気分を判断基準にする人に対する、これほど痛烈な批判は読んだことがない。
436:人間一般を知ることは、一人の人間を知ることよりもたやすい。
→医学、社会学、すべての科学。
469:人は理性でしか望まないものは、決して熱烈には望まない。
→理解できる。
☆479:毅いところのある人だけが真の優しさを持つことができる。
優しそうに見える人は、たいてい弱さしか持たず、その弱さは容易にとげとげしさに変じてしまうのである。
→確かに弱い人はすぐに攻撃性を持つ。
MS61:自分の内に安らぎを見出せない時は、外にそれを求めても無駄である。
→エピクロスの哲学と同じ趣旨で納得。
MS74:自分の過ちを告白する力がある時は、その過ちについてくよくよしてはならない。
→反省。
MP39:賢者を幸福にするにはほとんど何も要らないが、愚者を満足させることは何を以てしてもできない。
ほとんどすべての人間がみじめなのはそのためである。
→やや辛辣すぎる言い方だけど、納得する。
MP44:何かを強く欲する前に、現にそれを所有する人がどれだけ幸福かを確かめておく必要がある。
→確かに気を付けないといけないところ。
2010 10/4
名言集
まろまろヒット率4
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