まず最初に、読書なんてものは個人の趣味や興味に依存しるもんなんだから
万人に薦められる本は無いと思いますが、この本は絶対読んだ方が良いです。
いや読むべきだ!(断言)
それぞれの社会事象に大きく関わっているのにも関わらず、
今まで様々な理由で報道されてこなかったり
理論書でも曖昧にしている日本の闇の部分がとても明確に書かれています。
それもこの本に登場する人名のほとんどが実名で
「いまこの人物はこんなことしている」と恐いモノ知らずに書いています。
(ヤクザ組長の息子だからここまでできる)だからとても分かりやすい!
ちょうど今まで社会現象を分析する時にうやむやにしていた部分、
パズルの欠けていたピースをはめてすべてが繋がる思いがします。
社会に出るにしても大学で研究するにしても
そして社会と向きな合う上でもぜひ一読に価する本です。
一つの視点を得る上では非常にすばらしい一冊です。
さてその本とは・・・
『突破者~戦後史の陰を駆け抜けた50年~』宮崎学著
(幻冬社アウトロー文庫)1998年初版
戦後報道されにくかったり研究から外されたりしていた
日本の闇の部分に深く関わってきた人間の自伝。
グリコ・森永事件におけるキツネ眼の男として最有力参考人として
疑われた人物でもある。
以前から様々なところで推薦されているのを耳にして読みたいと思っていたが
この度ようやく文庫化してくれたので購入して読んだ一冊。
1945年まさに新しい時代に京都伏見の土建屋兼ヤクザの組長の息子として
生まれ、そこで幼い時から最底辺の人間たちと接しながら育ち、
戦後混乱期にどのようにヤクザなどの闇勢力が一般の社会に
関わっていたのかということを既述することから始まっている。
大学は早稲田の政経学部に入り、そこで当時の例にもれず
左翼運動関わり日本共産党系実行部隊(民青ゲバルト部隊)の指揮を執る。
早大紛争、東大紛争など当時主要な学生運動に実行部隊として関わり
その運動の経緯や社会的な変動を身を持って体験する。
ここがまた面白い!
当事者があまり口にしたがらない上に今の僕たちからはわかりにくい
当時左翼勢力がいかに行動し、抗争し、内部分裂していったのかを
克明に述べている。
東大安田講堂紛争のことも項を多くさき、抗争の経緯から実際の戦術まで
(どのように校舎占拠部隊と戦ったりデモ隊を潰すのかなど)
きっちり説明してくれている。
例えば左翼勢力の温床として各派の覇権争いがおこなわれていた
大学の寮長大会が乱闘になった時の実行部隊投入について・・・
「人の塊と塊がぶつかり合う場合は二派に分けた側が絶対に勝つ」、
「にらみ合った時は先に突っ込んだほうが勝つ。」
・・・と不良時代からの集団ケンカの理論を証明している。
卒業後週刊現代の記者になり大手新聞社にはできなかった
政治の裏側報道に従事する。
その後資金繰りが悪化する家業に戻り、土建業の社長として再建に奔走する。
ここでは日本経済の根幹部分である建築・土建業に対して
どのように政治家、官僚、ヤクザ、仕事師などの闇勢力が
関わっているのかということを明確にしている。
例えば談合というものが実際どういうもので
どのようなシステムになっているのか
どのようなメリット・デメリットがあるのかということを
当事者経験として語っている。
資金繰りが苦しくなると談合破りや取引踏み倒しペテンなどを通して
手形決算の自転車操業を重ねるが、
この時に資本家打倒を掲げ運動していた学生時代と中小企業の社長として
資金繰りに奔走している時代を比べて・・・
「命懸けの資本家に対して、左翼の方は命など懸けてやしない。
その一点で、端から勝負はついていたのだ。」
・・・と結論づけているのが興味深い。
その間に大手ゼネコン恐喝事件のとばっちりを受けて逮捕されて
拘留中に京都府警と対立した後に結局家業が倒産するが
そこで債権者の激しい追い込みを受け借金返済のためにバッタ屋の用心棒や
新宿愚連隊の伝説的人物を頼ったりして最底辺でうごめく。
その後ヤクザの大抗争(山口組、山一会抗争)の最中
グリコ・森永事件の最重要参考人としてこの事件に関わる。
京都の土地開発に関わった時にヒットマンに銃撃を受けたりする
こともあるなどバブル期に地上げ屋として関わるが、
この項のところでいかに金融がバブル期に闇の部分と関わっていったのか、
どうしてあそこまで不良債権がつもってしまったのかということを
当事者として非常に克明に既述している。
(ここらへんは報道されにくい上にぼやかされる部分なので必読だね)
また、最後の部分で今後の日本の闇勢力の展望をのべているが
これがとても興味深い。
現在おこっている犯罪の傾向が見事に彼の展望通りで説得力があるからだ。
この本は自伝で彼の人生を振り返っているのであって理論書ではないが
その分深く印象に残る箇所もあった。
例えば実家のヤクザ家業について抗争を取り上げた時に・・・
「この社会には必ずグレートマザー的な女性がいる。
その大いなる母が死んでいった男たちの死を癒し、
男たちの勲を語って伝説化・神話化していく。」
・・・としたところには感動的だった。
また、この本の結論だなと思われる箇所・・・
「男というのは土壇場で逃げる男と逃げない男の二種類しかないという
厳たる一面があって、土壇場で試されるのは唯一それなんだということが
よくわかった。これはヤクザも左翼も同じ、
市民だって同じだということを後でたっぷり思い知ることになる。」
この本の決論だと思われる箇所もう一つ・・・
「ヤクザの世界は、三つの言葉を知っていれば渡れる・・・
びびるな。相手の心にとどめを刺せ。自分を捨てろ。
これだけを実行していければ、ヤクザとして生きられる。
いや、これは、およそ自立して生きていこうとする人間に
共通する行動規範ではないのか。」
それとこれはどうでも良いことだが著者が
「社会全体が地表からうごめいた時代」として
1968年の左翼運動の盛り上がりと1988年のバブル絶頂期を
あげているがそれなら2008年は大きな変動期に入るのか?
また、1985年は阪神優勝、山一戦争、グリコ・森永事件と騒然とした年で
1995年は阪神大震災、オウム事件、大阪府・東京都各知事に
タレント当選とずいぶん話題があった年。
じゃあ2005年も騒がしい年になるのかな?(笑)
世の中いろんな視点で見た方が立体的にみえるっていうことを
あらためて実感させてくれる良書。
そして何より読んでいてとても面白い!
さあ、君も今日から突破者だ!(^o^)
1999 2/3
ドキュメンタリー
まろまろヒット率5