池宮彰一郎 『島津奔る』 新潮社 上下巻 1998

ドラマ『古畑任三郎』が最近自虐的なネタが増えてきているので
見る度に痛々しさを感じる、らぶナベ@古畑に「何でもありなんです」
や「トリックに穴があるのは前からです」とか
劇中で言わせるなんてそろそろいっぱいいっぱいだな(^^)

さて、『島津奔る』上下巻、池宮彰一郎著(新潮社)1998年初版をば。
戦国武将、後に大名として戦国末期から江戸時代初期の転換期に生きた
島津義弘を主人公にした小説。
彼の人物紹介としては当初彼の兄、義久の元で島津家No.2として
常に前線最高司令官を務めて薩摩統一戦を成功に導き、
続く外征では九州統一の一歩手前まで島津を導いた中心人物。
豊臣政権に屈してからは義久の引退を受けて島津家当主に就任。
当主として二度の朝鮮出兵に参加し特に二度目の慶長の役の末期、
豊臣秀吉死後の日本軍総退却時には追撃してくる李氏朝鮮と明の連合軍を
退路が無く兵力差30倍、かつ他家の協力も無いという絶望的な状況で
島津家お家芸の迎撃作戦「釣り伏せ」で壊滅(泗川の戦い)する。
帰国後の関ヶ原の戦いでは西軍に与して戦場に参加するも
終始積極的には戦わず、戦いが決着してから千数百の軍勢で
数万の東軍の中心を突いて中央突破退却をしたことは有名。
・・・このように生涯を通じて戦場では常に劣勢な状態から
卓越した戦術と作戦指導で不利な状況を打破してきた点が注目されている。
彼について国内では「鬼島津」、国外では「石曼子(シーマンズ)」
と当時から怖れられたように猛将のイメージがいままで強かったが、
(最近の『信長の野望』では戦闘能力90の大台を軽く突破)
実はそれだけでなく彼は卓越した政治的感覚と大局的な視点を持った
人間だったんだという興味深い切り口でこの小説では彼を画いている。
その証拠として西軍(負け側)に与して戦いながら
唯一島津家だけが領地を減らされなかったこと
(東軍に与してガンバって戦っても潰された家は多いのに)
戦後交渉の中ではさらに加えて琉球領有まで幕府に認めさせたこと
そして最後まで徳川家康が「徳川家の敵は西から来るだろう」と恐れたほどに
強力な薩摩藩の基礎を彼が創ったということだ。
そういう政治家:島津義弘としての視点でこの小説は書かれている。
そのためにこの本は朝鮮半島から撤退しようとしている
泗川の戦いからスタートしている。
(猛将島津義弘を画くなら九州統一は避けられないのに敢えて飛ばしている)

彼と僕とは名前がまったく同じで前から親しみを感じていたんだけど
読み進んでいくうちに圧倒されるほどのカッコ良さを感じた。
戦国時代が終わり戦争経済終焉後の不況にあえぐ当時の日本にあって
(バブル後のいまの日本を対比させているのが興味深い)
その次に来るべき経済体制を見通したヴィジョンを持ち
自らのそのヴィジョンに賭けた彼の姿は爽快な泥臭さがある。

純粋に面白いと言える小説だけあって印象深いシーンが多かったが
特に泗川の戦いに臨む直前に義弘がいなくなりそれを咎めた参謀に対して・・
○「匂いじゃよ、匂いを嗅いで廻るとじゃ。」
(中略)ー戦には匂いがある。
(中略)義弘は作戦計画の不備欠陥を感じとると、
ひとり戦場予定地に赴き、その匂いに浸って心気を澄ます。

また、豊臣政権を支えた官僚石田三成らを指して・・・
○吏僚の本文は、為政者から与えられた業務を、
いかに過怠なく遂行するかにあり、能力とは、
それをいかに能率よく行えるかにある。
従って、吏僚の持つ本能的な性格は、
極めて短期的な展望しか持てないように規制されている。
目の前の事態、困難な状況の打開には役立つが、
長期的な展望にはまったく不感症といっていい。

そして何より島津家の命運がかかった関ヶ原の戦いの準備段階で
どちらに与するか微妙になりかつ不利な状況が増えてきたのに対して・・・
○「・・・わしの一生は悪じゃった(中略)世に戦ほどむごい悪は無い・・」
(中略)「そのくせなあ(略)よいか、これは構えて人に言うな・・・
世の中に、悪ほど面白か事は無かと思うとる。
わしはな、戦と道ならん色恋ほど好きで困るもんは無か・・・
まことの悪の悪よ」
・・・と笑うシーンなどは特に印象深い。

今まで戦国時代で一番好きな人物は真田昌幸だったが
この小説を読み終えてみて島津義弘も双璧として加わった。
「なんだかんだやっても生き残った」&「自分の生き方に満足して死んだ」
人間という僕の好嫌基準にもバッチリ当てはまっているからだ。

以下はその他にこの本の中で印象に残っている箇所・・・
○「まず、敵の反抗を迎え撃ち、遠く退けて敵が陣を立て直す隙に
風の如く去る。負け戦の退き方の要諦はそこにある・・・」

○「世の中には、与する相手にはふた通りある、
正義だが戦下手な者と、心延え悪ではあるが戦上手な者とだ。」
(中略)「わしは、どちらとも組まん・・・組むならツキのある者を選ぶ」

○「戦いうものはな、好悪の思いでやってはならぬ。
(中略)たとえ相手が正義を言い立てておっても、
必ず打ち破って未来の道を切り開く、
それが国のまつり事を担うものの第一のつとめである」

○「所詮戦はツキと運・・・勝てる筈の戦に負けることもあれば、
勝ち目のない戦に勝つこともある・・・
そんなあやふやなものに命を賭けられるか、
戦の要諦は戦うと見せかけて、戦わずに相手を屈服させることにある」
(これだけは徳川家康の台詞)

○「戦の要諦はな、兵数の多寡や兵の強弱を計算する事でない。
敵の心のうち、味方の心の動きをおし量る事にある・・・」

・・・最後に読み終えた感想を一言で・・・
僕も別に天下を取らなくても良いから天下人以上に
活き活きと時代の荒波の中を奔る人生を送りたいものだ(^_^)

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1999 6/5
小説、歴史
まろまろヒット率5

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