かつて携帯電話でメールができるようになった時にそのインパクトをめぐって
携帯メールなんて面倒くさくて流行るわけないと言う否定的な人と企画会議で喧嘩したことがある、
らぶナベ@若気の至りと年寄りの至りですな(^^;
さて、『スマートモブス―“群がる”モバイル族の挑戦』
ハワード・ラインゴールド著、公文俊平&会津泉監訳(NTT出版)2003年初版。
携帯電話や無線LANなどのモバイル(ユビキタス)コミュニケーションがもたらしている
思想、文化、政治、経済への影響と、これからの未来像をえがこうとする一冊。
多くの人が携帯を持ち、モバイルコミュニケーションすることはどういう意味を持つんだろう?
たとえばフィリピンのエストラダ大統領を退陣に追い込んだ”People Power2″(2001)を支えたのが、
携帯電話のショートメッセージによるモバイルコミュニケーションだったし、
韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の誕生(2002)には携帯メールによる支援運動が重要な役割を果たした。
こんな巨大な力を生み出すこともあるモバイルコミュニケーションの光と影を丹念に紹介、考察している。
(タイトルの”MOBS”には”MOB”と”MOBILE”の両方の意味が込められている)
ちなみに著者は日本通ということもあって、この本の第一章は
渋谷のハチ公前で携帯メールする若者たちに注目することからスタートする。
「携帯電話が日本の世代間の力関係を変えるきっかけになった」という研究も紹介されていたが、
確かに各家庭に一台しか固定電話が無かった頃の十代の恋愛と、
各人に一台の携帯電話を持った後の十代の恋愛とではだいぶん違うのは実感できる。
この本は単なる現状の紹介だけでなく、その意味を探求しようとしているのが面白かった。
そういう姿勢もあるから副題は原題”The Next Social Revolution”の方が良かったと思う。
この邦題では単なるモバイル好きの人たちの話みたいなイメージで、もったいなく感じた。
以下はチェックした箇所(一部要約)・・・
○携帯電話が日本での世代間のパワーシフトの引きがねを引いた(Mizuko Ito, 2001)
→携帯電話は若者たちに詮索好きな家族と固定電話を共有することから解放し、
プライベートなコミュニケーションのための空間と社会的な行動の可能性を変える媒体を創出
<第一章 渋谷ハチ公前での啓示>
☆電話の第一の利点は、若者たちに社会的ネットワークにおける
帰属とステータスの誇示を可能にすることにある(Alex&Haper, 2001)
<第一章 渋谷ハチ公前での啓示>
○(その場の会話を中断した)電話しているときに見せる表情が
電話がかかってくる直前までにとっていた表情と違うという変貌行為は、
表情は人前では意識的に取り繕われるものだという事実をまず浮かび上がらせ、
それに続いて後で見せた表情は(場合によっては最初の表情も含めて)
虚偽のものではないかという気持ちを起こさせる
(Palen&Salzman&Youngs, 2001)
<第一章 渋谷ハチ公前での啓示>
☆「共通にプールされる資源」(CRP:Common Pool Resources)の管理にとって重要なもの=監視と制裁
→監視と制裁は単に罰するための手段としてだけではなく、
他人も務めを果たしていることを保証してくれる手段として重要
→多くの人は他のほとんどの人が協力する限りは自分も協力しようと思う条件付きの協力者(Smith, 2001)
<第二章 協力の技術>
○メカトーフの法則が支配するところでは、相互行為が中心になる
GFNの法則が支配するところでは、共同して構築された価値(共同応答やゴシップ)が中心になる(Reed, 1999)
<第二章 協力の技術>
○放送は全国的な課題に関する論点を取り上げ、中核となる価値を定義する
→ブロガー(blogger)たちは異なる市民のためにそうした論点を再構築し、
すべての人の意見が聞かれる機会を確保しようとする(Vance, 2001)
<第五章 評判の進化>
☆評判システムが機能するための要件(Resnick, 2000)・・・
1:将来の取引を生み出すために、ペンネームであっても買い手と売り手のアイデンティティの永続
2:取引についてのフィードバックと解釈が、他の人が将来検討するために入手可能
3:人々は自分の決定の基礎を評判格付けに置くがゆえに、それに十分な注意を払う
<第五章 評判の進化>
○ネットワークは、ノードとリンクを含み、任意のあるリンクから他のリンクに情報を配信するために
可能な多数の経路を利用し、ガバナンスのフラットな階層構造と権力の分散を通じて自己規制されている
→ネットワークは部族、階層制、市場の次にくる最新の主要な社会組織形態(Arquilla&Ronfeldt, 2001)
<第七章 スマートモブス-モバイルな多人数のパワー>
☆社会的ネットワークが意味するのはスマートモブスの中のあらゆる個人が「ノード」であって、
他の個人に社会的な「リンク」(コミュニケーションチャンネルと社会的な絆)を持っているということ
(社会的ネットワーク分析の専門用語での単語を使用)
<第七章 スマートモブス-モバイルな多人数のパワー>
○個人間での協力の閾値に多様性があることが、
群衆の間に協力の突発的蔓延を引き起こす原因となりうる(Dana, 2000)
<第七章 スマートモブス-モバイルな多人数のパワー>
☆ゴフマンのいう「相互行為秩序」(複雑な言語的および非言語的なコミュニケーションが
個人の間でリアルタイムに交換される社会領域)とは、
まさしく個人の行為が群衆の行為の閾値に影響を与えうる領域
<第七章 スマートモブス-モバイルな多人数のパワー>
○グループ全員が誰が貢献し、ただ乗りし、あるいは制裁を受けているかを知ることが
評判システムと多対多コミュニケーションのメディアとが授けてくれる、
グループによる協力が持つ力を引き出すカギ
<第七章 スマートモブス-モバイルな多人数のパワー>
☆(ネットワークによる)場における存在/不存在のあいまいな次元は、
帰属意識の四つ(家族、国家、人種、場所)のひとつである、ある場所への再構築を意味する
→場所への帰属は自分のコミュニケーション・ネットワークへの帰属意識へと変容してしまった(Fortunati, 2000)
<第八章 常時作動の一望監視装置か、はたまた協力増幅機械か>
☆技法の主要な特徴=合理性、人工性、技術選択の自動性、自己増幅、一元論、普遍主義、自律性(Ellul, 1964)
→コンピュータ化された評判システムを通じて協力するコミュニティはこれらの基準に合致する
<第八章 常時作動の一望監視装置か、はたまた協力増幅機械か>
○新しい情報技術全般が、きわめてしばしば権力を分散した(しかし権力者は権力の分散に好意的でない)
→それゆえ現代のそれも含む歴史の動乱がある程度までもたらされるのだ(Wright, 1999)
<第八章 常時作動の一望監視装置か、はたまた協力増幅機械か>
2004 11/23
情報・メディア、情報社会学、コミュニティ論
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