世阿弥、岡田利規訳 『現代語訳 風姿花伝・三道』 河出書房新社 2026

父の観阿弥と共に、能楽を確立した、世阿弥の代表作。
原著は、15世紀初頭に成立したとされている。

この本は、世阿弥が息子に能楽の真髄を伝えるための秘伝書、という形式になっている。
しかし、「花」を軸にしたその内容は、パフォーマンス論、芸術論、美学などにも通じる普遍性がある。

本業は劇作家の訳者も、「耳が痛い」と後書きで書いているように、現代でも活き活きとした影響力を感じる一冊。

以下は、チェックした箇所 (一部要約含む) …

○能は物狂を演じるが1番面白い
→物狂を演じる時は狂ったその原因が大事
→直面 (面を取った素顔) の物狂こそ、能の窮極地点
→物狂は、研究と工夫をいくらでも重ねるに値する対象
<花伝その二ー風姿花伝>

○かりそめのものであろうとなんだろうと、「花」がある方が勝つ
→能においては、一にも二にも「花」が命
<花伝その三ー風姿花伝>

○「風姿花伝」の意味=「心より心に伝ふる花」=伝統の「風」を体感し、「花」を「伝」え継いでいく
<花伝その五ー風姿花伝>

☆「花」=見ていてこれは面白い!と感じるユニバーサルな何か
<花伝その五ー風姿花伝>

☆「花」を開かせることの必須条件=真摯であること、穏やかな心持ちをキープすること
<花伝その六ー風姿花伝>

☆能を作る上で最も大事なことの一つ=座長のパフォーマンスをグッとくるものにするために、ここぞというタイミングでキラー・フレーズを使う
<花伝その六ー風姿花伝>

☆「花」=面白さ=特別なレア感
<花伝その七ー風姿花伝>

☆「花」=見る人の心が格別にレアな何かを感じた時に、その人が見ていた「それ」
<花伝その七ー風姿花伝>

☆「花」の種を失うこと=パフォーマーとしてレベルアップした時に、それ以前の自分の芸の質感を捨ててしまうこと
<花伝その七ー風姿花伝>

☆秘しているからこその「花」
→「花」=見る人が予想しなかった感興を、その心に生じさせるテクニック
→秘伝の内容を知られてはいけないだけでなく、秘伝をわきまえている人間であることさえ察知されてはいけない
→油断させておいて勝つことは、特別なレア感を生じさせるためのセオリー
<花伝その七ー風姿花伝>

☆成功に導くために必要な「花」には、その時代、その地域ごとに異なる観客の様々な好みに応じて、ふさわしいパフォーマンスをチョイスするフレキシビリティが必要
=人々心々の花
<花伝その七ー風姿花伝>

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2026 8/22
能、舞台芸術、パフォーマンス論、芸術論、美学
まろまろヒット率5

東野圭吾 『透明な螺旋』 文藝春秋 2021

男性の遺体が見つかる。
その前後に失踪した交際相手を警察が追いかけるうちに、物理学者の湯川学 (通称:ガリレオ) との関連が出てくる…

ガリレオ・シリーズの長編。
読んでみると、愛する人を守る罪、というガリレオ・シリーズの長編でお馴染みのテーマが浮き彫りになってくる。

ただ、科学的な謎解きはほぼ無く、よくある人情モノのように思えてしまった。

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2026 8/6
小説、ミステリー
まろまろヒット率2

呉勝浩 『法廷占拠 爆弾2』 講談社 2024

連続爆弾事件の被告、スズキタゴサクの裁判中に、法廷が占拠される。
占拠者の要求が生配信される中で、警察が交渉を求める。
警察の交渉係の支援として、連続爆弾事件の際にスズキタゴサクと心理戦を戦った類家が加わり、物語は進んでいく…

映画『爆弾』が面白かったので、続編の原作を映画化前に読んでみた。
舞台設定が面白かったけれど、もう少し心理戦を見てみたかった。

また、前作までのスズキタゴサクの頭脳に加えて、その身体能力の卓越さが際立った。
今後の続編を通して、スズキタゴサクがダークヒーローのようになっていく気配を感じた一冊。

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2026 7/26
小説、ミステリー
まろまろヒット率3

まろまろ記25周年

2001年7月19日から始まったこのまろまろ記(旧まろまろ読書日記)が25周年を迎える。

24周年からのこの1年を振り返ってみれば、これまでの人生で1番、「他者からの評価」の優先順位が下がったことに気がついた。

Excellence never cares about rankings.

そのように感じる四半世紀、25周年。

2026 7/19
出来事メモ、サイト運営

我孫子武丸 『殺戮にいたる病』 講談社 2017

連続殺人犯の蒲生稔が逮捕された。
逮捕の場面にいた、この犯人の稔と、家族の雅子、元刑事の樋口の三人の視点で、ここに至るまでの物語が進んでいく…

犯人が最初から分かっている、いわゆる倒叙ミステリー。
倒叙ミステリーは、犯人のアリバイ作りや動機が大きなトリックになることが多い。
(『容疑者Xの献身』など)

しかし、この本は、もっと根本的などんでん返しをする。
そこまでの作者の誘導 (叙述トリック) も上手なので、「読み終えた後は必ず最初に戻って読み返す」と評価されるのも理解できた。

ただ、初版が1992年 (今から34年前) の作品であることもあって、今では到底容認できない偏見が散見されることや、必要性をあまり感じられないグロテスクな描写は、好みではなかった。

様々な点で、大技で大味に感じた一冊。

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2026 6/9
小説、ミステリー
まろまろヒット率3

知念実希人 『硝子の塔の殺人』 実業之日本社 2021

雪に閉ざされた山奥の硝子の館で、不可解な連続殺人が起こる。
それらすべてが密室だった。
その場に居合わせた名探偵を名乗る人物と医師が、ホームズとワトソンのように謎解きに挑む…

よくあるミステリー小説のような事態や仕掛けに対して、登場人物たちが有名なミステリー小説を引用しながら、謎解きが進んでいくのが、物語の軸になっている。
様々なミステリー小説が引用されるので、ミステリー小説好きには、ちょっと嬉しい内容になっている。

結末は、ミステリー物語を物語として俯瞰して終わる。
いわゆるメタ認知 (metacognition) を応用したもので、新しさを感じた。
例えば、物語の中では、「硝子館の殺人」と呼ばれていたものが、本の題名では『硝子の塔の殺人』であることが大きなヒントになっているところなど、よく設定が練られていると感じた。

ただ、メタ認知を応用した設定以外は、結末にそれほどの驚きは無く、感銘を受けることはそれほどなかった。

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2026 6/1
小説、ミステリー
まろまろヒット率3

夕木春央 『方舟』 講談社 2022

突然の地震で、地下建築の中に人々は閉じ込められてしまった。
地震の影響で、地下水の上昇が始まり、このままでは全員が犠牲になってしまう。
誰か一人が地下に残り、犠牲になって扉を開ける必要がある。

このことが判明した直後、何者かによって殺人事件が発生する。
地下に残って犠牲になるのは、殺人犯であるべきだ。
そう結論づけた人々は、犯人探しを始める…

閉ざされた地下の世界での推理を舞台にした、ミステリー小説。

読んでみると、最後の方までは、よくある話だなと退屈に感じた。
しかし、最後の最後、「エピローグ」を読み終えた時には、どうしようもない後味の悪さを感じ、強い強い印象を受けた。
「取り返しのつかない後悔」を追体験できる一冊。

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2026 5/18
小説、ミステリー
まろまろヒット率4

九鬼周造 『「いき」の構造』 講談社 2003

西洋哲学を土台にして、日本の「いき (粋、イキ) 」 の構造を明らかにしようと試みた一冊。

これまでの自分の人生を振り返った時に、転換点や大きな局面では、無意識のうちに「いき」を大切にしてきたことに気づいて、手に取った。

読んでみると、初版が1930年、つまり96年前のものなので、事例が分かりにくかったり、現在からは容認できないところもあった。
その点、この版はそうした違和感を丁寧に注釈してくれていて、読みやすかった。

内容は、いきの定義を、「垢抜けして (諦) 、張りのある (意気地=いきじ) 、色っぽさ (媚態) 」としている。
その上で、これらの関係の構造を解き明かして、哲学的に解明しようとしている。
解説にもあるように、その試みが成功したかどうかは疑問があるところだけど、先人の挑戦には経緯を払いたいと感じた。

この本を読み終わった今、自分はあと10日で51歳になる。
これからの人生も「いき」であり続けたいと思った一冊。


以下は、チェックした箇所 (重要と感じた順番、一部要約を含む) …

☆「いき」の定義=「垢抜けして (諦) 、張りのある (意気地=いきじ) 、色っぽさ (媚態) 」
→我が国の文化を特色付けている道徳的理想主義と宗教的非現実性との形相因によって、質料因たる媚態が自己の存在実現を完成したもの
<二 「いき」の内包的構造>

☆「いき」な色=華やかな体験に伴う消極的残像
→温色の興奮を味わい尽くした魂が、補色残像として冷色のうちに沈静を汲む
→色に染みつつ、色に泥まないのが「いき」
<五 「いき」の芸術的表現>

☆「いき」な目=単に「色目」だけでなく、なお目が過去の潤いを想起させるだけの一瞬の光沢を帯び、瞳はかろらかな諦めと凛乎とした張りとを無言のうちに有力に語っているのが「いき」
<四 「いき」の自然的表現>

○「いき」の第一徴表=異性に対する「媚態」
→異性との関係が「いき」の根源的存在を形成している
<二 「いき」の内包的構造>

○「いき」の第二徴表=「意地」=「意気地 (いきじ) 」
→江戸文化の道徳的理想が鮮やかに反映されている
<二 「いき」の内包的構造>

○「いき」の第三徴表=「諦め」
→運命に対する知見に基づいて執着を離脱した無関心
→あっさり、すっきり、瀟洒たる心持ち
<二 「いき」の内包的構造>

○文化存在の要諦は、事実としての具体性を害うことなく、ありのままの生ける形態において把握すること
<一 序章>

○意味体験を概念的自覚に導くところに知的存在者の全意味が懸っている
<六 結論>}

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2026 5/16
哲学、美学、文化論
まろまろヒット率4

米山文明 『声の呼吸法: 美しい響きをつくる』 平凡社 2003

発声治療 (声帯学) の専門医による声を呼吸法の解説書。

思い返せば、この50年ほど、声くらいしか褒められたことが無かった。
そこで、以前読んだ『発達障害当事者研究―ゆっくりていねいにつながりたい』 (綾屋紗月、熊谷晋一郎, 2008) に引用されいてたのを見つけ、興味を持って手に取った一冊。。

読んでみると、日本では発声教育が欠けており、softwareとhardwareに偏った書籍や研究が多いことを著者は、度々指摘している。
そこでこの本では、医師として、解剖学的・生理学的な解説を基本としながら、発声と呼吸の関係と、それをより良く使うための実践例が丁寧に紹介されている。

特に、発声は、声帯を中心にした喉だけでなく、全身で行う必要があることを、医学的に、つまり科学的確かさを持って解説しているところは、取り扱う本書の特徴の一つだと感じた。

以下は、チェックした箇所 (一部要約含む) …

○呼吸=体内と体外のガス交換=組織呼吸 (内呼吸) + 肺呼吸 (外呼吸)
<第二章 呼吸と声のしくみ>

☆発声に必要な筋肉としては、骨盤の周辺 (腹筋、背筋) から骨盤底にいたる各種筋肉群、さらに手足や全身にわたる諸筋が間接的に協力体制を取らざるを得ない
→人間は、横隔膜が吸気に使われる専用筋であり、拮抗筋がないため
<第二章 呼吸と声のしくみ>

☆発声に関して極めて重要な点=吸気は、鼻や口から強制的に吸い込むのではなく、肺を取り巻く部分を広げて、自動的に流れ込んでくると認識すること
<第二章 呼吸と声のしくみ>

☆発声を美しくするために必要なこと=呼吸器官、発声器官などの局所的な部分のみにこだわらず、体全体 (頭、頚椎、胸、腹、腰、背中、手、足) の動きをどのようにうまく使いこなすかを理解し、生理的・心理的な動きを一本化して、同時に (反射的に) 作動できるまでに習練すること
<第二章 呼吸と声のしくみ>

☆発声のために吸気は、肺活量が多いことよりも、一回の吸気をいかに効率よく、経済的にうまく使いこなせるかという技術の方が大切
<第二章 呼吸と声のしくみ>

○発声の高低は、声帯の振動数で決まり、その振動数は声帯の振動部分の長さ、重さと緊張状態で決まる
<第二章 呼吸と声のしくみ>

☆体の前頚壁直筋群 (舌→前頸部→胸部→前腹→骨盤) は、発声・発語に必要な舌、横隔膜などと密接に連携しながら協調している
→「歌は表情をもった呼吸」、「歌は節をつけた呼吸」と呼ばれる
<第三章 息から声へ>

☆リラックス状態=静と動の中間にあって、静から動へ、動から静へ瞬時 (反射的) に反応できる平衡状態
→吸気と呼気の間にある一瞬の間を反射的、無意識的に、必要なだけ十分、しかもスムーズに接続させるためにリラックス状態は実用
→東洋の無念無想や、無我の状態とも言える
<第三章 息から声へ>

○骨盤の深いところから呼気が生じ、背中に沿って立ち上っていく
→下からの呼気は上に向かう方向性を持っていて、この上昇する活力が、芸術的や創造的な行為に欠くことができない
<声をよくするエクササイズ>

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2026 3/28
発声学、発声治療、呼吸法、医学
まろまろヒット率4